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小倉昌男 祈りと経営 : ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの (森 健)

2016-07-31 10:11:06 | 本と雑誌

 新聞の書評欄で紹介されていたので手に取ってみました。

 以前小倉昌男氏の著作は、「経営はロマンだ! 私の履歴書」を読んだことがありますし、その他、新聞・雑誌の記事等でもそのアグレッシブな経営姿勢はひろく紹介されています。が、本書は、そういったメディアではあまり語られることがなかったもうひとつの小倉氏の姿を深く洞察したものです。

 もうひとつの姿とは晩年の「福祉事業」への取り組みでした。企業経営において十分過ぎるほどの実績と経験を持つ小倉氏は、自らの福祉事業の目的の一つとして「障害者の自立を実現する事業の創設」を掲げました。


(p26より引用) 数年前に「目標十万円」と言い出した時、福祉関係者からは「夢のような話」、「世界が違う」と否定的な声ばかりがあがった。その声を聞いた時、私の脳裏には、経営危機に陥っていたヤマト運輸で宅急便を始めた時の記憶がよみがえってきた。


 再び情熱を燃やす対象を見つけた小倉氏は、心血を注いで取り組みました。ヤマト運輸の時代には運輸省と闘い、郵政省と闘い、そして今度は厚生省に対する闘いでした。小倉氏の努力は「スワンベーカリー」の創業という形で結実し、2015年時点では全国29店舗にまで拡大しているとのことです。

 こういった小倉氏の福祉事業への取り組みの取材を深めていく中、著者の心の中にはひとつの疑問が膨れ上がってきました。それは、小倉氏は何故これほどまで熱心に福祉事業に取り組んだのかという点でした。一説によると投じた私財は46億円にものぼるとも言われています。

 そして、著者の丹念な取材により明らかになってきた動機は、“小倉氏が長年抱えていた家族に関する深い心の悩み”でした。
 その内容については、ここでの紹介は控えておきますが、仮に、小倉氏の福祉への取り組みの背景が極めてプライベートな事情によるものであったとしても、その想いは氏が設立した「ヤマト福祉財団」にしっかりと根付いていました。東日本大震災時、2012年ヤマト福祉財団は142億円にものぼる多額の寄付を行ったのです。この寄付を決断したヤマトホールディングス木川社長はこう語っています。


(p146より引用) 震災に遭遇したのは未曾有の“ピンチ”ではありましたが、社員に対して平素からいっていた「世のため人のため」「サービスが先、利益は後」という理念経営を具体的な形で見せる機会でもありました。(中略)大きな決断にあたっては、「小倉さんだったらどうするだろう」と考えるのです。「小倉さんなら、今の環境の中、何をするだろうか。震災直後のこの状況だったら、小倉さんも宅急便1個につき10円の寄付をきっと認めてくれるだろう」と自分に言い聞かせているところはあります。


 本書は、理不尽な規制権力に立ち向かった闘士としての稀有の経営者「小倉昌男」氏の知られざる一面を明らかにした著作です。
 ここまで踏み込むか・・・、私としては、個人のプライベートを露わにするジャーナリズムの姿勢に諸手を挙げて賛同するものではありませんし、またその伝えられる情報には玉石混交の観があると考えていますが、本著作の筆致は徒にセンセーショナルに煽るでなく、対象に寄り添おうという心が感じられる至って穏やかなものでした。

 

小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの
森 健
小学館
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一瞬で心をつかむ文章術 (石田 章洋)

2016-07-24 09:12:36 | 本と雑誌

 レビュープラスというブックレビューサイトから献本していただいたので読んでみました。
 タイトルどおり「文章の書き方」のHow to本でありますが、表現のテクニック等に特化した内容ではありません。

 文章は自分の考えや主張を「伝える」ためのものですから、その目的を達成するための文章を書くには、「伝える」客体である「考え」や「主張」の明確化や、納得させるための論理構成、具体的な理由・根拠の整理が必要になります。そういった点についても、著者なりの実務体験に即したノウハウが紹介されています。

 そのひとつが「箱書き」というやり方。これは、テーマごとの「箱」を作り、その箱に集めた材料をくくりつけていく情報整理法です。具体的には著者はホワイトボードと付箋紙を使っていたそうです。


