OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

ロスジェネの逆襲 (池井戸 潤)

2014-02-28 22:54:41 | 本と雑誌

Building  池井戸氏の作品は「下町ロケット」に続いて2冊目です。

 本書は、昨年大流行したドラマ「半沢直樹」の原作。私自身「倍返し」というフレーズが大嫌いなので、一度もテレビドラマは見たことがないのですが、食わず嫌いはマズイと思い読んでみたものです。

 結果は・・・、やはり私には合いませんでした。

 登場人物の善悪・正邪がはっきりし過ぎているので、行動パターンが単純ですし、ストーリーの舞台も金融・ベンチャーですから新規性もありません。結末も“予定調和的”ですね。

たとえば、敵対的買収へに対抗手段を相談しているシーンでの主人公の台詞。

(p306より引用) 「銀行が政治決着しようと、我々は上っ面やご都合主義ではなく、本質を睨んだ戦略を選択したい。それこそが勝利の近道です」

 至極当然ですね。むしろ、相手方の戦略が余りにもお粗末過ぎます。

 また、理不尽な動きに対して「望ましい企業の枠組み」についての自身の信念を部下に語るシーン。

(p366より引用) 「簡単なことさ。正しいことを正しいといえること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ただそれだけのことだ。ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される。・・・」

 これも当然です・・・。

 さて、改めて読み終えた感想ですが、正直なところ、典型的なステレオタイプの“勧善懲悪”ものでかなり期待からかけ離れた作品といった印象です。
 先に読んだ「下町ロケット」の方が、まだ主人公のプロットやストーリーの舞台に一工夫あったように思います。かなり残念ですね。

ロスジェネの逆襲 ロスジェネの逆襲
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2012-06-29

 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本人へ 危機からの脱出篇 (塩野 七生)

2014-02-22 09:42:21 | 本と雑誌

Gareki  妻が読み終わったので借りた本です。
 この塩野さんの「日本人へ」のシリーズは、1作目の「リーダー篇」、2作目の「国家と歴史篇」ともに以前読んでいます。

 本書は、その3弾目。現代社会の「危機」に対する構えについて、例のごとく塩野さん一流の歯切れのいい主張が紹介されています。
 具体的な内容は「文藝春秋」のコラムをベースにしたものなので、その時の世相を反映した小文の集合体という体裁です。採り上げられているテーマは、やはり、イタリアや日本を舞台にした政治的なものが多いですね。

 たとえば、「世界中が『中世』」というタイトルの章では、多くの国家が集う国際会議を材料に、そのなかでのリーダー役の要件について論じています。

(p58より引用) 『ローマ人の物語』を書きつづけている間頭からはなれなかった想いは、「勝って譲る」という、あの人々に一貫していた哲学だった。勝ちつづけながらも、一方では譲りつづけたのである。ローマが主導して成り立った国際秩序でもある「パクス・ロマーナ」(ローマの平和)とは、この哲学の成果であった。
 結局は譲るのだったら、始めから勝つこともないのに、と思われるかもしれない。だが、勝つことは必要なのだ。なぜなら、他の国々に、主導されることを納得されるためである。

 このあたりの着眼や言い回しは、まさに“塩野流”ですね。

 もうひとつ、新首相(当時は民主党)のリーダシップについて語ったくだり。日本大震災直後の東北地方の復興プロセスにおける政治&政治家の役割を指摘しているのですが、短いフレーズで的確ですね。

(p112より引用) 政治とは、窮極のインフラストラクチャーである。インフラを整備するところまでが政治の分野で、それをどう活用するかは国民各自の自由。・・・自らの守備分野を冷徹に認識できたとき、人は「凡」から脱せる。つまり、政治家志願者から政治家になる。

 こういった視点にみられるように、本書では、前著からの流れを引き継いだリーダー論・統治論を綴るにあたって、「東日本大震災という未曽有の大災害に直面した日本の政治・社会」という切り口が加えられています。

