大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・67『三学期最初のクラブ』

2022-12-28 06:56:36 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

67『三学期最初のクラブ』 

 

 

「なんか、赤ちゃんのお手々みたいだね」

 三学期最初のクラブでの二番目の言葉。

「おっす、アケオメ」

 これが一番目。で二番目は、わたしが手のひらに乗っけてたそれを見た里沙の感想。

「ヒトデのミイラ」

 これは夏鈴の感想。例外的に里沙の方がデリカシーがある。

 で、その赤ちゃんのお手々のような、ヒトデのミイラみたいなものの正体は。

 マルチヘッドフォンタップと申します!

 何に使うかというと、テレビやオーディオに繋いで、最大五人まで同時にヘッドフォンが使えるという優れもの。


 で、なんで、新学期早々の部活でこれが必要だったかと言うと、以下の通りなんです。


「じゃあ、テレビとデッキ運ぶよ」

「「「おー!」」」

 と、元気はよかった……しかし現物を目にするとため息。別にイケメンを発見したわけではないのよね。

「どれでも好きなの持っていきな」

 技能員のおじさんは、フレンドリーに言ってくれたのよね。

「どうせなら、おっきいのがいいよね」

「40インチくらいなら、持てるけど……」

 わたしたちは、テレビの品定めをしている。

 テレビやネットが4K対応になって液晶テレビが更新されて、学校中のハイビジョンテレビが使えなくなり、倉庫に集められれていた。

 いずれ廃棄になるんだけども、デッキに繋げばDVDのモニターとして使えるので、技能員のおじさんが倉庫にとっておいた。それをいただきにきたってわけ。

 液晶テレビって、軽い! 薄い! 高い! と決まったものなんだ。まあ、高いものだから学校もなかなか廃棄せずに残してある。
 初期のハイビジョンテレビは今の数倍から十倍の値段だし、廃棄するにも一台5000円はするし、まだ使えるし。もったいないので残してある。
 
「この50インチくらいかな」

 夏鈴が、お気楽に指差した。クリスマスの我が家でも50インチだったしね。

「ヨイショ……重い(;'∀')」

 初期のハイビジョンは厚さが10センチほどもあって、スタンドのとこが転倒防止や角度調整機能とかで、見た目よりも、うんと重い。

 三人がかりでやっと台車に載せてゴロゴロと押していく。

「「「はあ……」」」

 三人そろってため息をついく。

 わたしたちの部室は、クラブハウスの二階にある。階段の幅も狭く、上と下に一人ずつ付くしかない。

「「「無理……!」」」

 これも三人そろった。

「テレビ運ぶのか?」

 その声に振り返ると、山埼先輩が立っていた。先輩とはジャンケン勝負以来だ。

「ここでいいか?」

 山埼先輩は、なんと一人でテレビを持ち上げ、マッカーサーの机まで運んでくれた。

「……観ることから始める。いいんじゃないか。マリ先生がいないんじゃ、今までみたいな芝居はできないもんな」

「機材もないし、人もいませんから」

 取りようによっては嫌みな里沙のグチを、先輩はサラリと受け流した。

「まあ、事の始まりってのは、こんなもんさ。ま、力仕事で間に合うことがあったら言ってくれよ。オレとか宮里は慣れてっから」

「先輩たちは、どうしてるんですか?」

 ペットボトルのお茶を注ぎながら聞いた。

「二年のあらかたは、G劇団に流れた。あそこ、うちの卒業生が多いから、違和感ないし。でも、ここに居てこそデカイ面できたけど、大人の中に入っちゃうとペーペー。勝呂だって、その他大勢だもんな」

「ま、事の始まりってのは、そんなもんですよ」

「ハハハ、そうだな。おまえらもがんばれや」

 そう言って、お茶を一気のみして爽やかに行ってしまった。

 DVDプレイヤーは、パソコンの方が便利だろうと、柚木先生がお古を無償貸与してくださった。


 一応柚木先生が正顧問。

 でも、自分は演劇には素人だからと、部活の内容には口出しされない。先輩たちとも先生とも良い距離の取り方。

 明朗闊達、自主独立。久方ぶりに生徒手帳の最初に書いてある建学の精神を思い出した……正確には、里沙が呟いたのに、わたしと夏鈴がうなづいたってことなんだけどね。

 それから、わたしたちは観まくった!

 古い順に、『風と共に去りぬ』『野のユリ』『冒険者たち』『スティング』『ロンゲストヤード』『ロッキー』『フットルース』『ショーシャンク』『クリムゾンタイト』『ラブアクチュアリー』『プラダを着た悪魔』『最高の人生の見つけ方』『インヴィキタス』『パイレーツロック』『英国王のスピーチ』『人生ここにあり』

 いずれも、不屈であり、我が道を行き、不利な状況を打ち破るお話ばかりで、広い意味で、お芝居って、人を元気にさせるものなんだと感じたよ。

 とても全部について感想言ってる余裕はないけど、『人生ここにあり』は笑って、大笑いして、大爆笑! なんだか「馬から落ちて落馬して」みたいな言い方だけど、その通り。イタリア映画で言葉なんか分からない。字幕みてる余裕もないんだけど、とにかくダイレクトで伝わってきた。ストーリーは、まだ観てない人のために言えないけど。

―― クラブを続けてよかったんだ。きっといいものが創れるんだ! ――

 そう確信できたことは確か。

 ちなみに、これらの映画は、はるかちゃん経由で、大阪のタキさん(チョンマゲのオーナーシェフの『押しつけ映画評』を門土社で連載やってるおじさん)のお勧め。

 で、DVDの大半は、はるかちゃんのお父さんからの借り物。

 非常に経済的なクラブ運営に、里沙でさえほくそ笑んでおりました。だって使い残した部費を年度末にはパーっと使えるでしょ~が(^▽^)/

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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