幹部食堂からラウンジに移動するのに一週間もかからなかった。
同じ広州人……という触れ込みなので、広州出身の林息女チーフの推薦も楽にとれたし、なにより、食堂に通ってくる上級将校たちの目に留まった。
同じ広州人……という触れ込みなので、広州出身の林息女チーフの推薦も楽にとれたし、なにより、食堂に通ってくる上級将校たちの目に留まった。
食堂とラウンジは大違いだった。食堂は一応軍の規律の中にあり、兵士下士官用のそれとの違いは席がゆったりしていることと、セルフサービスでないことぐらいで、将校たちもハメを外すこともなかった。
しかし、ラウンジ、特に賓席と呼ばれる特別なところは、将官クラスと将来を約束された佐官たちのハーレムであった。
日本で言えば、銀座の一流クラブ並の設備とサービスだ。
しかし、ラウンジ、特に賓席と呼ばれる特別なところは、将官クラスと将来を約束された佐官たちのハーレムであった。
日本で言えば、銀座の一流クラブ並の設備とサービスだ。
扱いには二種類ある。統一中国であったころからのエスタブリッシュメントと、分裂後の成り上がり。それぞれに合った応対ができなければ、このラウンジでは務まらない。
「今の大佐、おさわりばっか。典型的なスノッブね」
開花に擬態しているキミは、きれいな北京語でグチる。
「漢はまだまだ発展する。もうしばらくは、ああいう奴の力も必要だからね。でも、再び統一が実現すれば、真っ先に粛清されるな」
日本酒をあおりながら、習平均中佐は呟く。
開花に擬態しているキミは、きれいな北京語でグチる。
「漢はまだまだ発展する。もうしばらくは、ああいう奴の力も必要だからね。でも、再び統一が実現すれば、真っ先に粛清されるな」
日本酒をあおりながら、習平均中佐は呟く。
階級は一つ下なだけだが、さっきの大佐より十歳も若い。旧統一中国時代からの太子党に属するエリート軍人だ。
「習さんは、日本酒しか飲まないのね」
明花に擬態したヒナタが、五杯目の杯を満たす。
「わたしは日本酒を飲み漢は日本を飲む。わたしは、日本の総督になる。わたしは日本が好きだ。あの洗練された伝統と技術革新の両立はとても魅力的だ」
「そうね、習中佐の冷静さは、日本でも十分通用しそうですものね」
「中国の大胆さと、日本の技術革新で、新しい国家像を作っていく」
「そう簡単に、二つの文化が融合されるかしら」
「ハハ、わたしは、君のそういう簡単に迎合しないところが好きだ。君の言う通り、このままではダメだ。日本が、あんなちっぽけな国なのに、極東戦争で屈服しなかったのは、いったん国難があれば団結する民族性にある。我々は極東戦争で、その日本の民族性を呼び覚ましてしまった。その表れがヒナタだ。自立し思考学習する最終兵器」
「爆発したら、全人類が滅びてしまうほどの怖いものだってうかがってますけど」
「それも、この漢に潜入しているとか……」
「威嚇だよ。ヒナタを自爆させたら日本も無事じゃ済まないからね」
「なるほど、そんなに怖がらなくてもいいんだ」
開花がほっとしたように言って、わずかにすり寄ると習の手が自然に肩に周る。
「日本から学ばなければならないのは、あの民族性だ。自分のことや身内の利益では動かない。最後は民族や国家のために一致団結する、あの民族性。それを切り崩しながら我々漢民族の国民性を変えていく……そうしなければ、この大陸国家は分裂したまま衰退していく」
明花が、空いた杯を足そうとすると、習は杯を伏せ、開花に周した手を戻した。
「今夜は飲み過ぎた。これ以上飲んだら、自分の目的と幻想の区別がつかなくなる」
明花に擬態したヒナタが、五杯目の杯を満たす。
「わたしは日本酒を飲み漢は日本を飲む。わたしは、日本の総督になる。わたしは日本が好きだ。あの洗練された伝統と技術革新の両立はとても魅力的だ」
「そうね、習中佐の冷静さは、日本でも十分通用しそうですものね」
「中国の大胆さと、日本の技術革新で、新しい国家像を作っていく」
「そう簡単に、二つの文化が融合されるかしら」
「ハハ、わたしは、君のそういう簡単に迎合しないところが好きだ。君の言う通り、このままではダメだ。日本が、あんなちっぽけな国なのに、極東戦争で屈服しなかったのは、いったん国難があれば団結する民族性にある。我々は極東戦争で、その日本の民族性を呼び覚ましてしまった。その表れがヒナタだ。自立し思考学習する最終兵器」
「爆発したら、全人類が滅びてしまうほどの怖いものだってうかがってますけど」
「それも、この漢に潜入しているとか……」
「威嚇だよ。ヒナタを自爆させたら日本も無事じゃ済まないからね」
「なるほど、そんなに怖がらなくてもいいんだ」
開花がほっとしたように言って、わずかにすり寄ると習の手が自然に肩に周る。
「日本から学ばなければならないのは、あの民族性だ。自分のことや身内の利益では動かない。最後は民族や国家のために一致団結する、あの民族性。それを切り崩しながら我々漢民族の国民性を変えていく……そうしなければ、この大陸国家は分裂したまま衰退していく」
明花が、空いた杯を足そうとすると、習は杯を伏せ、開花に周した手を戻した。
「今夜は飲み過ぎた。これ以上飲んだら、自分の目的と幻想の区別がつかなくなる」
ドゴゴーーーン
くぐもった地響きがして店が揺れた! ガチャンガチャガチャ パリン ガチャン 棚やカウンターに載っていた酒瓶やグラスが落ちて粉々になる。
キャーー(# ゚Д゚#)!!
「怪我は無いか?」
揺れが収まると、中佐は二人を気遣い「大丈夫です」の返事を聞いてから窓辺に寄った。
「筋向いのビルが崩れたんだ……」
「テロかなんかですか!?」
「ちょっと見てくる」
習は落ち着いて様子を見に行った。
店内も通常営業のできる状態ではなかったが、習のように外に出るもの少なく、大方は窓辺近くに寄って様子を窺うばかりだ。
息女がホステスと客にけがの無いことを確認し終わったころに習が戻ってきた。
「爆発があったわけではないようだ、おそらく革命前に手抜き工事で建てられたビルのようだね。なに、このビルは革命後の政府直轄の建築だから大丈夫さ。ママ、今日は帰るよ」
それだけ言うと、律儀に勘定を済ませて帰って行った。
明花に擬態したヒナタは、習は使えると思った……。