OMOI-KOMI - 我流の作法 -

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空気の支配 (失敗の本質-日本軍の組織論的研究 (戸部良一・野中郁次郎他)

2008-06-22 13:50:11 | 本と雑誌

Guadalcanal  日本軍の得意な思考様式は、現実を前にした「積み上げ式」でした。
 「帰納法」的といえるかもしれません。

 
(p285より引用) 日本軍は、初めにグランド・デザインや原理があったというよりは、現実から出発し状況ごとにときには場当り的に対応し、それらの結果を積み上げていく思考方法が得意であった。このような思考方法は、客観的事実の尊重とその行為の結果のフィードバックと一般化が頻繁に行なわれるかぎりにおいて、とりわけ不確実な状況下において、きわめて有効なはずであった。しかしながら、すでに指摘したような参謀本部作戦部における情報軽視や兵站軽視の傾向を見るにつけても、日本軍の平均的スタッフは科学的方法とは無縁の、独特の主観的なインクリメンタリズム(積み上げ方式)に基づく戦略策定をやってきたといわざるをえない。

 
 それに対比して米軍の思考様式は論理的な「演繹法」を基本にしていました。
 さらに、頭の中だけの演繹ではなく、実践の結果からの検証・改善のプロセスも組み込まれていました。

 
(p287より引用) 日本軍が個人ならびに組織に共有されるべき戦闘に対する科学的方法論を欠いていたのに対し、米軍の戦闘展開プロセスは、まさに論理実証主義の展開にほかならなかった。・・・
 ガダルカナルでの実戦経験をもとに、・・・太平洋における合計18の上陸作戦を通じて、米海兵隊が水陸両用作戦のコンセプトを展開するプロセスは、演繹・帰納の反復による愚直なまでの科学的方法の追求であった。

 
 どうも日本軍には、論理実証的思考様式が存在しなかったようです。

 
(p287より引用) 他方、日本軍のエリートには、概念の創造とその操作化ができた者はほとんどいなかった。

 
 日本軍の上層参謀と現場士官との間には、大きな組織的・情緒的な断層がありました。
 明確な意見表明をせず、双方で「察する」ということが期待されました。その結果、それぞれの立場に都合の好い手前勝手な解釈がまかり通っていったのです。

 
(p289より引用) 日本軍の戦略策定が状況変化に適応できなかったのは、組織のなかに論理的な議論ができる制度と風土がなかったことに大きな原因がある。

 
 また、上層参謀間には、論理的判断を超越した人間的つながりの判断軸が存在していました。
 こういった一種「空気の支配」といった状況は、インパール作戦の解説においても語られています。

 
(p176より引用) なぜこのような杜撰な作戦計画がそのまま上級司令部の承認を得、実施に移されたのか。・・・鵯越作戦計画が上級司令部の同意と許可を得ていくプロセスに示された「人情」という名の人間関係重視、組織内融和の優先であろう。・・・
 このような人間関係や組織内融和の重視は、本来、軍隊のような官僚制組織の硬直化を防ぎ、その逆機能の悪影響を緩和し組織の効率性を補完する役割を果たすはずであった。しかし、インパール作戦をめぐっては、組織の逆機能発生を抑制・緩和し、あるいは組織の潤滑油たるべきはずの要素が、むしろそれ自身の逆機能を発現させ、組織の合理性・効率性を歪める結果となってしまったのである。

 

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) 失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
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日本流作戦譚 (失敗の本質-日本軍の組織論的研究 (戸部良一・野中郁次郎他)

2008-06-15 13:35:41 | 本と雑誌

Pearl_harbor  この本を読むのは、これで3回目だと思います。例のセミナーの課題図書に指定されたので、久しぶりに読んでみました。

 大東亜戦争における6つの作戦(ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦)をケースに、日本軍という組織が失敗(敗北)に至った要因を分析した内容です。

 
(p23より引用) 大東亜戦争における諸作戦の失敗を、組織としての日本軍の失敗ととらえ直し、これを現代の組織にとっての教訓、あるいは反面教師として活用することが、本書の最も大きなねらいである。

 
 本の前半で紹介した6つの作戦に共通にみられる失敗の要因を、「戦略上の要因」「組織上の要因」に分けて分析を進めます。
 その「戦略上の要因」で指摘されている点、いわゆる「ビジョンの欠如」です。

