OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

プランB 破壊的イノベーションの戦略 (ジョン・マリンズ/ランディ・コミサー)

2011-12-31 09:20:43 | 本と雑誌

500pxapple_computer_logo_rainbow   社内ソーシャルメディアで話題になっていたので手にとってみました。

 「最初に思いついたビジネスプランである『プランA』は多くの場合うまくいかない、その失敗を検証した『プランB』によって成功に至る」-それが本書における著者の主張です。

(p28より引用) われわれが推奨するプロセスのなかでもっとも基本的な構成要素は、自分がやろうとしていることと多少なりとも似たものは、他の人がすでにやっているという認識を起業家が持つことかもしれない。鍵となる要素がすでに存在しているのに、同じことを繰り返しても意味がない。

 「プランA」を現実的に機能する「プランB」に発展させるプロセスについて、著者は、その重要な要素として4つ示しています。「類似例」「反例」「未踏の信念を試す」「ダッシュボード」
 「類似例」「反例」は過去の先人の足跡を辿ってその教訓を自らのプランに活かすことですし、「ダッシュボード」は計画策定と実行プロセスモニタリングのためのツールです。ここでは残りのひとつ、ちょっと聞き慣れない「未踏の信念を試す」というステップの説明を覚えとして書き留めておきます。

(p29より引用) 類似例と反例の両方を見つけたら、自分の新規事業についてすでにわかっていることの一部については、少なくともある程度の確信を持って結論が出せる。だがもちろん、プランAを駄目にするのは、すでにわかっているようなことではない。まだわかっていないことのほうだ。

 そこで、類似例や反例がないような疑問を特定することが次のステップになります。そういう疑問・質問が、「未踏の信念」-著者曰く「それが現実に正しいという何の根拠もないにもかかわらず、答えに確信をいだいていること」に導いてくれるのだといいます。

(p30より引用) 未踏の信念を早めに見つけ、それを検証あるいは反証するような仮説を試す方法を工夫すれば、あまりに多くの時間をあなたや投資者の金を無駄にしてしまう前に、プランAがうまくいくかどうかわかる。

 そして、この「未踏の信念」を確かめる方法は、(前例もない疑問なので)実際やってみるしかないのです。

 本書は新規事業を立ち上げる際のアドバイスを示したものですが、そこで勧めている方法は、「0(ゼロ)からスタートさせた全く斬新なビジネスモデルの創造」ではありません。
 むしろ、説かれているのは、すでにある事業を具にサーベイして、その教訓を踏まえ、成否の分水嶺になるクリティカルファクタを浮かび上がらせる、そして、そのクリティカルファクタすなわち「成功のための仮説(未踏の信念)」を実践により検証するという地道なプロセスです。

(p145より引用) 起業家とは、巷で言われているのとはちがい、リスクを冒して挑戦するよりも、リスクをうまく管理できる人物であることのほうがずっと多いのだ。

 リスクに沈んでしまった多くのチャレンジャーは、そもそも「起業家」として名を残すこともありません。リスクを乗り越えたからこそ「起業」が成功し「起業家」として認められるのです。

 さて、本書ですが、アップル・アマゾン・グーグル・イーベイ・スカイプ等著名な企業の取り組みが、著者が説く「プランB」による成功例として紹介されています。そういった起業のためのケーススタディとしても十分に面白いのですが、同時に、著者は、P/Lのみならず、BS、CF(キャッシュフロー)面からのアクションの重要性についても言及しています。

 「類似例」「反例」「未踏の信念を試す」「ダッシュボード」という定型スキームに拘泥し過ぎているきらいもないわけではありませんが、財務諸表の活用という「経営のイロハ」を一連の流れの中で上手くとりあげ、その勘所を的確にまとめています。様々な立ち位置からみても参考になる実践的な良書だと思います。


プランB 破壊的イノベーションの戦略 プランB 破壊的イノベーションの戦略
価格:¥ 1,995(税込)
発売日:2011-08-25

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揺れる大地に立って 東日本大震災の個人的記録 (曽野 綾子)

