業者は123万円という分かりやすい値段でガラクタを引き取って行った。
「まあ、葬式代にはなったんじゃない」
息子の亮太は気楽に言った。
「でも、なんだかガランとして寂しくもありますね……」
嫁の佐江が、先回りして、取り持つように言った。
亭主の亮は、終戦記念日の昼。一階の部屋でパソコンの前でこと切れていた。
今日子は悔いていた。
息子の亮太は気楽に言った。
「でも、なんだかガランとして寂しくもありますね……」
嫁の佐江が、先回りして、取り持つように言った。
亭主の亮は、終戦記念日の昼。一階の部屋でパソコンの前でこと切れていた。
今日子は悔いていた。
「ご飯できましたよ」二階のリビングから呼んだとき「う~ん」という気のない返事が返ってきたような気がしていたから。
一時半になって、伸び切った素麺に気づき、一階に降り、点けっぱなしのパソコンの前で突っ伏している亮に気づき救急車を呼んだが、救命隊員は死亡を確認。そのあと警察がやってきて、死亡推定時間を午前11時ぐらいであることを確認、今日子にいろいろと質問した。
あまりにあっけない亮の死に感情が着いてこず、鑑識の質問に淡々と答えた。
「多分、心臓か、頭です。瞼の裏に鬱血点もありませんし、即死に近かったと思います。もし死因を確かめたいということでしたら病理解剖ということになりますが……」
「解剖するんですか?」
亮太が言った。今日子の連絡で、嫁の佐江と飛んできたのだ。
「この上、お義父さんにメスをれるのは可愛そうな気がします。検死のお医者さんに診ていただくだけでいいんじゃないですか?」
この佐江の一言で、亮は虚血性心不全ということで、その日のうちに葬儀会館に回された。葬儀は簡単な家族葬で行い、亮の意思は生前冗談半分に言っていた『蛍の光』で出棺することだけが叶えられた。
そして、長い残暑も、ようやく収まった10月の頭に、亮の遺品を整理したのである。
亮は三階建ての一階一部屋半を使っていた……今日子にすれば物置だった。ホコリまみれのプラモデルやフィギュア、レプリカのヨロイ、模擬刀や無可動実銃、未整理で変色した雑多な書籍、そして印税代わりに版元から送られてきていた300冊余りの亮の本。
佐江は、初めてこの家に来た時、亮の部屋を見て「ワー、まるでハウルの部屋みたい!」と感激して見せた。同居する可能性などない他人だから、そんな能天気な乙女チックが言えるんだと、今日子は思った。
そして、一人息子の亮太が佐江と結婚し家を出ていくと、亮と今日子は家庭内別居のようになった。
亮は、元々は高校の教師であったが、うつ病で早期退職したあと、ほとんど部屋に籠りっきりであった。退職後、自称作家になった。実際本も3冊、それ以前に共著で出したものも含めて10冊ほどの著作があるが、どれも印税が取れるほどには売れず。もっぱら著作はブログの形でネットに流す小説が主流であった。
パソコンに最後に残っていたのは、mizukiと半角で打たれた6文字。佐江の進言で、その6文字はファイルに残っていた作品といっしょにUSBにコピーされ、パソコン自体は初期化して売られてしまった。
「あ、お母さん、人形が一つ残ってるよ」
亮が仏壇の陰からSDと呼ばれる50センチばかりの人形を見つけた。
「あら、いやだ。全部処分したと思ったのに……」
亮は、亡くなる三か月ほど前から、人形を集め始めた。1/6から1/3の人形で、コツコツカスタマイズして10体ほどになっていた。今日子は亮のガラクタにはなんの関心もなかったが、この人形は気持ちが悪かった。
人形そのものが、どうこうという前に還暦を過ぎたオッサンが、そういうものに夢中になることが生理的に受け付けなかった。
「人の趣味やから、どうこう……」
そこまで言いかけた時の亮の寂しそうな顔に、それ以上は言わなかった。
しかし、本人が亡くなってしまえばガラクタの一つに過ぎなかった。惜しげもなく捨て値で売った。
「佐江ちゃん。よかったら持ってってくれない?」
「いいえ、お義父さんの気持ちの籠った人形です。これくらい、置いてあげたほうがいいんじゃないですか」
佐江は口がうまいと、今日子は思っていた。要は気持ちが悪いのだ。今度の複雑ゴミで出してやろうと思った。
