大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・65『荒川事件』

2021-02-18 06:22:27 | 小説3

たらしいのにはがある・65
『荒川事件』
         


     

 

 探すのにずいぶん時間がかかったよ。こちらも、それだけに構っていられなかったんだけどね。

 ホンダN360Zは、入力したコースを離れ、荒川の河川敷に停まると、そう話しかけてきた。

「油断したわ」
『いや、ここまで隠れていたんだ、大した者だと誉めておくよ』

「だれ!?」
 優子が腰を浮かしてドアロックに手を掛ける。
「待って優子、この声……ユースケね?」

『その名前は気に入っているよ。祐介は完全に取り込んだけど、このロボットの行動や思考の力は祐介の想いが原動力になっているからね』
「……祐介は、どうなっているの?」
 抑えた声で優子がたずねると、ダッシュボードのモニターに赤ん坊のように丸まった祐介の姿が映った。粘膜や血管のようなものが繋がり繭のようなものの中で眠っている。
『そして、これがわたし……ユースケのMCPだよ。どうせ君たちのスキャン能力じゃ分かってしまうことだろうからね。友好のシルシにお見せしておくよ』
「ホンダN360Zの擬態はやめたのね。どこにでもあるアズマの大衆車だわよ、これじゃ」
 わたしの不満にユースケは、正直に答えた。
『わたしも、あれのほうが好きなんだけど、目立つからね、山手線のガードを潜った時に変えた。ちょうど周りはアズマの同型車が四台も走っていたからね。途中、衛星の目の陰になるところでシリアスもナンバーも何度も変えたよ。見てごらん、営業の途中に休息をとっているアズマが、この河川敷に何台もいるだろう』
「なるほど、都心の道路じゃ、すぐに交通監視員のオジサンがやってくるものね」
『窓開けていい?』
「いいわよ」

 オートで窓が開いた。広い荒川の川風が吹き込んできて気持ちがいい。

「子供の頃、こういう河原で石投げをしたものよ。ちょっとやってもいい?」
『それは、話が済んでからにしてもらえないか。君たちのノスタルジーに付き合うために、ここまで来たんじゃないんだから』
「ち……」
『それに、うかつに外に出て走り回られちゃ、擬態を解いてロボットの姿に戻らなきゃならないからね。休憩をとっているサラリーマン諸君の邪魔はしたくない』
「ま、とにかく話を聞いてみようよ」
『友好的な態度に感謝するよ』
「で……?」
『C国が予想以上に我が国に浸透してきている。M重工の重役にハニートラップがかけられていた事でも分かるだろう?』
「ええ、あれはショックだったわ。C国の技術が、あそこまで進んでいるとは思わなかった」
『的場みたいな抜けたやつが防衛大臣をやっていたからな。民自党の時代に相当やられてる。それだけじゃない。君たちが多摩でクラッシュしてくれた古いロボットの他にも、相当なスリーパーが潜り込んでいるようで、対馬を中心に、周辺海域をしらみつぶしにあたっている』
「で、その間は、グノーシスの仲間割れは中断なのね」
『ああ、この国がなくなっちゃ元も子もないからね』
「だったら……」

 わたしと優子は手話に切り替えた。

――向こう岸の、ミッサンのバンに気を付けて――
――上空をノンビリ飛んでるアズマテレビのヘリコプターにもね――

 そのとき、ミッサンのバンが方向転換をしたかと思うと、ヘッドライトから対地ミサイルを、こちら岸のアズマの営業車に撃ち込んできた。

 ズッドーン! ズッドーン!

 二台目が吹き飛んだとき、わたしたちはドアから飛び出し、ユースケはアズマの擬態を解いてロボットの姿に戻って荒川をジャンプ、ミッサンのバンの擬態を解きつつあるC国のロボットに飛びかかっていった。すると上空をノンビリ飛んでいたアズマテレビのヘリコプターが、空対地ミサイルをユースケ目がけて発射した。ユースケは予定進路を変え、同時にジャミングをかけた。
 わたしたちが義体であることに気づくのには、少し時間がかかり、わたしたちは擬態を解いたC国のロボットの後ろにまわり、至近距離から手首のグレネードを四発首筋にお見舞いし。ロボットは擱座した。真由の二発で間に合ったので、わたしは上空のアズマテレビのヘリコプターを撃って、重力誘導で荒川の真ん中に墜落させた。

「ビックリするよね」
「あ、ユースケ、フケやがった」

 あちこちで、アズマの車や、ロボット、ヘリの残骸が燃えている。わたしと優子は体温を地面と同じにし、衛星のサーモセンサーにかからないようにして、すぐに街中に逃げ込んだ。

 これが、C国多摩事変と呼ばれる局地戦争の始まりだった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
  • 木下くん       ねねと優奈が女子大生に擬態生活しているマンションの隣の住人
  • 川口 春奈      N女の女子大生 真由(ねねちゃんと俺の融合)の友だち 
  • 高橋 宗司      W大の二年生   


 


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