巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
六月に入ったので衣替え。
一日の夕刊なんて『今日から衣替え!』の見出しで、有名女子高の登校風景の写真をデカデカと載せている。
女子高ってのは私学だから、制服も凝っていて新聞にはうってつけ。
令和の時代は、有名デザイナーの制服がいっぱいあって、SNSなんか見てると外国の人からは羨ましがられてる。「まるで、アニメの世界!」「あんなの着て学校に行きたい!」「日本に留学したい!」てなコメントやら『いいね!』がいっぱいついていたりする。
1970年は、そこまでじゃないけど、やっぱり私学はカッコいい。
昼休みの窓際で机を寄せ、ロコのスクラップ帳を見ながら自分たちの制服を論じている。
「しかし、すごいね……」
「よく集めたねぇ……」
「一つ一つ寸評まで……」
「なになにぃ……」
カトリック系のS女学院は建学の精神にパリの有名デザイナーが賛同してデザインした。大正の開校時からだっていうジャンパースカートにボレロ。ボレロは襟元をフックで留めるだけ。
「サウンドオブミュージックのマリアが着ていた修道女見習いの制服って、同じコンセプトなんですよ!」
「そうなんだ」
「やっぱミッションスクールだねえ……」
「ウィンプルっていうの、あの三角巾みたいなのしたら」
「まんま修道女見習いだねぇ」
「T女学館もなかなかですよ!」
「どれどれ?」
「「「「おお!」」」」
「三線のセーラー服なんだけど襟は小ぶりで胸当がないんです」
「え、ほんと。胸元がつぼまってキリリとしてる」
「襟のつぼまりなんてと思うかもしれませんけど、全然違うんです。特に、合服のセーラーがすごくいいんです。あ、これこれ、襟と袖口以外は淡いクリーム色で、襟元のつぼまりがいっそう際立ってグッドなんです!」
「でも、わたしは似合わないなあ」
「どうしてですか、真知子さん?」
「だって、この襟だと顔が大きいと……」
なるほど、つぼまった襟元だと顔が大きく見える?
「そんなことないです!」
そう言って、ページをめくるとT女学館のクラス写真。
「ほら、いろんな顔の人がいるけど、似合ってます!」
「むむむ……」
ふだんクールな真知子がまじまじと見ているのもおかしい(^_^;)。
「それでそれで、これが……ジャーーン!」
次のページは、デザイン画。タッチは見慣れたロコのなので、ロコが写したものだろう。
「「「「「ええ、なになに!?」」」」
「MM女学院が、来年から改定する制服のデザイン画です!」
「なんか、万博のコンパニオンの人みたい!」
上着の下はジャンパースカートなんだけど、なんとミニスカ!
「ベルトの位置ですよ!」
「「「「おお……」」」」
太めのベルトは、普通よりも5センチは低い位置で、丸いバックルは制服と同じグレーなんだけど腕輪かっちゅうくらいに大きい。
「色さえ変えれば、そのままパビリオンでコンパニオンできちゃうね」
「思い切ったモデルチェンジよねえ」
で、眼下の中庭、お昼のひと時を過ごしている同輩たちに視線を向ける。
我が宮之森はS女学院に似た、一見ジャンパースカート。
胸から上のベストになってるところは取り外し式で、外せば、そのまま夏服になる。襟は丸襟でささやかなボータイが付く。
完全な夏服だと、半袖ブラウスにスカート、ブラウスは毎日着替えるから、丸襟でない市販の白のでもOKなのさ。
けして有名デザイナーさんのじゃないんだけど、こういう使いまわしの良さを考えた人はエライ!
これが良くって、わざわざ令和からこの時代の宮之森に来たんだしね。
宮之森は私学のように一斉の衣替えはやらない。
五月の半ばから『合服期間』になって、制服なら、どんな組み合わせでもOKになる。
さすがに上着を着てる人はいないんだけど、ボレロ付き、ボレロ無し、長袖、半袖、それに、ボータイ有、ボータイ無し、と色々。
「うん、うちも、まあまあね」
「ね、あんまりやかましいこと言われないしね」
副委員長のたみ子が真知子と並んで締めくくる。
そんな話に花の咲く昼休、十円男が隣の窓辺でボソリと呟く。
「囚人服のバリエーションを楽しんでもなあ……」
「なんか言ったぁ?」
こういう場合、黙ってしまっては、かえって気まずい。相手は十円男だし。
「すまん、個人的感想だから」
絡むこともなく、十円男は廊下に出て行った。
「一言多いです、加藤君は!」
ロコが口を尖らせる。
「でも、加藤君の言うことにも一理あるかなあ……」
「え、そうなの?」
真知子の感想にみんな驚く。
「ファッションとかは、個人の自由だと思うのよ。欧米じゃ学校の制服なんてないし、制服強制されるって軍隊とか、それこそ囚人よ」
「うん、でも、制服だったら着るものに気持ちもお金も使わなくっても済むから、いいんじゃないかなあ」
たみ子の言うことも正論だ。
「うん、わたしが言うのは理想ね。そんなファッションのことばっかり考えていたら、高校時代なんてあっと言う間に過ぎちゃうからね。今は――ほんとは違うんじゃないか――て思ってるだけでいいと思う」
「真知子って、いつも、そんな風に考えてるの?」
「うん……かなあ……でも、じゃあ、どうすればいいかって具体的には無くってさ。対案の無い否定って、ただの文句言いでしょ」
「そうか、そういうとこが、加藤君たちと違うとこなんですね!」
ロコが尊敬のまなざしを向ける。
「あ、そんな、なんとなくの姿勢だから(^_^;)」
「真知子って、どんなレベルから疑問持ってるの?」
「うん……宗教や政治信条とかは完ぺきに個人の自由でしょ?」
うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)、みんな頷く。
「ファッションとかも同じだと思うのよ、もっと言うと、結婚したら同じ苗字になるでしょ、ほとんどは男の苗字になっちゃうし……」
キンコーンカーンコーン キンコーンカーンコーン
「あ、五時間目体育ですよ!」
「続きは、またこんど!」
みんな体育の着替えを持って更衣室に走る。
6月最初の体育、そう、今日から体操服も衣替え。
で、半袖の体操シャツに、下はブルマ!
ほんとは、これが一番嫌で、本日最大の関心事なんだけど、だれも口にすることは無かった。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
- 須之内写真館 証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館