このブログのコメント欄の常連である「草莽崛起」氏から、NHKのBSプレミアムで、光州事件(当ブログ5月28日の“光州事件の謎”参照)をテーマにした映画「タクシー運転手」が放映されるという情報を頂いたので、幸いにして見る機会を得た。「草莽崛起」氏のご配慮に深謝する。
まず、この作品のあらすじをWikipedia から引用する。(青字)
1980年5月に韓国の全羅南道光州市で起こった民主化を求める民衆蜂起の光州事件が描かれている。史実においては全斗煥らによるクーデターや金大中の逮捕を発端として、学生や市民を中心としたデモが戒厳軍との銃撃戦を伴う武装闘争へと拡大していった。
作中ではソウルのタクシー運転手キム・マンソプは、高額な運賃が得られることを期待し、ドイツ人記者のピーターを乗せ光州へと車を走らせ、検問を掻い潜り光州へ入る。そこでピーターは軍による暴虐を目撃し、その事実を全世界に発信するため撮影記録を持ち帰ることを決意する。
キムも、仲間や市民との出会い、そして無残にも次々に死んで行く彼らを見るうち、次第にピーターの使命を理解するようになり、クライマックスではピーターのカメラを没収しようとする政府の追手とカーチェイスをしながらソウルへと戻る
この作品は2017年に作られ、アカデミー外国映画賞を受賞した。単なるサスペンスドラマとしても楽しめる作品である。韓国軍が市民を銃で虐殺する場面は、9年後の北京で起きた天安門事件を思い起こさせる。
さて、去る5月18日、文在寅大統領は光州事件40周年式典において、「(光州事件における)発砲命令者と軍が行った民間人虐殺など、国家暴力の真相を必ず明らかにしなければならない」と述べた。裏を返せば、真相は解明されていないということになる。
当ブログの「光州事件の謎」(5月28日)では省略したが、この事件に北朝鮮が関与したと主張しているのは、池萬元(「反日への最後通告」の著者)だけではない。元北朝鮮の人民軍大佐で、脱北して韓国に帰順したキム・ヨンギュの著書「対南工作秘話・声なき戦争」に次の記述がある(「反日への最後通告」からの引用)。(赤字)
民主化とは1960年代から北が韓国の不満勢力を煽動するために使った偽装用語だ。韓国の民主化運動は北の指令によるもので、韓国に民主政府を樹立することが金日成の目標だった。四・一九を北朝鮮では「四・一九民衆抗争」*と呼んで、・・・五・一八も同様に「五・一八民衆抗争」と呼んでいる。四・一九も五・一八も北の工作によって惹き起こされた事件だ。
*注 「4.19事件」は、1960年4月19日、当時の李承晩(イ・スンマン)大統領の率いる自由党政権が、長期独裁統治を図って不正な選挙を行ったことに反発して、大学生を中心とする市民が大規模なデモを繰り広げたもので、李承晩大統領の退陣につながった。
「反日への最後通告」には、上述のキム・ヨンギュの著書「対南工作秘話・声なき戦争」からの引用が延々と続くが、省略する。
池萬元は「反日への最後通告」において、『五・一八光州事件は1980年から1997年4月までの18年間、「金大中一派と北朝鮮による工作によって起こされた内乱事件だ」と公に認められてきた。しかし、1980年代に・・・主体思想派たちが徐々に勢力を広げて、いつのまにか「崇高な民主化運動」として祭り上げた』と主張している。
この文章を読むかぎり、親北勢力が光州事件に北朝鮮が関与した事実をもみ消して、自然発生的な民主化運動だったことに歪曲したということになる。池萬元はこの歪曲を糾した「捜査記録で見る12・12(粛軍クーデター)*と5・18(光州事件)」全四巻1720ページを2008年に出版した。その真偽を巡って今なお裁判が進行中である。
*注 粛軍クーデターは、光州事件直前の1979年12月12日に大韓民国で起きた軍内部の反乱事件である。後の韓国大統領で、当時保安司令官で陸軍少将だった全斗煥、同様に後に韓国大統領で当時第9師団長で陸軍少将だった盧泰愚などを中心に軍内部の秘密結社「一心会」が起こしたクーデターである。
池萬元は「結論から言えば『北朝鮮軍介入がなかった』という主張は虚偽である。北朝鮮軍介入の有無を明らかにするのは、国防部だけができることであり、司法部における判断領域ではない。さらに国防部は2019年2月12日『国防部はこれまで北朝鮮軍介入の有無について調査したことがなく、これを明らかにするのが今後の課題』と発表した。北朝鮮軍介入がないというのは、共産主義者たちの謀略行為なのだ」と述べている(P.291)。
さて、文在寅大統領は「真相を明らかにする」と言明したが、もしも光州事件における北の介入が明らかになったら、結果をもみ消すだろう。日本の併合時代における日本の善政をもみ消して、国民に反日意識を煽っていることに較べれば、国内における歴史の歪曲ぐらいなんでもない。歴史の歪曲・隠蔽は韓国の宿痾なのである。
爺は前回(5月28日)、「この事件は日本に関係ない」と述べたが、よく考えてみれば、そうではなかった。それは、文大統領が朴正熙や全斗煥などの軍事政権を親日(=悪)と決めつけていること。特に、1965年の日韓基本協定を締結したのは朴正熙大統領であるから、日韓基本協定を否定することになりかねないのである(現実に、徴用工問題はそうした流れになっている)。
話を映画「タクシー運転手」に戻す。この映画には、もちろん北朝鮮ゲリラは登場しない。この作品は2017年に作られており、その当時はすでに北朝鮮介入はなかったことにされていたからだ。
文大統領もこの作品を鑑賞したらしいが、文としても当時の軍事政権の暴虐ぶりが示されているこの映画は、その後の「民主化政権」の正当性・公正性を際立たせることになるわけで、文の歴史認識を具現したものと言っても過言ではない。全国民必見として推薦したい気分だろう。