 その中から、特に私の印象に残った部分をご紹介しましょう。

 仕事で日本に帰国した塩野さんは、自分の目で見るために震災の被災地を訪れました。
 現地の宮城県庁がれき処理担当の方との話は、塩野さんにとっては、何とも情けなく、また、居たたまれないものだったようです。

(p160より引用) もう一つ心に残ったのは、私たちはお願いする立場ですから、という言葉だった。あの未曾有の大災害に耐えてきた人々に、お願いする立場ですからなんて言わせて、心が痛まない日本人がいるのだろうか。いたとしたら、どんな顔をして、がんばろう日本、なんて口にできるかと思う。
 がれき処理は、日本人全員の問題である。・・・私に話してくれた係の人は、東京都が引き受けてくれると知ったときは涙が出たと言った。こんなことで涙を流させては、日本人の恥ではないか。

 当時の東京都の対応についての報道です。

 「東京都が東北以外の自治体で初めて、東日本大震災で発生した災害廃棄物(がれき)を受け入れて処理を始めたことに対し、都民らから反対の声があることについて、石原慎太郎知事は4日の定例会見で「(放射線量などを)測って、なんでもないものを持ってくるんだから『黙れ』と言えばいい」と語った。・・・石原知事は「放射線が出ていれば別だが、皆で協力して力があるところが手伝わなければしようがない」と指摘。「皆、自分のことばかり考えている。日本人がだめになった証拠だ」と述べた。(2011.11.4)」

 私は、石原前知事の基本的な政治観について賛同するものではありませんが、このケースは、言い方はともかく、あるべき姿に向かったひとつのリーダーシップの発揮形態として評価されるべきだと思いますね。

 最後に本書を読み通しての印象ですが、今後の塩野作品としては、小文の再録ではなくて、それなりのボリュームでの随想を期待したいです。
 本書を含めた3部作はその執筆時のトピックを意識したタイムリーなものですが、そういう時勢に囚われない真正塩野的「日本人論」をゆったりと説き起こして欲しい気がしました。
 

日本人へ 危機からの脱出篇 (文春新書 938) 日本人へ 危機からの脱出篇 (文春新書 938)
価格:¥ 893(税込)
発売日:2013-10-18


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

素人の目線(売る力 心をつかむ仕事術(鈴木 敏文))

2014-02-17 21:19:20 | 本と雑誌

Seven_eleven_logo  鈴木氏は、みずから新商品・新サービスを発想し、それを強いリーダーシップで実現していきました。

 新たなものを生み出すということは、「未来」に目を向けるということです。そして、その場合、注目する対象は、当然、「未来の顧客のニーズ」ということになります。「今の競合会社の動向」がどうこうというのは二の次です。

(p116より引用) 真の競争相手は絶えず変化する顧客ニーズである。・・・目を向けなければならないのは、「明日の顧客」のニーズです。

 しかしながら、どうやれば「明日の顧客ニーズ」が掴めるのか?
 よく言われているように、顧客にアンケートをとったところで、現時点で存在しないものニーズなど分かるものではありません。著者は「お客様の心理を読む」ことだと説いていますが、さて、どうやれば心理を読むことができるのか・・・、これは難問です。

 これについて、著者が自らの経験から提示しているのひとつのヒントは「素人の目線」です。

(p139より引用) 普通の生活感覚で考え、「素人の目線」を忘れずに、不満に感じたり、「こんなものがあったらいいな」と思うことからヒントを得て、顧客ニーズに応えるための仮説を立てる。答えはいつも、お客様のなかにあると同時に、「自分」のなかにもあるのです。

 たしかに、一般消費者を対象としたサービスの場合には、「自分」も“顧客”の一人ですから、自身の主観的感覚を客観化して仮説を立てるというのは有効なアプローチ方法ですね。

 そしてこの「素人の目線」で見る場合、著者は、消費者は必ずしも「経済合理性」に基づいた行動をとるとは限らないという前提に立って考えます。数年前から一種の流行になっている“行動経済学”的思考スタイルですが、著者の場合、以前から自らの経験にもとづきこういった事象の捉え方を実践していたようです。

 顧客の心理を読んで「仮説」を立てた次は「実践(行動)」です。
 この“仮説-実践”を軸としたPDCAサイクルを素早くまわし、顧客ニーズの変化に敏感に対応し続けることが“鈴木流経営スタイル”の肝になるのですが、この「実践」において、著者は、幻冬舎の見城社長からの興味深いアドバイスを紹介しています。

(p162より引用) 機を逃さない、きめ細かな戦略を実施するため、印刷会社や広告代理店もあえて大手は使わず、自社が上位のクライアントになるような、中小規模のところを選び、機動的で小回りの利く対応をしてもらうといいます。戦略を立てるときには、自分の戦いやすい環境をつくるという見城さんらしい手の打ち方です。

 小売業の場合の「実践」とは、“商品の提供”です。
 ただ、今日のように数多くの商品・サービスが目の前に並び消費が飽和状態にあるときには、提供商品の絞り込みが有効になります。“レコメンド”ですが、その絞り込みの際のキーワードも「お客様の立場で」です。

(p185より引用) わたしたちが商品を提供するときに忘れてならないのは、お客様に対して選ぶ理由を提示できているかどうかです。それは「お客様の立場で」考えなければわかりません。種類をたくさん置けば、お客様に喜んでもらえると考えるのは、コンセプトを打ち立てることもできなければ、仮説も立てられない売り手の勝手な思い込みにすぎないのです。

 さて、本書では、鈴木氏がここ数年で仕事上関わった方からの気づきも随所で紹介されていますが、その中から、セブンイレブンのブランディング戦略に取り組んだデザイナー佐藤可士和さんの言葉を最後に書き留めておきます。

(p228より引用) 「『当たり前』とは『あるべき姿』のことで、いわば理想形です。『当たり前』のことができるのはものすごくレベルの高いこと」とは、佐藤さんの言葉です。

 この言葉の意味付けのポイントは、誰にとっての「当たり前」かという点です。
 自分の都合の範囲内での「当たり前」ではなく、相手にとっての「当たり前」を愚直に実現していく。これが、まさに著者にとっての「相手の立場で」という基本姿勢につながるのです。
 だからこそ、「当たり前」は、「ものすごくレベルの高いこと」であり、目指すべき「理想形」なのです。
 

売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939) 売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939)
価格:¥ 809(税込)
発売日:2013-10-18


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お客様の立場で (売る力 心をつかむ仕事術(鈴木 敏文))

2014-02-14 22:56:03 | 本と雑誌

Seveni_logo  セブン&アイ・ホールディングスの総帥鈴木敏文氏の本は、以前「朝令暮改の発想」を読んだことがありますが、こちらは自らの経営理念を紹介した比較的新しい著作です。

 内容としては、「『お客様のために』ではなく『お客様の立場で』」といったあまりにも有名な鈴木氏の基本的な経営姿勢をはじめとして、長年にわたるトップ経営者としての経験に裏打ちされた数多くの示唆が開陳されています。まさに鈴木本の手軽なベスト版といった趣きです。

 それらの中から、旧知のものも含め、記憶に刻んでおきたい教えを書きとめておきます。

 まずは、タイトルにもなっている「売る力」についてです。

(p8より引用) 「売る力」とは、お客様から見て「買ってよかった」と思ってもらえる力である。
 だから、売り手は常にお客様の求めるものをかなえる「顧客代理人」でなければならない。

 まさに、この考え方が「お客様の立場で」という鈴木氏の基本姿勢と同値のものです。
 そういったお客様側の視座にたつと、営業・販売プロセスの中で起こる「事象」の意味づけも変わってきます。

(p11より引用) 売り手の視点とお客様の視点は、正反対です。たとえば、「完売」です。売り手は商品が完売すると自分たちには「売る力」があると思うでしょう。一方、完売後にやってきたお客様は、「なんで、もっと多めに用意しておかなかったのか」と売り手に不満を抱き、「買いに来なければよかった」と後悔し、この店は「売る力」が不十分だと思うはずです。販売の機会ロスが生じているのは確かなので、お客様の視点のほうが正しいと、私は思います。

 セブン-イレブンでは、「完売」は「欠品」であり、改善すべき課題と位置づけられるのです。

 さて、著者のいう「売る力」ですが、もう少し踏み込むと具体的はどんな要素に分解されるのでしょうか。そのひとつは「差別化」ですが、著者の差別化には、その頭に「自己」という二文字が追加されているのが肝です。

(p43より引用) 競争とは自己差別化です。社会が豊かになればなるほど、「売る力」として自己差別化が求められることを忘れてはなりません。

 「自らが変わる」「自らの製品・サービスを変えていく」という能動的なプロアクティブな動きです。そして、その「自己差別化」を発揮し参入する土俵の定め方にも著者ならではの発想が表れています。

(p60より引用) 参入が容易で誰もがねらう六割のお客様に目を奪われず、空白地帯にいる四割のお客様のニーズに確実に応えることで大きな成果を得る。市場の大小に目を奪われるか、自己差別化で勝ち残れる道を見いだすか、違いがここにあるのです。

 みんなが経験的に「いい」と思うことは、それこそみんながやりますから、それこそ厳しい競合状態になります。結果、みんなが賛成することはたいてい失敗し、むしろ「そんなのだめだろう」と反対されることの方が成功する確率が高くなるのです。

 この考え方は、本書の中では何度も強調されています。

(p92より引用) みんなが「いい」ということをやれば、六割のお客様を相手に九割の売り手と競争することになるのに対し、反対されても挑戦すれば、四割のお客様を相手に一割の売り手とともにビジネスができる。
 過去の延長線上で考えて誰もが賛成することはおおむね未来の展望が乏しく、逆に反対されることは多分に未来の可能性を秘めています。

 みんなが「いい」ということは、過去の成功体験に基づいた判断です。過去の成功は、その時点での未来志向の判断の結果だったはずです。
 過去と未来、どちらに目を向けるかというと、その答えは自明ですね。
 

売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939) 売る力 心をつかむ仕事術 (文春新書 939)
価格:¥ 809(税込)
発売日:2013-10-18


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フェアトレードのおかしな真実―僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た (コナー・ウッドマン)

2014-02-07 23:52:51 | 本と雑誌

Fairtrade  新聞の書評欄で紹介されていたので読んでみました。

 従来のジャンルでは「南北問題」にカテゴライズされる問題意識にもとづく内容を、企業の社会的責任(CSR:corporate social responsibility)や地球環境環境・貧困等の観点で論じています。
 “フェアトレード”等、昨今流行の認証ラベルの実態も明らかにしつつ、世界各地の人々の生活環境・労働環境等の現実を掘り下げている姿勢が新鮮です。

 いくつかのレポートが紹介されていますが、たとえば、大手レストランチェーン「レッド・ロブスター」を所有しているダーデン社の場合。
 同社の上級副社長は「当社の製品規格には、潜水漁によるロブスターは購入しないと明記している」とコメントしています。

(p51より引用) 大企業の言い分はこうだ。「われわれは潜水によるロブスター漁が悪いことだと知っている。だからその手法で獲られたとわかっているロブスターは買わない」。そして、「潜水で獲られたと分かっているロブスターを買っていないわけだから、何も問題などあるはずがない」
 これは立証するのが難しい主張だ。・・・いったん梱包され出荷されてしまえば、そのロブスターがどういう方法で獲られたのかを知る術などないのだ。

 本書のタイトルにもなっている“フェアトレード”については、その推進母体である「フェアトレード財団」の活動の実態にも踏み込んでいます。

 フェアトレード認証の仕組みとしては、認証を受けた製造業者や流通業者は、フェアトレード財団に手数料(認証料・登録料)を支払うことになっています。

(p78より引用) 卸売業者に課される手数料は、フェアトレード財団が毎年上げている収入の大部分を占める。・・・その半分が認証プロセスの運営・管理にかかる管理費に消えていく。
 では、残りの半額は農家の手元に届くのか?答えはノーだ。残りは、フェアトレードのブランドを宣伝するために使われる。

 農家等は「フェアトレード価格」での取引という形でメリットを享受する仕掛けですが、現実的には「実態の取引価格」の方が「フェアトレード価格」よりも高いケースが数多く見られるというのです。
 また、本来は生産者のもとに還元されるべき「社会的割増金(プレミアム)」についても、財団との対応の窓口たる協同組合もしくはその長が中間搾取しているケースもあるとのこと。
 これでは「フェアトレード」の仕組みが「開発途上国の生産者や労働者の生活向上」に貢献しているとは到底言えません。「フェアトレード」のメリットは、参加企業の「CSRへの取り組みのPR」という形で機能しているのが実態なのです。

(p121より引用) 多くの企業がいまだに、CSRから長期的な価値を生み出すよりは短期的に評判を高めるほうに関心をもっている。本当はもっと戦略的に考える必要があるのに、その考えを捨てきれずにいるのだ。

 本書では、こういった「CSR」の切り口からのルポルタージュ以外に、従来からの「南北問題」の延長線上にある「貧困」の問題も取り上げられています。

 たとえば、周辺国との戦争、さらに悲惨な内戦を経験したコンゴ民主共和国
 当地のスズ石採掘の現場です。国連は紛争地域であるコンゴ産鉱石の取引を禁止しているのですが、実態は別です。
 最近の国連報告書で紛争鉱物貿易の中心的人物として名指しされているパンジュ氏はこう語っています。

(p189より引用) 「欧米の倫理はいまや、第三世界の倫理とは両立しないだろう。・・・買い手がやって来て、鉱山で子どもたちを働かせてはいけないと言う。私は言ってやるんだ。『たしかに、それは欧米なら結構だろう。だがここコンゴで、子どもたちに他に何をさせると言うんだ?』ってな。ここには、欧米みたいに学校があるわけじゃない。外を見てみろ。そこらじゅうで子どもたちが働いている。働かなかったら、どうやって食い物を買う金を稼ぐんだ?だれが食わせてくれるんだ?あんたじゃないだろう」

 スズ鉱物の利用者である電気機器産業の各社が国際錫研究所に申し入れをして作成された「適正評価計画」もこんな内容とのこと。

(p202より引用) 計画文書に書かれているのは軟弱で骨抜きな中身のない言葉ばかりで、問題を「認識」し、変化を「奨励」して現状に「懸念」を示してはいるが、目に見える変化をもたらせるような責任感と透明性を備えた計画はどこにも書かれていない。

 倫理的消費主義の状況の変化により、欧米企業が紛争鉱物貿易の抑制に動き始めていても、中国のような欧米の倫理基準を気にしない新たな買い手がその貿易を引き継いでいるのが現状です。

 コンゴのスズ以外、タンザニアの紅茶、コートジボアールの綿などの生産・流通の面においても、大手企業による投資・経営戦略で描かれているスキームと最下層の生産実態との間には大きなギャップが存在しています。
 次はアフリカの時代との声も時折聞かれますが、この実態が発展と貧困の共存という二重構造の下部に隠され続ける状況は、決して許されるものではありません。
 しかしながら、その解決への道程は長い・・・です。
 

フェアトレードのおかしな真実――僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た フェアトレードのおかしな真実――僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2013-08-20


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

わたしが正義について語るなら (やなせたかし)

2014-02-02 10:07:17 | 本と雑誌

Anpan_man  昨年お亡くなりになった やなせたかし氏の著作です。

 やなせ氏といえば、かなり以前にテレビで何度も拝見していた以外では、小学校の音楽の教科書に載っていた「手のひらを太陽に」の作詞をされていたのかと思うぐらいです。もちろん、アニメ「それいけ!アンパンマン」の作者としては有名ですが、実は私、アンパンマンのアニメは一度も見たことはありません。

 本書を案内しているコメントには、「絶対的なヒーロー『アンパンマン』の作者が作中に込めた正義への熱い思い」と書かれていますが、私のように「アンパンマン」に関する基礎知識がなくても、やなせ氏の思いは十分に伝わってきます。

 まず最初に語られているのは、やなせ氏の「正義」についての様々な考えの原点についてです。それは、自らが当事者であった「戦争体験」であり、それに伴う「飢え」の記憶でした。21歳で従軍したときの“正義”であった「軍国主義」は一夜にして「民主主義」に取って代わられました。

(p21より引用) 正義はある日突然逆転する。
 逆転しない正義は献身と愛です。
・・・
 正義が何かというのは難しい。後になってから気がつくことはあるけれど、その時には何が正しいのか分かりません。昨日まで正しいと思っていたことが、明日には悪に変わるかもしれない。

 やなせ氏は、正義の相対性を指摘するとともに、「人」についても「絶対的な悪人」はいないと考えています。そして同時に「絶対的な正義のヒーロー」も否定するのです。
 やなせ氏の思う「正義の人」は弱い人です。

(p122より引用) 正義を行う人は非常に強い人かというと、そうではないんですね。我々と同じ弱い人なんです。でも、もし今、すぐそこで人が死のうとしているのを見かけたら、助けるためについ飛び込んでしまう。ちっとも強くはない普通の人であっても、その時にはやむにやまれぬという気持ちになる。そういうものだと思います。

 そして、「正義の人」には「覚悟」があります。

(p123より引用) 戦う時は友達をまきこんじゃいけない、戦う時は自分一人だと思わなくちゃいけないんだということなんです。お前も一緒に行けと道連れをつくるのは良くないんですね。

 「愛」と「勇気」ですね。この気持ちは、「アンパンマンのマーチ」の歌詞にある “そうだ おそれないで みんなのために 愛と 勇気だけが ともだちさ” というフレーズにこめられているのです。

 「歌詞」といえば、やなせ氏の作詞した「手のひらを太陽に」にまつわる話も興味深いものでした。この歌は、やなせ氏がマンガの仕事がなくなって途方に暮れていたときに作った歌とのことです。

(p76より引用) それでもそういう時に限って、徹夜で仕事をしているんですね。・・・たいして仕事はないのに、何かやってるんだよね。そうすると寂しいから手のひらを見たりして、手のひらに懐中電灯を当てて、子どもの時のレントゲンごっこを思い出して遊んでいたら、血の色がびっくりするほど赤いんですね。本当に桜色というかきれいで見惚れてしまいました。自分は元気がなくても血は元気だな、と。だから手のひらを懐中電灯にすかしてみればというのがもともとなんだけれど、懐中電灯じゃ歌にならないから「手のひらを太陽に」になりました。あれは自分を励ます歌なんです。

 面白いエピソードですね。でも、ご自身では「自分を励ます歌」とお話しされていますが、そのあとの歌詞「ミミズだって オケラだってアメンボだってみんな みんな生きているんだ友だちなんだ」には、やなせ氏の優しさが溢れています。決して「自分のための歌」ではありません。

 さて、本書、やなせ氏のお人柄が滲み出た素晴らしい内容だと思いますが、最後に本書の中で特に印象に残ったフレーズを書き留めておきます。

 ひとつめは、

(p125より引用) 愛には、いさましさが含まれていて、勇気には、やさしさが含まれている。

 そして、もうひとつ、

(p149より引用) 人生なんて夢だけど、夢の中にも夢はある。

 「アンパンマンのマーチ」の最後の歌詞は、“いけ! みんなの夢 まもるため” でした。
 

(011)わたしが正義について語るなら (ポプラ新書) わたしが正義について語るなら (ポプラ新書)
価格:¥ 819(税込)
発売日:2013-11-06


人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする