OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

小惑星探査機 はやぶさの大冒険 (山根 一眞)

2010-12-30 10:19:57 | 本と雑誌

 今年(2010年)6月、日本は「はやぶさ」で沸き立ちました。
 3億キロの彼方にある小惑星イトカワまで「星のかけら」の採取に旅立ったのは2003年5月。それから7年。当初の計画より3年遅れて、「はやぶさ」は感動的な姿で地球に戻ってきました。私も当日は、その様子をTwitterのタイムラインで追いかけていました。

 本書は、「はやぶさ」プロジェクトの立ち上がり当初から取材を続けてきた山根一眞氏が記したドキュメントです。
 「1章 『はやぶさ』の旅立ち」からはじまって、「2章 3億キロ彼方へ」「3章 地球に戻ってきた日」「4章 88万人の同行者」「5章 女神の海をめざせ」「6章 「イトカワ」へようこそ」「7章 4時間だけの歓声」「8章 行方不明の冬」「9章 そうまでして君は」「10章 大星空から『さようなら』」、そして「11章 おかえりなさい」まで、綿密な記録でありながらも、とても読みやすい口調で、「はやぶさ」プロジェクトの一部始終を紹介しています。

 ともかく、このプロジェクト、実態を知れば知るほどそのチャレンジの大きさに驚かされます。
 たとえば、対話の中での「はやぶさ」のプロジェクトマネージャ川口淳一郎氏の一言。

 
(p41より引用) 川口 「はやぶさ」が小惑星をピタリととらえるのは、東京から2万キロ離れたブラジルのサンパウロの空を飛んでいる体長5ミリの虫に、弾丸を命中させるようなものなんですよ。

 
 「いとかわ」の公転速度は秒速30㎞、時速約10万㎞、これに着陸させるのですから、その大変さは計り知れないものがあります。しかも3億㎞、電波が届くにも片道16分かかる遥か彼方の宇宙空間で実行するのです。

 当然、航海は波乱万丈、幾多の危機を「はやぶさ」は乗り越えていきました。

 
(p144より引用) 万一のときは、人の知恵と経験で乗り切るという「はやぶさ」ならではの危機回避モードがまた、発揮された。

 
 最後の危機は2009年、地球帰還軌道にはいっての終盤、「イオンエンジン」の完全停止でした。この絶体絶命の危機も「イオンエンジンのクロス運転」という秘中の切り札で回避しました。

 
(p239より引用) こうして航行が再開できた3日後、・・・川口さんが訪ねたのは、・・・道中安全の御利益もある神社だった。その名は、「中和神社」。
 ・・・クールなスーパーエンジニアである川口さんが神社詣でをしたとは意外だが、すべきことはすべてした、あとは地球帰還を祈るのみという時を迎えたのだ。

 
 まさに、「人事を尽して天命を待つ」という境地ですね。ここで、ちょっと閑話休題。私も5年ほど前、コールセンタシステム構築のプロジェクトリーダのとき、(もちろん、スケールは全然違いますが・・・)ちょっと似たような経験があります。サービス開始の前日、一人現場を抜け出して熱田神宮(名古屋)にお参りに行きました。「なんとか無事にサービス開始できますように」という最後の神頼みでした。

 さて、いよいよ「はやぶさ」地球帰還の前日です。

 
(p264より引用) この日を迎えることができたのは、奇跡なのか、偶然なのか、努力のおかげなのか。・・・國中さんは?
「うーん、奇跡だとはいいたくないですよね。やっぱり努力でしょうね、努力です。とても『おもしろかった』ので、みんな一生懸命努力したんです」

 
 何度となく起こったトラブル。それらを克服できた大きな要因のひとつは、スタッフの「想像力」だったと私は思います。
 どんな未知の事象が発生するか分らない中、「はやぶさ」には冗長化・自律制御機能といった数多くのフェールセーフの仕掛けが予め組み込まれていました。こういった想像力を駆使した蜘蛛の巣状の準備がなければ、長期間にわたる「はやぶさ」の宇宙航海や小惑星探査は不可能でした。

 そして、プロジェクトスタッフの「絶対にあきらめない」という強い気概。この気概が、自律機能をもった「はやぶさ」の意思と相呼応して、7年目の地球帰還という素晴らしい結末をもたらしたのです。

 
(p241より引用) 4月15日、川口さんは宇宙研のホームページに、最後の日が近づいている「はやぶさ」への思いを綴った一文を発表した。
 「はやぶさ」、そうまでして君は。
   プロジェクトマネージャー 川口淳一郎

 
 巻末、2010年6月13日、22時51分(日本時間)、大気圏に再突入した「はやぶさ」の姿は、あまりにも荘厳です。
 
 

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逆転の発想 (お金の流れが変わった!(大前 研一))

2010-12-28 23:00:02 | 本と雑誌

 大前氏が主張している「ホームレス・マネー」のうねりは、旧来のケインズ的な財政政策や旧来の金融政策を無力なものとしています。
 マクロ政策によって経済を建て直そうとする考えはもはや通用しないとの指摘です。

 
(p121より引用) 低金利だけでなく、マネーサプライも実態経済の調整弁として機能しなくなっている。・・・要するに、経済がボーダレス化するとマクロ政策の効果は逆になるのである。
 たとえば、信用のある国が景気を引き締めようと金利を上げたとしよう。これまではお金の借り手が減って景気が減速したが、いまは高金利と見るや海外からホームレス・マネーが流れ込んでくるので、景気はいっそう過熱してしまうのである。

