OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

経営思考の「補助線」 (御立 尚資)

2009-09-29 23:16:23 | 本と雑誌

 御立尚資氏の著作は、以前「戦略「脳」を鍛える」を読んだことがあります。
 平易な書きぶりで分りやすい著作でした。

 さて、本書は、日経ビジネスオンラインに連載されたコラムをベースに加筆修正して、1冊の本にまとめたものとのこと、ここ1~2年の経済状況をとりあげた「ビジネス・エッセー」です。
 「潮目の変化」「その変化への対応」「変化を乗り切るリーダーシップ」という大きな3つのテーマにそって、御立氏が、自在に語ります。

 その中で、いくつか私の興味を惹いたところを覚えに記しておきます。

 まず、ちょっと前に流行った「CRM」についてです。
 CRMの効用に対する懐疑ではなく、新たな切り口からのCRMの活用を提案しています。

 
(p59より引用) CRMの特徴の一つは、「データの入手先」と「データを使ってメリットを得る先」が必ずしも一致しないことだ。・・・
 これを逆手に取って、「自社・自店で売っていないものもお薦めし、何らかの形で、その売り手から対価を得る」というところまで視野を広げた方が、CRMの成功に近づくのではないかと思う。

 
 CRMデータにもとづくクロスセル・アップセルの対象範囲を自分の製品/サービスに限定しないという発想です。うまくパートナリングが組めれば、お客様にもメリットのあるWIN-WINの仕掛けができますね。

 次は、「規模のリスク」について。
 これは、昨今の金融システムに関する話題のなかで指摘されています。

 
(p96より引用) 規模が拡大すると、それまでは問題とされていなかったさまざまな『力』、特に構造物そのものの自重の作用で、システム全体が崩壊するおそれがある・・・
 また、リスクを軽減させようとして追加的に打った手が、逆に大きな問題を生ぜしめる、という例も出てくる。

 
 規模が大きくなると、その対応には想定以上の「安全係数」をかけておく必要があるとの示唆です。

 最後は、自己の資産のみならず「他者の資産」を活用しようという視座の転換の例です。

 
(p140より引用) 「企業が自分自身のアセットプロダクティビティ改善を考える」のではなく、「顧客のアセットプロダクティビティ改善を考える」という視点で取り組めば、まだまださまざまなビジネスモデルが誕生する余地は大きいと考えられる。

 
 カーシェアリングやグリッドコンピューティング・スマートグリッドのように他者の遊休資産や余剰資源を活用してシステム全体としての生産性の向上を図るというアイデアです。
 これらは、省資源・地球環境保護という世界的なトレンドにも合致したもので、ITの進歩・ネットワーク化の進展にともない実現性は急速に拡大しています。
 
 

経営思考の「補助線」 経営思考の「補助線」
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-06-26

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

成功の法則92ヶ条 (三木谷 浩史)

2009-09-27 14:40:17 | 本と雑誌

 著者の三木谷浩史氏は、「楽天」の会長兼社長、現代インターネットビジネスの起業家の代表格の方です。

 本書は、その三木谷氏のビジネスに対する姿勢、それを成功に導くための要諦を具体的に92項目に章立てして紹介したものです。
 もちろん、語られているものの多くは、従前からいろいろな方が述べられていることと同じです。以下のような「リスク」に対する意味づけとかは、その一例です。

 
(p136より引用) リスクを取ることがチャンスにつながるのは、リスクのある場所には、競争者が少ないという大きなメリットがあるからだ。

 
 が、中には、三木谷氏ならではのアドバイスや言い回しも見られて、なかなか興味深いものでした。

 たとえば、本書の冒頭で語られている「夢」についての三木谷氏の台詞です。

 
(p2より引用) 夢と現実は違うなどという皮肉に、惑わされてはいけない。それは、夢を現実に変える努力を怠った人間の、悔し紛れの言い訳に過ぎない。

 
 また、「未来を見る努力」についてのコメントも、三木谷氏らしさが表れています。

 
(p39より引用) 明日、何が起きるかなど誰にもわからない。それは事実だ。けれど、その不確定の闇の向こう側に、未来の姿を見る努力なくしては、未来を開くことなどできはしない。

 
 さて、その他のフレーズで、私の関心を惹いたものをいくつか覚えに記しておきます。

 まずは「ブランド」の将来形についての三木谷氏の考えです。

 
(p36より引用) ブランドは所有する人のステータスを示すものではなく、所有する人の理念を表すものになっていくだろう。個人の消費活動は、ある種の“投票”の役割を果たすことになる。多くの人の支持を得た企業がより大きく成長し、その企業の理念が社会を変えていくことになる。

 
 ということは、「ブランド」はその企業の理念を象徴するものでなくてはなりませんし、そもそも、企業には「掲げるべき明確な理念」がなくては存在し得ないことになります。

 もうひとつ、三木谷氏が考案した「2ミニッツ・コール」というルールについて。

 
(p139より引用) ネットで楽天市場に資料請求のメールが来たら、必ず2分以内にその資料請求をして下さったお客様に、担当者が電話をするというシステムだ。・・
 資料請求というアクションが、たとえば契約という次の段階に進む可能性は、それだけで増える。実際にこのシステムを導入した楽天市場では、かなりの効果を上げている。

