大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ホリーウォー・16[ヒナタとキミの潜入記・4]

2021-07-26 07:00:31 | カントリーロード
リーォー・16
[ヒナタとキミの潜入記・4] 



 
 ビルの崩壊の原因は手抜き工事だった。鉄筋が不足していて、一部のコンクリートには海砂が使われていて、不足していた鉄筋の腐食に追い打ちをかけたのだ。
 ただちに、施工業者とビルの管理会社の幹部が逮捕された。
 
 チャンスは意外と早くやってきた。

 例の大佐たちが粛清されたのだ。

 共和国建国に力はあったとは言え、大佐たちは中国の悪い側面を濃厚に引き継いでいた。
 身内に甘く、情実や賄賂で彼らは動いた。
 習平均中佐たちは、地道に彼らの腐敗ぶりを記録していた。
 例の大佐は、軍組織の中では使い走りのトップぐらいの位置で、大佐自身が腐敗の中心に居たわけではない。
 ただ、走り使いは、行った先々で利権をあさっていたので、大佐を粛清することで、彼を便利使いしていた将官クラスの守旧派が芋釣り式に検挙され、将官の半分がいなくなった。
 
 政府は、ビル崩壊の原因に重ね合わせて『組織の腐敗・腐食分子を一掃する』とキャンペーンを張った。
 
 どうやら、旗振り役は習のようであった。
 
 組織と言うものは、たとえお飾りでも階級に見合った者がトップに立っていないと組織は弱体化していく。古くはルーマニアのチャウシェスク、リビアのカダフィ大佐らがそうであった。

 習は大佐に昇進はしたが、軍のトップには、要領が悪く他の将官たちのように身軽に動けず、そのために権力の悪用もできずボンヤリしていた予備役寸前の能無したちを据えた。

「習さんやったわね、おめでとう。これで、このラウンジも習さんみたいな清廉な方たちばかりになって、ダブルスタンダードを使わずにやっていけるわ」
 
 今度の改革で、ラウンジの女支配人になった林息女が、揉み手をして喜んだ。明花のヒナタと開花のキミも表面それに同調した。
 
「息女大姉、悪いが国は、このラウンジを閉鎖する。言い方は悪いが、軍腐敗の温床の一つがここだ。これからは民間の業種の一つになる。高級であることはかまわんが、客は金さえ払えばだれでも利用できるものになってもらう。従って、ここは競売にかけられる。むろん大姉が、その競売に参加することは自由だが」
 
「……分かったわ」
 
 林息女の目には、怯えと野心の両方が光っていた。

 改革没落組の処刑が始まった。

 軍のトップにいた者たちへのそれには容赦はなかった。文官たちは財算没収のうえ免職にしたり、罪に相応な有期刑に処したが、軍人たちは死刑になるものが多かった。ただ、以前のような公開処刑は行わず、刑務所の中の執行室で、医師による薬殺に処された。
 
「死刑は嫌だあ!」
 
 最後まで泣きわめいていた例の元大佐などは、本人にも知らせず精神安定剤ということで薬を投与。眠るように逝かせてやった。

「習さん、処刑者の名前も公表しないのね」

 民間のクラブに変わったラウンジに久々にやってきた習平均に、林息女が先週の天気予報を確認するように聞いた。
 
「軍法会議の決定さ。わたしが決めたわけじゃない。ただ、非人道的な方法がとられなかったことを、わたしは喜んでいる」
 
 あいかわらず日本酒を舐めるように飲みながら習は言った。処刑された者は名前も公表されなかった。かつての職階と罪名だけが官報に出るだけである。日本的な穏便さと言えた。
 
「分かる人にだけ分かればいいのよね」
 
 明花が、拳一つ分開けたシートで言った。横で、開花が微笑んでいる。二人とも習の好みをよく知っている。
 習は、こういうところでもベタベタされることを好まない。
 
「息女大姉、よかったら、この店を買い取ってクラブとして成功した話を聞かせてくれないかな」
 
 習は、こういう逆境から実力で立ち直った者の話を聞くのが好きだ。
 
「大変でしたけど、この陳姉妹の力が大きいんですよ」
「ほう……」
「そんなあ、息女ママの力とねばりですよ」
 
 明花は謙遜したが、習は正確に陳姉妹の力と、クラブの再建に不正じみたことがないことに感心した。

 習は、ヒナタの明花とキミの開花にクラブのホステス以外の力があることを感じ始めていた。
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