ベキボキ!
この世界に背骨があったとしたら、まさしく、その背骨が複雑骨折したような音がした。
お父さんが帰ってこーへんようになって一か月ほどのころ、お母さんも帰りが遅なって、夕暮れの寂しさから泣いてしもたことがあった。お昼寝から目が覚めたら、リビングのソファーに一人寝かされてて、灯りも点いてへんかった。
「お母さん……」
お母さんもおらんようになった……そない思たら、ものすごい怖なって、泣きだしたら止まらんようになってしもた。
やっと、お母さんが帰ってきて、うちはお母さんに飛びついて泣きじゃくった。
「ごめんな、さくら、よう寝てたから、ほんのちょっとの間や思て、仕事の打合せいってた、かんにんな、かんにんな……」
ギューって、抱っこしてくれて、ようやく落ち着いたら。お母さんがくれた筆箱。
「これ、お母さんが小学校入る時に、お婆ちゃんがくれてん。世界で一番丈夫な筆箱。象さんが踏んでも壊れへんねんで。お母さん、もったいないから一回も使わんとおいといてん、これあげるさかい」
桃色で、真ん中にお姫様の笑顔。
お母さんが、床に置いて踏んだけどビクともせえへんかった。むろん、あたしが踏んでも。
お気にやったんで、筆箱としては使わんと、お守りとか入れる宝箱に使ってた。
夕べ、部屋の片づけしてたら出てきて、しみじみしてたら、そのまんま寝てしもた。
目覚ましで起きて、ベッドから下りたとこで、その筆箱を踏んでしもた。
え、ええーーーー!?
めっさ、縁起悪い。
お姫様の顔をバラバラにして、筆箱は割れてしもてた!
涙チョチョ切れる! せやけど、かもてられへん。
急いで身支度!
スカートを手に取って――あ、これやない――
夕べ、片づけの最中にコーヒーをこぼしてしもた。
そんで、予備のスカートを出してた。
予備と言うのは、お母さんが履いてたやつで、うちの中学は制服そのままやから、予備に置いといたんや。
ブツ!
ウ、ホックがはじけ飛んだ!
入学式の前に確認した時は、楽々穿けたのに。
「ことはちゃ~ん💦」
向かいの部屋のコトハちゃんに声をかけるが、コトハちゃんは、もう出てしもたあと。
たとえ従姉でも、勝手に入ってタンスやらクローゼットをあさるわけにはいかへん。
仕方ないんで、安全ピンで止めて学校へ。
歩きながら思た……エディンバラでもヤマセンブルグでもご飯は美味しかった。
十三歳の中一女子は、色気よりも食い気や。それに、あたしは食べても太らんたちやから、油断してたかなあ。
「それは違うわよ」
部活のティータイム。「あ、今日はスコーンはええですわ」と遠慮したことで、頼子さんに問い詰められた。
それで、説明すると、頼子さんはキッパリと言うた。友だち思いの留美ちゃんは笑いをこらえてる。
「それはね、桜が成長したからよ。中学生になったし、ちょっとずつ女らしい体に成長してるのよ」
「そやかて、筆箱は?」
「強いと言っても、プラスチックでしょ。経年劣化というやつで、十年も経ったら脆くなるわよ」
そ、そうやったんか。
「そうだ、隣が保健倉庫だから……」
頼子さんの提案で、隣の保健倉庫に入って、文芸部三人だけの発育測定を行った。
結果、あたしは、身長が1・5センチ、体重は、なんと一キロ増えてただけ。
さすが、頼子さんの目は確かや!
「じゃ、ここも図っとこ!」
それが、余計やった。
あたしのバストは一センチ縮んでた。