レビュープラスというブックレビューサイトから献本していただいたので読んでみました。
社会の変化に対応して企業として生き残るための方法を説いた内容ですから、そのテーマはビジネス書としては山ほど語られているものです。
- 氷山1 「代替」=社会を一変する力
- 氷山2 「新芽」=過去と決別した成果
- 氷山3 「非常識」=変化に対応する思考
- 氷山4 「拡散」=足枷を解放した効果
- 氷山5 「増殖」=拡大を続ける構造
そのそれぞれに対して章を起こし、事象の解説とその対策を紹介しています。
たとえば、「代替」の章での著者のコメントはこんな感じです。
(p64より引用) 発想のポイントのひとつは、「ほかの業界」「ほかの製品・サービス」の代替となれるか、という視点です。
一般に伝統産業や歴史ある企業ほど「代替される側」にあることが多いものです。・・・
生存できる範囲を切り取られたら、意識して今度は範囲を広げなければなりません。代替できるものを理由もなく残すほど、歴史も消費者も、甘く寛容ではないからです。
このあたりのくだりは、この程度の指摘で止まっていては何のインパクトもありませんね。
次の「新芽」の章では、大きなダメージを受けたあとの再生の力について論じていますが、ここでの著者は、なかなか面白い視点を開陳しています。
ここでのキーワードは「resilience(レジリエンス)」、“復元力・弾力・衝撃を吸収し跳ね返す力”のことです。
この「復元力」ですが、著者はこの本質について興味深い指摘を行っています。どん底からの回復は「以前にも増した自己の努力によるものではない」というのです。
(p96より引用) 能力を鍛えて才能を発揮するよりも、むしろ目標の形を変える力が飛躍の原動力になっているのです。
これは、レジリエンスの本質を指摘するポイントです。・・・
5年挑戦してダメなものは、6年目もうまくいかない
・・・
「目標をあまりに固定した努力は、むしろ有害でレジリエンスを破壊する」
復元力のサイクルを振り返るとき、目標を過度に固定した努力は、古く根腐れを起こした木に、いつまでも栄養分を水を与えるような行為だからです。
方法を試行錯誤するのではなく「目標を試行錯誤する」、これは示唆に富んだちょっと気になるアドバイスですね。
さて、本書を読み通しての感想です。
内容はシンプルに5つの章で構成されていますが、それぞれの章の関連が並列でしかなく立体的な体系化に至っていませんし、例示で挙げられているいくつかのエピソードも月並みです。語り口が優しいので一見読みやすい印象は受けるのですが、著者の発するメッセージには厚みや鋭さが感じられないのです。“ビジネス現場の肌感覚”といったリアリティに立脚した説得力が希薄なんですね。正直なところ、かなり物足りなさが残ります。
あと、蛇足ではありますが、編集や校正がいまひとつ。単純な誤植が目立ちますし、豊臣秀吉と黒田官兵衛のエピソードで、登場する高松城の所在を「四国」と記述しているあたり、もう少ししっかりチェックしておかないと、ビジネス書としての、また著者のコンサルタントとしての信頼感が薄れてしまう気がします。ちょっと残念です。
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鈴木博毅 | |
経済界 |