せやさかい・256
留美ちゃんとオープンスクールに行ってきた。
もちろん、真理愛女学院のオープンスクールでございますわよ。
ここには二回来たことがある。
二回とも、まだ詩(ことは)ちゃんが在籍してた時。
一回は、詩ちゃんの吹部の練習日。
もう一回は、頼子さんの個人的な学校見学に付いてきた時。
頼子さんの時のんで、ある程度慣れてうねんけど、自分がオープンスクールのゲストとして行くのんは格別ですわ。
「え、こんなもん?」
駅の改札を出て、思わず呟いてしまう。
真理愛女学院は大阪でも指折りのミッションスクールなんで、さぞかし参加者が、駅からゾロゾロ歩いてると思てた。
進路の先生からも、人気の学校は何千人もオープンスクールに行くと聞いてたさかい、きっと最寄りの駅からは大阪中から女子中学生が集まって来るもんやと……思うでしょ?
それが、改札から出てみると、まあ……ニ三十人の見覚えのあるんやら見たことないようなんやらの制服姿が真理愛女学院に向かってるだけ。
「ひょっとして、時間間違うたかな?」
慌てもんで、スカタンの絶えへんうちとしては、まず、自分のミスを疑う。
早すぎて、同じ電車に乗ってた子らが少ない……これはええねん。せやかて、待ってたら済むこっちゃし。
遅すぎ……は、シャレになれへん(;'∀')。 オープンスクールとは言え、事前に申し込んでるさかい、安泰中学のうちらが遅刻いうのはバレてしまうわけで、ペコちゃん先生が言うてた言葉が蘇る。
―― オープンスクールから見られてるからね、もし、入試で当落ギリギリだったら、態度の悪かった人は落とされるぞ ――
ペコちゃんスマイルで言うさかい、よけいに凄みがあった。
「アハハ……」
留美ちゃんが笑う。
「なにかおかしい?」
「遅刻じゃないわよ、早すぎてもいないし」
う、さすが寝食を共にする心の友、口に出さんでも読まれてる。
「オープンキャンパスは何回にも分けてやってるのよ」
「え、そうなん!?」
「いっぺんに集まったら、説明とか行き届かないでしょ。むろん、学院の方も少人数の方が観察しやすいし、いろいろと……」
「あ、せ、せやね(^_^;)」
ガサツなわたしは、そう言われただけでビビってしまいます。
「校門入る時は、一礼すんのんよ、一礼!」
詩ちゃんが通ってたんで、一応の作法は知ってる。
留美ちゃんと、いっしょに、一瞬立ち止まって一礼。
よし、同じように礼してる子は、視界に入った限りでは、ほかに二人おっただけ。
「ここの先生もお辞儀してくれてたわよ」
「え、ほんま?」
ちらり振り返ると、修道女みたいなコスの先生風が、入って来る中学生に無言ながら頭を下げ……ながら観察してる。
「オシ、一点リード!」
「力まないでくれる(^_^;)」
「かんにん」
昇降口に行くと、生徒会かなんかやろか、三人の生徒が、下足の世話をしてる。
「学校のスリッパを履いてもらいますが、脱いだ下足は袋に入れて持っていてください」
前に来た時は来客用の靴箱使ったけど、オープンスクールは、各自で持たせるんや。
せやろな、分散させてるとは言え、この人数が来客用使うたら、いっぱいになるわなあ。
「はい、このレジ袋使ってください」
「ありがとうございます」
差し出されたレジ袋の先を見てビックリ。
「ソ、ソフィア」
わたしはビックリしたんやけど、ソフィアはポーカーフェイスであります。
驚いたいうのは、二つの意味。
雰囲気が完全に普通の生徒で、言葉にも訛がない。
エディンバラで初めて会うたときは、片言の日本語を懸命に喋ってて、語尾に可愛らしく『です!』と気合が入ってた頃の感じは、まるであれへん。間近で見てへんかったら、ぜったい普通の生徒やと思てるって!
「いくよ、さくら」
留美ちゃんに促されて、流れに乗ってオープンスクールの始まり始り……。
で、なにを聞いたか……ぜんぜん憶えてませ~ん(^_^;)
大きな部屋で全体の説明があって、二回ほど教室が変わって、なんか説明やら模擬授業みたいなん受けて、意識が戻ったんは、最初の部屋に戻った時。
「みなさん、お疲れさまでした。これからは、お茶会風のフリートークになります。ささやかですが、紅茶とスコーンやクッキーを用意しました、バイキングスタイルでやりますので、どうぞご自由にお持ちください」
よどみなく説明してるのは……我らが先輩の頼子さんではありませんか!
「うお!」
思わず唸ってしまう。
リアル頼子さんは、もう何カ月ぶりやろかいう感じやったさかい。
「ちょ」
留美ちゃんにたしなめられたんは言うまでもありません。
生徒は、他にも五六人居てて、みんなの世話をしたり、質問に応えたり。
むろん、そばには先生が控えてはるねんけど、口出しすることはなかった。
うちは、アホなこと口走ったらあかんので、自重してたんやけど、よその学校の子が質問した。
「とても美味しいんですけど、生徒さんがお作りに?」
「はい、みんなで作りました」
頼子さんが答えると、その子は、声を小さくして頼子さんに聞いた。
ああ……。
なんか、溜息みたいな返事をするとお皿の上のクッキーをティッシュで包んだ。
あ、お持ち帰り。
他にも、何人かの子が、こっそりとハンカチに包んだり。
いくら制服着てても、頼子さんは目立つもんねえ。
頼子さんは、笑顔で知らんふりしてるけど、付き合いの長いうちらには困ってるのがよう分かったよ。