あのころの自分・2
『笑顔という自分の見せ方』
何度か書いてきたが、私は首切り教師だった。
13回担任をやったが、三年生を持ったのは3度だけで、残りの10回は一年生が7回、二年生が3回で、圧倒的に一年生の担任が多かった。特に好き好んで一年生の担任を希望したわけではないが、担任選考委員会で指名されたときは全て一年か二年だった。
勤務校は、いわゆる困難校ばかりで、ひどい学校は240人入学し、卒業時には100人も残っていない。
六割以上が退学していき、そのほとんどが一年生である。一年生の担任の使命は、いかに問題なく自主退学させるかということである。一番まずいのは留年させることである。
留年生の90%以上が、その後退学する。留年すれば、ダブリと言われ、多くの場合留年生同士群れて、他の生徒の邪魔をしたり、悪影響を与えたりする。だから留年生を大量に出す担任は迷惑がられた。学校のためにならないばかりではなく、本人のためにもならない。
13年間で100人前後の生徒を自主退学させたが、留年させた生徒は一人もいない。別に自慢話ではない。
私自身、高校時代からのスコブルつきの劣等生で、二年生を二回やり、修学旅行に二回行った。留年生の弱さや脆さは自分のこととしても、よく分かっている。
高校に入学した時(私が)担任に言われたことばは、こうであった。
「自分らは、大手前、市岡によう入らんかった奴らや……」
このあとに、頑張れば関西大学ぐらいはいけるという、慰めというか励ましの言葉がくる。公立大学には行けとも言わない。入学早々自信を喪失させられた。
私は、一年生を持った時の最初の話は「犯罪以外なら、なんでもできる。どんな夢でも見ろ。君らの人生は一日に例えたら、まだ日の出前や!」これを、とびきりの笑顔で言う。生徒自身最低の学校に来たと思っている。まずは軽く自信の種を植え付ける。同時に、二年生になれそうにない生徒を見極める。で、四月いっぱいかけて個人面談をやる。この時も、たいてい話の終わりには笑顔でいる。
教師がやってはいけないことは、いろいろあるが、その一つが笑顔で叱ることである。生徒は教師が本気で叱っていないと思う。結果、担任を軽くみてしまう。教師は、どこかで嫌われたくない(生徒に)と思って、目線も合わさず、笑顔でことを済ませてしまう。そして、学年末には、無責任に留年させてしまう。
退学させるときは深い笑顔で接する。退学への伏線は数か月前から張ってあるが、原級留置が決定した生徒は、決定したその日のうちに家庭訪問し、本人と保護者に伝える。10人以上出ることもあるので、短時間で済ます。落ちた場合の選択肢と落ちる可能性は、、保護者にも生徒本人にも伝えてあるので、げたを預けて帰る。たいてい、その場で自主退学を決意してもらえる。この時に「人生、これで終わるわけではない」と、深いところで笑顔でいる。
もう何度も書いてきたことなので、本題に入る。
高校生のころ、大阪府高等学校演劇連盟の前身である大阪府高等学校演劇研究会の副会長をやっていた。簡単に言えば、大阪の高校演劇の事務的なまとめ役で、今の連盟の常任委員長にあたる。これを、当時は生徒がやっていたのだから、時代を感じる。
会長は、対外的な問題があるので四天王寺高校の校長先生がやっておられた。
実質的なお目付け役は四天王寺の藤木先生がおやりになり、藤木先生と会長の校長先生とのパイプ役は、校長先生の息子で教頭先生のS・T先生がおやりになっていた。だからS・T先生とは、数回お目にかかっている。
現職の教師になり、家庭訪問のハシゴの途中、四天王寺の亀の池で汗を拭いていた。すると、かなたの塔頭から、四天王寺の偉いお坊さん二人が出てくるのが分かった。
そのお一人のお坊さんの視線を感じた。それも笑顔の視線である。まさか私に向けられた視線であるとは思わず、ボーっとしていたが、すぐにその笑顔がS・T先生であることが分かった。
仏教に和顔施(わがんせ)という言葉がある。人に対しては、まず笑顔でいようという、宗派を超えた仏教スマイルである。
S・T先生は、そのころは四天王寺の管主をやっておられた。
教師として半端な笑顔しかできない私は、ただボーっとして会釈も返せなかった。
何かの偶然で覚えていただいたのかも知れないが、あの笑顔には負けたと思った。
つい先年、後輩の私学の先生に言われた。
「大橋さんは、目が笑うてへんからなあ」
同じことは、徳川家康も言われているが、むろん、私には家康にあった凄味もない。
