酔っぱらい⇒飲み屋のアルバイト女子⇒飲み客⇒コンビニ店員男子⇒コンビニ客の少女
まりあが後をつけている間も四回入れ替わった。
いずれもアクト地雷(炸薬は抜いてあるので、ただのアンドロイド)で、司令が捨てた後は、普通に初期設定の人物として行動している。
いま司令はコンビニ客の少女になっている。
少女はレジ袋をプラプラさせながら公園を斜めに横断しようとしている。
――今だ!――
まりあはダッシュすると少女を捕まえて、公園で一番大きな木の上に跳躍した。
「なにするのよ!」
少女は文句を言ったが、逃げようとはしなかった。どうやら、この高さから落ちれば故障のおそれがあるようだ。
「普通、こういう状況では、悲鳴をあげるわよね」
少女はシマッタというように表情をゆがめた。
「司令だと言うことは分かってます」
「……どこで気づいた?」
「それは言えません。あたしの脱走ルートが分かっちゃうから」
「まりあも賢くなったな」
「司令の娘だもん」
「わたしはとんだ間抜けだったな」
「お兄ちゃんの父親だもん」
「口も上手くなった」
「司令も脱走ですか?」
「見逃してくれたら、今夜のことは黙っていてやるが」
「聞きたいことがあるんです」
「もう一回乗り換えたら、今夜の目的が達せられるんだがな」
「質問に答えてくれたら、この木から下ろしてあげます」
「やれやれ、半年ぶりの息抜きなのになあ」
司令は髪をかきあげた。実に様になっていて、仕草だけならヤンチャな中三くらいの少女だ。
まりあは、この仕草が答えてくれるサインのように思えた。
「どうして効率の悪いレールガンなんか使わせるの?」
「特務師団がアマテラス(日本政府のマザーコンピューター)の支配から独立していることは知っているだろう」
「うん、だから余計に思うの。なんでまどろっこしく携帯兵器を取り換えるのか。デフォルトのパルス弾を使えば時間もかからないし犠牲も出さずにすむでしょ」
「それがアマテラスとの交換条件なんだよ」
「交換条件?」
「旅団の独立性を保証する代わりに、最先端通常兵器であるレールガンを使うという」
「それって、軍需産業との癒着?」
「これ以上は勘弁してくれ、これが現状では最高の体制であることは確かなんだ。さ、もう下ろしてくれないか」
司令の目は――ここまでだ――という光を放っていた。
「分かった」
一言言うと、まりあは木の上から司令を突き落とした。
「ノワーーーー!」
素早く飛び降りたまりあは落下してくる司令を木の下で受け止めた。
「こういう時は『キャーーーー!』って悲鳴を上げるもんよ」
「化けているのはカタチだけだ」
司令はスタスタと公園の出口を目指した。
「最後にひとつ」
「なんだ?」
「その義体の名前はなんていうの?」
「……時子だよ」
意外な名前に言葉を失うまりあだった。