OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方 (北山 公一)

2013-08-31 23:04:19 | 本と雑誌

Communication  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。
 これもビジネス・コミュニケーションをテーマにした実践的How to本です。

 著者の北山氏は日本の金融機関を経て、ヨーロッパ系のグローバル企業で15年間マネジャーとして従事。本書では、その実体験に基づいた価値観の異なる相手に対するコミュニケーション・ルールを紹介していきます。

 たとえば、“ルール4:「なぜ」好きか、「なぜ」嫌いかをはっきりさせる→「理由」があるから共感できる”という章ではこんな具合です。

(p32より引用) グローバルな話し方としては、たとえカジュアルな会話でも、自分がそう思う「理由」を入れます。なぜそう思うのか、という理由の部分にその人らしさ(価値観)が一番出るからです。
 逆に、理由がない場合、世界では共感されません。自分が共感できるかどうか判断するだけの情報(理由)がないからです。

 「人はそれぞれ違っている」ということを前提として、そういった関係下において「理解し合う」ための基本的な作法ですね。

 多様な価値観をもった人たちの中で個人の存在を示すためには、「自分なりの論点」を持つことが重要になります。
 会議の資料を事前に読み込むときにも、その内容を「受け身」の姿勢で「理解」するだけでは不十分です。その資料のメッセージに対して、自分としてはどう考えるかという「意見・立ち位置」を整理して会議に臨まなくてはなりません。

(p129より引用) 資料に対する立場(賛成、反対など)を固めるには、自分なりの論点を設定することが大切です。これはあくまで自分が重要であると考える論点です。相手側の論点と違って全然構いません。
 ・・・他にもっと重要な点があるかもしれないという観点で、自分なりの視点と質問を準備します。

 著者は本書で紹介されているコミュニケーション・ルールの適用シーンとして「グローバル企業」を想定していますが、これらのルールはダイバーシティの重要性が高まりつつある現在、いわゆる普通の「日本企業」においてもそのまま活用できるものです。

 「多様性」のベースには「個の尊重」があります。
 自己と同じく、他者を認めること。「自己と異なる他の存在」を前提としたコミュニケーションは、ドメスティック・スタンダードにもなるのです。


日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方 日本人が「世界で戦う」ために必要な話し方
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2013-07-25


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伝え方が9割 (佐々木 圭一)

2013-08-28 21:59:43 | 本と雑誌

Souda_kyoto  とても評判になっている本なので、手にとってみました。
 コミュニケーションをテーマにした実践的なHow To本です。

 著者のアドバイスは2つ、第2章 「ノー」を「イエス」に変える技術 と第3章 「強いコトバ」をつくる技術 で開陳されています。

 まず、「ノー」を「イエス」に変えるエッセンス。

(p110より引用)
●コトバは「思いつく」のではなく「つくる」ことができる。
●「イエス」に変える3つのステップ。
 ステップ1 自分の頭の中をそのままコトバにしない
 ステップ2 相手の頭の中を想像する
 ステップ3 相手のメリットと一致するお願いをつくる
・・・
●「イエス」に変える「7つの切り口」
 ①相手の好きなこと ②嫌いなこと回避 ③選択の自由
 ④認められたい欲 ⑤あなた限定 ⑥チームワーク化
 ⑦感謝

 もうひとつ、「強いコトバ」をつくる技術は、

(p181より引用)
 ①サプライズ法 ・・・
 ②ギャップ法 ・・・
 ③赤裸々法 ・・・
 ④リピート法 ・・・
 ⑤クライマックス法 ・・・

 この中で特に参考になるのは、オバマ氏も得意としている「ギャップ法」ですね。

 “これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ”。映画「踊る大走査線」で織田裕二演じる青島俊作刑事の台詞「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」もこのパターンです。

 さて、本書、わかりやすい事例がたくさん紹介されていますが、“できたてをご用意いたします。4分ほどお待ちいただけますか?”といった「なるほど」と思うものもあれば、“いつもありがとうございます。領収書お願いできますか”といった「リアリティが薄い」ものもあって玉石混交です。