2011-12-29 09:22:43 | 本と雑誌

Deaths_and_missing_persons_by_prefe  いつもの図書館の新刊書の書棚で目についたものです。今般の東日本大震災を機に出版された本のひとつです。

 著者は作家の曽野綾子氏。海外の難民に対するボランティア活動等にも積極的にたずさわっている反面、政治・社会的な面ではかなり直截的な主張をする論者としても有名です。
 それだけに、本書で開陳されている曽野氏の考え方には、首肯できるところもあれば、全く同意できないというものもありました。その点ではいろいろと刺激にはなります。

 私が感じた最大の首肯できないところは、今回の大震災の悲劇を、世界的な貧困や難民の実態あるいは自らの戦争体験等と、安直に比較・評価しているように感じられる言い様でした。
 もちろん、難民の悲惨さや戦時体験の過酷さを否定するものではありませんが、「世の中には、もっともっと悲惨なことはあるんだ。だから、この程度のことは我慢しなさい」といったトーンで、今回の被災者の方々の心情等を徒に軽視しているかのような表現は非常に気になります。

 戦争体験等とは異なりますが、たとえば、こういった比較の仕方もそうです。

(p161より引用) 完全装備の放射能防護服は「五キロもある」と新聞は書いている。中はサウナのようで、働く人は、すぐ脱水症になるという。しかし重さの点だったら、・・・歌舞伎俳優の方がずっと重いかつらや衣装に耐えているだろうと思う。

 他方、著者の主張はそのとおりだと思うところも、もちろんありました。たとえば、今回の大震災を機に行われた数々の義捐金・募金について。

(p143より引用) お金は集めるより配るほうが難しい。正確に目的に叶った相手に、安全に渡すことは至難の業である。それだからこそ救援組織の専門家たちは、その配り方を平素から考えるべきなのである。そこまではできないが、する気のない組織には、金を集める資格もない・・・」

 義捐金は適切なタイミングで必要な被災者の方々の手元に届かないと、せっかくの善意の効果は著しく減退してしまいます。今回もまさにそういう危惧していたような事態が現実にはそこここで生じていたようです。

(p143より引用) 集まったお金を、「どのように使います」、あるいは「使いました」という報告がインパクトのあるやり方で行われなくては寄付者の眼に触れることはめったにない。

 こういった最終的なゴールまで見届けるチェック機能は、実際の給付プロセスに関わる機関や自治体に期待できない状況下では、まさにマスコミの使命のひとつなのでしょう。

 さて、今回の大震災を端緒として、世の中のありとあらゆる部分の光と影が顕かになりました。「光」の部分は、国内外の多くの人々から寄せられた善意や痛みを分かち合う心、「影」の部分は、被災の苦しみ・悲しみが最大のものです。そしてさらに、生活していくうえで当たり前だと思っていたことがそうではなくなり、改めて、当たり前であることの貴重さを痛感することとなりました。
 とはいえ、こういった著者の言い様はどうでしょう。

(p178より引用) 地震をいいと言うのではない。しかし地震で断水や停電を知ったおかげで、日本人は水と電気のありがたみを知った。すばらしい重要な発見だ。・・・避けなければならないことからも、私たちは学び自分を育てて行くことが健やかな生き方なのだと思っている。その姿勢を保てれば、今度の震災はむしろ慈愛に富んだ運命の贈り物ということさえできる。

 「慈愛に富んだ」という表現は、あまりに無神経で残酷なような気がします。

 本書での著者の主張は、綺麗ごとで済ませる表層的なコメントではなく、そこには、なかなか面と向かって言えないような正論も多く見受けられます。しかしながら、被災者の方々の心情を慮るに、ところどころ過度に厳しい語り口になっているのがとても残念に思います。


揺れる大地に立って 東日本大震災の個人的記録 揺れる大地に立って 東日本大震災の個人的記録
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2011-09-01

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幸四郎的奇跡のはなし (松本 幸四郎)

2011-12-22 23:29:07 | 本と雑誌

Kanjincho_2  いつもの図書館の新着図書の棚で目についたので手にとってみました。
 今日の歌舞伎の名優九代目松本幸四郎のエッセイ集です。

 私も歌舞伎にはちょっと興味があるのですが、今まで実際の公演はたった一度しか観たことはありません。でも、いいですね、特に舞踊は瀟洒で綺麗でした。

 さて、本書、歌舞伎役者・俳優としての幸四郎の幼いころから今日に至るまでのエピソードが数多く紹介されています。
 3歳のころ、初舞台前嫌がって泣き出した話、小中高と虐められ「ひきこもり」だった話、そして、そこから逃れるために歌舞伎の稽古に没頭していった話・・・それらの中から、私の興味を惹いたくだりをいくつか書き留めておきます。

 まずは、沖縄の女子大生からの手紙をきっかけにして実現された「勧進帳」の那覇巡業。そのときの幸四郎の決意です。

(p18より引用) 人を傷つけることは誰でもできるが、人に感動を与えることはなかなかできない。そのなかなかできないことを自分は仕事にしている。いつの日か、基地のない沖縄で、もう一度『勧進帳』を勤めたいと思っている。

 もうひとつ、幸四郎(当時は市川染五郎)が、NHKの大河ドラマ第16作「黄金の日日」に主人公呂宋助左衛門役で出演したときのフィリピンロケでの話。

(p113より引用) 南の島に漂流した助左衛門が、竹槍を作り、市場で食料と換えようとするシーンのことだ。僕はボロボロの衣装で竹槍を持ち、エキストラの老婆の前に立った。一瞬、彼女の僕を見つめる視線が刺すように鋭く、僕はたじろいだ。瞳の奥には、恐怖と嫌悪と怒りが凝縮しているようだった。

 私はもう20年以上大河ドラマは見ていませんが、この「黄金の日日」は印象に残っている作品のひとつですね。城山三郎氏原作・市川森一氏脚本、堺商人が主人公という、それまでの大河ドラマの定番とはちょっと異なった味付けで面白かったですね。

 さて、本書で自らの半生を縷々綴った幸四郎は、歌舞伎に留まらず現代劇やミュージカルにも挑戦し成功を収めてきました。それらのチャンスは歌舞伎の名門の出であったが故に巡り来たものもありましたが、その度ごとに「やってみよう」と決断したのは幸四郎自身でした。
 梨園に自らの確固とした軸足を置きながらも、常に新たな境地を拓いていく前向きな姿は素晴らしいと思います。


幸四郎的奇跡のはなし 幸四郎的奇跡のはなし
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2011-10-20

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ほんとうはすごい!日本の産業力 (伊藤 洋一)

2011-12-18 10:06:27 | 本と雑誌

 著者の伊藤洋一氏は、住信基礎研究所主席研究員で経済評論家、TV番組にもコメンテーターとして登場しているので、眼鏡と髭の顔を思い浮かべられる方も多いと思います。

 本書は、その伊藤氏の最新の著作です。

(p73より引用) 日本の産業力は実に多種多様で、しかも円安が進行する過程では全体としてはその力は強まる。日本の弱点はエネルギーの海外依存度が高いということだが、円安が起きて生ずる日本の輸出産業へのメリットのほうが大きいだろう。

 このように、伊藤氏は、現在進行中の財政赤字拡大傾向の先に生じる日本経済の先行き不安、そして円相場の下落という悲観的状況においても、希望の光としての「日本の産業力」の底力の存在を指摘しています。

 ただ、タイトルからみると中心的なテーマだと思われた「日本の産業力」に関する具体的な記述は、全く物足りません。事例として挙げられたのが、小型ジェット・ロケット打上げ技術・細胞シート・スーパーコンピュータぐらいで、それに触れた部分も10ページ程度となると拍子抜けです。
 「日本と世界の金融情勢」とかの書名であれば、まだ違和感がなかったでしょう。

 また、前半の情報の入手・活用方法を語ったくだりも、株式市況に興味のある人には参考になるのかもしれませんが、私には冗長でしたね。

 ラジオNIKKEIの「伊藤洋一のRound Up World Now!」というPodcast番組は結構好きで、そこでの伊藤氏のような興味深いコメントを期待していた私からみると、本書の内容はかなり残念に感じました。


ほんとうはすごい!日本の産業力 ほんとうはすごい!日本の産業力
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2011-09-13

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動物農場―おとぎばなし (ジョージ・オーウェル)

2011-12-14 22:50:13 | 本と雑誌

Stalin  以前読んだエンゲルスの「空想より科学へ」の流れで手にとってみた本です。

 本書のあとに執筆された「1984年」で有名なイギリスの作家ジョージ・オーウェルが、スターリン体制を痛烈に批判した風刺作品です。
 登場する人間は、ロシア帝国、大英帝国、ナチス・ドイツ等、動物は、豚が主役クラスで、スターリン(ナポレオン)とトロツキー(スノーボール)、レーニン(メージャー爺さん)といった具合、確かにかなりスパイスが効いていますね。

 まず、人間(ロシア帝国)が経営する農場に飼われている動物たちに、豚のメージャー爺さんが現状変革を訴えます。

(p17より引用) 人間とたたかうにあたって、わしらは人間と似てしまわぬようにせねばならぬ。人間を打ち負かしたあとでさえ、やつらの悪徳をとりいれてはならぬ。・・・人間の習慣はすべて悪しきものじゃ。そしてなによりも、いかなる動物も、自分の同胞に横暴なふるまいをしてはならぬ。・・・いかなる動物も、ほかの動物を殺してはならぬ。動物はみな平等なのじゃ。

 そして農場で動物たちの反乱が起こり、あっけなく人間たちは追い出されてしまいます。
 動物たちだけの農場でリーダーシップを取ったのは、ナポレオンとスノーボールという2匹の豚でした。搾った牛乳を前に1匹の豚ナポレオンはこう言いました。

(p36より引用) 「同志諸君、牛乳のことは心配するな!」とナポレオンがバケツのまえに出てさけびました。「これはなんとかしておく。それより大事なのは刈り入れだ。・・・」・・・
 ・・・そうして夕方になってみんながもどってきてみると、牛乳は消えていたのです。

 実はこの牛乳は、豚たちの餌だけに混ぜられていたのでした。
 そして、農場運営に関し、ことあるごとに対立していた2匹の豚ですが、スノーボールの追放によりナポレオンが実権を握ることになりました。

(p69より引用) ナポレオンは、いぬたちをしたがえて、床の一段高いところにのぼりました。・・・今後は、農場の運営に関わる諸事万端は、特別委員会でとりきめる。委員長は自分がつとめる。それは非公開の会議とし、ほかのものにはその決定を事後に伝える。

 ナポレオンによる独裁のはじまりです。この独裁政権下の豚たちによる官僚制の実態を、オーウェルは皮肉を込めてこう描いています。

(p154より引用) 農場の監督と組織管理には、なすべき仕事が限りなくあるのでした。・・・たとえば、スクィーラーは、ぶたが「ファイル」、「報告書」、「議事録」、「覚書」と呼ばれるなぞめいたもので毎日莫大な労働量を費やさなければならないとかれらに説明しました。その書類は大判の用紙で、そこに文字を書き込まなければならず、記入がすんだらそれはただちに炉に入れて焼かれてしまうのでした。・・・それでも、ぶたもいぬも、みずからの労働によってはいかなる食物も生み出しませんでした。

 ナポレオンの独裁が進むにつれて、人間を追い出した反乱直後に決められた「七戒」が改変されていきました。元の言葉にどんどん「但し書き」がついて、意味が反転していったのです。そして、その極めつけがこれです。

(p161より引用) いまや、〈戒律〉はたったひとつしかありあませんでした。それはこう書かれていたのです。
 すべての動物は平等である。
 しかしある動物はほかの動物よりも
 もっと平等である。

 巻末に「序文」として準備されていた「出版の自由」という小文が載っていますが、その中に、本書を世に出すにあたってのオーウェルの気概が記されています。

(p197より引用) この十年間、わたしは、現存するロシアの体制がおおむね悪しきものであると確信してきたのであり、ぜひ勝利したいと思う戦争でわが国がソ連と同盟国であるという事実があるとしても、それを言う権利が自分にあると言いたい。

 本書は、刊行にあたって、「この時期、この内容は『差し障り』がある」というイギリスの出版社の自主抑制の対象とされました。

(p199より引用) もし自由というものがなにがしかを意味するのであれば、それは人が聞きたがらないことを言う権利を意味する。ふつうの人びとは、ばくぜんとではあるが、いまだにこの原則に同意し、これにしたがって行動している。わが国では、・・・自由を恐れるのは自由主義者であり、知性に泥を塗りたがるのは知識人なのである。その事実に目をむけてもらいたいと思い、この序文を書いた。

 オーウェルが闘ったのは、スターリンの独裁主義・全体主義だけではありませんでした。相手は、「自由主義」でもあったのです。


動物農場―おとぎばなし (岩波文庫) 動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)
価格:¥ 588(税込)
発売日:2009-07-16

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世界がもし100人の村だったら (池田 香代子)

2011-12-10 09:14:34 | 本と雑誌

Mollwide_ame_on  2001年ごろ、インターネット内のメールで書き足され書き換えられながら広まった小文をとりまとめたものです。一時期かなり話題になりましたね。
 今頃になって偶々図書館で目に付いたので手にとってみたのですが、改めて書評を見ると結構評価がバラバラのようです。それだけに、かえって興味を惹きますね。

 そもそも、ネット環境の中で形作られたものですから、立ち位置は、ある程度の経済水準にある人々の視点です。
 その最も中心となるメッセージは、

(引用) いろいろな人がいるこの村では
あなたとは違う人を理解すること
相手をあるがままに受け入れること

そしてなにより
そういうことを知ること
とても大切です

というものでしょう。

 このフレーズ自体、恵まれた立場の人からの言い方ではあります。生きるのに精一杯の人から搾り出すように発せられた声ではありません。そういった境遇になる人々は、自分の生きている今この場所のこと以外、考えをめぐらせる余裕すらないはずだからです。
 そのあたりの感覚・感性の違いをどう捉えるかが、本書に対して抱く印象を大きく振らせているのだと思います。

 しかし、本書で取り上げられているような現状・実態を知らないでいるより、まずは知ること、このことは私は決定的に重要だと思います。スタートはそこからです。


世界がもし100人の村だったら 世界がもし100人の村だったら
価格:¥ 880(税込)
発売日:2001-12

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シャーロック・ホームズの冒険 (アーサー・コナン・ドイル)

2011-12-07 22:19:36 | 本と雑誌

Sherlock_holmes_portrait_paget  世界で最も有名な人物の一人は、間違いなくこの作品の主人公、シャーロック・ホームズでしょう。

 この作品を文庫本で初めて読んだのは、たぶん中学生のころだったと思います。が、今ごろになって、なぜかもう一度読み返してみたくなって手に取ったものです。最近のいわゆる「ミステリー」「サスペンス」といったジャンルの作品に今ひとつ馴染めないせいかもしれません。

 ご存知のとおり、この短編集はホームズシリーズの中でも最初期のものです。改めて読み直してみても、やはり秀逸ですね。「推理小説」ですからトリックの面白さには(ネタばれになりますから、)言及しませんが、ストーリーとは直接関係のないところから、私が関心を持ったくだりをいくつかご紹介します。

 まず、ひとつめ。推理の天才シャーロック・ホームズですが、「ボヘミア国王の醜聞」の中で、事件の発端となる手紙を前にしての興味深い台詞。ワトソンに、奇妙な手紙の内容について尋ねられたとき、ホームズはこう答えました。

(p14より引用) 「まだ何も材料がないんだ。材料もないうちに理論づけをこころみるのは、大きなまちがいだ。事実に見合う理論を探そうとせずに、知らず知らずのうちに理論に合うように事実をねじまげるおそれがあるからだ。・・・」

 まさに本質を突いた言葉ですね。

 また、「ボスコム渓谷の謎」の中では、情況証拠から有罪確定と考えられるようなケースを前にして、ホームズはこう語っています。

(p128より引用) 「その情況証拠というのが、実は、あまり当てにならないんだ」・・・「決定的にある一つの点を指し示しているかと思うと、わずかに視点を変えるだけで、まったく同じ確実さで全然別の方向を指しているように思えることがあるのだ。・・・」

 このあたりの台詞も大いに首肯できるところです。

 ただ、こういったフレーズが印象に残るというのも、かなり考え物ですね。長い会社生活の習慣から、「推理小説のストーリーは、課題解決のプロセスだ」などと訳知り顔で語るのはあまりにも無粋です。
 少なくとも本書に接する姿勢としては、中学生のころの方が圧倒的に素直で健全でした。

 最後に、「椈の木荘」の中でホームズがワトスンに吹っかけた議論は、なかなか面白いものでした。

(p438より引用) 「・・・犯罪は、いたるところにあるが、正しい推理は、めったにあるものではない。だから、きみも事件そのものよりも推理を書くべきなのだ。きみは一連の講義録であるべきものを、シリーズ式の物語に低めてしまったのだ」

 これは、今日の「サスペンス物」の作品群にもそのまま当てはまる指摘です。
 これをドイル自身、自らの作品の中で語らせるのはシニカルですが、またそれだけに意味深長ですね。


シャーロック・ホームズの冒険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 75-1)) シャーロック・ホームズの冒険 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 75-1))
価格:¥ 924(税込)
発売日:1981-06

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大人の流儀 (伊集院 静)

2011-12-04 09:26:02 | 本と雑誌

</object>
YouTube: [AC CM]公共広告機構 夏目雅子

 
 「週刊現代」に連載されたエッセイを再録したものです。書店でも評判になっているということで手にとってみました。一冊の本という形で伊集院氏の著作を読むのは、たぶん初めてですね。

 ただ、正直なところ、帯に書かれているようなシーン(苦難に立ち向かわなければならないとき。どうしようもない力に押し潰されたとき。とてつもない悲しみに包まれたとき。・・・)と正対したとき、思い起こすであろう「心にズシンと響くようなフレーズ」には、ほとんどお目にかかりませんでした。

 とはいえ、興味深いくだりもあったので、その中から1・2、覚えに書き留めておきます。
 まずは、何ものにも拘束されない時間の大切さに触れた一文から。

(p88より引用) 作家の城山三郎氏は、それを“無所属の時間”と呼んで、大切にした。“無所属の時間”とは書いて字のごとく、その時間がどこにも所属しないことだ。・・・一度、どこにも所属しない時間を過ごしてみたまえ。これが案外と難しいことがわかる。

 仕事や家庭・・・、およそ身近にあるものとの関わりをまったく持たない空間と時間を持つこと、たとえば、ホテルの一室で、たとえば目的のない街歩きで・・・、それによって新たな気づきがあるというのです。一度やってみたいと思いますが、これがどうして、なかなか・・・ですね。
 あとは、このフレーズ。

(p98より引用) 人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている。

 確かにそのとおり。「自分もそうだから、他人もそうなんだ、いろいろあるんだ、そうに違いない」と思い至ること、このことを意識しているか否かによって、人への接し方・心遣いに大きな違いが出てきます。

 さて、本書。巻末に故夏目雅子さんを偲んだ一文が載せられています。改めて太陽のように輝いていたクッキーフェイスを思い出しました。


大人の流儀 大人の流儀
価格:¥ 980(税込)
発売日:2011-03-19

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魔法のことば (星野 道夫)

2011-12-02 23:34:34 | 本と雑誌

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YouTube: Tiko and the Shark - Ti-Koyo e il suo pescecane 1964


 大自然を対象とした印象的な写真で有名な星野道夫氏の講演集です。
 アラスカの大自然と人々の暮らしに魅了された星野氏の優しい語り口が心地よい内容です。
 興味深い話はそれこそ数多くあったのですが、その中でちょっと驚いた星野氏と私の共通体験がありました。

(p42より引用) 子どもの頃を振り返ってみると、最初に「自然ってすごいな」と思ったのは「チコと鮫」という映画を観たときです。・・・多分ものすごく古い映画なんですけれども、南太平洋のタヒチを舞台にした、チコという現地の少年と鮫の物語でした。その映画がすごく印象に残っていて、何が印象に残ったかというと、その映画の中に何度も出てくる南太平洋のシーンなんです。

 私も小学生のころ、この「チコと鮫」を観た記憶があります。確かに印象の強い映画でした。星野氏の語っているようにその南の海の奇跡的な美しさは未だに忘れられません。

 さて、そういう「自然」への憧れから、星野氏はアラスカで暮らすことを決意したのですが、どうしてアラスカなのか、「第三章 めぐる季節と暮らす人々」のなかで、こう語っています。

(p79より引用) 自然に対する憧れはもちろんあるんですが、もう一つ、やっぱりそこに暮らしている人々にすごく魅かれたということがあります。
 例えば、南極にもやはりすごい自然はあると思うんですけれども、きっと自分は南極には魅かれないだろうなと思うのは、そこに人が暮らしていないからです。・・・いろいろな人間がいろいろな価値観を持って生きていて、そういうさまざまな人々の暮らしに出合えるということが、自分が十四年アラスカを旅している理由だと思います。

 自然の中で暮らしている人々がいる、その人々の中にはいって一緒に生活をすることが、星野氏の選んだ道でした。
 そういうアラスカでの暮らしの中での1シーン、クジラ漁で捕獲したクジラを解体する場面での星野氏の感想です。

(p59より引用) 若い連中はまだどうやってクジラを解体したらいいのかよく分からない。それで必ず周りに年寄りが付いているんです。・・・年寄りがどこかで力を持っている社会は健康な感じがする。若い連中も年寄りに対して一目置いていて、そういう風景は見ていて本当にいいですね。

 クジラ漁はエスキモーの人々にとって特別なイベントでした。この晴れの場を通し、エスキモーとしての伝統や誇りを伝え確認しているのです。年長者への敬いと若者への期待がうまく交じり合いながら、活きた行事が営なまれていく姿は、温かく健全ですね。

 クジラを追う海もカリブーが旅する陸も、ともかくアラスカの自然のスケールは桁違いのようです。アラスカでは、自然ではないところの方が圧倒的に珍しいのです。

(p207より引用) 例えばアメリカだと国立公園はいちばん野生の場所で、その周りに人の暮らしがあると思うんですが、アラスカの場合は逆なんです。国立公園がある意味でいちばんポピュラーな場所で、その周りに広がっている原野の方がもっと野生なんですね。

 もうひとつ、とても面白いと感じたのが、星野氏の「自然」についての考え方でした。それは「ふたつの自然」というものです。

(p98より引用) 人間にとって大切な自然が二つあるような気がします。
 一つは、皆にとっての身近な自然です。・・・それは日々の暮らしの中で変わっていく自然ですが、もう一つ、遠い自然も人間にとって大切なのではないかと思うんです。
 そこには一生行けないかもしれないけれども、どこか遠くにそういう自然が残っていればいつか行くことができるかもしれない。あるいは、一生行けないかもしれないけれども、いつも気持ちの中にある、そういう遠い自然の大切さがある。・・・ただ、そこにあることで人の気持ちが豊かになる自然があるのだと思います。

 そして、反省。今、私たちは、資源開発という名のもとにこの遠い自然も失おうとしているのです。それは環境的・物理的な喪失ですが、もっと大きな喪失は、そういう遠い自然を思いやる心を失ってしまうことではないかと、本書を読んで考えさせられました。


魔法のことば (文春文庫) 魔法のことば (文春文庫)
価格:¥ 760(税込)
発売日:2010-12-03

 
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