 
(p274より引用) 結局、日本軍は六つの作戦のすべてにおいて、作戦目的に関する全軍的一致を確立することに失敗している。・・・
 作戦目的の多義性、不明確性を生む最大の要因は、個々の作戦を有機的に結合し、戦争全体をできるだけ有利なうちに終結させるグランド・デザインが欠如していたことにあるのはいうまでもないことであろう。その結果、日本軍の戦略目的は相対的に見てあいまいになった。この点で、日本軍の失敗の過程は、主観と独善から希望的観測に依存する戦略目的が戦争の現実と合理的論理によって漸次破壊されてきたプロセスであったということができる。

 
 そしてこのグランド・デザインの欠如が、戦略の「短期志向」に結びついていきます。

 
(p278より引用) 日本軍の戦略志向が短期志向だというのは、・・・長期の見通しを欠いたなかで、日米開戦に踏み切ったというその近視眼的な考え方をさしているのである。

 
 さらに、戦略遂行の基本的基盤であるバックヤードの軽視につながるのです。

 
(p280より引用) 短期決戦志向の戦略は、・・・一面で攻撃重視、決戦重視の考え方と結びついているが、他方で防禦、情報、諜報に対する関心の低さ、兵力補充、補給・兵站の軽視となって表われるのである

 
 ミッドウェー作戦では、戦略遂行にあたっての柔軟な対応力が問われる「不断の錯誤」が生じました。

 
(p97より引用) 戦闘は組織としての戦闘部隊の主体的意思である作戦目的(戦略)と、その遂行(組織過程)の競い合いにほかならない。戦場において不断の錯誤に直面する戦闘部隊は、どのようなコンティンジェンシー・プランを持っているかということ、ならびにその作戦遂行に際して当初の企図(計画)と実際のパフォーマンスとのギャップをどこまで小さくすることができるかということによって、成否が分かれる。

 
 ミッドウェー海戦においては、日米双方に生じた錯誤に対する指揮官の判断力・組織としての即応力の差が勝敗を分かつ分水嶺になったようです。
 その判断力や即応力は、ビジョン理解を基礎とした応用力です。

 

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このすごい思考術を盗もう! (中島 孝志)

2008-06-08 19:30:41 | 本と雑誌

 中島氏の著作を読むのは、「大人の仕事術」に続いて2冊目です。
 本書は、著者の講演の中からの抜粋とのこと、講演ということなので、話し言葉で書かれておりとっつき易い本です。

 思考法・発想法について、著者が薦める具体的な方法が豊富な例をもとに紹介されています。
 そのいくつかを覚えに記しておきます。

 まずは、具体的アクションを考える際の「判断工程の逆流」という方法です。

 
(p23より引用) (たとえば、「AIDMA」のような)この脳の判断工程を逆流させて、自分の思う方向に誘導させてしまう方法を「バックキャスト・シンキング」とわたしは呼んでいます。

 
 Actionを検討するには、一つ前のMemoryを強める方法を考えればよいとのアドバイスです。

 次は、有用な情報を収集するための「キーワード・シンキング」

 
(p56より引用) キーワードを明確に掲げると、情報はどんどん集まってきます。

 
 キーワードが常に頭にあると、見るもの聞くもの外からの刺激がすべて情報源になるということですし、そのキーワードによるシンボライズによっていつも頭を「検索モード」にしておくことができるというわけです。

 それから、新しいことを思いつく具体的方法としての「スライド・シンキング」
 この本質は、既存のものからの連想ゲームです。

(p88より引用) 考える力を鍛えるとき、大切なことは発想よりも連想じゃないだろうか?わたしはそう考えています。・・・
 ・・・連想というのはすでにあるものをヒントにあれこれアレンジすることですからね。・・・
 会議の意義というのも、1人連想ゲームではなく、チームで連想ゲームをしたほうが、この連想のリレーがダイナミックにできるからにほかなりません。

 
 優れた発想が完全な形でいきなり思いつくことはほとんどありません。新たなアイデアは、磨かれて使い物になってゆくのです。

 
(p116より引用) 一つ一つの情報を参考にしたり、こんなふうにすでにモノになっている企画や商品をヒントにすると、スルスルッと閃くでしょ?これを「スライド・シンキング」とわたしは呼んでいます。
 企画というのはこれで完了ということはありません。「これ、いけるかも」と思ったら、あとは肉付けする。・・・
 プラニングからオペレーション作業に移っても、そこでまたいろんなアイデアが出て、どんどん付加価値をつけていくことが大切なんです。

 
 最後は、「チェックリスト法」
 ブレインストーミング法を考えたアレックス・オズボーンのもうひとつの功績としてこの方法を紹介しています。
 チェックリストは9つです。

 
(p128より引用)
①ほかに使い道はないか?(Put to other uses)
②パクれないか?(Adapt)
③変更したらどうか?(Modify)
たとえば、
④大きくしたらどうか?(Magnify)
逆に、
⑤小さくしたらどうか?(Minify)
⑥あれとこれとを入れ替えたらどうか?(Rearrange)
⑦代用できないか?(Substitute)
⑧逆にしたらどうか?(Reverse)
⑨あれとこれとを組み合わせたらどうか?(Combine)

 
 著者は、自ら「著訳書は170冊超。プロデュースした書籍は500冊超。読書は年間3000冊ペース。」と紹介しています・・・。年間3000冊の読書とはすざましいですね。これはどうも、私のイメージする読書とは定義が違うようです。

 確かに本書のように、役に立つ内容が含まれていてもエッセンスだけに絞れば数ページで済むような本なら、3000冊の読書?も夢ではないかもしれません。 

このすごい思考術を盗もう!―最強の「地頭力」をつくるオモシロ講義 このすごい思考術を盗もう!―最強の「地頭力」をつくるオモシロ講義
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科学の進歩 (物理学はいかに創られたか‐初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (上巻・下

2008-06-07 19:07:47 | 本と雑誌

Galileo  科学者といえども思い込みに支配されることがあります。誤った直観が新奇の発想の邪魔をするのです。

 
(上p8より引用) 誤った手がかりが話の筋をもつれさせて解決を延ばしてしまうことは探偵小説の読者のよく知るところです。直観の命ずる推理法が誤っていて運動の間違った観念に導き、この観念が何世紀の間も行われたのです。

 
 ガリレイの時代に至るまでの誤った観念は、アリストテレスの「力学」にある「運動体はこれを押す力がその働きを失った時に静止する」というものでした。

 
(上p8より引用) ガリレイの発見は直接の観察に基づく直観的結論は誤った手がかりに導くことがあるから、必ずしも信用が置けるものではないことを私たちに教えたのです。

 
 新たな思想は古い観念から脱却するものですが、同時に、古い観念を説明しきるものでなくてはなりません。

(上p86より引用) 科学の上で大きな進歩の見られるのは、殆んどいつも理論に対していろいろな困難が起り、危機に出遇った際にこれを脱却しようとする努力を通じてなされるのであります。私たちは、古い観念や、古い理論を検討してゆかなくてはなりません。過去にはそれでよかったものの、同時にその検討によって新しいものの必要を理解し、かつ前のものの成立する限度を明らかに知ることが大切です。

 
 アインシュタインの相対性理論の場合も同じ過程を辿りました。
 すなわち「誤った直観」から脱却し新たな理論を立て、その新たな理論により、過去の思考の適応範囲と限界を明らかにしたのでした。

 
(下p45より引用) 古典力学では、時計が動いていてもそのリズムを変えないということを、暗黙のうちに仮定していました。そしてこのことは甚だ明瞭であって、わざわざそれを言いあらわす必要もないと思われていました。しかしどんな事柄でも明瞭過ぎるということは本来ないはずであります。もし私たちが十分に注意深く考えてゆこうというのであるなら、従来は当然のことと見なされていた仮定でも、物理学においてはこれを立ち入って分析してゆかなくてはなりません。
 一つの仮定を、それが単に古典物理学の仮定とは異なっているという理由だけで不合理と見なしてしまってはいけません。・・・
 動いている時計がリズムを変えるばかりでなく、動いている物差の棒もまたその長さを変えると考えてもよいのでしょう。その変化の法則がすべての慣性系に対して同じでありさえすれば、差支えはないわけです。

 
(下p48より引用) ここに相対性理論と古典力学とで根本的に相違しているところの最初の事柄が見られるのです。・・・すなわち、もし光の速度がすべての座標系で同じであるならば、動いている棒はその長さを変え、動いている時計はそのリズムを変えなければならないのであって、かつこれらの変化を支配する法則は厳密に決定されます。

 
 古典力学は、一つの慣性系で小さい速度の場合という特殊条件で成立する考えです。一般相対性理論は、光速まで想定した異なる慣性系(座標系)においても成立するより汎用的な理論です。