人形は清掃局の車が回収に来る前に無くなっていた。
「好きな人がいるもんだ」
プランターの花に水をやりながら、今日子は思った。とにかく目の前から消えたんだから、結果オーライである。
ピ~ンポ~ン
そのあくる日である、インタホンに出てみると17・8の女の子がモニターに映っていた。
「こんにちは。泉希っていいます、いいですか?」
それが始まりであった。
一時半になって、伸び切った素麺に気づき、一階に降り、点けっぱなしのパソコンの前で突っ伏している亮に気づき救急車を呼んだが、救命隊員は死亡を確認。そのあと警察がやってきて、死亡推定時間を午前11時ぐらいであることを確認、今日子にいろいろと質問した。
あまりにあっけない亮の死に感情が着いてこず、鑑識の質問に淡々と答えた。
「多分、心臓か、頭です。瞼の裏に鬱血点もありませんし、即死に近かったと思います。もし死因を確かめたいということでしたら病理解剖ということになりますが……」
「解剖するんですか?」
亮太が言った。今日子の連絡で、嫁の佐江と飛んできたのだ。
「この上、お義父さんにメスをれるのは可愛そうな気がします。検死のお医者さんに診ていただくだけでいいんじゃないですか?」
この佐江の一言で、亮は虚血性心不全ということで、その日のうちに葬儀会館に回された。葬儀は簡単な家族葬で行い、亮の意思は生前冗談半分に言っていた『蛍の光』で出棺することだけが叶えられた。
そして、長い残暑も、ようやく収まった10月の頭に、亮の遺品を整理したのである。
亮は三階建ての一階一部屋半を使っていた……今日子にすれば物置だった。ホコリまみれのプラモデルやフィギュア、レプリカのヨロイ、模擬刀や無可動実銃、未整理で変色した雑多な書籍、そして印税代わりに版元から送られてきていた300冊余りの亮の本。
佐江は、初めてこの家に来た時、亮の部屋を見て「ワー、まるでハウルの部屋みたい!」と感激して見せた。同居する可能性などない他人だから、そんな能天気な乙女チックが言えるんだと、今日子は思った。
そして、一人息子の亮太が佐江と結婚し家を出ていくと、亮と今日子は家庭内別居のようになった。
亮は、元々は高校の教師であったが、うつ病で早期退職したあと、ほとんど部屋に籠りっきりであった。退職後、自称作家になった。実際本も3冊、それ以前に共著で出したものも含めて10冊ほどの著作があるが、どれも印税が取れるほどには売れず。もっぱら著作はブログの形でネットに流す小説が主流であった。
パソコンに最後に残っていたのは、mizukiと半角で打たれた6文字。佐江の進言で、その6文字はファイルに残っていた作品といっしょにUSBにコピーされ、パソコン自体は初期化して売られてしまった。
「あ、お母さん、人形が一つ残ってるよ」
亮が仏壇の陰からSDと呼ばれる50センチばかりの人形を見つけた。
「あら、いやだ。全部処分したと思ったのに……」
亮は、亡くなる三か月ほど前から、人形を集め始めた。1/6から1/3の人形で、コツコツカスタマイズして10体ほどになっていた。今日子は亮のガラクタにはなんの関心もなかったが、この人形は気持ちが悪かった。
人形そのものが、どうこうという前に還暦を過ぎたオッサンが、そういうものに夢中になることが生理的に受け付けなかった。
「人の趣味やから、どうこう……」
そこまで言いかけた時の亮の寂しそうな顔に、それ以上は言わなかった。
しかし、本人が亡くなってしまえばガラクタの一つに過ぎなかった。惜しげもなく捨て値で売った。
「佐江ちゃん。よかったら持ってってくれない?」
「いいえ、お義父さんの気持ちの籠った人形です。これくらい、置いてあげたほうがいいんじゃないですか」
佐江は口がうまいと、今日子は思っていた。要は気持ちが悪いのだ。今度の複雑ゴミで出してやろうと思った。
人形は清掃局の車が回収に来る前に無くなっていた。
「好きな人がいるもんだ」
プランターの花に水をやりながら、今日子は思った。とにかく目の前から消えたんだから、結果オーライである。
ピ~ンポ~ン
そのあくる日である、インタホンに出てみると17・8の女の子がモニターに映っていた。
「こんにちは。泉希っていいます、いいですか?」
それが始まりであった。