REオフステージ (惣堀高校演劇部)
154・音楽の授業を遅刻した理由 千歳
惣堀はバリアフリーのモデル校で、車いすのわたしでも移動に不便を感じることは少ない。
でも、ときどき不便なことがある。
それが芸術の時間。
音・美・書の特別教室は、惣堀がモデル校になる前に建てられた芸術棟なので、いったん玄関を出て、芸術棟に行ってエレベーターに乗りなおさなきゃならない。
エレベーターに通じる吹き抜け廊下にさしかかったとき、下の玄関ホールから織田先輩が友だちと話してる声が聞こえてきた。
『織田も、来年は移動が楽になりそうだな』
『ああ、芸術は二度もエレベーターに乗らなきゃならんものなあ』
あ、織田先輩も芸術(たしか美術)だったんだ。
『手術、うまくいくといいな』
『ありがとう、大丈夫さ』
『ジイもやっと肩の荷が下りまする』
『だってさ』
『織田の腹話術も聞き納めかぁ』
『いやいや、足が治っても平手のジイは、永遠の守り役じゃぞ』
『ま、まことでござるか!?』
『ああ、足が治れば本格的に腹話術をやるぞ』
『吉本でもいくんかい(^_^;)』
『ああ、織田信中の戦国腹話術! ウケると思わねえか?』
『お濃も楽しみにしております(^▽^)/』
『だってさ』
『市も応援してますわぁ』
『おうおう、愛い奴じゃ(^▭^)』
『兄上ぇ(^^♪』
『よしよし』
『あ、それは気持ちが悪いかも(^〇^;)』
チーン
『お、エレベーター来たぞ』
あ、ヤバイ。
エレベーターの前を離れる。ここで出くわすのは、ちょっと気まずい。
先輩たちをやり過ごしてからエレベーターに乗る。
おかげで、音楽の授業は遅刻してしまった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長) 藤岡(養護教諭)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)