かの世界この世界:92
気がついたらヨタヨタと飛んでいる……たぶん東にむかって。
バシュっとからめとられて、いっしゅんふり返ったら、エスナルの泉ほどの口を開けたイソギンチャクみたいなのに呑みこまれそうになっていた。くさいい息がモワモワからめとるようにおそいかかってきて、もうダメだああ!
そして、どのくらいか意識がなくなって、気がついたらヨタヨタと飛んでいるんだ……。
右手にムヘン川が見えているから東にむかっていることはまちがいない。
はいきょとやけ野原の間をいくつかの曲がりくねった道が走っている、おおかたは、平和であったころの町や村、あるいは畑の道であったんだろうけど、こう荒れはててはよく分からない。その中の一本がムヘンかいどうで、そのかいどうのどこかに四号が身をひそめているはず……さがすと、ほかの道とゴッチャになってこんらんする。
えと……えと……えと……また気がとおくなってきた。
なつかしい鉄と油のにおい……ハッとわれに返ってとびおきる!
ゴチン!
まっ白い天じょうに頭を打つと、なじんだ手がつつむようにして助け上げてくれる。
「あ、気がついたか!?」
四号の車内、わたしは通しんきの上のベッドに寝かされていた。ロキがウエスの布団でつつむようにして介ほうしてくれている。
助かったんだ……
「おっと、もう気絶すんなよ」
「ロキ! ロキ! こわかったよー!」
「もう大じょうぶだ、よくやったな。ヨタヨタ飛んできたかと思うと四号のまうえでピタッととまって落っこちてきたんだぞ」
「ロキが受けとめてくれたの?」
「ああ、だいぶ前から、ポチが帰ってくる気がしてさ。ほうとうの上で待ってたら、ちょうど広げたオレの手の中に落ちてきたんだ」
「そ、そーだったんだ……ロキ、なんで上半身はだかなの?」
「ああ、受けとめた時、ポチのにおいが移っちまってな」
見ると、開けはなったハッチから、アンテナにくくり付けてはためいてるロキの上着が見えた……上着の下には見おぼえのある小さい服が……あ、わたしの服だ!?
「おまえ、犬の口の中みたいにドロドロで臭かったから洗ったんだ」
タングリスが横顔のまま言う。わ、わたしってばすっぱだかだ!?
「新しい服もぬってるから、元気になったら着てみなさいよ」
ケイトとテルが狭い車内でなにか縫ってる。
「あ、ロキ、見るなあああ!」
あわてて、ウエスの布団を身にまとう。
「おまえ、そんな人間の女の子みたいな反のうすんなよ」
「そうだぞ~、気ぜつしてるおまえを、ロキはかいがいしく洗ってくれたんだぞ~」
自分でも分かるくらいに真っ赤になる。
「うそだよ、男はあっち向いてろって、女子のみんながやってくれたんだ」
「しかし、だんだん人間らしくなっていくなあ……ところで、西のほうはどうだった?」
「あ、そ-だ」
まだ生々しい感かくが残る西ぶせんせんの情ほうを伝える。みんな、それまでのオフザケをやめて真けんに聞いてくれる。
「人とクリーチャーのゆうごうか……」
「新しい局面ですね」
ブリュンヒルデとタングリスが見かわす。
「トール軍とレジスタンスとクリーチャー……それに、人とクリーチャーのゆうごう体か」
「よつどもえだな」
「しかし、そのおかげで、街道は平おんなんだ。一気にノルデンハーフェンを目指すぞ!」
ブリュンヒルデがこぶしを上げて、四号は動きだしたよ。
☆ ステータス
HP:7000 MP:43 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長