OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

伝統芸術 (ゴジラと日の丸(片山 杜秀))

2011-05-29 14:31:17 | 本と雑誌

Geinou_nou  著者の片山杜秀氏は、もともとは政治思想史の研究者ですが、音楽・映画・演劇といったジャンルにも造詣が深くその方面での評論活動も活発です。
 そういう背景もあり、本書では、「伝統芸術」の世界が、しばしばコラムの題材として取り上げられています。

 そのうちのひとつ、「古典芸能」という一種聖域に関しての著者の指摘です。

(p119より引用) 実は能とは、武士の厳しさと、昔の村祭りとかの気楽さとがゴチャマゼのまま残ってきた、とてもいびつな芸能なんです。・・・
 これと同じことは、他の古典芸能にも言えます。長い歳月をかけると洗練されるという話は、もっともらしい嘘です。実際は歳月を経れば経るほど、いろんな出来事が覆いかぶさるから、いびつになってゆくのです。そして、いびつなものほど色々に受け取れるから見飽きません。
 古典芸能の真の味わいは、いびつさにあり!

 確かに、「芸能」は、生まれたばかりの方が純粋だったというのは首肯できます。その姿を芯にして、様々な時代や心情の粘土が塗り重ねられ、塑像のように形作られていくものなのかもしれません。

 続いては、狂言師野村萬斎さんの芸風を切り口にした「個性を育て大事にする教育」についてのコメント。

(p253より引用) 「真似しちゃいけません、おのれの個性は自力で育てましょう」でしつけられた子供たちは、周囲から、ユニークな人、学ぶ(真似ぶ)べき人を見つけ、いろいろ真似し、そこから自らの個性をはぐくむことを妨げられたあげく、結果として、流行とか時代の空気を追うのが精いっぱいの無個性人間にばかり、育ってるんじゃないか?

 歌舞伎・能・落語等々、伝統芸能の一流は皆、名人先達の芸を「真似」ることを修行としました。それを極めることにより、先達とは異なる自らの個性・自分らしさが磨かれ出るのでしょう。自主性を重んじるという掛け声だけで「個性的な人間」が育つはずもありません。「真似る」ことは個性発揮のための必要なファーストステップだとの主張です。

 とはいえ、生け花の草月流創始者勅使河原蒼風を採り上げたコラムでは、著者はこう声高に叫んでいます。
 蒼風は狭義の生け花に対して、生ける客体を広げていきました。

(p512より引用) そんな蒼風のやり方はあまりに近代日本の姿にダブる。だってこの国は外国の科学技術や制度や思想を何でも頂いては少しアレンジするだけで、ずっとやってきたのだから。日本とは実は生け花国家であったのか!・・・
 ああ、日本は再び生けるべき何かを発見できるえだろうか?頼むよ、誰か真似させておくれよ!

 さて、本書、ともかく文字が小さくて分厚い。それだけに百花繚乱、玉石混交・・・、コラムの主張内容も首肯できるものばかりではありません。が、著者独特の視点はとても刺激的です。
 いろいろな意味で「なるほど」と興味深く感じられる評論が目白押しのなかなか楽しい本です。


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時代観・社会観・人間観 (ゴジラと日の丸(片山 杜秀))

2011-05-28 10:14:58 | 本と雑誌

Olympic_flag  採録されている400を超えるコラムの中から、さらに、私の興味を惹いたコメントの紹介を続けます。
 まずご紹介するのは、「作曲家古関裕而氏による戦時歌謡」をテーマにした小文です。

(p93より引用) 試みに、古関が敗戦間際に作った『嗚呼神風特別攻撃隊』でも聴きましょう。この歌は実に悲痛です。捨て身の体当たり攻撃をやるまでに追い詰められた日本人の絶望感が、この歌を聴くことでたちまち五十年の垣根を越え、現在生きる者の胸にひしひしと迫るのです。・・・
 ところが世の中には、『嗚呼神風・・・』とか言うと単に悪しき時代のシンボル、平和の敵と考え、そういう曲を歌うのは、軍国主義的で言語道断と決めつける人が多いのですね。そんな輩は結局、日本人が平和を考えるための前提とすべき戦争の記憶、戦時の情念の記憶にフタをしようとするのだから、実は彼らこそが真の平和の敵なのです。