 全体としての印象は、軽い内容のHow to本であってそれ以上でもそれ以下でもないといった感じですね。著者の主張は、巻頭に付けられている1枚ペーパーで事足ります。
 私としては、事前の期待値が高かっただけに、ものすごい物足りなさが残った本でした。
 

伝え方が9割 伝え方が9割
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2013-03-01


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

老荘思想の心理学 (叢 小榕)

2013-08-25 20:32:59 | 本と雑誌

Laozi  ちょっと前に、加島祥造氏の「荘子 ヒア・ナウ」を読んだのですが、それに続く“道家入門”の著作です。

 巷間で耳にする老子・荘子を元とした言葉を材料に、その背後にある思想をわかりやすく解説していきます。ここでは、いくつかの「老荘のことば」とそれにまつわる著者の解説・コメントの中から、ちょっと気になったものを書き留めておきます。

 まずは、『荘子』(内篇・逍遥遊)にある「小知は大知に及ばず」という言葉について。

(p50より引用) 小知では大知は想像もつかないものと述べているが、小知とはこまごまとしたした智慧で、大知とは世間一般の常識にとらわれない無限の智慧を指す。

 これを、心理学的視点に立つと次のように解釈することができます。

(p51より引用) 小知に縛られた考え方は、心理学でいえば「機能的固着」で、そこからは「近い連想」しか生まれてこず、創造的問題解決を妨げる要因とされる。大知につながる思考パターンは、心理学でいう「創造的思考」で、アイディア同士が柔軟に結びつく「遠い連想(遠隔連合)」によって独創的なアイディアが生まれる。

 ただ、こうコメントされても、「では、どうやって『大知』を得ることができるのか」というと、そこで止まってしまいます。

 もうひとつ、こちらは意識の持ち方次第で実行できそうなもの、「人の評価」に関する教えです。材料は、『列子』(黄帝)、『荘子』(外篇・山木)にある「美醜二妾」

(p57より引用) 人の評価は、見た目のよさなど資質だけで決められるものでもなければ、善行などの行為だけで決められるものでもない。資質や行為を当の本人がどのように受けとめているか、その態度こそが、その人を評価する最も重要な条件だと、楊朱は宿屋の主人の話からその寓意を見いだし、弟子たちを戒めたのである。

 外見的に美しい女性がいたとして、「美しい」ということのみでその人の評価はくだせない、「自分は美しい」ことを彼女自身どう受けとめているのか、分かりやすくいえば、それを「鼻にかけているのか」、それとも「そのことを意識せず謙虚に振舞うのか」、その態度で評価が決まるという考え方です。

 さて、本書では、これらのほかにも多くの道家思想が心理学との係わりの文脈で紹介されていますが、その中からひとつ、「メタ認知」について。

(p107より引用) 自分の認知活動について一段高いところから眺めること(モニタリング)を「メタ認知」というが、外物にばかり心を奪われている時は、この視点がとれない。特に動機づけが高い場合は、直接の目的達成に心的資源を集中するため、自分を含む場面全体に注意が行き届かず、視野が狭くなり、情報処理に偏って、メタ認知ができなくなる。

 こういった状況にある人に対して、異なる視点からの指摘を行うためには、ちょっとした工夫が必要です。それが、寓話・寓言の活用です。直接的にアドバイスするのではなく、たとえ話をヒントに相手の自発的な気づきを惹起させるのです。

 たとえ話という「アナロジー」による論理展開(A:B=C:X)により「メタ認知」を促す(人のふり見て我がふり直せ)といったスタイルは、著者によると、道家の書物のひとつの特徴だということです。

 最後に、本書を読んでの感想ですが、「老荘思想」の入門書としてはあまり相応しくないかもしれません。たとえば、老荘思想の基本概念である“タオ”について、本書を読んでも理解できないでしょう。
 企画の着眼としては面白いのですが、内容に関してはちょっと物足りないですね。
 

老荘思想の心理学 (新潮新書) 老荘思想の心理学 (新潮新書)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2013-02-15

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奇跡の営業 (山本 正明)

2013-08-18 20:42:45 | 本と雑誌

Sony_life_insurance  レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。
 対人営業の実践的How to本です。

 40歳過ぎまで技術職だった著者は、家庭の事情から生命保険の営業マンに転職しました。そして試行錯誤の末、「お客様からの紹介を最重要視する」という営業姿勢を徹底することにより、素晴らしい営業成果を上げ続けることができるようになりました。