 私たちは、シンプルな考えの方が汎用的だと考えがちです。
 しかしながら、物理学の世界では、古典力学の方が一般相対性理論よりシンプルです。それは、古典力学が想定している世界が、一般相対性理論の汎用性を支えるパラメータのいくつかが特殊なケースであるからなのです。

 

物理学はいかに創られたか―初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (下巻) (岩波新書 赤版 (51)) 物理学はいかに創られたか―初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (下巻) (岩波新書 赤版 (51))
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科学の目的 (物理学はいかに創られたか‐初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (上巻・下

2008-06-01 18:38:02 | 本と雑誌

Einstein  以前、朝日新聞の書評の欄で、有馬朗人氏が「たいせつな本」として挙げていらっしゃったので読んでみました。

 ガリレイからニュートン、そしてアインシュタインへという物理学の大きなスキームの変化を辿ったものです。「原文序文」にはこう書かれています。

 
(上p.vより引用) 私たちの目的とするところは、むしろ人間の心が観念の世界と現象の世界との関係を見つけ出そうと企てたことについて、その大要を述べてゆこうとする点にあるのでした。つまり世界の実在に対応するような観念を科学の名で案出していくところの原動力を示そうとしたのでした。

 
 本書は、科学の発展を連続性の中でとらえ説明していきます。

 
(上p41より引用) 科学を、ばらばらな、互いに関係のない部分に分割することは出来ません。実際、ここに紹介する新しい概念は、既知の概念とも、またなお後に出てくるはずの概念とも、互いにつながっているのです。科学の一部門に発展した思想の線は、外見上全く性質の異なった事柄の記述に適用し得ることがしばしばあります。かかる場合に、もとの概念が、その発生の源となった現象をも、並びにそれを新たに適用する現象をも、共に理解することの出来るように修正されることも稀ではありません。

 
 このことは本書の中で繰り返し述べられています。

 
(下p160より引用) 物理学ではしばしば、外見上まるで無関係と思われる現象の間に或る合理的な類推を進めて行って、それで、本質的な進歩が成功するようになったという場合が経験されました。・・・既に解釈された問題をまだ解釈されない問題に関連させると、そこに新しい思考が暗示せられて、私たちの困難の上に新たな光を投ずることもできるのです。・・・表面的には全く異なって見えてもその裏に隠されているある本質的な共通の性質のあるのを見つけ出し、その基礎の上に新しい理論を形づくって成功に導くというのは、これこそ実に重要な創造的な仕事なのです。

 
 そこでの科学の進歩は、古い問題をスタートにしています。
 新たな事実ではなく、既知の事実を新たな思考で見直すという過程です。

 
(上p106より引用) 問題を公式的に示すのは、それを解くことよりも大体において一層本質的な事柄です。・・・新しい疑問や、新しい可能性を提起し、新しい角度から古い問題を眺めるのは、創造的な想像力を要し、かつ科学の上で真の進歩を特徴づけるものです。慣性の原理や、エネルギー恒存の法則は、既に周知の実験や現象について、新しくかつ独創的な思考を行なってのみ得られたのでした。・・・そこでは既知の事実を新しい光のもとに見なおすことがいかに重要であるかが強調された上で、新しい理論を述べることにしたいと思います。

 
 本書では、幾多の科学者による新たな理論の創造過程を紹介しています。既存の理論とは矛盾する事実・実験結果と向き合い、それをブレークスルーする思想を思考実験により生み出していったのです。

 
(下p152より引用) 科学は新しい思想や、新しい理論を創るように私たちを強要します。それらの目的は、しばしば科学の進歩の道を阻むところの矛盾の牆壁を破壊することであります。科学におけるあらゆる本質的な思考は、実在とこれを理解しようとする私たちの企図との間の劇的な争闘において生れて来ました。現在ここでもまた一つの問題があって、それを解くのに新しい原理が必要とされるのです。

 
 当然ではありますが、本書の時点でも解明されていない問題はあります。
 光は波か粒子か。量子物理学の延長上にその解があるのか、それとも全く新たな理論がその問題を解明するのか。

 
(下p186より引用) 科学は決して完結した書物ではなく、またいつになっても、そうでありましょう。重要な進歩はいつも新しい問題を起して来ます。どんな発展にしても、それは長い間には、新しいかつ一層深い困難を現わして来ます。

 

物理学はいかに創られたか―初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (上巻) (岩波新書 赤版 (50)) 物理学はいかに創られたか―初期の観念から相対性理論及び量子論への思想の発展 (上巻) (岩波新書 赤版 (50))
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