 
 こういう指摘に代表されるような、新たな視点の提示は、大前氏の真骨頂ですね。ここ数年の著作では、少々飛びすぎているのではとか、PR色が強すぎるのではと感じられる主張も多かったのですが、本書での指摘は、それらに比較するとかなりモデレートなものだと思います。
 たとえば、「新興国での成功モデル」については、日本の得意技であった「昔の芸」で戦えると説いています。

 
(p173より引用) 新興国で成功を収めたいなら、大きく分けて五つの攻略ポイントがあることを、日本企業は理解しておいたほうがいいだろう。
 その第一は官公需、つまり公共事業だ。・・・

 
 ただし、ここで言う公共事業は「従来の単純ハコモノ」ではありません。最近のJR東日本が推し進めているのような「駅+駅ビルショッピングセンタ+Suica(eコマース)」という新たなビジネスモデルをイメージしています。
 そのほかの攻略ポイントをして掲げているのも、「法人需要」と「コンシューマ需要」というノーマルな切り口。細分化したものも「富裕層需要」「中間所得層需要」「貧困層需要」といった層別の攻略法であり、目新しさという点では大前氏らしくはありません。

 私として、「視座に転換」という点で改めて刺激になったのは「税制改革」についての大前氏の指摘のくだりでした。
 「法人税率の引き下げは今さら意味はない。すでにグローバルビジネスを展開している企業の実効税率は30%を切っている」とうあたりは、すでに常識化しているところではありますが、所得税・資産税・相続税・贈与税あたりについての提言は、興味深いものがありました。

 
(p202より引用) 私にいわせれば、所得税率は上げるのではなく、むしろ下げるべきだ。所得税を下げて税収が減った国などない。・・・理由は簡単で、正直に申告しようとする者が増えるからだ。金持ちの手元に現金が多く残れば、彼らが消費を牽引するという効果がある。

 
 プーチン前大統領によるフラットタックスの導入によりロシアの地下経済が一挙に表出したという実例は、確かに面白いものです。
 また、

 
(p204より引用) もし金持ちからより多くの税金を取りたいなら、所得よりは資産にかけたほうがよい。日本の本当の金持ちは給与所得者ではなく資産家だからである。

 
という指摘も「なるほど」という視点です。さらには、大前氏のこう続けます。

 
(p204より引用) 相続税も期限を区切って撤廃してもよい。・・・若い世代に移った膨大な資産は景気刺激の重要な要因になる。・・・
 日本も・・・期間を定めて相続税を撤廃することで、高齢者に過剰に貯まって不動化している資産が一気に流動化し、若い世代が消費に向かうので、経済は活性化するにちがいない。

 
 私たちが資産を貯めこもうと考える大きな理由は、将来に対する不安感です。
 景気浮揚の有効策のひとつが「消費の活性化」だとすると、この不安感を払拭するための具体的方法を見つけ出すのが最重要ポイントとなりますね。
 この点について大前氏は、

 
(p205より引用) 日本人がお金を使わない大きな理由は「いざというときのため」だが、いざというとき必要なものが相続税から免除されるなら、安心してお金を使えるのではないか。

 
と語っています。

 
(p210より引用) 国民の税金を経済成長の原資にするという発想。これを根本からやめるべきなのだ。

 
 この税金に代わる財源が4000兆円の「ホームレス・マネー」であり、1400兆円の個人金融資産なのです。
 
 

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ホームレス・マネー (お金の流れが変わった!(大前 研一))

2010-12-26 13:04:01 | 本と雑誌

 R+(レビュープラス)から献本としてお送りいただいたので早速読んでみました。大前研一氏の最新刊です。

 大前氏の著作は、いまから30年ほど前の「企業参謀」以来そこそこ読んでいます。大の大前ファンというわけではありませんが、大前氏が示す俯瞰的な視点は大いに刺激的ですし、適否はともかく少なからず参考になりますね。

 さて、本書で取り上げられているのは「ホームレス・マネー」

 
(p54より引用) ホームレス・マネーとは、投資先を探して世界をさまよっている、不要不急で無責任きわまりないお金のことだ。

 ホームレス・マネーは「過剰流動性」の一形態といえますが、この現出の原因について大前氏は「世界的に高齢化とモノあまりが進み、需要が低調でお金がモノに転換されなくなった」ためだと捉えています。
 現在約4,000兆円にのぼると考えられているホームレス・マネーですが、その出所は大きく3つあります。

 
(p55より引用) 一つ目は、ノルウェー、スウェーデン、カナダ、オーストラリア、アメリカ、ドイツ、イギリスといった古くからOECD(経済協力開発機構)に加盟している国々の余剰資金。・・・
 二つ目は、原油価格の高騰で中東産油国に積み上げられた多額のドル。これはオイル・マネーと呼ばれ、高い利回りを求めて海外の金融市場を跋扈している。・・・
 三つ目が、中国マネー。市場開放後、中国は貿易でお金を集め、外貨準備高はいまや2兆7000億ドルに迫ろうとしている。・・・

 
 これらのホームレス・マネーは、わずかな人数のファンドマネジャーによる機械的な運用(マネー・ゲーム)により動かされています。そこには、サヤ抜きによる利益獲得という目的しかありません。

 とはいえ、こういう投機的なファンドばかりではないようです。先進国の年金ファンドに代表される比較的長期志向の過剰流動性は、運用先として新興国インデックスファンドに注目しています。