 開陳されているHow toのいくつかは、取り立てて珍しいものではなく、多くのこの類の本でも語られているものです。
 たとえば、「話し上手よりも聞き上手」を説く「傾聴の姿勢」もそうです。

(p75より引用) うまく聴くというのは、自分が聴きたい情報を引き出すことではありません。そんなことを聴いたところでお客様の満足度は少しも高まりません。
 相手がしゃべりたいことを存分にしゃべっていただき、「話したいことはすべて話した」という達成感をもってもらう。それが「うまく聴く」ということです。

 そのとおり、至極当然です。ただ、著者の場合はその「目的」が「紹介を得るため」という一点にフォーカスされているところがユニークなのです。

 お客様の満足度を高め好意的な関係性を築くことが、営業マンとしての信頼感を得ることにつながりますし、お客様からの話の中から、紹介していただく候補のヒントを見出すこともできると考えるのです。

 著者の商談の最後は、「アンケート」でクローズされます。
 このアンケートの構成や内容にも、著者による工夫が詰まっています。

 アンケートの最後の記述欄には、
 「保険に入る方ではなく、この様な保険の知識を伝えたい方はいらっしゃいますでしょうか?」
と書かれています。この問いかけで、何人かの知り合いの名前をお客様自身に記入してもらうのです。

 ともかく「保険」に関心のあるお客様を効率的に捕まえることが第一です。「契約を取る」ことを前面に出すのはNG。「契約の勧誘」をギラつかせると紹介者の方に大きなプレッシャを与え、結果、お客様は知り合いを紹介することに躊躇してしまうのです。

 この、著者の営業の生命線である「紹介」ですが、なぜ、お客様は自分の知り合いを「紹介」してくれるのでしょうか?
 この点について、著者はなかなか面白い意見をもっています。自分の担当営業マンに知人を紹介することは、お客様自身にもメリットがあるというのです。

(p131より引用) お客様にとって紹介のメリットはなにかといえば、営業マンが退職することなく長く担当してくれるということです。

 お客様の紹介により担当営業マンの営業成績が向上すると、営業マンの生活が安定し、長く(自分を)ケアしてくれるというのですが、ここまでお客の側が考えるかといえば、「?」ですね。ただ、とはいえ、著者の努力で多くの紹介者をゲットしているのは紛れもない事実のようですが・・・。

 さて、本書を読んで改めて感じる「成功の鍵」は、シンプルであり普遍的です。
 ともかく、いろいろな気づきをまずは「実行」するという姿勢ですね。

(p112より引用) 本書を読んで少しでも「いいな」と思ったことは、「そのうち試してみよう」ではなく、今日からすぐに実践してほしいのです。

 「やってみる」、これがすべてのスタートです。
 「実行」してみて、うまくいかなければ止めればいい、どんな素晴らしいアドバイスであっても「実行」しなければ、何も起こりません。「素直さ」「謙虚さ」は、強力な営業力です。
 

奇跡の営業 奇跡の営業
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2013-07-17


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

電話交換手たちの太平洋戦争 (筒井 健二)

2013-08-15 21:50:49 | 本と雑誌

Koukansyu  8月、毎年この時期には「戦争」関係の本を1冊は読むようにしています。
 今回選んだのは、元NTT職員の方が書いたドキュメンタリーです。

 本書のプロローグには、こう記されています。

(p7より引用) 第二次世界大戦中、「死んでもブレスト(ヘッドホン式送受話器)をはずすな」と教えられた電話交換手たちが、電話交換室に荒れ狂う爆撃の火の粉をもろともせず、通信戦士として最後まで通信を守った姿は、関係者の心にいまだ消えることなく刻まれている。

 主人公はこの“電話交換手”たち。本書では、全国各地の彼女たちをめぐる11のエピソードが紹介されていますが、それらの中から印象に残ったくだりを書き留めておきます。

 昭和20年6月28日深夜から29日未明にかけて、舞台は岡山電話局です。

(p148より引用) 「空襲じゃが」
 幸子はそう呟くと、交換台の下に身を伏せた。無条件反射だった。
「どうもない。ただの空襲だ。仕事をつづけなさい」
 主事の山中ミヨコの声が交換室の中に響く。
「準備開始、完全武装せよ!」
 交換課長柳瀬真一の声が交換室内に響いた。
 完全武装-それは防護服に着替えることだった。幸子たちはすぐに交替でロッカーに行き、モンペに着替え、頭にはブレストの上に鉄兜を装着、顎のところで紐をしっかりと留め、その上に防空帽を被った。

 この空襲で岡山城天守閣は焼け落ち、岡山市内は一面焦土と化しました。犠牲になった方々は1,737名にのぼったとのことです。

 そして、もうひとつの悲劇。
 8月15日の無条件降伏を過ぎた20日、南樺太の真岡町はソ連軍の侵攻を受けていました。そして、真岡郵便局で電話交換業務に従事していた9名の交換手は、ソ連軍の猛攻の中、自決の道を選んだのでした。
 その遺体を確認した局長田中康助の言葉。

(p230より引用) 「私たちがこれまで彼女たちに教えてきたのは間違いだったかもしれない。逃げようと思えば逃げられた。国のため、天皇のため職務をまっとうせよという言葉は生きて初めて役立つもんなんだ

 さて本書を読み通しての感想ですが、ドキュメンタリーというには取材の深さが今ひとつ、また、表現についても深みという点で物足りなさが残ります。
 ただ、国防の一翼を担う通信業務に携わっていた若い電話交換手にスポットライトをあて、彼女たちの業務遂行への使命感とそれを圧倒する戦争の悲劇とを扱ったテーマの着眼はユニークで、またとても重いものがあります。
 多角的な視点で改めて「戦争の罪悪」を考えるには、興味深い著作だと思います。
 

電話交換手たちの太平洋戦争 電話交換手たちの太平洋戦争
価格:¥ 1,500(税込)
発売日:2010-12


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

二重らせん (ジェームス.D.ワトソン)

2013-08-13 08:18:05 | 本と雑誌

Dna_animation  先日読んだ「知の逆転」のインタビューにも登場したジェームス.D.ワトソン博士の有名な著作です。

 DNAモデルの発見経緯についてはいろいろなエピソードが世の中的にも語られていますが、本書はまさに当事者の筆によるドキュメンタリーです。歴史的発見を競う科学者間の赤裸々な絡みやワトソン博士自身の心理的な葛藤等がリアルに記されていて、なかなか興味深いものがあります。

 たとえば、競争者であるアメリカの物理化学者ポーリングがDNAの構造をつかんだという手紙を目にしたときのフランシス・クリック(DNAモデルの共同発見者)の心情を描写したくだり。

(p154より引用) フランシスはひとり言をつぶやきながら部屋のなかを行ったり来たりしはじめた。自分の知能を一心に注ぎこめば、ポーリングがやったことくらい自分にだってやってやれないはずはない、といわぬばかりであった。ポーリングがまだ研究の成果を世に公表しないうちに、もしこっちが同時に発表すれば、われわれも彼と対等の名声を得られるわけだ。

 結果的には、このライナス・ポーリングの発見は間違っていたのですが、ワトソン・クリック両名には大きなプレッシャーとして圧しかかったのでした。

 さて、DNA構造発見までの物語に欠くことのできない人物として話題に上るのが、イギリスの物理化学者・結晶学者のロージィことロザリンド・フランクリンです。

 ロージィはDNAの研究をめぐり同僚(上司)のモーリス・ウィルキンスとしばしば衝突していました。このウィルキンスが彼女の撮影したDNAの写真を無断でワトソンに見せたことが二重らせん構造解明の大きな手がかりとなったのですが、その直前、ワトソンはロージィにポーリングの発見の問題点について議論していました。その激論の一部です。

(p165より引用) 私は彼女にはX線写真を解釈する能力がないとほのめかした。ほんの少し理論を勉強すれば、彼女がそれゆえにらせん構造ではないと考えている特徴が、実は、規則的ならせんを結晶格子に並べるのに必要なわずかなひずみから生じたものだということが理解できるだろうといった。

 ワトソンが二重らせん構造を解明した後は、それぞれ相手の立場を理解しあって関係は修復されたのですが、このころは、かなり感情的なぶつかりもあったようですね。

 最後に、本書を読み通しての印象です。
 確かに当事者でしか語り得ないリアリティのある内容だったのですが、少々プライベートな無駄話が多すぎるような気がしました。
 私としては、もっと、研究の過程のエピソードにフォーカスした重厚な叙述を期待していたので、少々物足りない残念な気分です。
 

二重らせん (ブルーバックス) 二重らせん (ブルーバックス)
価格:¥ 945(税込)
発売日:2012-11-21


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ずる―嘘とごまかしの行動経済学 (ダン・アリエリー)

2013-08-08 22:18:45 | 本と雑誌

Prada_aoyama  ダン・アリエリー氏の本は、以前「予想どおりに不合理」を読んでいます。最近はやりの行動経済学の入門書としてはなかなか面白かったですね。

 本書は、不正と意思決定をテーマにした同じ流れのものです。

 まず、著者は、本書での立論における基本的仮説を設定します。

(p37より引用) わたしたちの行動は、二つの相反する動機づけによって駆り立てられている。わたしたちは一方では、自分を正直で立派な人物だと思いたい。鏡に映った自分の姿を見て、自分に満足したい(心理学者はこれを自我動機と呼ぶ)。だがその一方では、ごまかしから利益を得て、できるだけ得をしたい(これが標準的な金銭的動機だ)。

 この二つの動機は相容れないものですが、私たちのもつ「認知的柔軟性」という能力はこの両者のバランスをとり、「ほんのちょっとだけのごまかし」を行う自分を正当化するのです。

 次に、著者は、どういう場合に人間は不正(ごまかし)をするのか」を数々の実験によって明らかにしていきます。「自分以外に見ている人がいないとき」「相応の金銭が与えられるとき」・・・、「疲れているとき」もそうです。

(p119より引用) 一般に、意志力がすり減ると、欲求を抑えるのにとても苦労するようになり、その苦労のせいで正直さまでがする減ってしまうのだ。

 こういうほんのちょっとだけの不正(ごまかし)は、それ以降の行為にも悪影響を与えることが、著者の「(偽)ブランド品」を使った実験で明らかにされています。

(p154より引用) 初めての不正行為は、その後の自分自身や自分の行動に対する見方を形成するうえで、とくに大きな意味をもつことも忘れてはならない。

 著者は、この状態を「どうにでもなれ」効果と名付けています。

(p153より引用) 最初のたった一つのごまかしが、自分の全体的な不正直さの水準が高まったという自己シグナルを発し、・・・それをもとにつじつま合わせ係数を大きくして、さらなる詐欺行為を行なうかもしれないのだ。・・・だからこそ、最も阻止すべきは最初の不正行為なのだ。

 さて、本書を読み通してみて、最も興味を引いた点をひとつ、最後に書き留めておきます。
 それは、著者が紹介している数々の「不正」促す要因の中に「創造性」を挙げている点です。

(p212より引用) 創造性は、厄介な問題を解決する斬新な方法を生み出す助けになるのと同じように、規則をかいくぐる独創的な方法を生み出し、情報を自分勝手な方法で解釈し直す助けにもなる。・・・わたしたちは創造性のおかげでもっと「よい」物語を―もっと不正なことをしても、自分をすばらしく正直な人物だと思い続けるのに役立つような物語を―紡ぎ出すことができるのだ。

 「創造性」は、美徳として、また社会の進歩を促進する重要な原動力として賞賛されるのが常ですが、この著者の指摘は意外であり、同時に的確でもあります。
 

ずる―嘘とごまかしの行動経済学 ずる―嘘とごまかしの行動経済学
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2012-12-07


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界の経営学者はいま何を考えているのか―知られざるビジネスの知のフロンティア (入山 章栄)

2013-08-03 23:25:54 | 本と雑誌

Peter_drucker  ちょっと評判になっている本なので手にとってみました。

 国際的な経営学の興味がどこにあるのか、米ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授の著者がライトなトークで紹介していきます。とても読みやすい内容ですが、改めて「なるほど」と思う点が数多くありました。

 その中の一つが「ポーターの競争戦略論」を取りあげているくだりです。
 競争戦略論における企業の究極の目的は「持続的な競争優位」を獲得することだと言われています。この「持続的な競争優位」を獲得するために企業はどうすべきか、その代表的な示唆が「ポーターの戦略」です。

(p63より引用) 経営学では、「Structure(構造)」「Conduct(遂行)」「Performance(業績)」の頭文字をとってSCPパラダイムと呼ばれます。

 ポーターの考えにおけるSCPが有名な「ポジショニング戦略」というわけです。

(p63より引用) ここでいうポジショニングには二種類があります。
 第一に、事業を行う上で適切な産業を選ぶ、という意味でのポジショニングです。SCPパラダイムでは、とくに「企業のあいだの競合度が低く、新規参入が難しく、価格競争が起きにくい産業が望ましい」とされます。

 ポーターの「ファイブフォース」は、このSCPパラダイムの観点から競争度合いを規定する要素として掲げられたものです。

(p64より引用) 五つのフォース(圧力)とは「新規参入圧力」「企業間の競合圧力」「代替製品・サービスの圧力」「顧客からの圧力」「サプライヤーからの圧力」のことですが、これらのいずれの圧力が強くなってもその産業では競合の度合いが高まるため、SCPの観点からは望ましくないということになります。

 現実的には、競合度合いの低い分野があったとしても、既存事業を抱えた企業がそこに新たに参入することは困難です。そこで、現在の土俵の中での「差別化」が重要になります。

(p64より引用) 仮に産業を移れないとしても、今自社がいる産業の中でできるだけユニークなポジションをとりなさい、というのがSCPの第二のポジショニングです。

 このあたりの説明は、大胆に割り切っているだけに分かりやすいですね。

 そして、この「ポーター流の考え」の潮流が今どうなっているか・・・。
 現在の「競争戦略論」においては「持続的」な競争優位自体、それを実現・維持することは極めて困難であると考えられています。

(p71より引用) 現在の競争優位は持続的ではなく、一時的なのです。そして「一時的な競争優位」を連鎖するように獲得していくことが、現代の企業に求められることなのです。

 「ポーターの競争戦略論」が機能する企業環境そのものが、以前に比して大きく様変わりしているのです。

 もうひとつ、著者の指摘として有益なものをご紹介します。
 多くのビジネス書が説く戦略・戦術に踊らされないためのアドバイスです。

(p120より引用) 戦略と業績のデータを見せられて、その戦略に経済効果があるという主張を聞かされたときには、内生性やモデレーティング効果を考慮しないことによる「見せかけの効果」を念頭においていたほうがよいということです。

 「内生性」とは、「(一見)効果をもたらしていると考えられる戦略の選択そのものが、何か別の要素に影響を受けている可能性がある(さらには、そのべつの要素が実は現出している効果に直接の影響を与えていることもある)」ということ、「モデレーティング効果」とは、「ある変数から別の変数への効果の強さが、さらに別の変数によって左右される」ことをいいます。

(p120より引用) ベンチマークでは、対象企業の戦略と業績を安易に結びつける前に、なぜその企業がその戦略を選んだのか背景を徹底的に分析し、別の要因がむしろ業績に影響を与えているのではないか、と疑ってみることが重要なのです。あるいは、その経営効果はどのような条件でもつねに成立するものなのかを疑ってみることが重要なのです。

 さて、本書、予想以上に面白い内容でしたが、「ドラッカーなんて誰も読まない!」というキャッチも、日本のこの手の著作の読者にとってはかなり刺激的です。

(p17より引用) 誤解をおそれずにいえば、ドラッカーの言葉は、名言ではあっても科学ではないのです。
 たしかにドラッカーの言葉一つ一つには、はっとさせられることが多くあるかもしれません。しかし、それらの言葉はけっして社会科学的な意味で理論的に構築されたものではなく、また科学的な手法で検証されたものでもありません。

 確かに、ドラッカーの著作は「学問としての経営学(学術的な論文)」かといえば、確かにそうではないですね。
 ただ、それだからといってドラッカーの示唆・箴言の価値が減耗するものではありませんが、こうはっきりと指摘されると、どちらかといえばドラッカーファンの私ですら爽快感を感じます。
 

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア 世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2012-11-13


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする