大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・171『ちょっとコラージュ』

2025-01-14 14:36:54 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

171『ちょっとコラージュ』  




「ああ、これじゃダメだ」

 そう言うと直美さんは焼き付けたばかりの印画紙を左のトレーに入れた。

 左はボツ、右が合格品を収めるトレー。左には四枚入っていて、右は空のまま。

「一息つこう」

 直美さんは、わたしを促して現像室を出た。



 二年生も三学期、高校生活も2/3が終わってしまって、あれこれがルーチンというか慣れてしまった。それは前回も言ったよね。

 じつは写真館のバイトもそう。

 事実上の館主である直美さんの助手をやってるんだけど、仕事の八割以上は結婚式場の記念写真。

 だから、人から「なんのバイトやってるの?」と聞かれたら「結婚式場です」と答えてしまう。

 慣れてしまうと、特別に語ることも無くなってきて、改まってお話することもないんだけど、成人式の前日に特別な結婚式があった。

 新郎は25歳のサラリーマン、新婦は短大を出たばかりの20歳。

 新婦は光子さんといって、ほんとは高校卒業と同時に結婚して、新郎の鈴木さんといっしょに新郎の赴任先であるアメリカに行くところだった。

 しかし、高三の夏に脳腫瘍であることが分かって、結婚は延期。

 光子さんは健気な人で、短大に通いながら病気の治療に励んだんだ。

 なにもしないで病気の治療をするんじゃなくて、人生、なにごとも前向きで田中さんの横を歩いて行きたかったんだ。

 短大で保育の勉強をして、結婚したら自分も保母さんとして働く。ただ、漫然と病院に通って、いつかは入院。そして、ずっとベッドの上で病人として過ごすのは嫌だったんだね。たとえ、週に三日とか四日しか通えない短大でも目的のある生活を送りたかったんだ。

 田中さんは、会社に頼んで光子さんが治るまでアメリカ行きを伸ばしてもらった。

 でも、光子さん、去年の6月には入院せざるを得なくなった。

「June bride じゃなくってjune patient(六月の病人)だね」

「なに言ってるんだ、前向きに行くんだろ。予定通り成人式に合わせて結婚しよう、式場も予約しよう」

「……うん、そうね」

 でも、光子さんは結婚式に間に合わず、クリスマスの前の日に神に召されてしまった。


 でもね、田中さんは結婚式を挙げることにしたんだ。


 披露宴は無し、神前のお式と写真撮影だけの結婚式。

「ねえ、なんとかならないのかしら?」

 なんだか胸に迫って来て、須世理姫である采女さんに声をかけた。大晦日の埼玉では、あれだけの奇跡を見せてくれたんだ。ひょっとしたらと思ったんだ。

「無茶いわないでよ、伊邪那岐命(イザナギノミコト)だって、奥さんの伊邪那美(イザナミノミコト)を生き返らせることはできなかったのよ」

「やっぱし……」

 光子さんは顔なしのマネキンに花嫁衣裳を着せて、式と写真撮影を行った。

 顔のところは、光子さんの別の写真から切り取ってはめ込んだもの。

「でも、アングルとか光の当たり具合とかに不自然さは無いですよ」

「うん、プロだからね、あたし」

「だったら」

 直美さんは春のコンテストに出す作品も手掛けている。そんなに時間をかけているわけにもいかない。

「空気感が全然違う」

「ああ……」

「でも、納期は迫ってるし……安請け合いしちゃったかなぁ」

「あのう、ちょっと借りていいですか?」

「え?」

 知り合いにアマチュアの写真家が居る……ということで、式場でのネガとコラージュ用の写真を借りた。


 家に持って帰って、AIのツールを使って創ってみた。


 あっという間に十枚ほど出来あがった。

 直美さんは「すごいすごい!」を連発して、そのうちの二枚を表装して田中さんに送ってあげた。

 ほんとうは十秒の動画も作ったんだけど、さすがに21世紀のAI技術を晒すわけにもいかない。

 花嫁衣装で旦那様と向き合って一言二言喋って、こちらを向いてニッコリ。

 上出来なんだけど、ファイルにしまって、そっ閉じにした。


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 


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