 
(p86より引用) インデックスにお金が流れ込めば、そのお金はODAのように相手政府の手を経由せず、直接、企業の資金になる。おそらくこれは、民から民へと国境を跨ぐ、人類がはじめて経験するカネの動きだ。
 そのような資金によって新興国の企業が栄えれば、雇用が生まれ、働き口がないために外国で就業していた経営能力のあるエリートが戻ってくる。そうすれば、さらに企業業績は伸びる。そういう好調な国の通貨は強くなり、通貨が強くなれば、株式市場の上昇と合わせて二重の効果をもたらす-この歯車がうまくかみ合っていることこそ、新興国が繁栄している最大の効果であり、21世紀経済の一大特徴といえる。

 
 こういった視点からの投資は、長期的な国際経済の発展や安定に寄与するという意味で、非常に重要かつ有意義なものだと思います。

 さて、本書での大前氏の指摘は、まさにタイトルのとおりです。

 
(p94より引用) 21世紀になって世界のカネの流れが変わった。その最大の理由は、(高齢化する)先進国や(高騰する石油で)OPECに過剰な資金がたまる一方で、自国では富を生み出さないどころか、目先の景気対策と称してゼロ金利や低金利にしてしまっているからである。住むのは安全・安心な先進国、資金の運用は発展著しい新興国、という流れがこの五年間くらいのあいだに定着してきたのである。

 
 「21世紀の金の流れ」は、自然発生的なものではありません。主たる要因は、いわゆる先進国における財政・金融政策の誤りから生じたものだというのが、大前氏の主張です。

 さらに、大前氏は本書の後半で、この巨額な過剰流動性を活用した自国の税収に頼らない経済発展策を提示しています。
 
 

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池上彰の学べるニュース2 (池上 彰)

2010-12-25 09:19:20 | 本と雑誌

 今人気沸騰中の池上彰さんのニュース解説番組とタイアップした本です。

 取り上げられているテーマは、「郵政民営化」「検察審査会」「教科書改訂」「中高一貫」「核兵器削減」「北朝鮮の核開発」「デノミ」「朝鮮半島」「ギリシャ財政破綻」「アメリカ経済復活」。タイムリーで多彩な材料を、とても分かりやすく説明していきます。

 たとえば、最後の「アメリカ経済復活」の項では、リーマンショックのからくりやアメリカが復活していくきっかけ等を簡単に解説したあと、日本の先行きについてもコメントしています。

 
(p206より引用) 今後、アメリカの金利が少しずつ上がっていくことが予想されるなか、為替がドル高・円安に振れていく可能性があります。・・・
 冒頭で「日本の自動車会社が営業黒字に転換した」という話をしましたね?それこそが景気回復の兆し。日本の景気がこれからジワジワと良くなっていく可能性が高いと言えるでしょう。

 
 未だに「自動車産業」が経済回復のメルクマールだとされていること自体、「そういう旧態依然とした経済構造のままでいいのか」という根本的疑問が残りますが、ともかく早く景気が上昇するといいですね。

 さて、本書を読んでの感想ですが、こういう本がベストセラーになることは必ずしもいいことではないですよね。一読すれば分かると思いますが、この程度の解説をありがたがるというのは、正直なところとても情けない状況です。

 これは、決して本書をもって「意味の無いもの」だと言っているのではありません。本書の助けを借りないと、時事問題への関心が沸かず、また出来事の背景や影響を理解できないという状況を、私も含めて大いに反省すべきだと思うのです。
 
 

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フットボールの社会史 (JR. F.P.マグーン)

2010-12-23 15:38:12 | 本と雑誌

 「訳者まえがき」によると、本書は、1938年に刊行された「History of Football from the Beginnings to 1871」の翻訳とのこと。
 内容は、フットボールの歴史をやさしく解説したものというよりは、文献を渉猟しての学術書に近いものです。(とはいえ、あくまでも新書レベルですが)
 この点、著者もこう語っています。

 
(p viiiより引用) ブリテン島の民衆の旧時代の蹴球が西暦1300年の少し後からほぼ現代に至るまで連綿と続き、人気を得てきたことを示し、それがイングランド民衆の社会生活において占める地位を分析することが、今や様々な典拠から可能になっているのである。

 
 本書では、数々の文献(法令であったり文学作品であったり)を引いて、蹴球の歴史を綴っていくのですが、その中にはこんな紹介もありました。
 エリザベス朝期のシェイクスピア作の戯曲「間違い続き」での蹴球に関するくだりです。

 
(p65より引用) 私がお内儀さんにぽんぽんと物を言うので-これはお互い様ですが-
まるで蹴球ボールのように私を蹴っとばす、というわけですな。
貴女様が私めをここから蹴る、すると旦那様がここへ蹴り返す。
こんなお勤めをして長持ちさせようというのなら、革の被覆に納めて下さらにゃいけません。

 
 こういう手荒い仕打ちの比喩に用いられるように、当時の蹴球はとても荒っぽい競技だったようです。実際、怪我する方はもちろん亡くなった方も出たようで、好ましからぬ競技としてしばしば法令をもって禁止されもしました。

 
(p ixより引用) 組織化された運動競技が十九世紀中葉に発達するまでは、蹴球は-例えば棍棒術のような、他のある種の激しい競技と共に-農民、徒弟、職人が専ら行うものに留まっていた。蹴球は久しいあいだ下層階級の競技であり、ごく稀に紳士が行ったにすぎない。