(p68より引用) 整理した材料を付箋に書き出し、「しっくりくる」順番に並び替えていくだけで、ざっくりとした全体の流れを作ることができる


 そして、次はワープロソフトのアウトライン機能の登場です。


(p70より引用) 箱書きでざっくりした流れを作ったら、アウトラインで階層化していきます。・・・
 このアウトラインを最初に作り上げることが、長文の文章を早く書き上げるためのポイントです。


 こういった方法は、著者に言われるまでもなく多くの人が似たようなやり方で実行していると思います。
 ポイントは、流れの「幹」をしっかり作り、そこに材料を論理立てて並べていくということですね。こういった文章作りのプロセスは昔からの王道・常道だったわけですが、ワープロソフトが普及してからは、圧倒的に柔軟かつ効率的にできるようになりました。「手書きで下書きして推敲したものを清書」、もうそういった世界には戻れませんね。

 さて、あっという間に読める本書を通読しての感想ですが、正直なところ、著者が自分が得意としていること・伝えたいことをテーマにした著作だという印象を抱きました。


(p186より引用) 書くための時間は、毎日の睡眠時間や食事時間と同様、24時間のどこかに、かならず「とっておく」ものです。・・・
 平日仕事をしている人なら、朝2時間早起きして執筆時間にあてる。あるいは夜の9時から11時でもいいです。


と書かれていますが、普通の人の場合、これほどまでして文章を書かなくてはというシチュエーションはあまり思いつきません。通常の生活においては、それなりの長さの文章を書く機会はかなり稀になっていますから、本書が説く「文章術」が力を発揮する場面はそれほどないでしょう。ビジネスシーンでも、言いたいこと・伝えたいことをコンパクトにまとめた「メール」「プレゼンテーション資料」等が主流ですから、「それなりのボリュームの文章を書く」という仕事も激減しています。

 とはいえ、メール・プレゼンテーション資料の場合は、限られたボリュームの中でより明確に言いたいことを伝えなくてはならないわけですから、本書で紹介されている、「ネタ集め」や「組み立て方」等のノウハウは十分参考になるでしょう。ただ、それにしても本書での著者からのアドバイスに、なるほど目から鱗だといった「強烈なインパクト」を感じなかったのは残念です・・・。

 

一瞬で心をつかむ文章術 (アスカビジネス)
石田 章洋
明日香出版社
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「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 (酒井 崇男)

2016-07-18 09:23:38 | 本と雑誌

 以前、コールセンタシステムの構築プロジェクトでご一緒させていただいたアクセンチュアの方が紹介されていたので読んでみました。

 まず、プロローグにおいて著者の問題意識が明確に示されています。それは日本企業の衰退の要因を「人材」という面から改めて考察することであり、そのための視点を以下のように語っています。


(p23より引用) 現代的な意味で、人間が生み出すことを求められている付加価値とは何で、またそれを生み出す「労働」とは何で、それらと企業の利益の関係はどうなっているのかを理解する必要がある。


 ひと昔前、製品力、すなわち先進的な技術力と高品質・低価格の生産能力を強みに世界市場を席巻していた日本企業も、今では、多くの企業がその座から滑り落ち、生産設備の縮小等により有能な技術者が相次ぐリストラの波に飲まれています。そういったリストラ対象となった生産技術のスペシャリストの方々の中には、こう語る方も少なくなかったそうです。


(p47より引用) 私が、売れないモノを高品質で製造しても意味ないじゃないですかと言うと、リストラ対象者の方々に、「酒井さん、それを言っちゃおしまいだ」などと言われてしまう。「それを言っちゃおしまいだ」では、そもそも最初から終わっている。・・・生産工程での努力は肝心の「売れるモノ」があった上での話である。


 この最大のポイントである「売れるモノ」もまた以前とは大きく変化してきています。今日、生産工程における品質管理方法のベストプラクティスは世界的にも広く行き渡り、この工程での差異化はほとんどなくなりました。現在の売り物は、企画・開発工程で創造される「設計情報」です。


(p71より引用) 設計情報のような「価値をつくりだす」ことが、先進国では労働の多くを占めている。知識や情報を活用した、いわば「情報創造労働」が、先進国で働く人達の実質的な労働なのだ。それは同時に、先進国の企業活動そのものでもある。


 iphoneの背後の刻印“Designed by Apple in California Assembled in China”がまさにその動きを象徴しています。

 さて、そうなると「情報創造労働」の担い手は誰かということになります。こういった「設計情報」を創り出す強力なリーダーシップを持つ人が重要になってくるのです。


(p83より引用) 設計情報の質で稼ぐ先進国の企業では、こうした設計情報を生み出す能力を持った個人の能力と、彼らを生かすシステムが決定的に重要になっている。言い換えれば、そうした個人、すなわち「タレント(才能ある人材)」と、タレントを見出し、組織的に彼らを生かす仕組みをどうつくるのかが、現在の企業における最重要課題だということである。


 本書のタイトルにもある「タレント」の登場です。


(p86より引用) タレントは、プロフェッショナルやスペシャリスト達を使って、「質的に異なる意味のある新しい何か」を生み出す人である。


 こういった「情報創造」を担うタレントはMBAホルダーでもなければ経営学の専門家でもありません。


(p189より引用) MBAのプログラムでは、・・・設計情報の創造やノウハウ創造のような、知的資産をいかにしてつくりだすかというプロセスについては一切教えていない。その代わり、他人のつくった資産や天然資源のような有形の資産を評価したり売買したりといったことが教えられている。


 従来の経営学においては、商品やサービスの「開発フェーズ」はほとんどスコープ外だったし、またそういった「創造」的能力を教育によって開発するという方法論自体も全く確立されていないというのが現状だとの認識です。本田宗一郎やSteve JobsがMBA教育から生まれるかといわれれば、確かにそれは無理でしょう。

 著者はこの「タレントマネジメント」の失敗企業の例として、出井伸之社長以降のソニーを挙げています。


(p205より引用) 無形資産を生み出す、タレントを中心としたビジネスでは、評価能力のない人材がトップになると、簡単に価値を創造するメカニズムが壊れてしまう。タレントをタレントの生み出す価値をリードできないからである。


 往年のソニーはタレントによる「情報創造企業」で、Appleのお手本でもありました。その点では、タレントマネジメントは日本発祥であったともいえます。ただ、残念ながらそのタレントマネジメントは経営学の中で体系として整理されなかったと著者は嘆じています。それは本来、日本の大学の役割のひとつのはずでした。


(p205より引用) 日本の大学は、もっぱら欧米の大学でつくられた、アイデアやフレームワークを輸入して広めてきただけである。本書の言い方では、「転写型」の仕事をしてきた。翻訳転写型と言ってもよいかもしれない。


 現代の情報化されたネット社会では「転写」には何の付加価値もなくなっているのです。

 ソニーとは逆に「タレントマネジメント」の成功企業だと著者が捉えているのがトヨタです。
 トヨタといえば「トヨタ生産方式」が有名ですが、この力が発揮されるのじゃ「売れるモノ」ができた後のプロセスにおいてです。トヨタの凄さはその前工程である「(売れるモノの)開発」すなわち「設計情報創造フェーズ」においてもその基が制度化されていたのです。それはまさにタレント活用の仕組みでした。


(p211より引用) トヨタでは、60年以上前に、長谷川龍雄氏を中心として、タレントを見出し活用する仕組みが導入され、制度化されていた。それが主査制度(現在のチーフエンジニア制度)である。


 主査は、開発される製品に対する全責任を負います。


(p262より引用)  トヨタの主査制度は「タレント(才能ある人材)を中心として価値を生み出す仕組み」だからである。・・・
 トヨタのような大企業では、会社が主査に、資金も人材も設備も提供する仕組みが取られている。・・・つまり、会社がファンドしているのである。主査のビジネスに、会社が、人材とお金とさまざまな設備を提供しているとも言える。


 トヨタでの主査はビジネスクリエーターです。製造工程において大野耐一氏の“トヨタ生産方式”が生んだ資金を、開発工程を預かる長谷川龍雄氏の“主査制度”に投資し拡大再生産していくという循環プロセスが、現在においてもしっかり機能しているのが“設計情報創造企業”としての「トヨタの強み」の源泉なのです。


(p212より引用) 定型労働工程で節約した費用を、創造的知識労働に投資してきたわけだ。


 この主査制度を確立した長谷川氏は、主査の要件として「10か条」を記しています。その中で特に私が興味深く読んだのが、第九条でした。


(p226より引用) 第九条 主査は、要領よく立ちまわってはならない。


 なるほどですね。とても含蓄のある言葉だと思います。

 さて、本書ですが、確かに紹介いただいたアクセンチュアの方の指摘のとおり、とても示唆に富む内容でした。冒頭、紹介されている著者が勤務していたという研究所の様子をはじめとして、本書で触れられている多くのシーンに“既視感”を感じたせいもありますが・・・。

 

「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 (講談社現代新書)
酒井 崇男
講談社
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〈こころ〉はどこから来て,どこへ行くのか (河合 俊雄・中沢 新一・広井 良典)

2016-07-09 22:43:40 | 本と雑誌

 いつもの図書館の新刊書の棚で目に付いたので手にとってみました。
 ちょっと前に「心はすべて数学である」という本を読んだということもありますが、著者たちの中の中沢新一さんの名前も気になりましたし、河合隼雄氏のご子息である河合俊雄さんの論述にも興味を抱きました。

 内容は、2015年に開催された「京都こころ会議」でのレクチャーを採録したもので、5つの切り口からそれぞれの専門家が“こころ”を語っています。
 しかし、最初に採録されている中沢新一氏の章は難解でした。
 シュールレアリズムの詩“解剖台の上での、ミシンを雨傘の偶然の出会いのように美しい(ロートレアモン『マルドロールの詩』”を材料に、こんな感じで論が展開されます。


(p34より引用) ここに、ニューロ系ホモロジーこころ系ホモロジーの本質的なちがいがあります。どちらも「ゼロ空間」の働きなしには、活動できません。ところがニューロ系「ゼロ空間」には内部構造がなく、したがって生産性や増殖性を持ちません。それにたいして、こころ系「ゼロ空間」は内部構造を持ち、独特の結合律を持つことによって、新しい意味の生産・増殖を起こすことができます。ものとこころのちがいは、主にここにおいてあらわになります。


 んんん、苦行ですね、全く「ちんぷんかんぷん」でした・・・。
 実は、それに続く心理学系の講演内容もほとんど理解できず、最後の人類学・霊長類学の専門家山極寿一氏の講演の部分になって、ようやく少しは議論について行けた気がします。

 その中でちょっと興味をいだいた部分を2・3、書き留めておきます。
 まずは、人類の進化の過程での「脳の大型化」のプロセスを火の使用や調理と関連づけて説明している部分。


(p178より引用) 人間は食物を加工することによって、咀嚼や消化にかける時間とエネルギーを大幅に節約できるようになったのです。そして節約したエネルギーを増大した脳に用い、余った時間を社会交渉に当てる。この社会交渉がまた、脳の大型化を促進する。


 面白い着眼だと思いますね。「着“眼”」という点では、本章の中で、サルや類人猿と比較してなぜ人間の目にだけ「白目」があるのかを考察しているくだりも興味深いです。


(p183より引用) 白目があると視線の方向がわかるし、その微細な動きから相手の気持ちを察知できる。おそらく、向かい合って言葉を交わすだけではなくて、相手の目を見ることによって、相手が自分に対して下している評価や、相手の気持ちをモニターしている。それが実はコミュニケーションをとる上で非常に重要なのではないでしょうか。


 「目は口ほどにものを言う」と言われるように目の動きは人の感情を図らずも表面化させるのものです。この指摘のように、もしこういったコミュニケーションの深化という目的のために「白目」の面積が増すように人間の目が変化していったのだとすると、「進化」の深遠さを感じざるを得ません。

 そして、興味をもった指摘の最後は、原初的な共感社会から規範性をもった倫理社会への移行プロセスを簡記した部分です。


(p199より引用) 食物分配の拡大や肉食という食の革命に端を発して、脳の大型化から家族を組織するに至り、共同保育をすることによって共同体をつくり、その共同体を維持する手段として音楽的なコミュニケーションが登場し、そして、それが言語として発達していく過程で、罰則を伴う倫理という新たな規範が人間社会に生まれたのだろうと思います。


 この記述に続き、山極氏はこれはまだ進化の途上であると指摘しています。この集団内に生じた倫理性が集団間において紛争の要因になる、それを解決していくのが「心の問題」として、今後の人間社会の課題となると結んでいます。

 

〈こころ〉はどこから来て,どこへ行くのか
河合 俊雄,中沢 新一,広井 良典,下條 信輔,山極 寿一
岩波書店
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アー・ユー・ハッピー? (矢沢 永吉)

2016-07-03 00:02:09 | 本と雑誌

 今、矢沢永吉さんは66歳。ちょっと前に彼の特集番組を見て、結構いい刺激を受けました。ということで、手に取ってみたのがこの本です。
 もう10年以上前の発行なので、執筆は50歳になった時分、今の私よりも5・6歳若いころです。期待通り、全編「YAZAWAワールド」ですね。本書の中でも、「矢沢永吉」はロックンロールしています。ただ、そこでの語りは、今でもトップスターの座に君臨し続けているその矢沢さんの言葉だけに重みがありますね。


(p3より引用) いまだから、そう言えるけど、ほんとに紙一重でがんばってきたからですよ。・・・負けたら、次は負けないようにしよう、失敗したら、どうして失敗したのか手探りで探るよね、誰でも。
 そういうことを、ひとつずつやってきたのよ。『成りあがり』の主人公の永ちゃんだって、そこは同じ。


 自分が納得できる最高のステージをやりたいとう強烈な思いで、コンサートの制作まで自分でやろうと動き始めた著者ですが、当然、勝手もわからず数々の困難にぶち当たりました。会場一つ押さえるもの大変でした。縁を切ったイベント会社からの嫌がらせもあったようです。


(p120より引用) 「会場を貸すともめますよ」とご注進するキョードー大阪に、この館長がひとこと、言った。
「いや、私が館長を務めている間は、矢沢さんは別に問題ありません」
オレはこの話を人から聞いたときすごくうれしかった。
本気でがんばっていたら、ちゃんとわかってくれる人は必ずいるんだ。


 大阪城ホールの館長は著者の理解者でした。

 著者は、こういったイベント企画そのものも自分で手掛けましたが、「矢沢」の著作権・肖像権・版権等の権利のマネジメントも他人任せにしませんでした。「YAZAWA」という自分自身の商品価値を大切にし、それを守るためにあらゆる権利を自分のコントロール下に置こうとしたのでした。これは、二度にわたる信頼していたスタッフの裏切りという痛手も一因ではありましたが、常に最高のパフォーマンスをファンに見せることを最優先に考える著者の信念に拠るものでもありました。


(p134より引用) キャラクターグッズの管理まで自分でしようとすれば、それだけ手間は増える。だけど、苦労がいらないことが正しいとはいえない。苦労は面倒くさいけど、でもそれだけのものだ。苦労してでも、手間をかけてでも、正しいことをやった方がいい場合もある。・・・
 矢沢が管理するのは商売だけじゃない。矢沢のプライドもそこに入っている。矢沢もファンに負けたくない、ファンの信頼を裏切りたくないというプライドだ。いいものを出さなきゃいかん、間違ったものはいけないということだ。


 そして最後は、著者から世の“オジサン”へのエールです。


(p269より引用) 改めていま、おじさんのツッパリを見せなきゃいけない時期に来ているんだと思う。あえて「ツッパリ」っていう言葉をもう一回使いたい。おじさんのツッパリだ。
 おじさんのツッパリっていうのはマジだ。命かけている。おべんちゃらじゃ済まない。ダメだったからといって、知らん顔して逃げるわけにはいかない。子どももいれば、女房もいて、会社もある。それでもしまいに頭に来て、お膳ひっくり返したいこともあって、だからツッパリだ。・・・
 突っ張るってことは倒れないようにしようとすることだから、前に出るしかない。
 今の日本の元気のない中年の人たちこそ、ツッパらなきゃいけない。今ツッパらなきゃいけない。


 私も、まさに「日本の中年おじさん」です。
 この本が「日経BP社」からの発行というのも、頷けるような気がしますね。

 

アー・ユー・ハッピー?
矢沢 永吉
日経BP社
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