OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

Think Different (スティーブ・ジョブズⅡ(ウォルター・アイザックソン))

2012-02-29 23:24:00 | 本と雑誌

Apple_logo_think_different  以前読んだ「スティーブ・ジョブズⅠ」に続くジョブズ伝の後半です。

 1997年1月、ジョブズがアップルに戻ってきました。
 非公式・非常勤のアドバイザーという立場です。スカリー、スピンドラーに続き、当時のCEOはギル・アメリオ。彼はジョブズのファンではありませんでした。
 ジョブズはアメリオを退散させます。その際にも、例のジョブズの人間性が顔を出します。

(p50より引用) 「彼はそれが自分の利益になるからうそをつくのではなく、そういう人間だからうそをつくのだ」という、ヘルムート・ゾンネンフェルトがヘンリー・キッシンジャーについて語った有名な言葉がある。ジョブズの場合も、そういう人間だから、そのほうがいいと思えば、思い違いをするようにしむけたりいろいろ隠したりする。だが、逆に残酷なほど正直になり、ふつうならオブラートにくるんだり言わずにおいたりする真実を突きつける。うそをつくのも真実を語るのも、通常のルールは自分に適用されないというニーチェ的な姿勢から派生しているものなのだ。

 ジョブズのアップル建て直しのポイントは「製品」でした。そしてまた、アップルという「ブランド」の再構築でもありました。
 「シンク・ディファレント」。新たなプロモーションのキャッチコピーです。その心は、こういった印象的なメッセージとともに拡散されました。

(p75より引用) クレージーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。・・・しかし、彼らを無視することは誰にもできない。なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーだと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。

 アップルのブランド力は強烈です。私自身の経験でもありますが、10数年前、PCがwindows版に塗り込められているころ、やはりMacユーザには強いこだわりと独特のポリシーを感じましたね。

(p79より引用) ジョブズは、「どのコンピュータを選ぶか」という行為だけで、ユーザーが自らを反企業的でクリエイティブ、イノベーティブな反逆者だとみなし、主張できるようなブランドを作ったのだ。

 まさにこれは「ライフスタイルブランド」とも言うべきものです。

 このブランドは「製品」のデザインという媒体で顧客に具現化されます。ジョブズはデザインにこだわり抜きました。このデザインに関するジョブズのパートナーはジョニー・アイブ。彼のデザインスタジオは、ジョブズにとっては、デザイン作り以上の意味がありました。
 ジョニーの言葉です。

(p99より引用) ここなら・・・アップルが検討中の製品すべてが見わたせます。そうやってスティーブは、会社がどこにエネルギーを集中しているのか、また、どことどこがどうつながっているのかを把握するのです。そして、「あっちが伸びている状態でこっちをやる意味はあるのかい?」などと聞くわけです。彼はいろいろなものを関係性で把握するのですが、会社が大きくなるとそうするのはとても難しくなります。ここのテーブルにモデルを並べて一覧することで、スティーブは3年先の未来を見るのです。

 「集中」「知り捨て」「シンプル」・・・、ジョブズは、俯瞰的な視点から極めて明確な方向性を示していきました。


スティーブ・ジョブズ II スティーブ・ジョブズ II
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2011-11-02

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幸福なる人生 (中村 天風)

2012-02-26 09:08:36 | 本と雑誌

Nakamura_tempu  中村天風氏の本は、以前「君に成功を贈る」を読んだことがあります。この本も、前書と同様に天風氏の講演を書き起こしたものです。

 著名な政治家・経済人にも多くの信奉者をもつ天風氏の根本思想は「心身統一」。本書は、その具体的な実践方法を語っています。

 さて、「心身統一」において天風氏が最も大事だと説くのが「心の持ち方の積極化」です。そのための具体的な方法が「感応性能の強化」、この実現のためのステップについて、天風氏はさらにこう続けます。

(p100より引用) この感応性能を強くするには、三つの条件が解決されなきゃいけないんです。第一が観念要素の更改、第二が積極観念の養成、第三が神経反射の調節・・・