 
 さて、サッカーやラグビーといった近代的蹴球ですが、これらは旧時代の蹴球から直接発達したものではありませんでした。

 
(p138より引用) 非公式な形の蹴球が・・・昔からイングランド全土で行われてきたが、協会式〔サッカー〕およびラグビー式蹴球〔ラグビー〕という近代の重要な競技は、内容が明確でなく、もっと古い、そして恐らくは極めて多様化した諸競技を組織統一したところに成立したというものではなくて、一方ではウェストミンスターやチャーターハウスなどロンドンの学校で、また他方ではラグビー(ウォリックシャー)の学校で行われた学校式蹴球をめぐって発達したルールを体系的に調整したことに基盤を置くのである。

 
 とはいえ、「蹴球」は、母国イングランドにおいても乗馬や競馬といった上流階級のスポーツとして発展したものではなく、基本は庶民のスポーツでした。その底流には地域に根ざした民衆のエネルギーが脈々と流れている競技なのです。
 サッカーが、熱狂的なサポータ同士のぶつかりや、国同士の戦争にまで至るのもさもありなんという気がしますね。
 
 

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数学で読み解くあなたの一日 (ジェイソン・I・ブラウン)

2010-12-22 23:26:32 | 本と雑誌

 本屋さんでタイトルに惹かれて手にとって、パラパラとページを繰ってみました。
 面白そうだったので、いつも行っている図書館の蔵書検索をしてみると、結構最近の出版であるにもかかわらず既に「貸出可」とのこと、早速借りて読んでみました。

 「数学者である著者のある一日」という設定で、その日の出来事を材料に多彩な数学のテーマを易しく解説していきます。
 全部で13章あるなかの8番目「ロングテール」の記事を取り上げた章では、「無限の和」について語っています。

 
(p191より引用) 無限に多くの数を足し合わせることは、無限に魅惑的なことでもある。・・・
 数学で魅力的なことのひとつは、たいてい、証明を視覚化する多くの方法があることだ。たとえば、1/2+1/4+1/8…はいくつになるだろう?これを、1×1の正方形を小部分に切り分けると考えたい。・・・つまり、1/2+1/4+1/8…は、正方形の面積である1になるだろう。したがって、実は1/2+1/4+1/8…=1であるという「図による証明」となる。

 
 こういうのを見ていると、数学は面白いと改めて感じますね。また、1+1/10+1/100+1/1000…を求めるこんな解き方もスマートです。

 
S=1+1/10+1/100+1/1000…
10S=10+1+1/10+1/100+1/1000…
10S-S=10
9S=10
S=10/9

 
 幾何学や代数学を使って、複雑そうに見える問題をものの見事に解決する爽快感はたまらないでしょう。私は文系の人間ですが、はるか昔の大学受験期には数学が大好きだったので、こういう解法をみると懐かしくなります。

 さて、この「無限の和」ですが、以降、こういう解説が続きます。

 
(p194より引用) 無限に多くのどんどん小さくなっていく正の数を足し合わせると必ずある数になるということは、もっとものように思われるが、そうではない。・・・すべての正の整数の逆数を合計することを考えてほしい。・・・
1/1+1/2+1/3+1/4+1/5+1/6+1/7+1/8+…
 ≧1/1+1/2+1/4+1/4+1/8+1/8+1/8+1/8+…
 =1/1+1/2+2(1/4)+4(1/8)+…
 =1/1+1/2+1/2+1/2+…

 
 ということで、こちらはゆっくりとではありますが、ずっと永遠に大きくなっていくのです。いやはや面白いですねぇ。

 本書は、こういった無限級数のほかに、確率・期待値・効用関数・統計・ゲーム理論、整数論、フラクタルなど様々な数学のテーマが登場します。ちょっと数学に興味のある方なら、読んでみると結構楽しいと思います。

 ただ、12章のビートルズの楽曲のコード解読のくだりは、かなりの音楽ファンでないとついていけないかもしれません。音楽の素養が全くない私は、当然ダメでした。ちょっと残念です。
 
 

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モノとコト (イノベーションの知恵(野中郁次郎・勝見明))

2010-12-19 09:54:50 | 本と雑誌

 経営論における「プロセス理論」を考えるうえでは、20世紀前半のイギリスの哲学者ホワイトヘッドの世界観を振り返る必要があります。
 このホワイトヘッドのユニークな視座を野中氏はこう紹介しています。

 
(p82より引用) どこがユニークかといえば、世界はすべてが関連しあった「プロセス(過程)」であり、常に動き続ける「イベント(出来事)の連続体」であるととらえたことです。・・・
 つまり、世界はことごとく、常に「生成発展する」ため、目を向けるべきは「モノ(substance)」そのものではなく、「コト(event)」の生成消滅するプロセスであると説きました。

 
 21世紀における知識経営においては、この「モノ的発想」から「コト的発想」への転換がポイントだとの指摘です。

 この発想の転換の成功例が、JR東日本のエキナカ商業空間エキュートです。これは、駅を「通過する駅」というモノから、買物をするコト、食事をするコト・・・といった「集う駅」へとコンセプトを大きく変えたのでした。

 
(p126より引用) モノはそこに人がかかわろうとかかわるまいと存在するのに対し、コトはそこにかかわる人との「いま、ここ」での関係性のなかで生まれます。つまり、コトは一つの文脈(コンテクスト)であり、人・もの・時間・空間の関係性のなかで浮かび上がります。

 
 野中氏は、この「モノ」と「コト」について、別の章で「現実」ということばの2つの意味を取り上げて、さらに解説を進めています。

 
(p152より引用) 主体と客体を分離し、客体を傍観者的に対象化し、観察するのがリアリティです。一方、五感を駆使して文脈そのものに入り込み、深くコミットして、主客未分の境地で感じるのがアクチュアリティです。観察による現実認識がリアリティであり、行為を通じた現実認識がアクチュアリティといってもいいでしょう。

 
 「リアリティ」が「モノ的現実」、「アクチュアリティ」が「コト的現実」というわけです。
 このように現実を「コト」の連なりというプロセスとしてとらえ、そういった物語性の中で「動きながら考える」、こういう行動スタイルが、野中氏のイメージする「現代の変革リーダー」の姿なのです。

 本書では、この「モノ的発想」と「コト的発想」との対比は、様々に言い換えられています。
 「名詞ベース」と「動詞ベース」、「主客分離」と「主客未分」、「理論的三段論法」と「実践的三段論法」、「考えて動く」と「動きながら考え抜く」、「形式知重視」と「暗黙知重視」、「時計時間」と「適時時間」・・・。「人間=being(在る存在)」と「人間=becoming(成る存在)」もそのうちのひとつです。

 
(p182より引用) 人をビーイング(~である)ととらえるか、ビカミング(~になる)ととらえるか。人間観の違いはビジネスにおける顧客、企業経営における社員、教育における生徒・学生、医療における患者、行政における住民・・・等々、あらゆる分野で相手との関係性の持ち方を左右します。そして、人をビカミングととらえたとき、これまでになかった世界が展開されるのです。

 
 「成る存在」は「自律的な存在」でもあります。こういうタイプのメンバから構成される組織像が「自己組織(Self-organization)」です。その特徴を野中氏は以下ように列挙しています。

 
(p271より引用)
・自律的な振る舞いをもった構成要素が集まり、相互作用を媒介にして、混沌の中からそれぞれの総和より質的に高度で複雑な秩序を創発していく組織のあり方。
・各構成要素が管理-非管理の関係ではなく、自らを動機づけながら新たな知を生み出していく。
・個が積極的に関与し、自律的な個人から生まれた独自のアイデアが広まり、全体のアイデアになる。

 
 この「自己組織」、実は、私個人としても、及ばずながら日々目指しているひとつのゴールの姿なのです。

 さて、最後に、ビジネス論とは別の観点から印象に残ったフレーズを書き記しておきます。社会福祉法人むそう理事長戸枝陽基氏の言葉です。

 
(p175より引用) これまで社会において価値がないといわれてきた障害者がいるから地域が再生できる。すべての概念がひっくり返ります。違いを探してボーダーをつくるのではなく、違いを受け入れてボーダーレスに生きる。

 
 「実践」や「体験」にもとづく「身体知」のひとつの例ですね。これもまた、「分析志向」の欧米型マネジメントスタイルでは気づきにくい事柄でしょう。
 
 

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プラクティカルウィズダム (イノベーションの知恵(野中郁次郎・勝見明))

2010-12-16 23:05:47 | 本と雑誌

 以前、野中郁次郎教授が主宰していたフォーラムに参加していたことがあるのですが、本書は、その事務局の方から、野中氏の最近の著作としてお送りいただいたので読んでみました。

 ご存知のとおり、従来から野中氏が提唱しているのは、形式知と暗黙知の往還を基本コンセプトにおいた「知識創造理論」です。
 本書では、野中理論の最近の展開として、「共通善(コモングッド)」を根底にした実践知にもとづくプロセス理論が、9つの具体的な事例を材料に解説されていきます。

 このプロセス理論を野中氏は「知の作法」と名付けているのですが、そのなかで最初に紹介されているのが、「実践的三段論法」です。具体的事例は、旭川市立旭山動物園と京都市立堀川高等学校です。
 まず、野中氏は、「理論的三段論法」の適応領域とその限界についてこう指摘します。

 
(p70より引用) 理論的三段論法は普遍的な命題から演繹的に結論を導き出すものです。・・・理論的三段論法は形式論的には正しく、ひとつの真実に到達することはできます。
 しかし、・・・論理的に正しいからといって、だから何なのでしょう。ここにはなんらの知の創造性も生産性もありません。論理的な正しさを問うことと、新しい知を生むことはまったく違います。

 
 大前提・小前提・結論から成る「理論的三段論法」に対して、「実践的三段論法」は、目的→手段→行動というプロセスで構成されています。「何を知りたいか(目的)」「どう知るか(手段)」「どう行動するか(行動)」の3ステップです。

 
(p73より引用) 堀川高校の探究科では、実践的三段論法により、実践を反復し、個別具体の事実から普遍的命題を導き出します。この経験を通して知識が知恵化し、自分のものとなっていきます。
 「与えられる教育」が形式知ベースの詰め込みであるのに対し、探究科では経験を通して知識が知恵化し、自分のものとなっていくという暗黙知ベースの学びにより、自ら成長していくのです。

 
 この「仮説→検証→行動」というプロセスを繰り返し実践していくことは、「新たな知の獲得」に繋がっていきます。

 
(p73より引用) 実践的三段論法のもう一つの特徴は「目指すべき目的」「実現する手段」「起こすべき行動」のいずれもが仮説であり、実践した結果を検証し、修正していくというプロセスが含まれていることです。・・・大前提である目的そのものを修正することもありえます。

 
 このサイクルのなかで、演繹法(deduction)や単なる演繹法(induction)とは異なる「仮説設定(abduction)」という直観的な発想法が習得されていくのです。

 
(p79より引用) 新たな知識創造には本来、仮説の生成が必要です。仮説は目の前の個別具体的なミクロの事象を普遍的なマクロの概念に結びつけるなかで自分の内からわきあがってくるものです。

 
 昨今、特に「仮説検証」型のアクションが推奨されていますが、実はスタートとなる「仮説の設定」が非常に難しいのです。
 この点について、野中氏は、場の共有や経験にもとづく「実践知」の役割を指摘しています。

