大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・あのころの自分・3『多数決で決まる担任』

2014-12-22 16:46:09 | 私小説
あのころの自分・3
『多数決で決まる担任』



「それでは決を取ります。大橋先生に担任になっていただきたい方、挙手ねがいます……多数。よって大橋先生よろしく」

 これが、職員会議の議長の発言で、たった数分で、私の担任が決定した。
 多分、担任を逃れたいための言い訳にしか聞いてもらえなかったのだろう。
 私は四十代後半から、ずっと行き届かぬ介護の連続だった。

 母がおかしくなったのは、七十代のなかばごろであった。大腿骨折の入院から始まった。病院と自宅の区別がつかなくなり、病室のロッカーを部屋のドアと思い込み、しきりに父を呼んでいた。時には私が息子と分からず「先生」と言ったりした。

――ああ、始まった――

 痛みと虚脱感を伴った認識のはじまりだった。
「いや、入院による一時的なこんらんですよ」
 医者は、こともなげに、そう言った。
「うちの病院は完全看護ですから、息子さんは帰ってください」
 看護婦さんに、そう言われた。一抹の不安を残して八尾の自宅に帰った。遅い夕食を終えようとしたら、病院から電話がかかってきた。
「お母さんが、暴れはって手が付けられません。今から病院にきてください!」
 一時間四十五分かけて病院に行く。

「遅かったですね」

 半ばなじるように、看護婦さんに言われた。
「八尾からきてるもんで」
「うそ……車なんでしょ?」
「教員免許では、車は運転できませんから、電車の乗継です」
 せめてもの皮肉に、看護婦さんは無関心をもって応えた。
 一晩、錯乱する母の横で過ごし、あくる朝、病院から学校に出勤した。
 父は、大正十四年生まれながら、あの戦争で徴兵にもかからなかったほどに体が弱い。父にはなにも期待できない。

 だから、担任を打診されたときは、教師生活で初めて断った。

 それから、なんの事情聴取もなく、年度末の職員会議に出ると、担任候補者のプリントにわたしの名前があった。
「せめて、事情聴取せえよ」
 思わず声になってしまった。プリントをよくみると、どう見ても健康体の某先生が外れていた。あとでご本人から聞くと「医者に言うて、診断書だしたら外してくれよった」であった。どうやら、書類がモノを言う学校であったようだ。

 案の定、五月の中間テスト空けに母が脳内出血で倒れたと父から午前五時に電話があった。「すぐに救急車呼んで!」そう言って、私は始発電車で実家に向かった。一時間四十分かけて実家につくと、父は、まだ救急車を呼べずにオロオロしていた。母は半ば意識が無く、動物のような声を上げていた。すぐに救急車を呼び、入院に必要なものと服用している薬を確保する。

「なんで、もっと早く救急車呼ばへんかったんですか!」

 医者からなじられたが、何を言っても言い訳にきこえるだろうと「すみません」だけを言っておいた。
「介護休暇取らせてください」
 介護と看護の合間を縫って職場へ。中間テストの結果だけ入力を済ませて、校長に頼んだ。校長は困惑の表情だった。
 体育祭の直前で、三者懇談を半月後に控えていた。担任が抜けていい時期ではない。
――だから、でけへんて言うたんです!――
 喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。

 三か月の介護休暇を終わって、職場に復帰。廊下ですれ違った運営委員の一人が、こう言った。
「あんた、ほんまにしんどかってんな」
 笑顔で言うな。と、思った。

 二年後、また担任に指名され、また、職員会議の多数決で決められた。今回も、なんの事情聴取もなかった。

 五月に、また母が入院。介護休暇をとった。帰ったクラスはメチャクチャだった。保護者との関係がこじれてる。復帰一番に教頭から言われたのは、ねぎらいではなく、これをなんとかしろということであった。その足で家庭訪問に行った。お母ちゃんと膝詰で相談し、なんとか信頼の「し」の字ほどを取り戻す。

 その年の秋、自分自身鬱病を発症。休職、復職を繰り返し、五十五歳で早期退職せざるを得なくなった。

 この間、言ってはなんだけど、面白い話もある。また、稿を改めて。


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