 これは「短絡思考」を諌める一理ある指摘だと思います。

 次は、「オリンピック」の本質をシニカルに指摘したコラム。

(p185より引用) そもそもスポーツ一般には、人間に根っこから備わる野蛮さや暴力性を、ルールというきれいごとの鋳型にはめて、制度化している面がある。
 その意味で、あらゆるスポーツをテンコ盛りにしたオリンピックとは、オブラートにくるまれているが、実は立派な暴力の祭典でもあるのだ。
 にもかかわらず、そういうオリンピックなるものを、世間は、平和とか愛とか感動とか、妙な美辞麗句で粉飾しすぎるのではないか?

 「暴力の祭典」とまでの形容はどうかとは思いますが、「粉飾」されているという感覚は多かれ少なかれ感じられるところですね。ある種「偽善的」という感覚に近いものがあります。
 著者は、さらに、こう続けます。

(p185より引用) それでも、あくまでオリンピックを非暴力的なものとしてイメージしたいなら、こうしたらいかが?
 暴力を内に抱えたスポーツ一般とは一線を画する、非スポーツ的なもの-たとえば禅やヨガを、競技としてオリンピックに加え、実際にオリンピックの性格を変えていく。

 思わずニヤッとするような提案ですね。

 さて、最後のひとつは、「IT革命とちはやぶるもの」とタイトルされたコラムから、超高速化時代における「社会の歪」の指摘です。

(p431より引用) 人の生を巡る、幾らでも加速できる領域とそれができない領域とのギャップが、際限なく大きくなる。そしてその中でバランスを崩した人々の精神が、どんどん壊れてゆく。それが今なのだと思う。

 速ければいいわけではありません。そのスピードについていくことができなくても構わないはずです。そういう人々を最後救い上げるネットが、今、なくなりつつあります。ITではカバーできない「人と人とのかかわり」の次元です。
 

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平田昭彦、川谷拓三 (ゴジラと日の丸(片山 杜秀))

2011-05-27 22:14:57 | 本と雑誌

Gojira 文字が小さくて、それでいてボリュームのあるコラム集です。
 収録されているコラムは全部で400本を越えるのですが、その中から順不同に私の興味を惹いたものをご紹介します。

 まずは、「ゴジラ第1作(昭和29年(1954年))」に出演した俳優平田昭彦さんを取り上げたもの。

(p47より引用) 平田の本当の魅力は、見てくれの真面目さの裏にうごめく、不真面目でニヒルな〈はぐれ者精神〉にあったと、ぼくは信じている。・・・
 その意味で彼の代表作は、やはり54年の『ゴジラ』だ。何しろ、そこで平田の演じる芹沢博士は、戦争に傷つき、社会に背を向け、ゴジラと心中させられるはぐれ者、まさに平田の分身なのだから。

 実は私、子どものころから怪獣映画は大好きで、ゴジラシリーズはすべて見ています。この「ゴジラ」第1作もDVDで見ましたが、世相を反映した重々しい画面で、強烈なインパクトのある作品でした。その中でも芹沢博士は独特のキャラクターで、まさに平田氏のはまり役という感じです。

 もうひとつ、1970年代一世を風靡した「ピラニア軍団」。室田日出男さん・志賀勝さん・川谷拓三さんといった個性派脇役俳優らの活躍に、主役を食う下克上の痛快さを見た短文。

(p140より引用) そんな痛快なピラニア的時代も、間もなく終わった。なぜなら、ピラニアが食い荒らすべきビッグなスター、本物の権威といったものが、80年代以降、政治、芸術、芸能等々、どの分野でも見つからなくなったからである。
 ピラニアたちが活躍しすぎたのか、とにかく、脇役が主役を、低級なものが高級なものを、もう浸蝕しきってしまったのだ。結果、お互いの境界線は、ほとんど消えた。すべてはドングリの背くらべになった。

 確かに、豪放磊落、いかにもという「大スター」はいなくなりましたね。
 現在の映画界では、強いて言えば渡辺謙さんあたりがそれにあたるのかもしれませんが、ちょっと持っている雰囲気が違う気がします。とても真っ当な想定内の方なので、よしにつけ悪しきにつけ「伝説」にまでは昇華しそうにありません。


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帝国ホテルの不思議 (村松 友視)

2011-05-21 09:29:30 | 本と雑誌

Imperial_hotel   「帝国ホテル」。ある種構えてしまう響きですが、他方、私にとっては勤めている会社がご近所さんということもあり、ちょっとした親近感も抱いているホテルです。

 本書は、作家村松友視氏が、帝国ホテルの様々な部門で働く30人への取材を通して、「帝国ホテル」の帝国ホテルたる所以を描いたものです。
 とても多彩で魅力的な人々の紹介とともに、サービス業の原点を振り返る上でも、いろいろと勉強になるところがありました。

 その中から、客室課マネジャー小池幸子さんによる着物姿による“おもてなし”を紹介したくだりです。

(p32より引用) “おもてなし”はもちろん臨機応変、これまでの経験則や独特の勘、宿泊客の心のありようへの観察力、人間という不可思議な存在への読解力などの総動員が条件となり、過ぎたるは及ばざる以上のマイナスを呼ぶのだから、彼女が自然にこなすことを踏襲するのは至難のワザに違いない。小池さんが到達した「お客さまは十人十色ではなく、一人十色」という境地は、客室課の新人にとっては、気の遠くなるほどの高い地平であるにちがいない。

 お客様対応の経験者にとっては、この「一人十色」という感覚は首肯できるところでしょう。

 もうひとり、格式と伝統を誇る帝国ホテルならではのスタッフ、会員制バー「ゴールデンライオン」のピアニスト矢野康子さんの言葉です。

(p159より引用) 矢野 百人のお客さまの中に、ひとりでも本物がいるってことをつねに想定して弾きますので。・・・
-ひとり、本物がいることを想定するっていうのは、大事なんでしょうね。
矢野 でも、自分がいちばん分かりますからね。よそ様がいろんなことをおっしゃってくださっても、自分の力ってのは自分がいちばん分かりますので。

 矢野さんは齢80。そのお歳になっても日々の研鑽を欠かさないプロフェッショナルの構えですね。

 そのほか、あまり気づかない裏方の方々という観点からは、「シューシャイン」のキンチャン、「ランドリー」の栗林房雄さん、「氷彫刻」の平田謙三さんらのお話は興味深いものがありました。

 帝国ホテルという一種独特の環境ならではのエピソード。それぞれの方々の半生の中では、帝国ホテルにめぐり合った縁が、偶然とはいえ必然であったように感じました。


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生物から見た世界 (ユクスキュル/クリサート)

2011-05-18 23:03:33 | 本と雑誌

Kan_sekai  ちょっと前、日本における動物行動学の第一人者日高敏隆氏が著した「世界を、こんなふうに見てごらん」という本を読みました。視点の転換という点では非常に刺激的な内容でした。

 本書はその日高氏が訳出した古典的名著で、流石に大変興味深い内容を提供してくれています。「生物」を「主体」として位置づけ、その視点からみた世界(訳者は「環世界」と訳していますが、)をテーマにしたものです。

 本書の冒頭、著者は、「生物学者」としての自らの考察方法について、以下のように語っています。

(p13より引用) 生理学者にとってはどんな生物も自分の人間社会にある客体である。生理学者は、技術者が自分の知らない機械を調べるように、生物の諸機関とそれらの共同作用を研究する。それにたいして生物学者は、いかなる生物もそれ自身が中心をなす独自の世界に生きる一つの主体である、という観点から説明を試みる。したがって生物は、機械にではなく機械をあやつる機械操作係にたとえるほかはないのである。

 主体たる生物は、客観性あるいは後天性という視点からは説明できないような生得的な現象を生じさせます。

(p142より引用) 環世界の研究に深くかかわればかかわるほど、われわれには客観的現実性があるとはとうて思えないのに何らかの効力をもついろいろな要素が、環世界の中には現れるのだということを、ますます納得せざるをえなくなっていく。・・・
 こういうわけで、いずれの主体も主観的現実だけが存在する世界に生きており、環世界自体が主観的現実にほかならない、という結論になる。

 このあたり、本書の中で数々の実例が紹介されているのですが、それらはどれもとても不思議で興味深いものばかりです。

 訳者の日高氏は、あとがきの中で、このユクスキュルが提唱している「環世界」という概念の現代性について、こう指摘しています。

(p165より引用) 「環世界」というユクスキュルのこの認識は、「環境」ということばが乱れ飛んでいる現在、ますます今日的な、そしてきわめて重要な意味をもつに至っている。
 人々が「良い環境」というとき、それはじつは「良い環世界」のことを意味している。環世界である以上、それは主体なしには存在しえない。それがいかなる主体にとっての環世界なのか、それがつねに問題なのである。

 本書は、すべての生物において、それらを主体とした「環世界」があることを教えています。私たちは、つい当たり前のように、人間のみが主体で、周りはすべて客体であるという考え方に立ってしまいます。人間もひとつの主体ではありますが、生態系の中では、さまざまな主体のひとつ(one of them)に過ぎません。

 環境はひとつではなく、主体の数だけ等価値のある環境があること・・・、「人間中心的発想」の陥穽への戒めとして、物事を捉え考えるにあたっての重要な視座を改めて思い起こさせてくれる著作です。


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夢で逢いましょう (藤田 宜永)

2011-05-16 22:23:45 | 本と雑誌

YouTube: 懐かし昭和『テレビ流行語』

 この本も、今年の目標の「小説食わず嫌い対策」の流れで読んでみた本です。

 「夢で逢いましょう」というタイトルに惹かれて手に取りました。

 主人公は60歳を過ぎた幼馴染み三人組。1960年代から70年代を懐かしむ世代にはフィットするプロットです。章のタイトルも、「お笑い三人組」「バイタリス vs MG5」「Oh! モウレツ」「ゲバゲバ」「あの時君は若かった」「ジェットストリーム」・・・と並びます。

 小説ですから、内容の紹介は無しにします。その代わり、この作品で呼び起こされた私の思い出をひとつ書き留めておきます。

 私は主人公たちとは10年ほど下の世代なので、完全にシンクロナイズはしていませんが、共通の記憶として、「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」はインパクトのある番組でしたね。

 始まったのは、私が小学生のころでした。怒涛のように連続して流れるギャグコント。小松方正、宍戸錠、常田富士男、藤村俊二・・・と個性的な男優やコメディアンの面々が登場し、その中で、朝丘雪路、松岡きっこ、キャロライン洋子といった女性タレントの方々がアクセントをつける、最近のバラエティ番組とは作り方や映像の点ではっきりと一線を画すとんでもない番組でした。

 もちろん、圧倒的な存在感だったのは、何の脈絡もなく唐突に差し込まれるハナ肇の「アッと驚くタメゴロー」というキメ台詞。
 こういうナンセンスをカチッと作り込む玄人職人が活躍していた時代でした。


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グーグルでの3年間(グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた(辻野晃一郎))

2011-05-14 10:17:53 | 本と雑誌

 本書の後半は、著者がグーグル日本法人社長時代を語った章です。
 その中から、いくつかの気付きを書き止めておきます。

 まずは、よく言われている「グーグルのビジネスモデル」についてです。

(p195より引用) グーグルの基軸となっているビジネスモデルは、アドワーズ(AdWords)、アドセンス(AdSense)と呼ばれる仕組みが生み出すオンライン広告である。・・・
 ・・・グーグルは、ここで潤沢な資金を稼ぎ出し、それをインターネットやクラウド・コンピューティングの発展のために惜しみなく再投資している。そしてネット環境やクラウド環境を進化させることが、インターネットユーザーやトラフィックの数をどんどん増やし、結果的には自分達の広告収入の増加に還元される、という大きくて磐石な循環系を成立させている。

 通常の会社は、その事業規模や範囲が拡大してくると「事業部制」に移行します。しかし、グーグルは「オンライン広告事業」を「コアコンピタンス」と定め、他の事業はそれに従属させました。

(p197より引用) もしもグーグルが、オンライン広告事業部、アンドロイド事業部、グーグルマップ事業部などと、並みの会社のように全体を細かく分断してそれぞれの採算モデルを適用していたら、アンドロイドの開発も、ストリートビューの実現も到底不可能であろう。アンドロイドやクロームOS・・・のようなプラットフォームは短期間に広く行きわたることが重要で、ここで採算を気にして有料化などを行ってしまえば普及の大きな障害ともなる。
 また、ストリートビューなどは到底コストに見合わない活動として承認されないであろう。

 収支を度外視した事業に対して、収支責任を負わされた事業が太刀打ちするのは、やはり無理です。経営資源の供給源となっている事業にダメージを負わせない限り、枝葉は繁茂し広がっていきます。

 もうひとつの気づき、最近注目されている「クラウド・コンピューティング」の意味づけについての著者のコメントです。

(p221より引用) 私は、企業がクラウドを導入する本質は、IT投資の削減などということだけではなくて、社内のコミュニケーションや情報シェアを促進して経営のスピードを上げる、という点にあると考えている。
 そういう意味では、クラウド・コンピューティング環境の企業内導入に際して、一番重要なキーワードは「カジュアル」ということではないだろうか。ここでいう「カジュアル」とは、フランクで透明性が高く、フットワークが軽くてノリが良く、どんな意見でもきちんと聞いた上で、誰に対しても正々堂々と自分の意見を主張することを指す。

 クラウド・コンピューティングに関しては、ファシリティ面からも興味深い示唆がありました。
 データセンタ運営についての発想の転換です。

(p244より引用) サーバを構成するCPUやハードディスクなどのハードウェア部品も、一定期間で壊れることを前提にし、冷却などせずに壊れた部品は新しい物と置き換えていくという割り切りで作る

 急速なテンポで向上するハードウェア性能を活用するとともに、データセンタ設備の冷却のために増加し続ける電力需要を抑える方策としては、一考の価値がある指摘です。

 さて、最後の気づきとして、「グーグルのFind it、Fit it」について記しておきます。

(p244より引用) グーグルでは、何かの問題に対応する時に、とりあえずのパッチワークをやる、という発想があった。・・・大上段に振りかぶって、製品開発のプロセスそのものを抜本改善しよう、そのために全社プロジェクトを結成しよう、などというようなアプローチとは対極にあるスタイルであり、ネット時代の割り切った問題解決手法として、他企業にとっても大いに参考になると思う。

 抜本改善に着手しているうちに、その製品・サービスは過去のものになるというのが今の事業環境です。
 変化の「スピード感覚」を誤らないようにしないと、折角の地道な努力が、不幸にも「滑稽な無駄骨」になってしまいます。
 

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ソニーでの22年間(グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた(辻野晃一郎))

2011-05-11 22:07:12 | 本と雑誌

Sonyicf5800  著者の辻野氏は22年間のソニー在職後、3年間グーグル日本法人の社長を歴任しました。
 本書は、日米を代表する両社での貴重な体験を記した自伝的著作です。

 本書で語られるひとつは柱は、「なぜソニーは凋落したのか」というテーマです。
 その理由の一端は、ipodの対抗製品「ウォークマン」のマーケティング上の位置づけにも表れています。ウォークマンの一時的な巻き返し報道がなされたときのことについて、著者はこう述懐しています。

(p21より引用) ソニーの凋落が取り沙汰されるようになって久しいが、携帯音楽の世界の競争原理がデバイス(機器)中心だった時代からネットワークとの連携による付加価値の追求という時代にとうの昔に完全に切り替わっているのに、ソニーは未だに公式コメントで、「音質」とか「純粋に音楽だけを楽しむ層」などと言っているのだ。
 確かにソニーのウォークマンの音質や耐久性は優れているのかもしれない。しかし、それはもはや競争の本質ではないのだ。

 そもそもの顧客の関心(ニーズ)が変化し、競争の環境(戦う土俵)自体が動いているということを、ソニーはいつの頃からか気づかなくなったようです。

 著者は、ソニー在職時、いくつものプロジェクトの建て直しに取り組みました。セットトップボックスやハードディスクレコーダー等の不採算プロダクトを所管するネットワーク・ターミナル・ソリューション・カンパニー(NTSC)のトップに就いたとき、著者は、日産のカルロス・ゴーン氏に面会を求めました。
 以下のくだりは、その際、ゴーン氏の語った言葉の中で印象的だったものです。

(p122より引用) 彼が言っていたことの中に、「初めて日産を見た時には、とにかく問題だらけなので、大きなpotential of progress(改善の余地)を感じた」、ということがあった。そのようなポジティブ思考そのものが彼の真髄なのであろう。また、社内改革において抵抗勢力にどう対応すべきか、というテーマについては、just ignore them(ただ無視するのみ)という答えであったのを痛快に思った。

 私たちの世代にとって、SONYはやはり特別な存在です。「WALKMAN」の登場以前から、SONY製品は一種の憧れでしたね。最初に買ったSONY製品は確か中学生時代の「スカイセンサー」、多機能でメカニカルな外観は存在感十分でした。

 独創性・先進性の代名詞であったSONYが時代に乗り遅れ「並みの企業」になってしまった、本書では、その過程の渦中に在籍していた著者の視点からその内情が紹介されています。それはそれでリアリティを感じるのですが、できれば、自分という視座から離れたもう少し客観的な事実から、その衰退の要因を深堀して欲しかった気がします。


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かけがえのない人間 (上田 紀行)

2011-05-07 09:23:10 | 本と雑誌

 著者の上田紀行氏は、仏教にも造詣が深い文化人類学者です。

 本書の中心に据えている著者の危惧は、人間を「交換可能な『使い捨て』られる存在だ」と見る今の社会風潮にあります。著者が主張するアンチテーゼは、「人間は『かけがえのない存在』だ」という考えです。

 2006年、著者はダライ・ラマと面会し5時間にわたり対談をしました。その中で、著者はいくつもの気づきを得ていますが、その中のひとつが「社会的不正に対する怒り」についてです。

(p48より引用) ノーベル平和賞を受賞した宗教家というと、「怒りを捨てて、心安らかに平和を目指しましょう」と言いそうな気がしませんか?しかし、ダライ・ラマは差別や暴力に対して怒りを持たなければならない、愛や思いやりの心を持てばこそ、怒るべきだ、と言っているのです。

 社会的不正に対して怒らない、むしろ、みんなが社会的不正を感受している状況に共感すら覚えている今の日本の(特に若者の)状況に対して、著者は非常な危機感を持っています。

(p64より引用) 僕たちはそういう社会で使い捨てになっている。・・・
 本当はそこで、「バカヤロー」と言って、社会というものはそもそもそういうものではないんだ、それでは共同体でもなんでもないじゃないか、と怒らなければいけないところです。それなのに「全員が使い捨てだということをわかってくれた」と共感するような情けない社会になっているということが、今のこの社会で生じている問題の根本にある核心部分なのです。

 著者が訴える「かけがえのない人間」という覚醒は、次に実際の行動に移らなければ、時間とともに薄れていきます。逆に、その「かけがえのない人間」だという意識から、自らの行動を律し変えていく、「これからは、こうしよう」とか「もう、こんなことはやめよう」、こんなふうに行動を高めていけば、さらに意識も高まっていきます。プラスのスパイラルが動き始めるのです。

(p103より引用) 自分をかけがえのない人間だと認める、その時に自分の行動が変化します。そしてそれはもう一つの思いへとつながっていきます。それは、かけがえのないものだという扱いを受けられないで、使い捨てのように扱われ、尊厳をおかされている人を見ると、その人に何とかしてあげたいという思いが湧き上がってくるということです。

 「人の目を気にする」「過度に空気を読む」、そういった姿勢では「自分に価値を認める」ことは到底できません。
 どうすれば、人は「かけがえのない人間」だと気づくのか。著者が説くそのためのひとつの方法は「ネガティブな状況」をトリガーにするものです。

(p206より引用) 自分のかけがえのなさ、それは自分の人生を掘り起こすことから始まるのです。・・・
 ・・・特に私の人生でネガティブに見える出来事の意味を私たちは知っているでしょうか。・・・そこにこそ「かけがえのなさ」に気づく大きなチャンスがあるのに、それが活かされていない、そのことはとても残念なことです。

 ネガティブなものに正面から向かい合うとき、その苦悶と苦闘の経験が、他人にはない自分でしか持ち得ない「かけがえのない」経験となるということです。
 そして、その経験は未来へと繋がります。

(p220より引用) 未来の希望は、誰か他の人がかなえてくれるものなのでしょうか?・・・
 大きな誤解は、私たちの未来の希望は、誰かがかなえてくれるのだ、と思ってしまっているところにあるのです。・・・
 かけがえのない人とは、未来を創造していくという意識をもち、行動していく人なのです。

 受動的な人間から能動的な人間へ、「愛される人から愛する人へ」。自分自身を信頼することから始める、それが著者のメッセージです。


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木暮荘物語 (三浦しをん)

2011-05-04 09:39:49 | 本と雑誌

 今年の読書の目標が「食わず嫌い」をなくすこと。そういう点からいえば、文学的なジャンルの作品に無理にでも挑戦しなくてはならないわけです。

 以前は、サスペンス・ハードボイルド系はそこそこ読んでいたのですが、最近はよほどの時間つぶし目的でないと手を伸ばすことはありません。小説、特に最近のはやりの作品はほとんど読んでいませんね。「三浦しをん」さんも名前を知っているだけというありさまです。

 さて、本書、以前読んだ読売新聞の書評欄で小泉今日子さんが採り上げていたので記憶に残っていました。それがきっかけで手にとってみたのですが、理由は我ながら極めてミーハーですね。

 構成は、「木暮荘」を舞台にした7つの短編からなっています。それぞれの物語・登場人物が薄く関連している、その具合は適度です。
 小説なので、あらすじの紹介は差し控えます。私など到底思いつかないようなプロットで、なるほど最近の流行小説はこんな感じなのかと、(そういう視点からは)面白く読みました。

(p122より引用) 男女がお互いに求めるもののちがいが、こういうところにも表れるのだろうか。・・・男は花束をとおして、自身の力をアピールしようとする。金銭や自分の存在の大きさといったものを。でも女は、受け取った花束から相手の気づかいや対話の意志を読み取ろうとする。どれだけ自分の好みを知ってくれているか、どれだけ細やかな思いを注いでくれているかを。
 男女の気持ちがすれちがうのも当然だ。

 本書の印象を残しておくために、強いて書き止めたくだりです。

 ちなみに、「三浦しをん」さんのバックグラウンドを確認しようWikipediaを見てみると、彼女の生年月日は1976年9月23日とのこと。年は大きく離れていますが、私と誕生日は同じでした。


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スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則 (カーマイン・ガロ)

2011-05-01 09:32:07 | 本と雑誌

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YouTube: Apple Music Event 2001-The First Ever iPod Introduction

 アップルCEOのスティーブ・ジョブズは、その経営手腕もさることながらプレゼンテーションの見事さでも有名です。
 もちろん、そもそも彼が紹介するプロダクト自体とても魅力的なのですが、それを、より効果的・印象的に伝える彼のコミュニケーション能力によるところも非常に大きいのです。

 本書は、ジョブズによる数々の具体的プレゼンテーションを取り上げて、その成功の秘訣を紹介しています。その中には、ジョブズならではの工夫もあれば、普遍的な原則も含まれています。

 まずは、普遍的なものからいくつか覚えに書き留めておきます。
 一つ目は、「プレゼンテーションは聞き手のため」という姿勢についてです。

(p48より引用) プレゼンテーションを準備しているとき忘れてはならないことがある。プレゼンテーションの対象が自分ではなく、聴衆であることだ。聞き手は「なぜ気にかける必要があるのか」と必ず自問している。まずこの問いかけに答えてあげれば、聴衆を話に引き込むことができる。

 これはあまりにも当然のことですが、実際これを満たしているプレゼンテーションは数少ないですね。
 話し手は、つい、自分の伝えたいことを自分なりのストーリーで、それこそ一方的に話してしまうのが現実です。その結果、「それで、結局、私にとって何がいいの?」という疑問が、聞き手のフラストレーションとして残ってしまうのです。

 二つ目は、「ヘッドライン」
 一言で惹きつけ、あらゆるプロモーションを通して徹底的に浸透させるフレーズの重要についてです。その典型的な成功例が、ジョブズ自身が考えたといわれている2001年10月の「ipod」発売時のヘッドラインでした。
 「ipod。1000曲をポケットに。(1,000 Songs in Your Pocket.)」

(p92より引用) アップルのヘッドラインが記憶によく残るのは、3つの条件を満足しているからだ。簡潔(英語27文字,日本語訳で12文字)、具体的(1000曲)、そして、利用者にとってのメリットがわかる(ポケットに入れて音楽を持ち歩ける)。

 他方、ジョブズならではといったプレゼンテーションのテクニックもあります。
 たとえば、「敵役」を登場させて、自らの製品の素晴らしさ・革新性を際立たせる演出。

(p154より引用) 悪玉を創りだし、正義の味方がもたらすメリットを売り込むという技術、その能力こそ、スティーブ・ジョブズのメッセージ力の源泉であり、彼のプレゼンテーションやインタビューで必ずといっていいほど見られるものである。

  もちろん「正義の味方」は「アップル」です。悪玉は・・・、以前は、たとえば「ビッグ・ブルー(IBM)」、そして、最近は「マイクロソフト」ですね。悪玉が支配する市場に対して、正義の味方が挑みます。もちろん、悪玉に不満を抱いている利用者のためにです。

(p134より引用) 「なぜこれが必要なのか」-この一文だけで敵役が導入できる。ジョブズはこの質問からスタートして業界の現状を語り、・・・解決策を提示するという次の段階のお膳立てをしてしまう。

  また、ジョブズならではの機転の利いた言い回しもあります。その中でも特に秀逸だと感じたのが、「シェア5%の表し方」でした。

 以前のアップルのPC市場でのシェアは非常にわずかなものでした。今でもそれほど高いわけではありません。そういう現状を、ジョブズは見事に逆手にとって、アップルブランドの価値を高めていくのです。

(p193より引用) 「アップルの市場シェアは自動車業界におけるBMWやメルセデスよりも大きい。だからといって、BMWやメルセデスが消える運命にあると思う人はいないし、シェアが小さくて不利だと思う人もいない。それどころか、どちらも人気の製品だし人気のブランドだ」

  うまいもんです。こういわれると、むしろ「5%」である方が魅力的に感じてしまいます。

 本書は、ジョブズのプレゼンテーションが卓越して魅力的に感じられる、その秘訣を紹介している本ですが、そのメインテーマ以外でも興味深い気づきが数多く得られました。

 その中からひとつ、最後に書き留めておきます。
 アップルのデザインを担当しているジョニー・アイブへのインタビューから、「個性的デザイン」について語ったくだりです。

(p163より引用) 「おもしろいのは、そのシンプルさから、やりすぎというくらいのシンプルさから、そのシンプルさの表現から、とても個性的な製品が生まれるという点です。・・・」

  初代ipodは、ジョブズのシンプルさへのこだわりが生み出したのです。

 
スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則 スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2010-07-15

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