 
 インターネットビジネスにおいては、極力人手をかけたオペレーションは省こうとする傾向が顕著ですが、三木谷氏は、肝になる瞬間には「人手」を厭わないようです。
 ヴァーチャルとリアルのコミュニケーション連携のひとつの効果的な実例ではありますが、ベタな手法で、かえってあまり気づかないものです。

 最後に、「0.5%の努力」を大事にすべきとの三木谷氏のアドバイスです。

 
(p278より引用) 誰もが努力をしているのが、競争社会の前提だ。・・・
 にもかかわらず、実際の製品や、サービスには明らかな差がある。これは、どういうことだろう。その差はいったいどこから生れてくるのか。
 僕は最後の0.5%の努力の差だと思っている。
 限界まで頑張ることは、誰にでもできる。限界まで頑張ったその上に、さらに0.5%努力を重ねられるかどうか。その差なのだ。
 ・・・僅かな差であっても、限界の上に積んだ0.5%は、決定的に大きな差になる。なぜなら、その僅かな差を敏感に感じ取ってしまうのが、人間の感性というものの性質だからだ。

 
 この指摘には、私としても大いに反省させられました。
 
 

成功の法則92ヶ条 成功の法則92ヶ条
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-06

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「空気」と「世間」 (鴻上 尚史)

2009-09-25 21:51:44 | 本と雑誌

 ちょっと前、「KY」というフレーズが流行りました。
 いまだに「空気」という得体の知れないものが世の中に漂っています。

 本書にて著者の鴻上氏は、従来から社会心理学の中で研究対象とされていた日本社会特有の「世間」と、この「空気」との関係をひとつの仮説として提示していきます。そして、それらの特質を、「社会」との対比のなかで明らかにしつつ、「世間」や「空気」に悩まされない生き方のヒントを紹介しています。

 論を進める前に、まず、鴻上氏は、欧米人に理解できない「日本人の行動様式(モラル・マナー)」を採り上げます。
 電車の中で、「網棚に残ったバッグを盗まない日本人」と「老人が前に立っても席を譲らない日本人」です。
 この欧米人から見ると「善悪が同居する」日本人の行動について、鴻上氏はこう論じます。

 
(p36より引用) 網棚に残ったバッグも、席を譲らない日本人も、同じ理由から生れているんじゃないかと、結論したのです。

 
 この根底にあるのが、「自分に関係のない世界には関わらない」という行動原理です。

 
(p38より引用) 自分に関係のある世界のことを、「世間」と呼ぶのだと思います。
 そして、自分に関係のない世界のことを「社会」と呼ぶのです。
・・・
 ほとんどの日本人にとって網棚に残されたバッグは、自分とは関係のない世界=「社会」なのです。
 同じく、目の前に立っている杖をついた老女もまた、関係のない世界=「社会」なのです。

 
 日本人は、基本的には「世間」の中で生活しているのです。

 鴻上氏は、歴史学者の阿部謹也氏の「世間」に関する著作を参考にして、「5つの世間のルール」を示しています。

 
(p52~より引用) 

  • 世間のルール1 贈与・互酬の関係
  • 世間のルール2 長幼の序
  • 世間のルール3 共通の時間意識
  • 世間のルール4 差別的で排他的
  • 世間のルール5 神秘性

 
 そして、「空気」とは「世間が流動化」したものと定義づけるのです。

 
(p96より引用) 「世間」を構成する五つのルールのうち、いくつかだけが機能している状態が「空気」だと考えているのです。・・・
 五つのルールが明確に機能し始めた途端に、流動的で一時的だった「空気」は、固定的で安定した「世間」に変化します。

 
 「世間」は、ひとつの閉じた自己完結的な生活圏を構成します。その中で暮らしている人にとっては、「世間」は「絶対的」なものになっていきます。

 この息苦しい「世間」から逃れるキーワードが「相対化」です。

 
(p125より引用) どんなに絶対的だと思われることも、相対的な視点で理解すべきだというのです。

 
 日々の生活を「相対的」なものとするために、鴻上氏は、複数の「共同体」に所属することを勧めています。自分の所属する生活圏を複数もつことが、一つの「世間」や狭い仲間内の「空気」に縛られない方法だというのです。

 さて、本書を通読しての感想ですが、鴻上氏が挙げている「世間」の特質は、少々紋切り型過ぎるように思いました。
 指摘されているような傾向があることは否定しませんが、きちんとしたフィールドワークに基づいた実証と説明がないと十分な納得感は得られません。特に、会社を舞台にした人間関係についての記述は、ひと昔前のサラリーマン気質のようです。

 ただ、「世間」や「空気」に振り回されて辛い思いをしている子どもたちを何とか力づけたいという思いは十分に伝わってきます。
 優しい気遣いが感じられる本です。
 
 

「空気」と「世間」 (講談社現代新書) 「空気」と「世間」 (講談社現代新書)
価格:¥ 777(税込)
発売日:2009-07-17

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

多読術 (松岡 正剛)

2009-09-23 14:06:28 | 本と雑誌

 松岡正剛氏の本は、今までも、「17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義」「日本という方法‐おもかげ・うつろいの文化」「白川静 漢字の世界観」等をはじめとして何冊も読んでいます。
 それらの著作からも垣間見ることができるように、松岡氏の読書の量はとてつもないものがあります。その読書の守備範囲もまた極めて広きに及んでいます。まさに、現代の「読書の先達」のひとりです。

 そういう松岡氏は、「本を読むこと」をこんなふうに例えています。

 
(p12より引用) 読書は何かを着ることに似ています。・・・
 ということはね、本は1冊ずつ、1冊だけを読んでいるんじゃないっていうことです。ジーンズの上にシャツを着たりセーターを着たりジャケットを着たりするように、自分のお気にいりのジーンズ・リテラシーの上にいろいろ本の組み合わせを着たり脱いだりすればいいんです。

 
 従来より松岡氏は、「編集工学」という方法を提唱しています。
 松岡氏によると「編集工学」は、「意味的な情報編集のプロセス」を研究して、人々の世界観がコミュニケーションを通じてどのように形成されていくか、変容されていくかを展望することを目的としているとのこと。
 松岡氏からみると、「読書」は、数ある「編集」活動のひとつであるということになります。

 
(p76より引用) 読書というのは、書いてあることと自分が感じることとが「まざる」ということなんです。これは分離できません。・・・
 ということは、読書は著者が書いたことを理解するためだけにあるのではなく、一種のコラボレーションなんです。ぼくがよくつかっている編集工学の用語でいえば、読書は「自己編集」であって、かつ「相互編集」なのです。

 
 松岡氏は、これからの読書論は「方法としての読書」として提案されるべきと考えています。
 その立場から、本書では、松岡氏流の多彩な「読書術」が披露されていますが、その中のひとつで私が関心をもった「方法」を書きとめておきます。

 
(p123より引用) そもそも読書には、「読前術」「読中術」「読後術」があるんだろうと思います。読前術は本との接し方は目次読書に始まりますし、読中術にはマーキング読書やマッピング読書がある。読後術は本棚の並びにも、自分で感想ノートや感想ブログを書いてみることにもあらわれる。いろいろです。

 
 もちろん中核は「読中術」ですが、「そもそもどんな本を選ぶのか」から読書は始まっています。
 自分の「好み」を大切にして「キーブック」から連鎖的に広げて行くというイメージでしょうか。ただ、「自分の好み」だけに重きをおくと、意外な本とのめぐり合いのチャンスは少なくなります。

 「キーブック」を見つける際にも、また、読書の幅を広げる際にも、大事な方法が「他者からの推薦」です。
 松岡氏が高校卒業のとき、中学の国語の恩師から薦められた本は、伊藤整訳「チャタレイ夫人の恋人」の初版本だったとのことです。
 
 

多読術 (ちくまプリマー新書) 多読術 (ちくまプリマー新書)
価格:¥ 840(税込)
発売日:2009-04-08

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

この国のかたち〈6〉1996 (司馬 遼太郎)

2009-09-21 15:14:36 | 本と雑誌

 会社の方のお勧めということで読んでみました。

 月刊文藝春秋に発表された数編のエッセイを軸に、氏の随想集からの作品や「歴史のなかの海軍」という未刊行作品が併録されています。
 今までも司馬遼太郎氏の作品は、小説・エッセイと数々読んできました。特に大ファンというわけではありませんが、読めば必ず「新たな視点」に気づかされます。

 特に歴史の流れを、独特の切り口でザクッとつかんで意味づけする、こういう大局観は見習いたいのですが、全く及びもつきません。

 「言語についての感想」というエッセイでの一節です。

 
(p80より引用) 十二世紀後半に成立した鎌倉幕府は、農民の政権であった。かれらをもって「武士」などとよぶのは定義のあいまいな呼称で、公家からみれば律令農民であり、かれらが私的に結束し、ほしいままに武装し、律令の土地制度の矛盾のはざまに成長して土地制度を働く側から恣意的に合理化した非合法政権といっていい。しかしながら、こんにちまで脈絡のつづく日本社会史は、このときからはじまったといえる。

 
 鎌倉時代は「武家」の時代と言われますが、「公家」の視座からみた武士の位置づけは普通の歴史観からはなかなか聞かれません。
 こういう視座の転換は、(タイプは異なりますが、)網野善彦氏の歴史学にも見られるもので、非常に興味深いものがあります。

 また、「原形について」というエッセイの冒頭では、こういう独特の言い回しがみられました。

 
(p135より引用) 他国を知ろうとする場合、人間はみなおなじだ、という高貴な甘さがなければ決してわからないし、同時に、その甘さだけだと、みなまちがってしまう。このあたりも、人の世のたのしさである。

 
 「高貴な甘さ」というのは、いかにも相応しいことばです。
 また、こういう人と人との関係における不確実性を「たのしさ」というのも流石の感性だと思います。
 
 

この国のかたち〈6〉1996 この国のかたち〈6〉1996
価格:¥ 1,223(税込)
発売日:1996-09

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

科学の扉をノックする (小川 洋子)

2009-09-19 16:29:47 | 本と雑誌

Dna  芥川賞作家の小川洋子氏が、7人の学者・専門家のもとを訪れ、興味の赴くままに科学の世界を尋ね巡ります。
 そこには、必ず予想外の大きな驚きがあり、知れば知るほど人知を超えた自然の力に圧倒されるのです。

 小川氏が選んだ対象は、必ずしもポピュラーなものではありません。むしろ、普段は晴れやかな光を浴びないようなテーマです。しかしながら、むしろそれだからこそ、新たな発見もあり、その発見に導いてくれる研究者の方々の真摯な姿勢に惹かれるのだと思います。

 それらの魅力的な研究者のお一人、筑波大学名誉教授村上和雄氏の、科学者ならではの驚きの言葉です。

 
(p78より引用) 「ある時私は、DNAに書かれたA、T、C、Gの文字を読む技術はもちろんすごいけれど、もっとすごいことがあると気づいたんです。それは、読む前に既に書いてあったということです。・・・書いた人と読んだ人、どちらが偉いか、それは書いた人の方が偉いんです。しかも単に書き込むだけでなく、見事な秩序のもとで整然と休みなくコントロールしている。これは人間の知恵や工夫でできるものではない。人間を超えた存在、“サムシング・グレート”の働き、としか言いようがありません」

 
 科学者は理詰めで物事を考えます。しかしながら、その対象ははるかに深く大きな存在です。そういう対象を摑まえるためには、尋常の思考の連鎖では不可能なのでしょう。
 村上氏は、「真理の発見」についてこう語っています。

 
(p82より引用) 「要するに大きな仕事は、あるところから常識を超えないと駄目なんです。理性だけではないんです。ジャンプするのです。証拠はあるの?と言われたら証拠はない。しかし必ずこうなるはずだ、あるいはならせてみせます、という研究者の直感や心意気が大切になってくる。・・・」
 ・・・新しい真理を発見しようと思ったら、理屈や常識を飛び越える感受性が必要になってくる。だからこそ、優れた科学者であればあるほど、豊かな情緒を備えている。

 
 豊かな情緒は、まさにその人の人柄に表れるものです。

 東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀氏は、科学に対して謙虚です。

 
(p150より引用) 先生はゴールテープを切ることを目的としていない。自分で定めたゴールテープを自分で切ったところでたかが知れている。自分の脳みそを超えたところにある真実へたどり着くためには、次の世代にバトンを渡さなければならない。自らが最終ランナーになってしまっては、決して真理はつかめない。遠藤先生の研究の基本は、そうした謙虚さによって支えられているのだ。

 
 自らの力への自負はもちつつも、過去から未来への知の流れの中で、自らの位置づけを客観化しています。
 
 

科学の扉をノックする 科学の扉をノックする
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2008-04

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一生モノの勉強法―京大理系人気教授の戦略とノウハウ (鎌田 浩毅)

2009-09-16 22:58:18 | 本と雑誌

 鎌田浩毅氏の本は、「世界がわかる理系の名著」に続いて2冊目です。
 本書は、学生や社会人を対象にした「勉強」に取り組むためのHow to本です。

 著者の鎌田氏は、「火山」が専門の科学者ですが、マスコミにも時折登場している京都大学の名物教授です。なかなかユニークな先生なのでちょっと期待していたのですが、特に新たな気づきになるようなヒントは、残念ながらありませんでした。
 それは、考えようによっては、普通に考えても妥当だと思われるポイントを指摘しているからだともいえます。
 とはいえ、気になったフレーズを覚えにいくつか記しておきます。

 まずは、効率的な勉強をするために重要な「集中」について。

 
(p173より引用) 1日のうちに本当に集中して頭を使うことができるのは、せいぜい1時間程度

 
 1時間の「集中」と適度な「クールダウン」の時間をミックスするのです。

 つぎは、「スキマ時間の活用」
 鎌田氏も、多くのHow to本で言われているような「ちょっとした空時間」の活用を勧めています。「チャンスを無駄にしない姿勢はとても重要だ」とのアドバイスです。

 この姿勢は、メリハリの効いた頭の使い方の勧めにも繋がります。

 
(p177より引用) 極力「頭をつまらないことの使わない」ことがクリエイティブな頭脳活動を維持するための最大の戦略です。

 
 休ませた頭を、ここぞというときに集中して回転させるわけです。このあたりは、鎌田氏のイロが出ているアドバイスですね。

 最後は、「勉強に向かう構え」についてです。
 鎌田氏流の言い方では、「システム的勉強」ということになります。要は、ちきんとスケジュール立てして勉強に取り組むということです。

 
(p183より引用) システムとは、心の迷いや劣等感、あるいは勉強に対する嫌気を回避するためのものです。・・・
 システムを作ったら、あとはただただ機械のように学ぶというのが、もっとも効率の良い方法です。

 
 さらに、鎌田氏は、うまくいかなければ「システムのせい」にして良いとも言います。
 そうなったときには、計画を立て直して、気分をかえて再び勉強をはじめればいいのです。
 
 

一生モノの勉強法―京大理系人気教授の戦略とノウハウ 一生モノの勉強法―京大理系人気教授の戦略とノウハウ
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-04-03

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

グローバルマインドからの提言 (グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝))

2009-09-14 21:27:53 | 本と雑誌

 本書において、藤井氏は、自身の多彩なビジネス経験にもとづくリアルな課題認識を紹介しています。その中には、いままでもいろいろな人が既に指摘しているものもあれば、藤井氏流のユニークな視点によるものもあります。

 そういう藤井氏の示唆の中から、私が興味をいだいたものをいくつか書き留めておきます。

 まずは、時折日本で見られる「会社は誰のものか」という議論についてです。
 このひとつの答えは、当然「株主のもの」ですが、そう答えても何の意味もないと藤井氏はいいます。問いの立て方に問題があるというのです。

 
(p181より引用) グローバルなエクイティ資本が日本企業に入ってくる際の問題の定義は、「会社が外国人のものになる」ことではなく、「短期収益性の要求」と「経営陣を変える要求」に対処する準備ができているか、という点にフォーカスすべきなのだ。

 
 「誰のものか」という「所有者」を確定しても何のアクションにも結びつきません。「外国人株主の支配」が一体どういう問題状況を生じさせるのか、それを明らかにするような問い立てにすべきとの指摘です。

 もうひとつ、日本企業の経営者がよくいう「現場主義」についての藤井氏のコメントです。
 藤井氏は、「現場尊重」と「現場至上主義」との違いという形で説明しています。

 
(p198より引用) 「現場尊重」は絶対忘れてはならない日本の国際競争力の骨太の源泉だ。・・・
 私が警鐘を鳴らすのは、現場を束ねる上部のガバナンス機構にも、現場がすべてであり、現場にすべての解があり、現場さえちゃんとしておれば大丈夫といった「現場至上主義」の考えが強すぎることである。・・・
 私の考える「現場至上主義」の弊害は、それがレバレッジの効かない考え方であることと、大きな構図を変える際に現在に縛られた考え方に陥りやすい点である。

 
 「現場重視」という考え方は、往々にして「現場力」を活かす「戦略構築力」への無関心・無理解に繋がりかねません。一朝一夕には育てることができない「現場力」という貴重な強みを、めまぐるしく変化する経営環境の中で活かすには、現在日本企業のマネジメント層の「構想力」があまりにも弱すぎるとの指摘です。

 著者は、日本人の思考様式に根深く存在する「正解信仰」からの脱却を強く求めています。
 「正解信仰」は「完璧主義」に繋がります。「完璧主義」は失敗を恐れ、また自らが傷つくのに過敏になります。

 
(p240より引用) 自分は間違っているかもしれないし、自分より優れた意見があるかもしれないと考えられる人は心に余裕があり、自分に本当の自信がある人である。
 このような人は自分の論理を攻撃されても、自分の人格まで攻撃されているとは受け取らない。他人の意見も取り入れて、自分の意見をさらに進化させたいと思っているからである。

 
 どこかにある「普遍的な正解」を求め、少しでも100点に近づこうをするのではなく、正解が既定されていない一人ひとりの「個別解」を求めて自らチャレンジし続けること・・・、本書を通じて著者が訴えるメッセージです。

 最後に、今回のアメリカ発の金融危機についての著者のコメントです。

 
(p207より引用) 英米の多くのエリートは「汗水流さずに頭を使って金持ちになれる」ウォール街やシティの金融機関に職を求める。このような強欲なエリートたちが、地道な製造業の生み出す付加価値をないがしろにし、他人の生み出した付加価値をいかに安く買い、他人に高く売りつけるかに莫大な知恵をめぐらせているうちに、気がつくと誰も実体がわからなくなった巨大なバブルの上で火遊びをしていたのが今回の金融危機の本質だ。

 
 「人の金で自分だけが儲ける」「自分はリスクをとらず、弱者に損の付回しをする」・・・、そういう仕掛け作りのためにのみ頭を使う。
 今回の現象が、いわゆる現代的「エリート」が目指した「個別解」のゴールの行く末だったとすると、「個別解」の暴走を抑止する「普遍的な思想」が必要だと思うのです。

 
 

グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-01-17

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

縦 or 横 (グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝))

2009-09-12 11:08:57 | 本と雑誌

 著者が示す日米比較の例をもう少しご紹介します。
 今度は、「ビジネスモデル」に関するものです。

 「ものづくり日本」と言われますが、さて、これからの「ものづくり」はどういう姿になっていくのでしょうか。
 グローバル化やデジタル化の進展が、ものの「つくりかた」のルール自体を変えつつあるというのが、著者の指摘です。

 
(p191より引用) 「横型」を推進するアメリカと、「縦型」にこだわる日本
 アメリカは、一般的に言って、自分は付加価値の高いバリューチェーンの上流を押さえ、下流の資本集約的や労働集約的な重たい部分は、外国、特にアジアにアウトソースする傾向が大変強い。・・・アメリカは、バリューチェーンを分解して、付加価値の高い部分に特化し、それをグローバルに横展開する「横型」モデルに強い。

 
 「横型」は「分業型」志向です。
 「ものづくり」の各段階(プロセス)を切って、それぞれのかたまりを「モジュール化」する、そして、そのモジュール間をつなぐ方式(インタフェース)を規定する。こうすることによって、プロセスごとに「最適」なものを組み合わせてバリューチェーンを作り上げていくのです。

 
(p192より引用) これに比べ、・・・日本企業は垂直統合の「縦型」である。日本企業はたとえアジアで生産していても、アジア工場は自社工場か協力工場で、基本的には日本企業の垂直統合された一部であることが多い。

 
 「縦型」は「自社完結型」志向です。
 自己完結しているので、バリューチェーン全体を一元管理することが容易になります。そして、このことにより、顧客に対しても、「一貫した品質保証」を約束することができるのです。

 さて、この「縦型」「横型」、二つのビジネスモデルの優劣についてですが、著者はこうコメントしています。

 
(p193より引用) 「横型」「縦型」の優位性は事業によって違うが、「デジタル化の推進」「インターフェースの標準化」「アジアとアメリカのつながり」の要素がますます強くなってきている現在、世界のマジョリティは「横型」になりつつあると言えるであろう。

 
 このようなグローバル潮流に呑み込まれ、従来の「日本方式」が少数派となりつつある中で、今後の日本はどういう道を歩むべきなのでしょうか。

 
(p196より引用) 日本にとってのグローバリゼーションとは「日本独自のやり方で道を究めるか」、あるいは「妥協して世界の趨勢に合わせ、より大きな土俵での勝負に出るか」のトレードオフの選択なのである。

 
 トレードオフといっても、すべての商品/サービスにおいて一律にどちらかの道を選択するということではないでしょう。商品/サービスによっては、限られた小規模マーケットで確固たる地位を守り続ける道もあるはずです。
 しかしながら、世界的な潮流への対応も間違いなく必要です。

 
(p197より引用) 自分から見ると、格下の最大公約数的製品を侮っていると痛い目にも会う。最大公約数的製品をグローバルに打ち出してマーケットシェアを取った企業が、プラットフォーム構築の覇権まで握るとその強さは磐石となるからだ。マイクロソフト社のウィンドウズOSや、アップル社のiPodがそのよい例であろう。彼らの製品を中心として、その周辺に大きなエコシステムができてしまうという具合だ。

 
 アメリカ礼讃ではありませんが、イノベーイティブなサービス市場においては、依然としてアメリカが力を発揮しているのは認めざるを得ないところです。

 さて、日本は・・・、王道は「自己の強みを活かす」ことです。
 やはり、ハードとしての「ものづくり」(製造業)にフォーカスすべきでしょうか?
 その場合の方法論は、従来のような「縦型(自社完結型)」を継続するのか、「横型」で重要なモジュール・クリティカルパスを押さえにかかるのか、いずれにしても「グローバル分業」は前提となります。
 
 

グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-01-17

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブランドの比較 (グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝))

2009-09-10 22:11:20 | 本と雑誌

 本書では、著者の日米欧でのビジネス経験を踏まえた「日米もしくは日米欧の比較論」がいくつか提示されています。

 その中でも、私として関心をもった「ブランド」についての著者の指摘をご紹介します。
 そこでは、著者のルイ・ヴィトンジャパンの社長経験から、いわゆる「高級ブランド」の日米欧の特徴を分りやすく述べています。

 まずは、「アメリカ」です。

 
(p148より引用) アメリカ発ブランド-我慢できず売上至上主義に走る
・・・アメリカ企業は一度ブランド価値が向上すると、それを「刈り取り」に入るのが早い。すなわち、「名前貸し」のライセンス商売を始めるのである。・・・気がついてみると、丹念に育てた後宮ブランドが中国製の靴下についているのを発見したときは、もう手遅れというわけだ。

 
 アメリカ企業に多く見られる「短期利益追求」の姿勢がここにも表れています。この性向は、「高級ブランド戦略」という面では不利に働くようです。

 つぎは、「ヨーロッパ」。
 こちらは「高級ブランド」発祥の地です。

 
(p150より引用) ヨーロッパ発ブランド-顧客ニーズを聞かない商品開発で「ワクワク感」をつくる
・・・実際にルイ・ヴィトンの商品開発では、「顧客のニーズをあえて聞かない」雰囲気があったように思う。・・・
 そこには、トップブランドの使命は市場を創造することであり、大衆や競合に迎合し、市場を追従することではないとの矜持があったように感じられる。

 
 同じ趣旨のことをHONDAの本田宗一郎氏も語っていました。
 「ものを作ることの専門家が、なぜシロウトの大衆に聞かなければならないのだろうか。それでは専門家とは言えない。どんなのがいいかを大衆に聞けば、それは古いことになってしまう。シロウトが知っていることなんだから、ニューデザインではなくなる。大衆の意表にでることが、発明、創意、つまりニューデザインだ。」
 トップブランドのクリエーターの共通の気構えです。

 そして、最後は「日本」。

 
(p152より引用) 日本発ブランド-顧客のニーズ追従型ゆえにマージンが取れない
 日本市場の「顧客至上主義」は基本的には日本の強みなのだが、・・・イノベーションが必要な局面になると、発想の狭さが露呈し後塵を拝するはめになることが多い。
 このやり方は、いったん発売された新コンセプトの製品の二番煎じを、より高い品質で、より低いコストで提供する場面では威力を発揮する。・・・
 ・・・二番煎じ企業は高いマージンが取れず、それゆえに量をさばいて利益を確保しようとする。そして、その過程で大量、低価格のブランドイメージをつくってしまうのである。

 
  「顧客重視」は正しい道です。が、その道をたどっても「高級ブランド」の世界では、トップランナーにはなりえないということです。

 ただ、「高級ブランド」といっても、その購入者層は多様です。
 アメリカ流や日本流のブランド戦略も、ある種の「ブランド支持層」には有効な攻め手でもあるのでしょう。

 そういったターゲット層を対象にした商品/サービスを「高級ブランド」と位置づけるかは定義の問題ではありますが・・・。
 
 

グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-01-17

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

経験からの資産 (グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝))

2009-09-08 22:02:27 | 本と雑誌

 著者の藤井清孝氏は、マッキンゼーを皮切りにケイデンス・SAP・ルイ・ヴィトンといった外資系企業の日本法人の社長を歴任した経歴をもっています。
 以前読んだ「外資系トップの仕事力」という本にも登場されています。

 本書は、藤井氏の多彩なビジネス経験をもとに、グローバル化された経営環境における「日本の人材のあり方」に対する著者の提言をまとめたものです。

 まずは、近年の新自由主義の潮流をふまえた「資本主義の位置づけ」に関する著者の見解です。

 
(p63より引用) 過剰な流動性、行き過ぎた証券化、顧客を無視した自己勘定のビジネスなどは、強欲さをとことん追求する態度ゆえに生まれたバブルであり、アメリカのシステムの欠陥を露呈した。しかしながら、これらは資本の論理自体を否定するものではない。過度なレバレッジを背負い込み、規制の緩かった投資銀行モデルは破綻したと言えるが、企業に健康的なプレッシャーをかけ、資金を循環させる本来の資本主義まで否定するのは正しい議論ではない。

 
 このあたりは極く普通の考えです。 
 が、やはり実経験に裏打ちされた参考になる指摘も数多くありました。

 そのうちのひとつ、「新しいことを素早く学ぶ勉強法」について。
 著者は、全くの部外者として社長というポジションに就くという経験を2度3度しているわけですが、その中で得たポイント修得術です。その肝は、以下の4つの要素からなるフレームワークです。

  • 「コンテキスト」=物事の背景、
  • 「ドライバー」=牽引車、
  • 「トライアンギュレート」=三角測量、
  • 「トレードオフ」=物事のトレードオフの平衡点をつかむ分析力、

 その中で、たとえば「トライアンギュレート」については、こんな感じで解説しています。

 
(p98より引用) 「トライアンギュレート」は・・・物事の情報収集時に、ある意見に賛成、反対、中立の立場をとるであろう三つの違う測量点を持って、その事象を立体的にとらえることである。・・・
 新社長に就任したばかりで、会社の製品の実力を判断したいときは、営業から技術的な弱みを、技術側から営業力の弱さを、顧客からは正直な意見を聞く。ここでのポイントは、当然ある事象を批判するであろう立場の人からの意見をベースにし、それをポジティブに訂正していくプロセスを経て、等身大の実像を得ることである。

 
 また、以下のような「社長業」についてのコメントも納得感があります。

 
(p100より引用) 社長業では、「Consistency(コンシステンシー:一貫性)」と「Persistency(パーシステンシー:執念)」が肝要と痛感した。・・・トップの使命の大きな部分は、軸のぶれない同じメッセージを繰り返し、繰り返し叩き込むことだ。そしてそれは、事業に対する「熱意」からくるものだ。社長の「熱い思い」をベースにしたしつこいメッセージの発信は、社員に伝染し大きな共鳴を生む。

 
 社長に限らず、広く「リーダー」の位置づけにある人は、チームとしての総合力を最大限に発揮させるミッションを持ちます。最終的には「一人ひとりのメンバの力の奮い方」のシグマ(Σ)に帰着します。

 
(p147より引用) たとえ話だが、昔ある国で国王の命で人民が大寺院を建立していた。そこで石を研いでいる石工に「あなたは何をしているのか」と聞いたところ、一人の石工は「私は石を研いでいます」と答え、もう一人は「大寺院を造っています」と答えた。最初の石工は自分の石を研ぎ終わると家に帰るであろうが、もう一人は、ほかに自分ができることを見つけて、寺院造りに精を出すであろう。組織の強さは、後者のような石工の数で決まる。
 リーダーの役割は「大寺院を造っている」という目線を、現場のスタッフにも共有してもらうことである。

 
 メンバ一人ひとりが描く「ゴール」の違いは、合計すると大きな差になります。
 さらに、パワー綜合の過程は「足し算」ではなく「掛け算」の側面ももっています。そうなると個々の力の差はとてつもなく大きな総合力の差に至ることになります。
 リーダーが重要たる所以です。
 
 

グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか グローバル・マインド 超一流の思考原理―日本人はなぜ正解のない問題に弱いのか
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-01-17

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

李陵・山月記 (中島 敦)

2009-09-06 19:01:32 | 本と雑誌

Koushi  以前からずっと読もう読もうと思っていて、ようやく読んでみました。

 本書に収録されている4編は、いずれも中国の古典に材料をとったものです。
 高雅な筆致で、心地よさを感じる文章でした。

 4編の中で、特にテーマとして興味深かったのが「弟子」という短編でした。
 師たる孔子とその弟子子路の関係を幹とし、旅を続ける師弟たちの姿を子路の目を通して描き出した物語です。
 排斥や迫害・襲撃を受けながらも、自らの役割を果たそうという確固たる意志をもって諸国を巡る不思議な一団。著者の孔子一行に対する好感の情が感じられる一節です。

 
(p67より引用) それでも尚、講誦を止めず切磋を怠らず、孔子とその弟子達とは倦まずに国々への旅を続けた。・・・決して世を拗ねたのではなく、飽くまで用いられんことを求めている。そして、己等の用いられようとするのは己が為に非ずして天下の為、道の為なのだと本気で-全く呆れたことに本気でそう考えている。乏しくとも常に明るく、苦しくとも望みを捨てない。誠に不思議な一行であった。

 
 さて、子路です。粗野ではあっても一本気な性格の子路は、まさに孔子を心から私淑しています。

 
(p41より引用) 子路が頼るのは孔子という人間の厚みだけである。その厚みが、日常の区々たる細行の集積であるとは、子路には考えられない。本があって始めて末が生ずるのだと彼は言う。併しその本を如何にして養うかに就いての実際的な考慮が足りないとて、何時も孔子に叱られるのである。

 
 子路は、孔子に絶対の真理を見ていました。しかし、とはいいつつも、子路の本性において、如何ともし難く理解できない師の姿もありました。
 義に大小があるのか、大義のために小義を捨てることが、どうしても腹に落ちない子路の実直さを、孔子の言動と対比させて好ましく描いています。

 
(p76より引用) 身を殺して仁を成すべきことを言いながら、その一方、何処かしら明哲保身を最上智と考える傾向が、時々師の言説の中に感じられる。それがどうしても気になるのだ。

 
 もうひとつ、孔子の諫言に関する子路の複雑な心境です。

 
(p83より引用) 無駄とは知りつつも一応は言わねばならぬ己の地位だというのである。・・・
 子路は一寸顔を曇らせた。夫子のした事は、ただ形を完うする為に過ぎなかったのか。形さえ履めば、それが実行に移されないでも平気で済ませる程度の義憤なのか?
 教を受けること四十年に近くして、尚、この溝はどうしようもないのである。

 
 この子路の思いは、儒家の形式主義的傾向への素直な疑問の発露でもあります。
 そして、この形へのこだわりは子路の本性が決して認めないところです。子路の子路たる所以は真直ぐな感性にあるのだと思うからです。
 
 

李陵・山月記 (新潮文庫) 李陵・山月記 (新潮文庫)
価格:¥ 380(税込)
発売日:1969-05

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

12賢者と語る 和らぐ好奇心 (石黒 和義)

2009-09-01 22:22:13 | 本と雑誌

 図書館の新刊書のコーナーで、上品な装丁だったので手に取ったものです。
 IT関連企業JBCCホールディングス社長の石黒氏と12人の多彩なジャンルの著名人との対談集です。
 興味深い話題が多くありましたが、その中からちょっと気を惹いたものを以下にご紹介します。

 まずは、「ネットワーク社会における基本ルール」についての金井壽宏神戸大学大学院経営学研究科教授の考えです。

 
(p76より引用) ネットワーク社会ならではのルールは確かに必要でしょうが、「ウソをついてはいけない」という基本は同じだと思います。言い換えるなら、誰も見ていなくても「お天道様が見ている」ということです。日本人の「恥」という意識は、他人から見られて恥ずかしいのではない。他人の視線には関係なく心の中に「恥」がある。恥はひとが見ているから生じるといった米国のR.ベネディクトの説を批判して、わが国の社会学者の作田啓一先生が看破したしたような、日本人の心の中にある「恥」の意識はまだまだ健在だと感じています。この意識をきちんと発揮させるような仕組み作りが必要なのではないでしょうか。

 
 「恥」の意識の意義については異議を唱えるものではありませんが、そのための「仕組み作り」が必要というのはどうでしょう。「仕組み」がないと成り立たないということは、「本来の心情の元にあるもの」とはいえないような気がします。

 次は、作庭家重森千青氏が語る「古典の斬新性」についてです。

 
(p90より引用) 古典はそれが誕生した時代において常に斬新であり、だからこそ古典として命を長らえるのだと思います。・・・この斬新に牽引される形でさまざまな文化も生まれてくる。ここに古典の重要性があるのですが、これを模倣していては新たな古典は生れない。・・・古典の斬新性を上回らないことには古典を学ぶ意味がない。これが永遠のモダンにつながっているんです。

 
 古典はしばしば「保守的」「静的」なものとして捉えられがちです。しかしながら、「古典」として後世に残るものは、その当時「革新的なダイナミズム」をもっていたとの指摘です。
 蓋し慧眼だと思います。

 続いては、日本に止まらず世界各国で植樹活動を行っている横浜国立大学名誉教授宮脇昭氏「本物の木」についての言葉です。

 
(p185より引用) 石黒 「本物の木」とはどういうものですか?
宮脇 元々その土地に生えていた木です。新たに木を植えるというと、換金しやすい木や、すぐに成長する見た目のよい木を植えたくなります。そういう木はすぐに大きくなります。ところが、最初は調子がよいものは後が続きません。企業が人材を育てるのと同じで、調子がよいだけの社員は役に立たない。最初は育てるのに苦労しても、しっかりと大地に足のついた植物は大きな益をもたらします。

 
 そして最後は、冷泉家第25代当主冷泉為人氏「型の文化」についての言葉です。

 
(p230より引用) お茶の世界には「守破離」という言葉がありますね。型を踏襲して、それを破り、師匠から、型から離れていく。その過程を踏まえたときには、おのずから個性が生まれてくる。そういうものが型の文化の本質であると私は思うのです。ところが現代人は自分の思いを表現し、表白すれば、それだけで個性だと見る。勘違いもはなはだしいと思いますね。

 
 対談に登場した方々の多くは、気負ったところがなく淡々と本質を突いたお話しをされています。
 「悠然」とした受け答えです。
 
 

12賢者と語る 和らぐ好奇心 12賢者と語る 和らぐ好奇心
価格:¥ 1,800(税込)
発売日:2009-06-04

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする