真凡プレジデント・35
呼び出されたのは中町公園。
なつきの部屋で当てのない啖呵を切ってしまったところでスマホに電話がかかってきて、中町公園に呼び出されているのよ。
噴水そばのベンチに座っていると、見覚えのあるわんこが、ダラダラとリードを引きずりながらやってきた。
「あ、キミは……」
『おう、おいらペスだぜ』
「え!?」
わんこが喋った!?
『んなわけないだろ、俺だよ俺』
落ち着いて聞くと柳沢琢磨の声だ。
でもってよーく見ると、ペスの首輪に小さなスピーカーが付いていて、声はそこから聞こえてくる。
「なんで、こんな……本体はどこにいるんですか?」
『探すんじゃない。俺からは見えてるから安心してくれ』
そっちは安心でも、こっちは面白くないよ。呼び出されたと思ったら、こっちからは姿が見えないで、そっちからだけ見えてるなんて気持ちが悪い。
『先日の鉄道事件で面が割れてるからな、下手に会ってるところを見られたら真凡も迷惑するだろ……ほら、西側の道路に車が停まってるの見えるだろ、あれ、毎朝テレビの覆面だ。俺が現れたら密かにカメラを回すつもりだ。向かいの喫茶店には週刊文潮の記者がいる。だから、ペスと遊んでる感じで話してくれ』
目の端っこで確認すると、なるほど言われた通り状況だ。
「それで、どうするんですか?」
『学校にも、落とされた子にも問題はあると思うんだけど、細かいことはいい。バカ騒ぎにして俺の平安な環境をかき乱すマスコミが許せない。一週間でカタをつけるから、その間、俺を信用して待っていてくれないか。なつきの問題も本編を解決すれば自然に収まるよ、早まって退学届けなんか出さないように見てやってほしい』
「そ、そうなんだ」
ちょっと悔しいけど、柳沢ならやり遂げるような気がする。
『おう、真凡も、ちょっと安心した顔になったな』
「ま、まあ……て、見えてるんですか?」
『ああ、スピーカーの他にカメラも付いてるんでな』
「え!?」
わたしは慌てた。
だって、お座りしたペスの位置からだとスカートの中が丸見えなのだ。
『ああ、だいじょうぶ。ライトまでは付いてないから、陰になってるところは見えてない。納得がいったら、ペスを連れて公園を出てくれ、角を曲がったところで元の飼い主が待っている。うん、あの小学生。あいつが家まで連れてきてくれることになってるから。じゃあな』
わたしは、ごく自然な感じでリードを持って公園を出て行ったのだった。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問