10年ほど前に連載されたコミックが原作の作品です。
かなり以前に読んだ内田康夫さんの “浅見光彦シリーズ” ですが、このところ、私の出張先が舞台となった作品を、あるものは初めて、あるものは再度読んでみています。
ただ、私の出張先も以前勤務していた会社のころを含めるとそこそこの都道府県にわたるので、どうせなら “浅見光彦シリーズ” の制覇にトライしてみようと思い始ました。
この作品は「第17作目」です。
今回の舞台は “箱根”。箱根そのものへの出張はありませんが、プライベートでは何度となく訪れています。
ネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、この作品は内田さんによる巻末の「自作解説」でも語られているように、いままでの “旅情ミステリー” といったテイストとは全く異なるものですね。
作中でも触れられていますが、アガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」を思い浮かべるようなプロットです。
こういった作品を執筆した動機については、先の「自作解説」で内田さんご本人が説明しています。
まあ、それはそれとして、私の率直な感想を言えば、やはり作家の “得手不得手” や読者の “期待” といったものは厳然と存在するのだろうということですね。
さて、取り掛かってみている “浅見光彦シリーズ制覇チャレンジ”、それほど強い意志をもって完遂しようとも思っていませんので、まあ、“どこまで続くことやら”です。
次は、執筆順では「竹人形殺人事件」ですが、一足先に読んでいるので、「軽井沢殺人事件」にいきましょう。
吉村昭さんの小説やドキュメンタリー等は今までも何冊も読んでいて、私の好きな作家のひとりです。
本書は、いつも利用している図書館の書架で目についたものですが、その帯には「最後の随筆集」と記されていました。ちょっと気になりますね。
目次を覗くと、吉村作品の舞台裏を垣間見ることができる数々のエッセイに加え、巻末には、小沢昭一さんとの対談も採録されています。
とても興味深い一冊ですが、本書で吉村さんが残した言葉の中から、特に私の関心を惹いたところを少々書き留めておきましょう。
まずは、吉村さんの「歴史小説」を書く時の基本姿勢を語ったくだり。
(p146より引用) その癖がそのまま歴史小説を書く上でも現われ、ですから史実に忠実に書きたいと思い、それを念願としているのです。それに、史実そのものが私はドラマだと思うのです。変に小説だからといって創作をすると、本当のドラマが消えてゆくのではないかと、そういうふうに私は考えます。
ここでいう “癖” というのは、ともかくとことん史実・事実を探求する吉村さんの姿勢のことで、この言葉は、吉村さんが現地で渉猟して調べ上げた「戦時記録」を元に「戦艦武蔵」をはじめとした “戦争” をモチーフにした数々の小説を書いた経験によるものでした。
そして、こうやって “本物の史実” を深堀していくと、歴史の定説の誤りや歴史小説の虚構が顕かにされていきます。
例えば、薩長同盟の成立と坂本龍馬の働きについて。
(p176より引用) 薩長同盟というと、坂本龍馬が斡旋したことになっているのですが、坂本龍馬は土佐藩の藩士ではなく、郷士です。坂本龍馬が両方を仲介して薩長同盟を結ばせたといわれていますけれども、そのようなことは史実にないのです。
一人の人間が薩摩と長州、今のアメリカとソ連のようなものですが、それを中に入って話をつけるなどありえない。一番最大のものは武器なのです。武器で合致してしまった。
それで、この薩摩・長州が新鋭銃、新鋭の大砲、これを輸入して、そして幕府と対抗する。
この長州の武器購入に動いたのが、井上薫と桂小五郎であり、彼らに薩摩の名義を貸して助力したのが、小松帯刀でした。
さて、本書を読み通しての感想です。
本書に採録されたエッセイのかなりのものは、吉村さんのひとつひとつの作品の「創作ノート」のような内容で、作品執筆時の彼の「真実」を探求し「事実」に正対する真摯な姿勢がストレートに伝わってくるものでした。
この一徹さが、吉村文学の “礎石” であり、時代を経ても不変の価値の源なのだと改めて感じ入りますね。
(本書は「再読」でした。いまから15年近く前に一度読んでいたようです。恥ずかしながら読んでいる間はまったく気づきませんでした。その時の読後感はこちら。)
いつもの図書館の新着図書リストで目につきました。
このところ気分転換に読んでいるミステリー小説は、読破にチャレンジしている内田康夫さんの “浅見光彦シリーズ” に偏っているので、この本はちょっとした息抜き、気分転換の一冊です。
森村誠一さんの作品はずっと昔からそこそこ読んでいたのですが、再読ではない本は久しぶりです。また短編集というのも私にとっては珍しいですね。
さて、ミステリー小説なのでネタバレになるとまずいので内容には触れませんが、採録されている6編、いかにもサスペンス小説にありがちタッチのものもあれば、ちょっとファンタジックなテイストのものもあり、それぞれに色合いが異なっていて考えて選ばれているのが十分感じられました。
とはいえ、今まで読んでいた森村さんの作品は「長編」のものがほとんどだった私の場合、正直なところ「短編」はちょっと合わなかったようです。
適度に “くだくだ” した物語の展開の方が、かなりくたびれてきた頭にはテンポがあうのでしょう。