やくもあやかし物語・128
窓を開けると、八房が宙に浮いていた。
「あら、八房って宙に浮けたの?」
「はい、脚はまだ直りませんが、やくもさんたちが二匹も妖を退治してくださいましたので、心が軽くなり、これくらいの高さなら浮いていられるようになりました」
なるほど、腰を落としたお座りの姿勢だ。
「伏姫さまもお喜びになって、これは、直ぐにでもお礼を申し上げねばとうかがったしだいなのです」
「まあ、それはそれはご丁寧に」
「つきましては、ほんの気持ちばかりなのですが、お礼のしるしとして、これをご笑納くださいませ」
スっと八房が横滑りすると空中に洗面器ほどの桶が現れた。
「まあ!?」「檜のお風呂じゃないの!?」
左右の肩に乗ってきて、チカコと御息所が感激する。
「はい、実は、今の今まで悩んでいたのです。里見家にはもう昔の勢いがございません。それで、取り急ぎお礼をと、伏姫さまがお渡しになったのが……」
「このお風呂なのね!」
「なんて気が利いているんでしょ!」
「そうね、ついさっきまで二人とも言ってたものね」
「いえ、実は、姫さまから預かったのはこけしほどの原木なのです。いえ、原木と言っても、甲斐の山奥で御神木と崇められていた由緒のあるものでして」
「原木がお風呂に?」
「はい、御神木には霊力がございます。不肖、八房にも少しばかりの呪の力もございますので、みなさんのお声を漏れ聞いて、ついさっきお風呂に変化(へんげ)させた次第なのです」
「まあ、そうだったの!」
「いやはや苦肉の策、お恥ずかしゅうございます」
「ううん!」
「そんなことはない!」
「あ、ちょ……うわ!」
スッテーーン
二人が身を乗り出したので、わたしはバランスを崩して、スノコに尻餅をついてしまった。
「あいたた……」
「あら、ごめん」
「だいじょうぶ?」
ちょっとおざなりだけども、二人も窓枠から下りてきて腰をさすってくれる。
「あ、八房は?」
「ああ、帰ったわ」
「八房も、長い時間は浮いていられないみたい」
「そう、こっちこそ、きちんとお礼を言いたかったのに」
「でも、これで三人揃ってお風呂に入れるね」
「うん、さっそく入ろう!」
「ダメだよ、一番風呂はお爺ちゃんなんだから」
「ちぇ」
「年寄りの一番風呂は体に悪いぞよ」
「はいはい、今度は夕飯のお手伝いするから、あんたたちは部屋に帰りましょうね」
「むー」
「仕方ない、やくもにも立場があるよね」
むくれる御息所をチカコがなだめてくれる。
なかなかいいコンビになった。
部屋に帰ると、お湯も張っていないお風呂に入ってニコニコの二人。
なんか、子どもじみてるって思ったけど、顔を近づけてみると、檜のいい香りがして、なるほどと思う。
これで、お素麺とかいただいたら美味しいかも……思ったけど、二人のお風呂と共用じゃねえ(^_^;)。
それから、ちゃんと晩御飯もいただいて、後片付けも手伝って、三人でお風呂に入ったよ。
あ~~ごくらくごくらく(^▽^)/
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王