 この三つの条件を満たすための修練法がこのあと縷々解説されていきます。
 まずは「観念要素の更改」。これはどうやら、人間の潜在意識にある消極的な考え方を追い出し「積極観念」で満たそうとすることのようです。

(p126より引用) 観念要素の更改は、順序として理論的にいえば、われわれの心の持つ暗示感受習性が特別に旺盛に働くときに実在意識を積極的にすればいいんです。

 正直なところ何のことがわからないですね。じゃあどうすればいいか・・・。「暗示感受習性が特別に旺盛に働くとき」、これは熟睡に入る直前なのだそうです。このタイミングに思ったことは直ちに人の潜在意識に入り込むというのです。そこで天風氏が示す方法はこうです。

(p131より引用) どんなことでもいいから、思うほどに、考えるほどに自分の心が何となく勇ましく、微笑ましくなるようなことだけを考えてりゃいい。・・・
 寝際だけは心に一切の重荷を負わせないというこの気持ちこそ、まことに観念要素の更改の秘訣であります。

 こういった感じで、「積極観念の養成」「神経反射の調節」の法についても語っていきます。天風氏の講演の書き起こしですから、比較的わかりやすい反面、内容は少々冗長な印象を受けますね。

 また、本書では天風氏独特の辛口の言葉も印象的です。たとえば、人生訓・処世術等を諭した古今の名著を読んだ人に対して。

(p108より引用) 学者や識者の著した名文句を見て、煩悶を感じないで感心しているやつは、人生に対する考え方がまだ浅い人間ですぜ。・・・本当に人生を考えている人間はすぐ、そのよい文句のとおりの人間にどうしたらなれるのだろうか、というところにクエスチョンマークをつけるはずです。・・・
 私は遠慮なく言う。現実の人生への要求が満たされない者が、軽はずみに感激したり感心したりするのは、自分の浅はかさをさらけ出す行為であると。
 ・・・本当に腹の減っているやつは、絵に描いてるご馳走を見ただけじゃ腹は大きくならないのです。

 このくだりは確かに首肯できます。うわべだけで感心してそのまま何も変わらず、自らそうなろうという実践・努力を怠っているというのは、まさに耳に痛い指摘です。


幸福なる人生 幸福なる人生
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2011-10-27

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

データで検証!地球の資源ウソ・ホント―エネルギー、食糧から水資源まで (井田 徹治)

2012-02-24 23:19:15 | 本と雑誌

Jyunkan  東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所事故。一部で語られていた原子力の安全神話は一瞬にして吹き飛んでしまいました。

 本書では、原子力をはじめとしたエネルギー資源の問題を軸に、水資源・食糧資源・水産資源・森林資源・鉱物資源等の現状を豊富なデータにより紹介し、人類が標榜する「持続可能な社会」実現に向けた課題を浮き彫りにしていきます。

 私は、こういった関係の知識はほとんど持ち合わせていなかったので、本書から多くの気づきを得ることができましたが、その中から、エネルギー問題に関する解説部分の覚えです。

 今般の原子力発電所事故発生前までは、日本は世界でも有数の原子力発電依存国でしたが、他の国々は、すでに以前からかなりのペースで再生可能エネルギーへの転換を進めています。

(p139より引用) IPCCの報告書によると、伝統的なバイオマスを含めた再生可能エネルギーは2008年に64エクサジュールのエネルギーを供給、世界の総エネルギー消費のすでに12.8%をカバーするまでになっており、原子力発電をしのいでいる。

 太陽光発電に関しては、かつての日本はリーディングカンパニーだったのですが、諸外国で、電力会社への「全量固定価格買取制度(FIT)」の導入が進むにつれて遅れをとるようになりました。その他の風力・地熱・バイオマス等の活用も遅々として進んでいません。

 再生可能エネルギーのための資源量に関して言えば、日本は決して劣っているわけではありません。

(p283より引用) 確かに、石油や天然ガスなどの化石燃料資源や鉱物資源、レアメタルやレアアースの資源には恵まれてはいないが、日本は決して資源小国ではない。日本の国内とその周囲に存在する天然資源にいま一度、目を向け、それを保全し、持続可能な方法で利用していけば、激化する一方の世界の資源獲得競争の中で、日本は十分に生きて行けるし、国際競争の中で活路を見いだしていけるはずだ。