 
(p80より引用) 理論的推論はロジカルシンキングと呼ばれるものです。旭山動物園の変革も、堀川高校の変革もロジカルシンキングだけでは生れませんでした。旭山動物園の小菅氏と堀川高校の荒瀬氏に共通するのは、現場で個別具体の世界から入りながら、普遍と結びつけ、最善の判断を行う実践的知恵、すなわち、プラクティカルウィズダム(実践知)です。

 
 この「ロジカルシンキングからプラクティカルウィズダムへ」が野中氏の主張する変革のリーダーシップのあり方の根幹になります。
 
 

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日本の伝説 (柳田 国男)

2010-12-13 23:07:01 | 本と雑誌

 家の本棚の奥にあった本です。
 奥付けには昭和59年17刷とありますが、元は、昭和4年「日本神話伝説集」と題して出版された柳田氏54歳のときの著作とのこと。日本国内に散在していた伝説を丹念に集め記録したものです。

 冒頭、柳田氏は「はしがき」において「伝説と昔話」の違いをこう説明しています。

 
(p9より引用) 伝説と昔話はどう違うか。それに答えるならば、昔話は動物の如く、伝説は植物のようなものであります。昔話は方々を飛びあるくから、どこに行っても同じ姿を見かけることが出来ますが、伝説はある一つの土地に根を生やしていて、そうして常に成長して行くのであります。雀や頬白は皆同じ顔をしていますが、梅や椿は一本々々に枝振りが変っているので、見覚えがあります。可愛い昔話の小鳥は、多くは伝説の森、草叢の中で巣立ちますが、同時に香りの高いいろいろの伝説の種子や花粉を、遠くまで運んでいるのもかれ等であります。自然を愛する人たちは、常にこの二つの種類の昔の、配合と調和とを面白がりますが、学問はこれを二つに分けて、考えて見ようとするのが始めであります。

 
 柳田氏といえば民俗学の大家として有名ですが、田山花袋・国木田独歩・島崎藤村らとの交流があったというだけあって、(私のようなど素人が言うのも不遜ではありますが、)文章もいいですね。

 さて、本書の内容ですが、目次を辿るとこういった章が続いています。「咳のおば様」「驚き清水」「大師講の由来」「片目の魚」「機織り御前」「御箸成長」「行逢阪」「袂石」「山の背くらべ」「神いくさ」「伝説と児童」。
 どの章をみても、日本のあちらこちらの町や村に伝わる興味深い伝説が、それこそ山のように紹介されています。似たような話が全国各地で同時偶発的に見られたり、また、伝承の連続性を感じさせるような連なりで残っていたりと本当に興味は尽きません。

 
(p97より引用) 二つの土地の神様を、同じ日に同じ場所で、お祭り申す例は方々にありました。そうすれば隣同士仲が良く、境の争いは出来なくなるにきまっています。地図も記録もなかった昔の世の人たちは、こうしてだんだんにむりなことをせずに、よその人と交際することが出来るようになりました。だからどこの村でも伝説を大事にしていたので、もし伝説が消えたり変ったりすれば、お祭りのもとの意味がわからなくなってしまうのであります。

 
 伝説は、まさにその土地の生活から生まれたものでした。逆に、伝説がその土地の生活を形づくっていったともいえるのでしょう。

 本書のほとんどは、柳田氏の地道なフィールドワークによる伝説の渉猟の結実です。最近はこういった本は非常に少なくなりましたし、ほとんど話題にものぼりません。時折、こういった著作にも意識して触れたいと思います。
 
 

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管見妄語 大いなる暗愚 (藤原 正彦)

2010-12-11 14:07:42 | 本と雑誌

 藤原正彦氏の最近のエッセイ集です。
 週刊新潮のコラムに連載されたものの再録なので、テーマも時事問題から藤原氏の身近なできごとまで多種多彩です。

 特に、昨今の政治ネタを取り上げたコラムは、まさに藤原節が満開ですね。
 そのなかからひとつ、例の「事業仕分け」に関するくだりです。

 
(p109より引用) ある民主党議員がスーパーコンピュータについて「なぜ一位を目指さなくてはいけないのですか。二位ではいけないのですか」と質問、いや詰問したのには驚かされた。この感覚では科学研究を語る資格さえないからだ。世界中の科学者で世界一を目指さない人はいない。・・・
 技術でもみな世界一を目指し努力しやっと上位に残れる。初めから二位狙いでは十位にもなれないだろう。

 
 藤原氏の意見の開陳は、まだまだ続きます。

 
(p110より引用) 費用対効果は科学研究を考える上でのタブーである。・・・民間ではできないから国がするのだ。そのような壮大な無駄遣いをする国でのみ研究者が生息でき、科学研究の豊かな土壌や広い裾野が形成される。それがあって初めて画期的発見や革新的技術が生み出されて行く。

 
 科学研究をどう位置づけるかの議論も大変重要ですが、ここでの藤原氏の考え方のなかでひとつ注目すべき視点があると思います。それは、「民間ではできないから国がするのだ」という指摘です。確かにそのとおり。民間でできることは、費用対効果とリスク等のバランスを考えつつ民間でやればいい、民間のパワーを越えた施策こそ「国」が長期的・俯瞰的展望をもって取り組むべきだとの主張です。

 さて、本書、目次を辿ると「第1章 歴史に何を学んだか」「第2章 日本の底力」「第3章 政治家の役割」「第4章 人間の本質は変わらない」「第5章 文化の力」と並んでいます。見るからに藤原氏の辛口のコメントとユーモア?のオンパレードの感があります。

 が、そういった中からちょっと毛色の変ったところで、特に私の印象に残ったくだりをひとつ書き留めておきます。
 「落ちこんだ時には」というタイトルのコラムから。

 
(p30より引用) 私は学生達に日頃からこう言っていた。
「君達は今後、落ちこむこと、挫折すること、深い失意に沈むこと、などが必ずある。何度もある。そんな時にはほめ言葉を思い出すんだ。これまでに先生、親、権威ある人などからほめられたことがあるでしょ、それを思い出すんだ・・・」

 
 落ち込むのにはいろいろな理由・事情があるものですが、そのなかのひとつには「自信喪失」があります。「くよくよしない、プラス思考で」と言いますが、そう簡単にはいきません。思考の切り替えのためにも「きっかけ」が必要です。「ほめる」ことはその瞬間の喜びや自信になりますが、さらには、後日になって元気を取り戻す活性剤にもなるのです。

 私もこの歳になってくると、いろいろと想い、考え、反省することがあります。今この瞬間だけではなく、後になってじわりと周りの方々のためになるような、「今日の立ち居振る舞い」に心掛けたいと思いますね。今はまだ全く出来ていませんが・・・、何とかして、是非とも。
 
 

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殿様経営の日本+皇帝経営の韓国=最強企業のつくり方 (金顕哲・野中郁次郎)

2010-12-08 23:17:40 | 本と雑誌

 近年、サムソンを代表格として「韓国企業」の躍進が大きな脚光を浴びています。同じ業界の日本企業の状況と比較すると、残念ながら、その差は歴然です。

 本書は、韓国企業の成功要因を様々な観点から検証し、具体的な実例と平易な文章で分かりやすく解説したものです。

 まずは、広く指摘されている点ですが、韓国が意図的にコントロールしている同業種内の「企業絞込み」についてです。

 
(p24より引用) 韓国版の鉄のトライアングルの一角を占めるのは、政治家と官僚が司る政界だ。もう一角が、メインバンクに代表される銀行システムであり、残りが産業を担う財閥である。・・・
 政府と官僚は重点産業だけでなく、産業別に企業の数まで決めていく。・・・国際競争力のある企業の数は絞り込まれている。限られたリソースを有効に活用するためだ。

 
 有名な例をあげると、自動車なら現代自動車・起亜自動車、電子産業ならサムスンとLG、鉄鋼業ならポスコ、いったところですね。これらの寡占企業は、国内での過度な競争を回避することにより、持てるパワーの大半を国際市場に注力しているのです。

 二つ目の韓国企業の特徴は、「会社の位置づけ」すなわち「会社は誰のものか」との答えにあります。

 
(p132より引用) 企業はだれのものかという企業の在り方をめぐる議論は、資本主義のスタイルの違いと重なる部分がある。日本企業の場合、会社は従業員のため、顧客のためにあるもので、従業員資本主義、顧客資本主義をとっている。
 アメリカは、ご存じのとおり、株主資本主義をとっている。・・・
 韓国はオーナー資本主義である。会社はだれが何と言おうと、オーナーのものだ。全権を持つオーナーの指示には絶対服従である。

 
 この「オーナー」による強力なリーダシップが、デジタル化時代のスピード経営に大きなアドバンテージをもたらしているとの指摘です。
 著者はバルセロナオリンピックのマラソン競技における韓国の黄永祚選手と日本の森下広一選手とのデットヒートをたとえにして、こう解説しています。

 
(p167より引用) 親しみのある日本人と同じ戦略で追随し、機会を伺って、決定的瞬間に運をつかみとる-それは、アナログ時代の長い付き合いの中で力を蓄え、モンジュイックの丘ですっと前に出るように、デジタル時代の流れに乗ってトップに踊りだす韓国企業の姿と重なる。

 
 このモンジュイックの丘を越えるときには、オーナーの決断力が大きくものを言ったのです。具体的には、現代自動車の大型エンジン開発やサムスン電子の半導体加工技術の選択・LCDパネルへの参入時の意思決定でした。

 
(p171より引用) 現代やサムスンの下した意思決定は、膨大な投資を伴うものであり、企業単体では到底賄いきれるものではない。日本企業の場合、実施の決定に踏み切れないケースも多い。

 
 ここで効くのが「財閥」の力であり、そのトップに君臨するオーナーの決断力です。そして、オーナーは、資金に限らず人材や販売力といった財閥グループ各社のリソースをフル動員するのです。
 さらに、この決断力は、「不況時ならではの投資」という戦略の実現を可能にします。

 
(p172より引用) これは、日韓の大きな差となっている。日本では不況時には大胆な投資ができない。しかし、韓国企業は不況こそチャンスだと考えて、思い切った投資をする。企業の内部でポートフォリオを組んでシナジー効果を発揮し、グループ全体でもシナジー効果を発揮している。それが、韓国企業の大きな強みとなっているのである。

 
 とはいえ、完全な「オーナー独裁」ではありません。

 
(p160より引用) 韓国企業の経営は、トライアングルで整理できる。頂点はオーナーであり、もう一角は秘書室ないしは戦略企画本部、そして、残りの一角が各社の専門経営者である。この三者が経営チームを構成し、三極経営を行っていく。

