大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・20『ミチビキ鉛筆』

2020-12-06 06:55:41 | ライトノベルセレクト

物語・20

『ミチビキ鉛筆』   

 

 

 夢だと分かってる。

 

 だって、焦ってるもん。

 お医者さんに注射をされた。

 風邪の注射だから眠くなるんだ。

 でも、自然な眠りじゃないから、少しだけ意識がある。

 その意識が、これは夢だと言っている。

 

 明日は試験があるんだ。転校して最初のテストだから欠点はとりたくない。

 

 注射のお蔭でだいぶ楽になった。だから、起きて少しでもノートとか見ておきたい。

 ノートは真面目にとってる。だから、ざっと見て、大事なとこを書くだけで平均点ぐらいはとれるんだ。

 だから目覚めなきゃ……目を……覚まさなきゃ……目を…………

 

 しまった!

 

 NHKの朝八時のニュースが聞こえる。お爺ちゃんがダイニングで朝ごはん食べながら聞いてるんだ。それが、わたしの部屋まで聞こえてくる。いつもだったら玄関を出る時間だ。風邪ひきなもんだから、休ませようと思って、だれも声を掛けないんだ。

 一分で制服に着替えると階段を掛け下りる。

「だいじょうぶ、やくも?」

「あ、お母さん!?」

「休んでなさい、学校には電話しといてあげるから」

「だめ! 今日は試験だから休めない!」

「でも、やくも……」

 

 というわけで、ミチビキ鉛筆を前に置いて一時間目の試験が始まろうとしている。

 

 十秒で説明すると、お母さんがくれたミチビキ鉛筆。

 お尻のところの塗装を削って1~5の数字が書いてある。答えに詰まったら転がして出た数字が正解なんだそうだ。

 急いでいたから、そのまま胸ポケットに入れてきた。

 チャイムが鳴る前に練習問題で試してみた。五問やって全部正解が出た!

 これ、いけるじゃん!

 思ったけど、ポーカーフェイスで答案が配られるのを待っている。

 前の子が緊張した顔で問題用紙を送ってきた。一瞬目が合って――がんばろうね!――エールの交換やる余裕さえあった。

 なんたってミチビキ鉛筆が、わたしにはある!

 

 チャイムが鳴って「始め!」と先生の号令。

 

 問題用紙と解答用紙をひっくり返して、まずは名前を書く。

 第一問……ゲ!?

 選択肢がA~Gの七つもある! 目を下にやると、八つ。その下は九つ、その次は十個!?

 これではミチビキ鉛筆が役に立たない! タラ~っと汗が流れる。

 

 だんだん答案用紙がボヤケテきて焦る。

 こうなっては、勘を頼りに書くっきゃない!

 

 破れかぶれの決心したところで……目が覚めた。

 あれもこれも夢だったんだけど、今日からテストであることは現実だった。

 


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