せやさかい・193
境内の梅が満開になった。
写真を撮ろうかと提案したら、みんなが手を挙げて、けっきょく家族総出の記念写真になる。
いちおうお寺なので、パイプ椅子三つ出して坊主席を最前列に。
「わしらは後ろでええで」
そう言うと、お祖父ちゃんは留美ちゃんを手招きして、さっさと座らせてしまう。
「あ、わたし、立ってます(^_^;)」
「ええからええから( ^)o(^ )」
愚兄に促されて、わたしとさくらが留美ちゃんを挟んで座る。
「留美ちゃん、こいつも頼むわ」
愚兄がダミアを留美ちゃんの膝にのせて重しにして留美ちゃんの遠慮を封じてしまう。
お父さんが愛用のカメラを出してきて、手際よくセッティング。
檀家とか坊主仲間の集まりで慣れているので、こういうことをやらせると手際がいい。
クンクン クンクン
「もう、女の子が前に座ってるからって、クンカクンカしないでよね」
「い、いや、ちゃうて! 花粉症や花粉症!」
「まあ、どうだかあ~」
「留美ちゃん、うちと替わりい」
さくらが上手いことを言って、留美ちゃんを真ん中に据える。
わずか三十秒で、留美ちゃんを真ん中にした記念写真のポジションが決まる。
三枚撮って、みんなも自分のスマホを出して、同じものを何枚も撮る。
「う~ん、釣鐘堂の脇もええし、紅梅のとこもええし……」
さくらもノッテきて、女子三人、境内のあちこちで続きを撮ってみる。
「あ、夕陽丘さんも呼んであげたらよかったね」
分かっていながら、わざわざ苗字の方で言ってみる。
「あ、それはまた日を改めて……でも、なんで苗字で?」
「えへ、ちょっと実験」
言いながら、お祖父ちゃんと山門の方へ歩いて行く愚兄を見る。愚兄には『頼子さん』でインプットされているので、とっさには反応しない。
「写真、頼子さんには、わたしから送っていいですか?」
留美ちゃんの素直な反応に愚兄の耳がピクリと動いたような気がしたのは考えすぎ?
「ああ、それやったら俺から……」
アハハハ
アグレッシブな反応に、三人思わず笑ってしまう。
「ちょっと、みんな来てみい」
お祖父ちゃんが、山門の前からオイデオイデしている。
「なあに?」「なになに?」「なんですか?」
山門の脇をを見て新鮮な驚き。
「あ、あ、すみません((ノェ`*)っ))」
留美ちゃんが表札を見て顔を赤くする。
うちはお寺なので、表札が二つある。
大きな『如来寺』という大きいのと、普通サイズの『酒井』の表札。
ずっとお寺の看板だけやったんやけど、去年、さくらの担任の先生が迷われてから家の表札もかけるようになった。
その『酒井』の表札が新しくなって『酒井』の横に小さく『榊原』と書き加えてある。
「郵便とか宅配さんとか困らんようにな」
郵便と宅配のためだと言ってるけど、留美ちゃんを家族の一員として受け入れていることの意味の方が大きい。留美ちゃんの顔が、また赤くなった。
「ね、ここでも写真撮ろう!」
お父さんとお母さんは抜けていたけど、再びの撮影会。
これで最後の一枚……と思ったら、山門の前を真っ新な聖真理愛女学院高校の制服着た女の子が自転車で駆け抜けていった。
そう言えば、今日あたりが合格者登校日。
この近所にも聖真理愛の生徒がいるんだと、三年前の自分を見るようで、少し胸が熱くなった。