大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・282『ジャンケン⇒阿弥陀くじ』

2022-03-08 17:37:37 | ノベル

・282

『ジャンケン⇒阿弥陀くじ』   

 

 

 堺の街では、グー・チョキ・パーで勝ち負けを決めるのをジャンケン。あるいはインジャンと言います。

 そのジャンケン、あるいはインジャンを、さっきから五人でやって、五回も失敗してます。

 なんで失敗かというと、揃わへんのです。

 

「ジャンケンホイ!」「ジャンケンで、ホイ!」「ジャイケンホイ!」「インジャンホイ!」の四種類があるからです。

 お祖父ちゃんが「インジャンホイ!」

 おっちゃんが「ジャイケンホイ!」

 テイ兄ちゃんが「ジャンケンで、ホイ!」

 あたしと留美ちゃんが「ジャンケンホイ!」

 

 一回目、みんなバラバラで揃えへんかった。

 そうでしょ、掛け声がちゃうさかい「ホイ!」がズレるだけちごて笑ってしまう。

「え、なにそれ?」「ちょ、ちゃうやんか!」「ちがいますねえ(^_^;)」「ちょ、揃えようやあ!」

 掛け声を揃えていうことになるねんけど、みんな、子どものころからのやり方があって、簡単には引き下がれへん。

「じゃ『ホイ!』のタイミングにだけ気を付けて、みんなでやり直しましょう!」

 留美ちゃんが穏当な妥協案を提示するんやけど、『ホイ!』を言う前に誰かが笑ってしまって勝負になれへん。

 

 で、なんでジャンケンしてるのかと言うと、あたしと留美ちゃんの卒業式に出る人を決めてるんです。

 

 え……なんで、自分の卒業式やのに、自分が参加してるかて?

 それはね、おばちゃんの代わりをうちが。詩(ことは)ちゃんの代わりをうちがやってるからです。

 二人とも留守?

 いえいえ、二人ともソファーに座って笑てます。

「ぜったい笑っちゃうから代わって」と、おばちゃんも詩ちゃんも言うからです。

 じっさい、やってみて笑いっぱなしやねんけどね。

 

 実はね、コロナのために参列は保護者一名に限られてるんですよ。

 それで、家族みんなでジャンケンをやってるという次第です。

 お祖父ちゃんは、いちばん古くて「インジャンホイ」

 おっちゃんが「ジャイケンホイ」

 テイ兄ちゃんが「ジャンケンで、ホイ」

 うちと留美ちゃんは「ジャンケンホイ」

「昔は、みんなインジャンやった!」

 お祖父ちゃんが譲らんもんやから、おっちゃんもテイ兄ちゃんも自説を曲げません。

 まあ、ジャンケンごときで笑えるんは家族円満な証拠やねんけど、これではラチがあきません。

「しかし、一家にひとりだけいうのは殺生やなあ」

 テイ兄ちゃんが根源的な文句を言う。

「まあ、スペイン風邪以来やさかい、しゃあないなあ」

「お祖父ちゃん、スペイン風邪罹ったん?」

「わしは、そこまでの年寄りやない」

「スペイン風邪て、大正時代やからなあ」

「あ、もう百年も前なんですねえ!」

 年号言われて、すぐに何年前か言える留美ちゃんはさすがや。

「じゃあ、いっそ、阿弥陀くじでやったらどうですか?」

「おお、いかにも真宗のお寺いう感じやなあ」

 おばちゃんの提案にテイ兄ちゃんが賛成して、さっそくあみだくじ。

「じゃ、さっそく作るわね」

 詩ちゃんが、広告の裏を使ってあみだくじを作る……。

 

「やったー、おばちゃんの勝ちでーす!」

 おばちゃんが栄冠を勝ち取る。

「あんたも、自分で『おばちゃん』いうようになったんやなあ……」

 おっちゃんが、半分負け惜しみで、それとなく嫌味を言う。

「そういうあなただって、近所の子供に『おじいちゃーん』て呼ばれてたじゃないですか」

「あ、あれは、ちゃんと『おっちゃーん』て言いなおしよったで」

「そう言わなきゃ、ボール拾ってもらえないからでしょ」

 詩ちゃんが止めを刺して、食後のリビングは笑いに包まれました。

「せやけど、オレ、行きたかったなあ……」

 テイ兄ちゃんが組んだ足の指をクネクネさせながら悔しがる。

「まあ、こんなご時世やさかい、しゃあないなあ」

「さくら、おまえ、なんで嬉しそうやねん!?」

「ああ、せやかて、たった一名の枠を巡って、家族みんなで熱くなれるんは嬉しいやんか」

「あ……せやなあ、さくら、ええこというなあ」

「ちょ、お祖父ちゃん、髪の毛クシャクシャにせんとってえよ(^_^;)」

「お茶、淹れなおしましょうか?」

「あ、わたしやるわ」

 おばちゃんと詩ちゃんがお台所に向かうと、留美ちゃんがスマホを掲げた。

「二人いけますよ!」

「「「「「え?」」」」」

「先生にメールしたんです、そしたら、わたしとさくらとで二軒分の枠があるらしいです!」

 あ、そうか。

 

 そういうことで、もう一人を阿弥陀くじで選ぶことになりました。

 せやけど、それって、うちと留美ちゃんは別の家の子やいうことやねんけども、これは気ぃつかへんかったいうことにしました。

 あしたは、公立高校の入試。

 あさっては卒業式の予行。

 その次が、いよいよ卒業式です……。

 

 

 

 


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