大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・031『衣替え』

2023-06-03 15:56:49 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

031『衣替え』   

 

 

 六月に入ったので衣替え。

 

 一日の夕刊なんて『今日から衣替え!』の見出しで、有名女子高の登校風景の写真をデカデカと載せている。

 女子高ってのは私学だから、制服も凝っていて新聞にはうってつけ。

 令和の時代は、有名デザイナーの制服がいっぱいあって、SNSなんか見てると外国の人からは羨ましがられてる。「まるで、アニメの世界!」「あんなの着て学校に行きたい!」「日本に留学したい!」てなコメントやら『いいね!』がいっぱいついていたりする。

 1970年は、そこまでじゃないけど、やっぱり私学はカッコいい。

 昼休みの窓際で机を寄せ、ロコのスクラップ帳を見ながら自分たちの制服を論じている。

「しかし、すごいね……」

「よく集めたねぇ……」

「一つ一つ寸評まで……」

「なになにぃ……」

 カトリック系のS女学院は建学の精神にパリの有名デザイナーが賛同してデザインした。大正の開校時からだっていうジャンパースカートにボレロ。ボレロは襟元をフックで留めるだけ。

「サウンドオブミュージックのマリアが着ていた修道女見習いの制服って、同じコンセプトなんですよ!」

「そうなんだ」

「やっぱミッションスクールだねえ……」

「ウィンプルっていうの、あの三角巾みたいなのしたら」

「まんま修道女見習いだねぇ」

「T女学館もなかなかですよ!」

「どれどれ?」

「「「「おお!」」」」

「三線のセーラー服なんだけど襟は小ぶりで胸当がないんです」

「え、ほんと。胸元がつぼまってキリリとしてる」

「襟のつぼまりなんてと思うかもしれませんけど、全然違うんです。特に、合服のセーラーがすごくいいんです。あ、これこれ、襟と袖口以外は淡いクリーム色で、襟元のつぼまりがいっそう際立ってグッドなんです!」

「でも、わたしは似合わないなあ」

「どうしてですか、真知子さん?」

「だって、この襟だと顔が大きいと……」

 なるほど、つぼまった襟元だと顔が大きく見える?

「そんなことないです!」

 そう言って、ページをめくるとT女学館のクラス写真。

「ほら、いろんな顔の人がいるけど、似合ってます!」

「むむむ……」

 ふだんクールな真知子がまじまじと見ているのもおかしい(^_^;)。

「それでそれで、これが……ジャーーン!」

 次のページは、デザイン画。タッチは見慣れたロコのなので、ロコが写したものだろう。

「「「「「ええ、なになに!?」」」」

「MM女学院が、来年から改定する制服のデザイン画です!」

「なんか、万博のコンパニオンの人みたい!」

 上着の下はジャンパースカートなんだけど、なんとミニスカ! 

「ベルトの位置ですよ!」

「「「「おお……」」」」

 太めのベルトは、普通よりも5センチは低い位置で、丸いバックルは制服と同じグレーなんだけど腕輪かっちゅうくらいに大きい。

「色さえ変えれば、そのままパビリオンでコンパニオンできちゃうね」

「思い切ったモデルチェンジよねえ」

 

 で、眼下の中庭、お昼のひと時を過ごしている同輩たちに視線を向ける。

 

 我が宮之森はS女学院に似た、一見ジャンパースカート。

 胸から上のベストになってるところは取り外し式で、外せば、そのまま夏服になる。襟は丸襟でささやかなボータイが付く。

 完全な夏服だと、半袖ブラウスにスカート、ブラウスは毎日着替えるから、丸襟でない市販の白のでもOKなのさ。

 けして有名デザイナーさんのじゃないんだけど、こういう使いまわしの良さを考えた人はエライ!

 これが良くって、わざわざ令和からこの時代の宮之森に来たんだしね。

 宮之森は私学のように一斉の衣替えはやらない。

 五月の半ばから『合服期間』になって、制服なら、どんな組み合わせでもOKになる。

 さすがに上着を着てる人はいないんだけど、ボレロ付き、ボレロ無し、長袖、半袖、それに、ボータイ有、ボータイ無し、と色々。

「うん、うちも、まあまあね」

「ね、あんまりやかましいこと言われないしね」

 副委員長のたみ子が真知子と並んで締めくくる。

 

 そんな話に花の咲く昼休、十円男が隣の窓辺でボソリと呟く。

 

「囚人服のバリエーションを楽しんでもなあ……」

「なんか言ったぁ?」

 こういう場合、黙ってしまっては、かえって気まずい。相手は十円男だし。

「すまん、個人的感想だから」

 絡むこともなく、十円男は廊下に出て行った。

「一言多いです、加藤君は!」

 ロコが口を尖らせる。

「でも、加藤君の言うことにも一理あるかなあ……」

「え、そうなの?」

 真知子の感想にみんな驚く。

「ファッションとかは、個人の自由だと思うのよ。欧米じゃ学校の制服なんてないし、制服強制されるって軍隊とか、それこそ囚人よ」

「うん、でも、制服だったら着るものに気持ちもお金も使わなくっても済むから、いいんじゃないかなあ」

 たみ子の言うことも正論だ。

「うん、わたしが言うのは理想ね。そんなファッションのことばっかり考えていたら、高校時代なんてあっと言う間に過ぎちゃうからね。今は――ほんとは違うんじゃないか――て思ってるだけでいいと思う」

「真知子って、いつも、そんな風に考えてるの?」

「うん……かなあ……でも、じゃあ、どうすればいいかって具体的には無くってさ。対案の無い否定って、ただの文句言いでしょ」

「そうか、そういうとこが、加藤君たちと違うとこなんですね!」

 ロコが尊敬のまなざしを向ける。

「あ、そんな、なんとなくの姿勢だから(^_^;)」

「真知子って、どんなレベルから疑問持ってるの?」

「うん……宗教や政治信条とかは完ぺきに個人の自由でしょ?」

 うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)、みんな頷く。

「ファッションとかも同じだと思うのよ、もっと言うと、結婚したら同じ苗字になるでしょ、ほとんどは男の苗字になっちゃうし……」

 

 キンコーンカーンコーン キンコーンカーンコーン

 

「あ、五時間目体育ですよ!」

「続きは、またこんど!」

 みんな体育の着替えを持って更衣室に走る。

 6月最初の体育、そう、今日から体操服も衣替え。

 で、半袖の体操シャツに、下はブルマ!

 ほんとは、これが一番嫌で、本日最大の関心事なんだけど、だれも口にすることは無かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 


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