 
 オーナーを中心として、その戦略参謀としてのスタッフ組織と実行部隊としての各グループ会社の専門経営者が支えるというフォーメーションが確立されています。

 著者は、こういった組織と命令系統が成立するベースには、「格差」を前提にした韓国社会の構造と、「徴兵制」による共通経験があることにも言及しています。
 この点、すなわち「格差容認」や「徴兵制」が韓国躍進のクリティカルな構成要素だとすると、そのまま真似するわけにはいかないですね。

 
 

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Googleの正体 (牧野 武文)

2010-12-05 10:57:10 | 本と雑誌

 グーグルをテーマにした本はそれこそ数多くありますが、その中でも本書は読みやすいもののひとつでしょう。

 グーグル社の内部レポートのような生々しさはありませんが、外から入手できる情報をベースにグーグルビジネスの概要を分かりやすく紹介しています。
 そういう点では、目新しい情報というより復習として役に立つという感じでしょうか。

 たとえば、最近のグーグルの動きとして注目を集めている「アンドロイド」や「クロムOS」の位置づけについては、こういう解説を加えています。

 
(p110より引用) 今、インターネットをすでに使っている19億人は、グーグルも利用するし他のアプリケーションも利用するが、次の19億人のほとんどの人はすべてをグーグルで済ませてしまうことになるだろう。アンドロイドやクロムOSは、次の19億人をグーグライズする強力な武器となるのだ。

 
 著者は、この動きの背景にはアンドロイドやクロムOS搭載による「端末の低廉化効果」が大きいという点にも言及しており、それがグーグルの戦略だと指摘しています。

 もうひとつ、グーグルのビジネスモデルの基本である「広告ビジネス」について。

 ご存知のとおり、グーグルは「検索」を「広告」と結びつけることにより、大きな市場を開拓しました。しかし、その基本スキームである「検索連動型広告」はグーグルのオリジナルではありませんでした。その先駆けはゴートゥードットコムです。ただ、ゴートゥードットコムは「広告料の多寡」によって表示順を制御していました。

 
(p156より引用) ゴートゥードットコムのビジネスの基本は、広告であり、その広告をいかに効率的にするかという観点で、検索エンジンという道具を使った。一方で、グーグルの基本は検索エンジンである。あくまでも精密な検索エンジンを作ることが目標で、その資金を稼ぐために広告というビジネスを利用した。
 インターネットの世界では、利用者指向のサービスは必ず評価されるし、業者指向のサービスは必ず失敗する。ゴートゥードットコムとグーグルの明暗は、当然ともいえる結果だった。
 グーグルはこのとき、大きな教訓を得たに違いない。自分が利用者の立場に立って、どういうサービスが欲しいかを徹底的に考える。・・・
 グーグルが、後にグーグルアースやグーグルマップ、グーグルブック検索などといった、徹底した利用者指向のサービスを発表していく原点はここにある。

 
 グーグルは広告の表示順を「クリック率」という利用者の意思に依拠させたのでした。

 さて、著者は、グーグルが目指している今後の基本ビジネスの方向性は「行動ターゲティング広告」であると指摘しています。

 
(p130より引用) 今、グーグルの大きなテーマになっているのは、この文脈ターゲティング広告をいかに行動ターゲティング広告に進化させるかだ。・・・
 ただし、そのためには、・・・消費者個人のプライバシーを知っておく必要がある。

 
 この点は取り立てて斬新なものではありませんから、まさに今グーグルの動きが大きな波紋を広げている点についての頭の整理というレベルです。

 ただ、ここでの著者のコメントは、著作権の問題にしてもプライバシーの問題にしても、極めて楽観的に聞こえますね。
 旧弊にこだわる必要はありませんが、やはりプライバシーの問題は非常に重要で、決して軽んじられるべきものではありません。プライバシーは「個」の問題であり、一度蔑ろにされたプライバシーは、「個」のレベルでは完全修復できないのです。

 プライバシー侵害の蓋然性を意識しながらも、それを無視するという姿勢は許されるべきではないと思います。
 
 

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アメリカの高校生が読んでいる世界経済の教科書 (山岡 道男・浅野 忠克)

2010-12-01 21:52:20 | 本と雑誌

 タイトルに惹かれて手に取った本です。

 アメリカの高校の教科書の翻訳物かと思っていたのですが違っていました。
 アメリカの経済教育を担う非営利団体「ジャンプスタート連合」が高校生向けに作成した経済教育の指導要領「National Standards in Personal Finance」を日本人向けにわかりやすくアレンジした入門書とのこと。早とちりをしてしまい少々ガッカリです。

 ただ、為替をはじめとした国際経済の初歩の初歩を確認するという点では、全く役に立たないというものではありませんでした。

 たとえば、第2章「石油から考える世界経済」では、オイルショックの復習ができました。
 1979年第二次オイルショックに対応してアメリカは高金利誘導による金融引き締め策を打ち出しました。いわゆる「ボルカー(FRB議長)ショック」です。この政策はアメリカ国内でも住宅業界をはじめ大きな打撃を受けましたが、それ以上に発展途上国にも深刻な影響を与えたのです。

 
(p108より引用) それにしても、お金に困っている発展途上国にお金を貸し付けて、そのあげく資金を引き上げようとするなんて、銀行はサブプライムローンショックのときと同じことをしていたんですね。

 
 というコメントは、印象的ですね。

 さて、全体を通しての感想ですが、いかに「入門書」だとしても、あまりにも内容は貧弱だと思います。
 どういう読者に適しているか・・・、「世界経済」を学びたいという気持ちをもった高校生に対してなら、本書は薦めないですね。「新書」レベルでも十分理解できるでしょう。強いて言えば、中学生が夏休みあたりにザッと読んでみるといった感じでしょうか。
 
 

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