OMOI-KOMI - 我流の作法 -

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ある奴隷少女に起こった出来事 (ハリエット・アン・ジェイコブズ)

2014-07-22 23:16:34 | 本と雑誌

Slavery_us_1820  以前の会社の同僚の方からのお勧めで読んでみました。

 評判どおりの良書、改めて「人として大切なこと」を深く深く考えさせられる内容です。

 舞台は19世紀のアメリカ南部。主人公は、あるときから自分が奴隷であることに気付かされ、その悲惨な境遇に陥った少女です。 

 奴隷制は、人間が人間によって売買される制度でもありました。

 本書の最終章は、主人公リンダ・ブレント(=著者)が「自由」になるところを描いているのですが、それは、こういう形でした。

(p285より引用) 次の郵便で、ブルース夫人から、次のような短い便りを受け取った。
「うれしいお知らせです。あなたの自由を保証するお金が、ダッジ氏に支払われました。明日うちに戻っていらっしゃい。・・・」
 ・・・傍にいた紳士がこう言うのが聞こえた。「これは本当のことですよ。私は売買契約書を見ましたから」
「売買契約書!」-この言葉は、思い切りわたしを打ちのめした。とうとうわたしは売られたのだ!人間が、自由なニューヨークで売られたのだ!・・・この紙切れが意図する価値は十分にわかっていたが、自由を愛する人間として、これを目にする気にはなれない。

 奴隷が自由になるためには、自分で自分を買うか、心ある所有者にその所有権を放棄してもらうしかなかったのです。リンダの場合は、心優しいブルース夫人が、リンダを「買い取り」、そして自由にしたのでした。

 本書は、主人公自身が記した“実話”だと言います。
 ここでは詳細には紹介しませんが、リンダとその家族の境遇は筆舌に尽くし難いものでした。しかし、まだ彼女たちは、艱難辛苦の末、最終的には自由を手に入れることができました。リンダと同じような境遇の多くの人々は、同じ人間に所有され続けることでその一生を終えたのでした。

 過去の一時代、一体全体どういう理屈で何であんなことが罷り通っていたのか・・・、人間の狂気が普遍的に実在していた時代が確実にあったのです。

 本書を読んで最も私の印象に残ったくだりは、リンダの弟のウィリアムの言葉でした。

(p42より引用) 「鞭で打たれる痛みには耐えられる。でも人間を鞭で叩くという考えには耐えられない」

 彼もやはり奴隷の身分です。この言葉が10歳にも満たないような子供から発せられたものだという事実が、余りにも衝撃的です。
 そして、鞭で打つ人間と打たれる人間と、どちらが真の人間であるかもまた明らかです。

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発売日:2013-03-29


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蜘蛛の糸・杜子春 (芥川 龍之介)

2014-07-14 23:24:53 | 本と雑誌

Akutagawa_ryunosuke  混んでいる通勤電車の中で読むための文庫本が切れたので、いつも行く図書館で借りてきました。
 本当に久しぶりの芥川龍之介です。

 おそらく遥か以前、ひょっとすると30年から40年前に一度は読んだことのある作品が大半だと思います。が、細部に渡って記憶に残っているかというと、「蜘蛛の糸」や「杜子春」ですら危なっかしかったですね。

 改めて読んでみると、それぞれの作品の書き出しのシンプルさが印象的です。
 たとえば、「蜜柑」では、

(p30より引用) 或曇った冬の日暮れである。

  「魔術」では、

(p36より引用) 或時雨の降る晩のことです。

 「杜子春」では、

(p50より引用) 或春の日暮れです。

  「アグニの神」では、

(p70より引用) 支那の上海の或町です。

 「白」では、

(p112より引用) 或春の午過ぎです。

 また、特に、「蜘蛛の糸」の書き出しと結びに見られるシンメトリー的な対比は面白いですね。
 始まりは、

(p8より引用) 或日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いているの花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れております。極楽は丁度朝なのでございましょう。

 そして、おしまいは、

(p12より引用) 御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて犍陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、又ぶらぶら御歩きになり始めました。・・・
 しかし極楽の蓮池のは、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢あふれております。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。

 また、お釈迦様を描く穏やかな筆致と、それに挟まった地獄での犍陀多の描写とのコントラストも見事です。

 さて、本書を読み終わっての感想です。
 多くの作品は、人間の弱さとともに人間の優しさも描かれています。芥川自身、年少者が読むことも大いに意識した作品群なので、読み終わっても妙な心のしこりが残らないのがいいですね。「猿蟹合戦」を除いては・・・。
 

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原発ホワイトアウト (若杉 冽)

2014-07-06 20:09:09 | 本と雑誌

Keisansyo_2  現役霞が関官僚の著作ということで大いに話題になった本です。

 「ノンフィクション・ノベル」という中途半端なスタイルにも興味を持って読んでみました。

 ただ、期待が大きかった分、正直に言って落差が大きいですね。

 文才がない私がこう書くのは著者には大変失礼だとは思いますが、ノベルとの位置づけだとすると、筆力の貧弱さはあまりにも顕著と言わざると得ません。もちろん、本職のストーリーテラーと比較すること自体間違っているのでしょう。
 では、ノンフィクションとして、虚構の部分を捨象したと想定してイメージしてみても、今度はその事実の積み上げの厚みに物足りなさを感じてしまいます。 

 今回の福島原子力発電所事故を取り上げた著作としては、以前に船橋洋一氏の「カウントダウン・メルトダウン」を読んだのですが、私としては、船橋氏の著作をお薦めします。
 こちらの方は純粋な「ノンフィクション」ですが、若杉氏の著作よりも遥かに重厚で、(被災された方々には不謹慎な言い様でお許しいただきたいのですが、)圧倒的にドラマチックです。

 最後に、一言。
 本書の中で、原子力規制庁の西岡進課長補佐が逮捕されるくだりがあるのですが、ここで書かれているような捜査が実際に行われるとしたら、本書の著者もあっという間に特定されてしまうでしょうね・・・。
 

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