 海岸線も長く、火山活動も活発、森林資源も水資源も豊富にあります。また、いわゆる都市鉱山も未開拓です。ポテンシャルはまだまだあるだけに、この分野の積極的な推進は喫緊の課題なのです。

 さて、最後に、本書を読んで改めて思い知らされたことは、「地球環境は閉じた生態系だ」ということでした。エネルギー資源の問題は、バイオ燃料という点で食糧資源の問題と密結合ですし、水産資源の問題は、養殖場確保の点で森林問題とも関係があります。
 ともかく、ありとあらゆる問題は複雑に絡み合い「ゼロサム」さらには「マイナスサム」ゲームの様相を見せています。環境負荷を低減させる循環型社会実現に向けた取り組み、ハード的には技術革新ですし、ソフト的には価値観の転換が急務です。

 もうひとつ、何とかしたいのが「偏在」の問題です。
 エネルギー資源・希少価値鉱物資源の偏在もそうですが、食糧問題すなわち飢餓の問題には心が痛みます。

(p185より引用) 緑の革命の効果は頭打ちとなり、その弊害ばかりが目立ってきた21世紀だが、それでも年間の穀物生産量は22億トンにも上り、さらに増える傾向にある。・・・もし22億トンの穀物が公平に世界の人々に分配されたら、世の中から飢餓や栄養不足に苦しむ人はいなくなるはずである。

 1分間に10人近くの新生児や乳児の命が奪われている現状・・・、是が非でも「人の人たる叡智」を結集しなくてはなりません。
 

データで検証!地球の資源ウソ・ホント―エネルギー、食糧から水資源まで (ブルーバックス) データで検証!地球の資源ウソ・ホント―エネルギー、食糧から水資源まで (ブルーバックス)
価格:¥ 987(税込)
発売日:2001-01

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

リッツ・カールトン 一瞬で心が通う「言葉がけ」の習慣 (高野 登)

2012-02-21 22:25:38 | 本と雑誌

Ritzcarlton_osaka  友人からの紹介で手に取った本です。

 

 顧客満足度(Customer satisfaction)ではトップランク常連のホテル「ザ・リッツ・カールトン」。
 従業員に相応額の決裁権を与えたり、サービスの基本精神が書かれている「クレド(credo)」というカードを携帯させたりと、お客様第一の姿勢を貫いているホテルとして有名ですね。

 本書の著者の高野氏は、ザ・リッツ・カールトンの日本開業(大阪・東京)にも関わった方です。その高野氏が紹介するコミュニケーション術はとても実践的でわかりやすいものです。ただ、それに誰もが気づくかといえば、やはりそこにはプロフェッショナルの経験が必要なようです。

 そんな高野氏の豊富なアドバイスから、私の興味を惹いたものをいくつかご紹介します。

 まずは、ホテルの予約センターでの「お客様とのやりとり」について。

(p40より引用) 多くのホテルカンパニーはお客様とのこうしたやり取りを、無駄な時間、非生産的で非効率な時間と捉えています。1本の電話に4分以上はかけないなどといった、コールセンターのような指導をしているところもあると聞きます。お客様とお話しする時間をコストと考えているからでしょう。
 リッツ・カールトンはその時間を投資と位置づけます。お客様との絆を強くするための大事な時間ですから、そこにどれだけエネルギーを投資するかは重要なポイントなのです。

 ザ・リッツ・カールトンでは、予約のために電話されたお客様との会話から、できるだけ多くの情報を引き出し、その場の、もしくはその後のお客様サービスの材料として活かしているのです。この会話の時間を「投資」と位置付ける考え方は、確かに「なるほど」と思いました。

 このように、ザ・リッツ・カールトンでは、できるだけお客様と接してコミュニケーションをとることに努めています。そこから得られるちょっとした気づきを、お客様との「絆」を深める行動につなげていくのです。

 ただ、これも実際なんらかの「行動」を起こすとなると、はなかなか難しいものがありますね。

(p104より引用) 気遣いや気配りは、相手が欲していることをした時に、はじめて「気遣い・気配り」になります。相手が欲していない時は、それは「自己満足」や、「余計なお世話」になってしまうのです。

 そしてさらに、こういった「気遣い・気配り」の対象についても、ザ・リッツ・カールトンはプロフェッショナル(商売人)的視点で幅広に考えています。

(p132より引用) あなたにとって大事なのは、“今”のお客様だけではありません。この瞬間、お客様ではない方への今のあなたの対応が、将来の大事なお客様を作るのです。

 ホテルの玄関前でタクシー待ちをしている人、その人が宿泊者ではなくても相応の気配りの姿勢を見せる、CSも実利も意識した行動です。

 さて、本書を読んでの印象ですが、腹に落ちるところも多々ありましたが、私のようにホテルに行くのは出張のときぐらい、それも当然ビジネスホテルというタイプの人間からみると、語られているシチュエーションがちょっと別世界のような感じもしましたね。
 自分の身近なところでは気づかないホスピタリティの勉強にはなりますが、私などはこういうサービスを受けること自体に慣れていないので、かえって気を遣ってしまいそうです。なんとも情けないことですが・・・。


リッツ・カールトン 一瞬で心が通う「言葉がけ」の習慣 リッツ・カールトン 一瞬で心が通う「言葉がけ」の習慣
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-08-20

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

災害そのとき人は何を思うのか (広瀬 弘忠/中嶋 励子)

2012-02-18 08:59:16 | 本と雑誌

Sanfranciscoearthquake1906  著者の広瀬氏は災害・リスク心理学の専門家です。著者の思考の根底には、「災害は極めて人間的な現象」だという認識があります。

 本書は、そういう認識の根拠になるような災害に直面した際の人間のさまざまな行動について、心理学的側面から解説したものです。

 まずは「第1章 異常を感じたくない心理」の中で紹介されているいくつかの興味深いキーコンセプトについて書き留めておきます。
 理性的に考えると不可解なのですが、災害に直面して人は危険が迫っても「逃げない」、その結果「逃げ遅れる」といった状況が少なからず生じています。「先延ばしバイアス」です。

(p41より引用) 人間は、自分の得になることはすぐに決めたがり、損になることや面倒なことを先延ばしにしたがる傾向がある。

 これは経済心理学・行動経済学の世界では、「損失回避バイアス」という言い方で「投資行動」の説明でも登場する特性です。このバイアスに対応するためには、「今やらないなら、いつやるか」「やらないと何が起きるのか」を立ち止まって考える意思をもつことが重要になります。

 理性面からみて不可解な心理をもうひとつ、それは「正常性バイアス」と呼ばれるものです。

(p50より引用) 正常性バイアスは、危険を見まいとする自己防衛メカニズムが働く結果として現れる。

 危機が迫っても「自分は大丈夫」と漠然とした形で信じてしまう、こういった心理的な安定を図るための「自我防衛規制」が、リスクに対する知覚を鈍らせ、かえって身体の安全を損なってしまうというのです。

 災害に直面した際、人間一人ひとりをみると、様々な心理的なバイアスによって非理性的な行動をとってしまうようです。まさに、著者の「人間は、災害の発生や規模に影響を与えている」という主張そのものに合致してきます。

 さて、このような心理状況に陥らないようにする効果的な方法が、外部からの情報の取得です。信頼性の高い情報があれば、人は、それに基づき理性的な判断を下し的確な行動をとることができるのです。

(p51より引用) 社会を取り巻くリスクに関して正確な情報を、行政や専門家、企業、市民など利害関係者(ステークホルダー)の間で共有し、相互に意思疎通を図ることを「リスクコミュニケーション」と呼ぶ。

 東日本大震災においては、防災無線やラジオが有用な情報源になったといいます。また、新たな情報伝達ツールとしてTwitterをはじめとしたSNSの役割も注目されました。今後は、いかに「信頼性の高い情報」が「タイムリー」に共有できるかが最重要課題となるでしょう。

 最後に著者は、「第4章 災害時のストレスを超えて」で、災害後の立ち直りの方策を挙げています。
 この最終章の記述は、正直なところかなり物足りない感があります。たとえば、「リスクストレス」に立ち向かうための姿勢を語ったこういうくだり。

(p179より引用) 災害に耐える力と回復する力を備え、正しく分析し、クールに本質を捉え、リスクをコントロールすれば、リスクストレスに対抗できるはずである。・・・変化と適応を恐れない自由な自分自身を作り出していかなければならないだろう。

 それはそのとおりです。が、どうすれば耐える力を備えることができるのか、自由な自分自身をつくることができるのか、そこのところで多くの人々は苦しんでいるのでしょう。


災害そのとき人は何を思うのか (ベスト新書) 災害そのとき人は何を思うのか (ベスト新書)
価格:¥ 800(税込)
発売日:2011-07-16

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

采配 (落合 博満)

2012-02-14 23:09:08 | 本と雑誌

</object>
YouTube: 落合博満のバッティング

 現役時代の落合博満氏は、それは素晴らしい打撃技術をもった選手でした。
 厳しい内角の球でもファールにせずレフトスタンドへ、右方向のホームランはまさにバットに球を乗せて運ぶ感じ・・・、素人目にも図抜けていましたね。選手として前人未到の輝かしい実績を残した落合氏は、監督となってからも好成績を上げ続けました。

 本書は、その落合氏が、現役・監督時代を通した野球人生活における自らの経験・信念を書き綴ったものです。
 興味深いエピソードは数々ありますが、そのなかからいくつか覚えに書きとめておきます。

 本書のタイトルは「采配」
 落合氏の采配においての信念は「その場面で最善と思える決断をした」というものでした。

(p88より引用) 「今一番大事なことは何か」という点だけは見誤ることなく、そこには最善の手を打たなければならないだろう。プロ野球のシーズン、選手たちの活躍、「長いスパンで野球を楽しめるかどうか」を考えた上での「今」なのだ。

 このフレーズは大切な点を指摘しています。
 落合氏が考える「最善の手」は、その瞬間だけを意識したものではなく、その先も見通したうえでの判断だというのです。「なぜ、あそこで選手交代させたのか」・・・、落合采配に首をかしげる人とは、この「判断対象スパン」が異なるのです。

 もうひとつ、落合氏は、「選手」ひとりひとりを個人事業者として尊重していました。

(p190より引用) 球団の財産は選手だ。ならば、どんなことをしてでも選手を守らなければいけない。企業経営者と話をしても、常に考えているのは「どうやって利益を上げようか」ではなく、「いかに社員とその家族の生活を守っていくか」である。

 「企業は人なり」とはよく聞く言葉ですが、この言葉もよくよく吟味しなくてはなりません。
 落合氏の価値観は、「球団の利益<選手の生活」ですが、企業においてもそうなっているでしょうか。「人財」と言いつつ、人を「経営資源」(ヒューマンリソース)と考えているのであれば、その根底の思想は「会社の利益>社員の生活」ということでしょう。

 本書で開陳された落合氏の基本的な考え方・思考スタイルは、私としては、多くの点で首肯できるものでした。
 その納得感以上に、自らの信念を行動で表し、さらには実績に結び付けたという点で、落合氏の在り様は素直に素晴らしいと思いました。


采配 采配
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2011-11-17

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

社畜のススメ (藤本 篤志)

2012-02-11 09:19:28 | 本と雑誌

Mizushima_kombinat  今のご時勢、とても挑戦的なタイトルですね。

 戦後の復興期から高度成長期にかけては、日本企業を支えたのは「会社人間」でした。バブル崩壊のころからでしょうか、成長の行き詰まりから日本企業は西欧のマネジメント思想に傾倒し始めました。そこで登場するのが「個性人間」です。
 本書での著者の主張は、安易な「個性重視」の否定です。

(p33より引用) 「個性を大切にしろ」
「自分らしく生きろ」
「自分で考えろ」
「会社の歯車になるな」
・・・本書で私はこの四つの言葉をサラリーマンの「四大タブー」と呼ぶことにします。つまり、サラリーマンの正しい姿とは、個性を捨て、自分らしさにこだわらず、自分の脳を過信せず、歯車になることを厭わない存在となることである。そう確信しているのです。

 著者は、「自分らしさの追求」が、転職難民を生み出し、組織力を低下させ、かえって個人に対する精神的プレッシャーを高めるといった弊害を生起させたと考えています。

 ただ、著者はずっと歯車のままでよしとしているわけではありません。世阿弥の「守破離」を引用し、歯車(守)のステップを踏むことにより、次なる応用(破)・創造(離)のフェーズに進むことができると指摘しているのです。「応用」や「創造」のレベルで初めて「自分らしさ」「個性」が顕れることになりますから、守の段階で「個性」を抑えることが、結果的には「個性」を開花させることができるという主張です。

 本書での著者の主張は、多くのビジネス書に書かれているものと(表層的には)「正反対」のものが多く見られます。この点について、著者はこう語っています。

(p97より引用) 天才型のアドバイスは凡人には毒にもなりえます。・・・
 ・・・ビジネス書の著者は、世の中で成功者と言われているようなタイプが圧倒的に多数です。・・・
 しかし、まったく違うレベルの人のアドバイスにばかり耳を傾けても仕方がありません。

 著者の立ち位置を明確に示したフレーズですね。本書のタイトルは、「『能動的な』社畜のすすめ」なのでしょう。

 そして、最後にひとつ、本書の「あとがき」から、なるほどと思ったフレーズを。

(p189より引用) プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社では、「ワーク・ライフ・バランス」の代わりに「ベターワーク・ベターライフ」という言葉を使っています。仕事と生活はバランスを取るものではなく、相互に影響して高めあう存在である。そんな考えに基づいているそうです。

 P&Gらしい、静的ではなく動的な思想ですね。


社畜のススメ (新潮新書) 社畜のススメ (新潮新書)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2011-11

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スティーブ・ジョブズ I (ウォルター・アイザックソン)

2012-02-07 22:20:36 | 本と雑誌

Macintosh  スティーブ・ジョブズが亡くなった直後に発刊された彼の評伝です。
 とても充実した内容なので興味をもったところはそれこそ山のようにあるのですが、その中から特にいくつかを覚えとして書き留めておきます。

 1977年1月3日、アップルコンピュータは設立されました。立ち上げたのはスティーブ・ジョブズスティーブ・ウォズニアック、そしてマイク・マークラでした。マークラは出資者であると同時にジョブズのマーケティングの教師でもありました。
 マークラが記した「アップルのマーケティング哲学」と題したペーパーから。

(p137より引用) そのペーパーには、3つのポイントが書かれていた。
 1番目は〈共感〉だった-「アップルは、他の企業よりも顧客のニーズを深く理解する」。顧客の想いに寄りそうのだ。
 2番目は〈フォーカス〉-「やると決めたことを上手におこなうためには、重要度の低い物事はすべて切らなければならない」
 3番目に挙げられた同じく重要な原理は、〈印象〉だった。わかりにくいかもしれないが、これは、会社や製品が発するさまざまな信号がその評価を形作ることを指している。

 この教えは、その後ジョブズが産み出した数々の製品にまさに体現されています。
 その中の「印象」とういう点では、ジョブズは常々「洗練を突きつめると簡潔になる」と語っていました。

(p206より引用) デザインをシンプルにする根本は、製品を直感的に使いやすくすることだとジョブズは考えた。

 ジョブズの細部へのこだわりは徹底していました。たとえばMacintosh。そもそも筐体自体、分解しづらく作っているのですが、その内側の仕上げにも完璧を要求したといいます。根強いアップルファンを生み出している無用なものを削ぎ落としたスマートなデザインは、まさにアップルらしさの具現化ですね。

 さて、数あるジョブズ伝説の中で、彼の特殊性を表す特別なフレーズが生まれています。その中のひとつに「現実歪曲フィールド」というものがあります。
 それがどんなものなのか、マックチームに加わったハーツフェルドの言葉です。

(p194より引用) 「カリスマ的な物言い、不屈の意志、目的のためならどのような事実でもねじ曲げる熱意が複雑に絡みあったもの-それが現実歪曲フィールドです」

 この力から逃れることは困難です。「ジョブズはよくうそをつく」と言われますが、それもこの現実歪曲フォールドの現出形態のひとつのようです。

(p195より引用) 「スティーブは自分自身さえだましてしまいます。そうして自ら信じ、血肉としているからこそ、ほかの人たちを自分のビジョンに引きずり込めるのです」

 この「現実歪曲フィールド」現出の背景には、ジョブズの世間的なルールに従う必要はない、自分は特別な人間だとの信念があります。
 そしてそれは、極端な二分化思考にもつながります。ジョブズの周りのメンバは「賢人」か「ばか」、その仕事ぶりは「最高」か「最低」に色分けされました。それが幸せな人もいれば、不幸な人もいました。
 ジョブズは、広く万人にとって一緒に仕事をしたいというタイプではありませんでした。


スティーブ・ジョブズ I スティーブ・ジョブズ I
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2011-10-25

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人間の建設 (小林 秀雄・岡 潔)

2012-02-04 10:01:03 | 本と雑誌

Oka  評論家の小林秀雄氏と数学者の岡潔氏という同年代の巨人どおしの対談集です。

 お二人の会話を追いかけてみて、「なるほど」とサクッと腹に落ちるくだりもありましたが、知識の絶対量はもとより、話題の転換や論旨・論理という点でも、全くついていけないところの方が圧倒的でしたね。当然ではありますが・・・。

 とはいえ、その中でも、特に私の関心を惹いたところをいくつかご紹介します。

(p24より引用) 岡 ・・・よい批評家であるためには、詩人でなければならないというふうなことは言えますか。
小林 そうだと思います。
岡 本質は直観と情熱でしょう。
小林 そうだと思いますね。

 こういうやりとりは鳥肌が立ちますね。メタファ的な表現と本質をザックリと掴み出す指摘は達人技です。
 対話は、「批評」という小林氏の土俵を訪れたあと、今度は森氏のフランチャイズである「数学」を話題にします。

(p25より引用) 小林 このごろ数学は抽象的になったとお書きになったでしょう。・・・抽象的な数学のなかで抽象的ということは、どういうことなのかわからないですね。・・・
岡 それは内容がなくなって、単なる観念になるということなのです。・・・対象の内容が超自然界の実在であるあいだはよいのです。それを越えますと内容が空疎になります。中身のない観念になるのですね。それを抽象的と感じるのです。
小林 そうすると、やはり個性というものもあるのですか。
岡 個性しかないでしょうね。

 数学は「抽象的な観念」だと認めつつもそこには「個性」がある、研究者一人ひとりの「世界」があるというのです。そして、さらに、その「個性」について話は進みます。

(p26より引用) 岡 ・・・各人一人一人、個性はみな違います。それでいて、いいものには普遍的に共感する。個性はみなちがっているが、他の個性に共感するという普遍的な働きをもっている。それが個人の本質だと思います・・・それがほんとうの意味の個人の尊厳と思うのです・・・不思議ですが・・・個性的なものを出してくればくるほど、共感がもちやすいのです。

 ここにも「本質」という言葉が登場します。一流の研究者が一途に探求するのは、まさに物事の本質なのです。

 次にご紹介するのは、「時」に関してのお二人のやりとり。

(p51より引用) 小林 アウグスチヌスが「コンフェッション」(懺悔録)のなかで、時というものを説明しろといったらおれは知らないという。説明しなくてもいいというなら、おれは知っていると言うと書いていますね。
岡 そうですか。かなり深く自分というものを掘り下げておりますね。時というものは、生きるという言葉の内容のほとんどを全部説明しているのですね。
小林 時というものをよく考えています。

 私の理解力を遥かに超える会話なので、ここでお二人が共鳴している内容は分かりませんが、とても魅力的なやりとりだと感じました。

 そして、もう一度「詩と数学」についての話題。
 岡氏が、「数学は、まだ形に現れていないものを形にする」と話し、それに対して小林氏が「そうすると詩に似ている」と応えます。

(p115より引用) 小林 詩人は・・・言葉の組み合わせとか、発明とか、そういうことで新しい言葉の世界をまたつくり出している。それが、ある新しい意味をもつことが価値ですね。それと同じように数学者は、数というものが言葉ではないのですか。詩人が言葉に対するような態度で数というものをもっているわけですね。

 本書で紹介された対談、お二人にとっては気儘な雑談なのかもしれません。それがまた凄いことです。


人間の建設 (新潮文庫) 人間の建設 (新潮文庫)
価格:¥ 380(税込)
発売日:2010-02-26

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聯合艦隊司令長官山本五十六 (半藤 一利)

2012-02-01 23:04:34 | 本と雑誌

Yamamoto_last_image_alive  2011年暮れ「聯合艦隊司令長官 山本五十六」というタイトルで公開された映画の原作本です。
 主人公はその名のとおり「山本五十六」、この人物については個人的にもかなり興味があります。

 五十六は、1884年(明治17年)新潟県長岡生まれ、義理の叔父野村貞海軍少将らの影響を受け、早くから海軍軍人をめざしたそうです。海軍兵学校を卒業後、将官として要職を歴任、米国留学・勤務等も経験した五十六は、日本海軍の実力と各国の国力・軍備の状況を熟知していました。

 さて、本書ですが、著者の半藤氏は五十六と同郷、私淑する五十六の人となりを親愛の情を込めた語り口で描いていきます。

 対米戦争の呼び水になると頑強に反対していた「三国同盟」が締結されることとなったころ、五十六は近衛首相から、日米戦が起きたときの海軍の見通しについて尋ねられました。五十六の返答です。

(p90より引用) 「それは、是非やれと言われれば、初めの半年や一年は、ずいぶん暴れてご覧にいれます。しかし、二年、三年となっては、まったく確信は持てません。三国同盟が出来たのは致し方ないが、かくなった上は、日米戦争の回避に極力ご努力を願いたいと思います。

 五十六の願いに反して、欧州情勢の激動が、日本をさらなる戦争拡大の道に向かわせていきました。
 対米戦争が決定的となったとき、五十六は旗艦「長門」から親友の堀悌吉氏(五十六と同期・元海軍中将)に一通の手紙を送っています。その中に、五十六の忸怩たる思いと悲壮な決意が記されています。

(p144より引用) 個人としての意見と正確に正反対の決意を固め、其の方向に一途邁進の外なき現在の立場は誠に変なものなり。之も命という可きか」

 太平洋戦争の端緒を開いた真珠湾攻撃、日本海軍が大打撃を受け戦況の分水嶺となったミッドウェー海戦の総指揮を取った五十六、対米戦の回避を強く願いつつ、自らその戦いの中枢へ赴き遂には南太平洋で命を落としました。

(p252より引用) 山本五十六の死から二年四ヵ月、山本さんが望んだ講和とは、ほど遠いかたちで太平洋戦争は終わりました。・・・
 その戦争も遠い昔ばなしになりました。歴史的事実が、かつての戦争指揮者たちの無為無策、根拠のない自己過信、底知れぬ無責任を示そうが、いまの日本人にはかれらはみんな遠い存在となりました。・・・
 しかしながら、してはならなかった昭和の長い戦争において、「万骨の空しく枯れはてた」のはたしかなのです。・・・それゆえにわたくしたちは戦争の悲惨を正しく語り継がねばならないと思います。・・・いくら非戦をとなえようが、それはムダだ、と思ってはいけない。諦めてはいけない。心の中に難攻不落の平和の砦を築かねばならないのです。

 本書の「あとがき」で半藤氏はこう綴っています。


聯合艦隊司令長官 山本五十六 聯合艦隊司令長官 山本五十六
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-11-08

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

TREview

TREviewブログランキング

人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする