大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大阪ガールズコレクション:2『お早う! 城東区鴫野』

2020-08-02 06:04:47 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:2

『お早う! 城東区鴫野』  「鴫野」の画像検索結果  

 

 

 鴫野……………

 読めます?

 カモノと違います、シギノって読みます。

 

 漢字で書いたら『鴫野』と『鴨野』。微妙なんで間違われても仕方ないんやけど、担任に間違われたら凹みます。

 担任は堺の出身、ビミョーやけど、まあしゃあないか。

 

 わたくし小林幸子と申します。

 チョーベテランの演歌歌手と同じ名前なんですけど、あたしらの世代はたいてい知らん歌手やから、まあええんですけど。

 中一の時に近所のサクちゃんの家で大晦日。紅白とか観てから初詣行こうということになってた。

 そんで、紅白のオオトリで件の演歌歌手がスゴイ衣装で現れた。

 サクちゃんのお母さんやらお婆ちゃんは喜んでたけど。子どもらはみんな「なにーこれ!!」やった。

「わ、幸ちゃんと同姓同名や!」

 そして、サクちゃんも健介も健介のイトコもその友達もみんな笑いよった。かないません。

 

 へえ、小林幸子と同姓同名なんや。

 

 鴫野をカモノと読んだ担任が喜んだのは、さらに凹みました。

 担任は歌手の小林幸子さんに偏見は無くて、笑ったりせえへんけど、それでも凹みます。

 

「行ってきまーす!」

 

 元気に声かけて家を出る。

 家の前はキャンパス地のアーケード。アーケードは20メートル置きくらいに開放されてて空が見える。

 その四角い空が晴れてると元気になります。あいにくの曇り空。

 乾物屋のお爺ちゃんが「お早う幸ちゃん」「お早うございます!」と元気に挨拶。

 お爺ちゃんは高校に行くようになってから、あたしを尊敬の目ぇで見てくれます。

 それは制服のお蔭。

 あたしは天王寺区にある女子高。制服は90年間モデルチェンジしてないんで、お爺ちゃんは――あのお嬢さま学校か!――という数十年前の印象があるんで、尊敬してもらえる。なんせ、中学までは家族が呼ぶようにに「サチ」て呼ばれてた。

 ほんの100メートルほどの商店街を抜けて右に曲がってJR鴫野駅。

 当たり前やったら5分もかかれへん。

 せやけど、あたしは7分かけます。

 

 なんでか言うと、山本精肉店に寄るから。

 山本精肉店はサクちゃんの家。

 サクちゃんは一個下の中三で、お店の商品のお肉やらハムの新鮮さを宣伝してるような元気娘。

「お早う、いっつもごめんねえ」

 一週間に一回くらいは謝るサクちゃん。

「あ……また?」

 そう聞くと、サクちゃんは小さく頷く。おっちゃんおばちゃんは「「お早う」」と、いつでもレギュラーで返事してくれながら開店準備。

「健介お早う!」

 勝手に二階に上がって襖越しに声だけ掛けます。

 たいてい「おう」とか「ああ」とかの二音節の返事が返ってきます。

 今日は返事なし。

「サクちゃん泣かしたらあかんぞ!」

 寝返りの気配。まあええ。とりあえず生きとる。

 健介は二学期から学校に行かへんようになった。

 

 朝に一回だけ声かけていく。せやから、駅まで二分余計にかかる。

 

 正月のことを思い出した。

「小林幸子いややったら、苗字変えたらええねん」

 鳥居を出たとこで言われた。

「なに、それ?」

「山本幸子とか」

「え? ええ!?」

「わ、例えや例え! ああ、ナシや! いまのんナシや!」

 

 あのときの「いまのんナシや!」もっかい言うくらいになれよなあ!

 

 そんなん思てたら、いつもの電車に乗り遅れてしまいました。


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