半端な笑顔のまま、どうやら今は……気味悪がられているような気がする。修業がたりないようだ。
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何度か書いてきたが、私は首切り教師だった。
13回担任をやったが、三年生を持ったのは3度だけで、残りの10回は一年生が7回、二年生が3回で、圧倒的に一年生の担任が多かった。特に好き好んで一年生の担任を希望したわけではないが、担任選考委員会で指名されたときは全て一年か二年だった。
勤務校は、いわゆる困難校ばかりで、ひどい学校は240人入学し、卒業時には100人も残っていない。
六割以上が退学していき、そのほとんどが一年生である。一年生の担任の使命は、いかに問題なく自主退学させるかということである。一番まずいのは留年させることである。
留年生の90%以上が、その後退学する。留年すれば、ダブリと言われ、多くの場合留年生同士群れて、他の生徒の邪魔をしたり、悪影響を与えたりする。だから留年生を大量に出す担任は迷惑がられた。学校のためにならないばかりではなく、本人のためにもならない。
13年間で100人前後の生徒を自主退学させたが、留年させた生徒は一人もいない。別に自慢話ではない。
私自身、高校時代からのスコブルつきの劣等生で、二年生を二回やり、修学旅行に二回行った。留年生の弱さや脆さは自分のこととしても、よく分かっている。
高校に入学した時(私が)担任に言われたことばは、こうであった。
「自分らは、大手前、市岡によう入らんかった奴らや……」
このあとに、頑張れば関西大学ぐらいはいけるという、慰めというか励ましの言葉がくる。公立大学には行けとも言わない。入学早々自信を喪失させられた。
私は、一年生を持った時の最初の話は「犯罪以外なら、なんでもできる。どんな夢でも見ろ。君らの人生は一日に例えたら、まだ日の出前や!」これを、とびきりの笑顔で言う。生徒自身最低の学校に来たと思っている。まずは軽く自信の種を植え付ける。同時に、二年生になれそうにない生徒を見極める。で、四月いっぱいかけて個人面談をやる。この時も、たいてい話の終わりには笑顔でいる。
教師がやってはいけないことは、いろいろあるが、その一つが笑顔で叱ることである。生徒は教師が本気で叱っていないと思う。結果、担任を軽くみてしまう。教師は、どこかで嫌われたくない(生徒に)と思って、目線も合わさず、笑顔でことを済ませてしまう。そして、学年末には、無責任に留年させてしまう。
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高校生のころ、大阪府高等学校演劇連盟の前身である大阪府高等学校演劇研究会の副会長をやっていた。簡単に言えば、大阪の高校演劇の事務的なまとめ役で、今の連盟の常任委員長にあたる。これを、当時は生徒がやっていたのだから、時代を感じる。
会長は、対外的な問題があるので四天王寺高校の校長先生がやっておられた。
実質的なお目付け役は四天王寺の藤木先生がおやりになり、藤木先生と会長の校長先生とのパイプ役は、校長先生の息子で教頭先生のS・T先生がおやりになっていた。だからS・T先生とは、数回お目にかかっている。
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そのお一人のお坊さんの視線を感じた。それも笑顔の視線である。まさか私に向けられた視線であるとは思わず、ボーっとしていたが、すぐにその笑顔がS・T先生であることが分かった。
仏教に和顔施(わがんせ)という言葉がある。人に対しては、まず笑顔でいようという、宗派を超えた仏教スマイルである。
S・T先生は、そのころは四天王寺の管主をやっておられた。
教師として半端な笑顔しかできない私は、ただボーっとして会釈も返せなかった。
何かの偶然で覚えていただいたのかも知れないが、あの笑顔には負けたと思った。
つい先年、後輩の私学の先生に言われた。
「大橋さんは、目が笑うてへんからなあ」
同じことは、徳川家康も言われているが、むろん、私には家康にあった凄味もない。
半端な笑顔のまま、どうやら今は……気味悪がられているような気がする。修業がたりないようだ。
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