いつも聴いている大竹まことさんのpodcastの番組に出演している小島慶子さんの著作です。
小島さんは元TBSアナウンサー、今はフリーとして多方面で活動中ですが、その小島さんと5人の識者の方々(清田隆之さん・多賀太さん・熊谷晋一郎さん・平野啓一郎さん・上野千鶴子さん)との対談集です。
テーマは、現世に蔓延る “おっさん性”。「男性社会の価値観」が生起させる不条理なことがらをはじめとした様々な “おっさん社会”の実態 を語り合います。
対談中には、単なる「男性社会批判」に止まらない面白い論点やコメントも記されていたのですが、正直なところ、小島さんが提起している議論になかなかどっぷりとは没入できませんでした。ちょっと私には “速足” 過ぎたようです。
とはいえ、その中でも比較的入りやすかったのが作家平野啓一郎さんとの対談のパートでした。
平野さんの以前の話題作をとりあげた “カッコいい”or notの肌感覚は私でもかなりの納得感がありました。たとえば、こういったやり取りです。
(p184より引用) 平野 ・・・良い悪いは別として、今は一流企業のサラリーマンより、自分で起業するような、そのときどきの時代の変化に適応しながら生きていくようなスタイルのほうが、社会的には“カッコいい”とみなされている。正社員の安定が望まれつつも、かつてのサラリーマン のように、理不尽に耐え続けてずっとひとつの世界に居続けるようなことは、否定的に捉えている人が多いのではないでしょうか。
小島 そうですね。ただ、それが単にサラリーマンを頭から馬鹿にして、負け犬呼ばわりするような態度になってしまうと、それもまた「カッコ悪い」ですよね。傲慢な能力主義と、弱者切り捨ての自己責任論に陥りかねません。人を見下したような態度の起業家などを信奉している人たちもいますが、その信奉者の多くはむしろ切り捨てられる側かもしれないというのが、かつての小泉首相ブームにも通じる哀しいところです。
実名を明らかにして積極的に意思表示する人は“カッコいい”、それを匿名で誹謗中傷する輩は最高に“カッコ悪い”、極論を言えばその主張内容に賛同するか否かはともかくとしてでも、私はそう思います。
そして、もうひとつ、東京大学名誉教授上野千鶴子さんとの対談の中から。
ちょっと以前に話題になった2019年4月東京大学学部入学式での上野さんの祝辞の一節です。
(p265より引用) 女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。
(p257より引用) あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。
このメッセージはとても大切なことを伝えています。
過去20年間にわたり歪められ続けた現在の日本社会の実相を振り返るにつけ、その大多数の人々の生活を少しでも生きやすいものにするには、ここに上野さんが示した考えや求めた若者の行動が大いなる力になるのだろうと思います。
かなり以前に読んだ内田康夫さんの“浅見光彦シリーズ”ですが、このところ、私の出張先が舞台となった作品を、あるものは初めて、あるものは再度読んでみています。
ただ、私の出張先も以前勤務していた会社のころを含めるとそこそこの都道府県にわたるので、どうせなら“浅見光彦シリーズ”の制覇にトライしてみようと思い始ました。
この作品は「第5作目」です。舞台は “佐渡”。
出張では新潟市までは行ったことはありますが、佐渡島には渡ったことがありません。何らかの関わりがあるとしたら、30年以上前の職場の上司の方が佐渡のご出身だったことぐらいです。
ネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、この作品、モチーフ自体月並みな上に、事件の解決シーンもちょっと浅見光彦らしくないですね。肝心のところを犯人に延々と語らせているのはどうにもいただけません。
ほかにも、陽一郎の絡み方がスマートでなかったり、せっかく登場させたヒロインの存在がまったく活かされていなかったりと、シリーズとしての “お約束” が守られていないのはかなり残念です。
極めつけは物語の舞台となった “佐渡” の扱いです。陰惨な雰囲気が先に立って島の良い印象は伝わってきません。地元の方々にとっては期待外れだったことでしょう。
正直なところ、本作品の満足度はかなり低いと言わざるを得ませんね・・・。
さて、取り掛かってみた“浅見光彦シリーズ制覇チャレンジ”、それほど強い意志をもって完遂しようとも思っていませんので、まあ、“どこまで続くことやら”です。
次は「白鳥殺人事件」ですね。
このところ気分転換に読んでいるミステリー小説は、読破にチャレンジしている内田康夫さんの “浅見光彦シリーズ”に偏っているので、ちょっと息抜きとして、今まであまり読んだことのない作家の方々の作品にトライしてみようと思っています。
手始めに、これまた今まで意識的に避けていた「有名な文学賞」を受賞した作品からあたろうと考えて本作を選んでみました。
第114回直木賞、第41回江戸川乱歩賞をダブルで受賞した作品です。
さて、ミステリー小説なのでネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、確かによく練り込まれたストーリーという印象ですね。ただ、背景となっている “時代感” を踏まえると、それなりの年代の読者でないとしっくりこないかもしれません。
ラスト近くの数10ページで、それまで明らかになっていなかった事柄や、超人的な推理の結果が怒涛の如くなだれ込んで大団円を迎えるのですが、このあたりの構成は好き嫌いが分かれるように思います。
私はちょっと強引な印象を受けましたが、とはいえ、確かに有名な賞の受賞作品らしく重厚な力作でした。
いつも聴いているピーター・バラカンさんのpodcastの番組に著者の中野京子さんがゲスト出演していて紹介された著作です。
内容は、中世から現代にかけての西洋絵画を材料に、そこに描かれている人物からその人の職業や当時の社会の姿を解説したものです。
取り上げられた職業にまつわるエピソードはどれもとても興味深いものでしたが、それらの中から特に印象に残ったものをひとつ書き留めておきましょう。
世界最古の男の仕事といわれる「傭兵」です。
なかでも「スイス人傭兵」はその勇猛さで有名だったと言います。そういった傭兵の活躍が、今のスイスの国情を形作ったとの説です。
(p183より引用) 報酬もさることながら、当時の戦争では勝利者は敗者から 略奪し放題で、そちらのほうが実入りは大きかった。傭兵が憎まれる所以である。
一仕事終えた傭兵がポケットを膨らませて帰郷する。さまざまな国のさまざまな貨幣を持ち帰ったはいいが、そのままでは故郷で使えない。両替商で替えてもらう。そこからスイスでは銀行業が盛んになり、今の金融国家につながったというのだから面白い。
極貧国→傭兵→各国貨幣→銀行→先進国化→永世中立国という流れである。
ちなみに、現在のスイスでは、外国軍への参加自体禁止されているとのことですが。
さて、本書を読んでの感想です。
取り上げられた “職業” は、当時ならではもの、現代にも連なるもの等々様々です。
前述したとおり、主として中世から近世ヨーロッパを舞台に、それら多様な職業に携わる人々を、彼ら彼女らが登場する “絵画” を示しつつ解説を加えていく試みはとてもユニークでした。その人物や事物の描かれ方を歴史的背景も踏まえて細かく見ていくと、当時の時勢や生活が具体的な説得力をもって明らかになっていきます。
こういった絵画の読み解きスタイルは著者の得意とするところのようですね。そのほかの著作もちょっと気になります。