OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

空海の風景 (司馬 遼太郎)

2008-10-31 23:32:03 | 本と雑誌

Kuukai  以前から空海弘法大師には少し関心があり、彼の著書「三教指帰」を読んでみたのですが玉砕しました。

 今回読んだのは、司馬遼太郎氏による空海弘法大師をテーマにした小説?です。
 司馬遼太郎氏の著作は、小説・エッセイ・対談等、それなりに読んだことはあるのですが、本書は、「司馬文学の記念碑的傑作」との評価もあるそうです。

 空海の生涯のなかで、私が「空海らしさ」と感じたところをいくつかご紹介します。

 若き日の空海です。

 讃岐国で生れた空海は都に出て、大学は行政官僚への道である「明経道」に進みました。儒学の基本を学ぶ道です。

 
(上p69より引用) 明経のほかに、規定外のことながら音と書を学んだであろうということは、明経の習学に没頭しつつも、閉塞された才質のうずきをそのことで癒すためであったに相違なく、ひるがえっていえばそれほどにこの人物は篤実な官僚学の諸課程をおさめるためには不幸なほどに多量の芸術的才能をもち、しかも持つのみでそれを十分に充たすだけの場がその青春の条件や環境にはなかったことを、われわれは見てやらねばならない。

 
 そして、その後程なくして空界は大学を退学し、仏教的世界へ転身します。

 
(上p58より引用) かれが仏道に入ったのはいわば学科の転科にすぎず、中世の爛熟期に日本にあらわれてくるひ弱な厭世的情念などはこの精気のあふれた男にはなかった。

 
 空海の視座は、普遍的な高みにありました。

 
(下p132より引用) 空海はあるいは、言葉に出して、
-朝廷も国家もくだらない。
といったかもしれない。
 空海はすでに、人間とか人類というものに共通する原理を知った。・・・
 日本の歴史上の人物としての空海の印象の特異さは、このあたりにあるかもしれない。言いかえれば、空海だけが日本の歴史の中で民族社会的な存在でなく、人類的な存在だったということがいえるのではないか。

 
 もうひとつ、「空海の風景」を語るに必須の人物「最澄」について。

 本書で語られる空海の最澄に対する思いや姿勢の典型的記述です。

 
(上p196より引用) 「最澄なる者は、朝威を藉りて偽物にひとしいものを売りつけようとするのか」
 とまで思った瞬間が、この若者にあった。すくなくともそれに似た昂りがあったと思われる。

 
 司馬氏の描く空海は、当時の時代や思想の枠を凌駕した異能の人でした。
 巻末近く、空海の書について、書家の榊莫山氏のことばとともに司馬氏の空海観が紹介されています。

 
(下p321より引用) 「さらに、空海というのは最澄とちがい、書くたびに書体も書風も変えていて、どこに不変の空海が在るのか、じつにわかりにくい」・・・
私はふと、不変の空海など-以下はおぼろげな感想ながら-どこにも存在しないのではないか、と思ったりした。

 
 本書は、空海の生涯を描いた文芸作品ですが、内容は、平安期の日本と中国を舞台にした仏教史でもあり、また真言密教の概要書でもあったりします。また、司馬氏一流の歴史エッセイという趣きもあります。

 多様な顔をもつ作品ではありますが、私としては、「空海」という異才の人を主人公にした司馬氏による純粋な小説も求めたいと感じました。
 「空海」というテーマならば、司馬氏の想像力・想像力・構成力が存分に発揮されたであろうと思うからです。
 
 

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The Kaizen Way (脳が教える! 1つの習慣(ロバート・マウラー))

2008-10-29 23:28:39 | 本と雑誌

 本書では、しばしばトヨタの「カイゼン」活動が具体例として紹介されています。
 有名な「大野耐一」さんも登場します。例の問題発生時の工員による「ライン停止」の話です。

 
(p153より引用) 小さな問題をその場で解決することが、のちのち、はるかに大きな問題が発生するのを防ぐ。

 
 また、トヨタのカイゼン活動に代表されるいわゆる「提案制度」の日米の差異についても言及しています。

 提案制度への参加率、提案の採用率ともに日本の方が圧倒的に高い数値を示しているそうです。
 その違いの原因として、著者は、提案活動に対する「報酬」についての日米の考え方の違いを指摘しています。日本では、過度な報酬は逆効果になりがちのようです。

 
(p182より引用) 企業が多額の報奨金を出すというのは、「従業員は、自分が儲かると思えば脇目もふらずに働く歯車だ」というメッセージを出していることになりかねない。
 また、大きな報奨はそれ自体が目標になってしまい、仕事そのものに刺激と創造性を見いだしたいという社員の自然な欲求を奪いかねないのだ。

 
 日本の報奨金の平均は約400円。対するアメリカは約5万円です。

 
(p183より引用) 小さな報奨は、社員一人ひとりの内側からのやる気を後押しする。・・・小さな報奨は、向上したい、貢献したいという社員の内なる欲求を、企業や上司が高く評価したという合図になるのである。

 
 日本は、直接的な「おカネ」という形のインセンティブよりも、社員への「内発的動機付け」を重視しているのです。

 さて、本書において、著者は「小さな行動」の実践を勧めています。
 しかし、そういう悠長なやり方でいいのかしらとの思いもあるでしょう。
 こういった「小さな改善」では、現在企業がおかれている急激な環境変化には対応できないのではないか、今はドラスティックな変化・変革が求められているのではないか、との疑念です。

 こういった疑念に対して、著者はこう答えています。

 
(p169より引用) 「小さな一歩を実践する習慣」と革新の大きなジャンプは相容れないものではない。
 二つを併用すれば、深刻かつ複雑で、解決不可能に思われる問題にさえ対抗できる、強力な武器になる。
 だが、これまで解決できなかったトラブルに直面している人は、まず小さな一歩からはじめよう。

 
 

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小さいことからコツコツと (脳が教える! 1つの習慣(ロバート・マウラー))

2008-10-27 23:21:53 | 本と雑誌

 原題は「One Small Step Can Change Your Life : The Kaizen Way」です。
 邦題よりもこちらの方が素直でわかり易いですね。

 デミング博士の品質管理手法と臨床心理学者としての知見をもとに、「変化に向けて、日々小さな一歩を実践する習慣」の重要性を訴えています。

 「小さな質問」「小さな思考」「小さな行動」「小さな問題解決」「小さなごほうび」「小さな気づき(小さな瞬間を察知)」、この「小さな○○」というのが著者の主張の「肝」です。

 
(p48より引用) 変化を起こしたいのに行き詰っているというとき、たいてい大脳辺縁系がそれを台無しにしている。

 
 大脳辺縁系には、差し迫った危機に対して行動を起こすよう身体に警報を出すという機能があります。それが「闘争・逃走反応」で、この反応が、変化しようという気持ちに対して、抑制方向の反応を生じさせるのです。

 この反応を回避する方法が、「小さな一歩」を積み重ねることだと著者は主張しています。

 
(p52より引用) 小さな一歩を実践しつづけ、大脳新皮質が働きはじめたら、脳はあなたが望む変化に合わせた“ソフトウェア”をつくりだし、新たな神経経路を設けて、新しい習慣を確立する。あっという間に変化への抵抗感が消えはじめる。

 
 最初の脳のハードルさえやり過ごせれば、それは習慣として定着・拡大できてゆくのです。
 最初のステップは、自分への問いかけ(小さな質問)です。「小さな質問」を繰り返すことにより、脳は、それに取り組むような思考回路を形成するようになるというのです。

 そういう下地をつくっておいて、次に、無理なくできるレベルの行動(小さな行動)に移っていきます。 
 
 

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枕草子 (角川書店 編)

2008-10-25 15:19:59 | 本と雑誌

Heian_jidai_2   先に読んだ永井路子氏の「歴史をさわがせた女たち」の中に清少納言が登場していたので、今さらながらですが読んでみました。

 とはいえ、原文(古語)で読むに必要な知識ははるか昔に忘れ去ってしまっていますから、今回手にしたのは初心者向けの入門書。全編約300段の中から80あまりの段を取り上げて、現代訳に加え、わかり易い解説や図版を収録した本です。

 解説によると、枕草子の内容は、類聚的章段・日記的章段・随想的章段の3つに区分され、さらに類聚的章段は形式上「山は」「鳥は」などの「~は型」と、「めでたきもの」「うつくしきもの」などの「~もの型」に分けられるそうです。

 「~は型」は、代表的・象徴的な対象を次々に切り出してみせてくれます。
 「~もの型」は、おなじく連想的に同種類のものを列挙していきますが、最後にちょっと趣向が異なるものを挙げて面白さを倍加しています。たとえば、

 
(p169より引用) 恐ろしげなるもの 橡のかさ。焼けたるところ。水蕗。菱。髪多かる男の、洗ひて干すほど。(第142段)

 
 最後の「髪の多い男が、洗って乾かすところ」というのはかなり意表をついていますね。

 その他に「~もの型」で、私が面白いと思ったものをご紹介します。

 まずは、「すさまじきもの」。
 「すさまじ」とは、期待が裏切られしらけた気持ちといいます。

 
(p40より引用) すさまじきもの・・・
 人の国よりおこせたる文の、物なき。・・・(第22段)

 
 「地方からの手紙に何も贈り物がついていないもの」は期待はずれだというのですが、まあ、なんとも正直な気持ちの表出・・・? ですね。

 次は、「過ぎ去った昔が恋しく思い出されるもの」の段です。

 
(p52より引用) 過ぎにし方恋しきもの 枯れたる葵。雛遊びの調度。二藍、葡萄染など裂栲の、押し圧されて、草子の中などにありける、見つけたる。また、折からあはれなりし人の文、雨など降りつれづれなる日、探し出でたる。去年のかはほり。(第27段)

 
 このあたりの清少納言の感性には、確かにさすがといった冴えが感じられます。一つひとつの例示は、素直に納得できますね。

 「めったにないもの」。

 
(p92より引用) ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜き。主そしらぬ従者。・・・
 男・女をば言はじ、女どちも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よきこと、難し。(第72段)

 
 これは、1000年の時の隔たりがあっても、今もまた同じという典型です。また、人間関係の難しさも変わりません。

 最後のご紹介は、清少納言の心のうちの思いが垣間見られる段です。

 
(p36より引用) 宮仕へする人をば、あはあはしう、わろきことに言い思ひたる男などこそ、いと憎けれ。・・・(第21段)

 
(p212より引用) 世の中に、なほいと心憂きものは、人に憎まれむことこそあるべけれ。・・・
 親にも、君にも、すべてうち語らふ人にも、人に思はれむばかり、めでたきことはあらじ。(第252段)

 
 日々の事々を彼女一流の観点でザクッと切り取って表現する清少納言ですが、拠って立つ視座は「宮中の女御」という立ち位置に固定化されています。
 そのあたり、私如きがいうのも口幅ったいのですが、ちょっと物足りなさを感じてしまいます。「庶民の感覚はちょっと違うんだよなぁ~」という感じです。

 とはいえ、もしも当時ブログがあれば、やはり清少納言はアルファ・ブロガーだったでしょうね。
 
 

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今さら聞けない科学の常識 (朝日新聞科学グループ)

2008-10-23 23:18:42 | 本と雑誌

Kazan  日頃よく耳にする106の科学用語を、科学分野の記者たちが初心者向けに解説しています。

 たとえば「コラーゲン」
 巷のグルメ番組ではまことしやかに「コラーゲンを食べて肌にハリがもどった」とかいわれていますが・・・

 
(p74より引用) コラーゲンを食べるとお肌がぷるぷるになるというのは、「原料の補給にはなりますが、そのまま作用するとは理論的に考えられません」

 
 このあたりは、それはそうでしょうという感じですね。

 とはいえ、本書を読んで初めて知ったり、認識を新たにしたものも数多くありました。

 まずは、「電気自動車」についての解説から。

 
(p114より引用) 電気自動車が英国で発明されたのは1873年。変速機がいれず構造がシンプルなため、実はエンジン車より早い。・・・日本でも、戦後間もない1949年のガソリン不足時には、国内生産台数が全保有台数の約3%に達していた。

 
 かのトーマス・エジソンも電気自動車の性能改善に取り組んだそうです。

 そのほか、「火山の分類」について。
 私が学校で習ったころは、火山には、「活火山」「休火山」「死火山」の3種があるとされていました。が、現在では違うんですね。

 
(p179より引用) 火山学の進歩に伴い、各火山の活動には個性があって、噴火の間隔などもまちまちであることがはっきりしてきた現在は、休火山、死火山という用語は用いない。噴火した記録があればすべて、活火山とみなされる。

 
 これは知りませんでした。

 最後に、「流れ星」について。これも認識を新たにしたものです。

 
(p230より引用) ちりは、秒速10キロを超える猛スピードで飛んでくる。大気中の酸素や窒素の分子や原子にぶつかってはじき飛ばし、それが別の分子などにぶつかる。この繰り返しで大気が加熱されて発光する。ちり自体が燃えているのが見えているわけではなく、発光しているのは衝撃によってプラズマ化されたガスである。

 
 さらに、「流れ星が発光しているのは、直径数ミリの範囲だ」ということも初めて知りました。驚きです。

 本書ですが、「朝日新聞『日曜版』」での連載をまとめたものとのこと。わかり易い説明の項目もあれば、どうも噛み砕き方が今ひとつと感じる項目もありました。
 執筆した記者の方の違いでしょうか、解説のレベルのバラツキがちょっと残念でしたね。

 
 

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「古事記」の真実 (長部 日出雄)

2008-10-21 22:51:42 | 本と雑誌

Susanoo  古事記に関しては以前、梅原猛氏による「古事記」という本を読みました。
 今回は、長部日出雄氏による古事記をテーマにした論考です。

 長部氏は、本書でいくつもの興味深い仮説を提示していますが、その立論を貫く基軸は古事記編纂の発案者である「天武天皇」です。

 たとえば、「日本語の父は天武天皇」との説では、「天武天皇」→「古事記」→「日本語」と流れていきます。

 
(p51より引用) 日本人の自己同一性は、人種でも住所でもなく、日本語を母語とする事実によって決定されるとすれば、それは『古事記』によって確立されたのである。
 漢字という異国の文字を受け入れることからはじまったこの言語の再創造は、他者を包容することによって進化するわが国の文化の二元的な構造を、何よりも具体的に示す根本の軌範といってよいであろう。

 
 長部氏は、この日本語の成立に見られる「二元性」は言語の特性にとどまらず、日本という国家の基本構造でもあると考えています。
 その二元性は天武天皇の理想でもあったというのです。

 
(p261より引用) 
和語と漢字。
神と仏。
天津神と国津神。
唐楽・高麗楽と国風歌舞。
 と、たがいに異質で相反する要素の和らかな共存を図って、唯一の価値観に偏らず、二つの中心を持ついわば楕円形の国家を建設したい、というのが、天武天皇の願った理想の和の国の姿であった。

 
(p266より引用) しかし、天武天皇にはまた、軍事的な独裁者の面も確かにあった。その面が、女帝の威光を背負った後宮の影響力によって薄められ、極めて独創的な思想上の最上の部分だけが、後世に伝わって、「日本」という国家の原型を作るもとになった。

 
 この二元論は、明治から昭和期の歴史学者津田左右吉の思想にも繋がるものです。

 
(p129より引用) 権力と権威を切り離した‐津田左右吉のいうわが国古来の「世界に類のない二重政体組織」、単一の原理を唯一絶対のものとしない独特の二元論には、人類にとっても英知と呼んでいい貴重な価値が秘められていたのである。

 
 その他、本書では、「稗田阿礼は女性」とか「古事記は楽劇」等々の諸説が開陳されていますが、それらの論証において、やはり「古事記伝」に代表される「本居宣長」の業績が参照されています。

 著者は、幕末・明治期以降、国粋主義の思想的根拠とされた本居宣長観に対して疑問をいだいています。
 たとえば、宣長の詩歌感についての記述です。

 
(p274より引用) ただ物はかなく女々しげなる此方の歌ぞ、詩歌の本意なるとはいふなり。
 物事を、何もかも善悪のいずれかに理屈で(つまり漢意で)割り切るのではなく、「物のあはれ」を解する心こそ、この国の文芸の本意である、という翁の考えと、戦時中、本居宣長を神格化して担ぎ上げ、皇国史観と軍国主義を声高に勇ましく唱えた人びととの間に、どれほど大きな距離があったかが知られるであろう。

 
 宣長の著書「石上私淑言」に記された「物のあはれ」の定義をみると、至極当然の自然な心持ちが感じられます。

 
(p275より引用) さてその物のあはれを知るといひ、知らぬといふけぢめは、たとへば めでたき花を見、さやかなる月に向ひて、あはれと情の感く、すなはちこれ、物のあはれを知るなり。

 
 

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従来型手法との創発 (創発するマーケティング(DNP創発マーケティング研究会))

2008-10-19 12:02:54 | 本と雑誌

Harleydavidson  本書では「創発マーケティング」を実践している事例をいくつか紹介しています。

 その中のひとつ、「ハーレーダビッドソンジャパン(HDJ)」の奥井社長は、従来型の「顧客囲い込み戦略」に対して大きな疑念を表明しています。

 
(p265より引用) 奥井社長は、自動車産業に従事してきた経験をもとに、アメリカ発の従来型のマーケティングに対して、「顧客を囲い込むことなどできない」とする根源的な問題を提起した。その背景には、「顧客囲い込み」をベースにする生涯顧客論が、時に顧客視点の重要性を強調しておきながら、実は、優良顧客の選別という名の下に、企業が自ら発した価値観を顧客に押し付け、顧客を操作できるという顧客視点を無視した考え方を前提にしているとの認識がある。

 
 今日の顧客は、商品の提供者である企業と同等もしくはそれ以上の情報を保持しています。そういう情報共有/発信型の顧客をベースに置くと、マーケティング・コミュニケーション戦略も大きく変化せざるを得ません。

 
(p168より引用) いままでの広告効果のモデル、AIDMAモデルにしろ、DAGMARにしろ、最終的なゴールはaction、すなわち「物の購入」で終わっていた。それは消費者間の相互作用がほとんどなかった時代だからこそ考えられるモデルであり、いまはそうはいかない。Actionの後の情報の伝達、共有までも考えたモデルが必要となってくる。

 
 本書において著者たちは、次のマーケティングメソッドとして「創発」マーケティングの重要性を主張しています。

 しかしながら、その「創発」をプロセスとして取り込むためのマネジメントスタイルは、従来型となんら矛盾するものではないと主張しています。

 
(p280より引用) 計画・管理は、当初の予定を何が何でも貫徹させる、というものではなく、その本質はPlan-Do-Seeのサイクルを効率的に回すことにあり、変化する状況をこのサイクルに取り入れ、計画・管理そのものを戦略的に変えていくことを目的としている。そこには、創発を取り込むことも既に含意されているとみてよい。

 
 偶然を排除するのではなく、偶然を取り込んで新たな計画・管理のサイクルをまわすことが、「創発」を活かすいわば止揚された行動スタイルなのです。

 
(p268より引用) 「創発」を意図したマーケティングとは、マーケティング活動の全体が、マーケティングを構成する諸要素(例えばマーケティングの4Pのように、決定論的に顧客の振る舞いを操作する手法)によってもたらされる成果の総和としてかたちづくられるのではなく、諸要素間の「振る舞い」の相互作用が、全体として当初の「仕掛け」の範疇を超えた成果をもたらすということを、あらかじめ戦略に織り込む行動様式といえるだろう。ここでの「仕掛け」の範疇を超えた成果とは、新たな需要の発見かもしれないし、新たな戦略の発見かもしれない。

 
 

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「創発」社会の担い手 (創発するマーケティング(DNP創発マーケティング研究会))

2008-10-17 12:46:57 | 本と雑誌

 「創発」とは、「自立性と多様性をもった個と個の相互作用のなかから、その総和を超えた予期せぬ現象が生み出され、その結果がまた個に影響を与える」状態を意味する概念ですが、こういった概念は、かなり以前から経営学の分野では扱われていたそうです。

 最近では、この「創発」概念はマーケティングの世界でも注目されています。

 
(p201より引用) すべてがすべてに影響を及ぼす可能性をもった有機的な市場で、企業はいま、マーケティング戦略の変換を余儀なくされている。買ってもらう関係から、参加してもらう関係、そして参加するだけではなく、それ以上に価値を生み出してもらう関係を築かなくてはならないのである。

 
 生産者である企業から消費者である生活者へという従来型の「一方方向の関係性」であった状態から、昨今は、企業と生活者・生活者と生活者・企業と企業の間に「双方向の関係性」が生じはじめ、これまでとは異なるコンテキストのなかで新たなマーケティングが議論されるようになったのです。
 
 本書の著者の一人である井関利明氏は、こういった創発社会の担い手として「知的中間層」の登場を指摘しています。

 
(p39より引用) かなりの知的程度をもち、メディア・リテラシーを備えた多数多様な人びとが、伝統的なテクノクラートや専門家とは異なる地平に、新しい「知的中間層」として登場してきたように思われる。この意味での「知的中間層」こそが、「創発社会」の新しい担い手となり、またビジネスの未来をも大きく左右する新しいパワーなのだろう。

 
 また、相互関係性を活性化するためには、従来型のリーダーとは異なるタイプのリーダーが求められていると言います。

 
(p137より引用) 組織における価値創造、合意形成、問題解決を推進するに当たって、その内容(コンテンツ)に直接かかわるのではなく、議論の過程(プロセス)をデザインすることにより、チームの成果を高めていくような支援型リーダーをファシリテーターと呼ぶ。・・・組織の創造性が求められる今日、マネージャー(管理者)やリーダー(先導者)以上に、こうしたファシリテーター的な人物像が求められている。

 
 今日、多くの企業は、Web2.0やCGM(こういった呼び名も最近はあまり耳にしなくなりましたが・・・)の流れを受け、顧客との双方向コミュニケーションの場すなわち「創発」を生起させる様々な仕掛けを準備しています。
 
 こういった動きは、近い将来のマーケット・ブレイクを予感させるものではありますが、同時に、本書ではそのリスクも指摘しています。

 
(p115より引用) 消費者参加を仕掛ける、打てば響くようなハイコンテクスト環境にあるかどうかの判断が不可欠といえる。
 今日、仕組みだけは立派なキャンペーンサイトが「炎上」し、数週間で閉鎖に追い込まれるという事態も珍しくない。つまり、消費者の能動性・創造性は、ネガティブな方向においても強く作用する、という点も認識しなければならないのだ。
 創発(emergence)の語源と、危機(emergency)の語源は同じということだが、やり方次第では強いネガティブ反応が返ってくるというリスクも考慮せざるを得ない。

 
 

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今昔物語集 (日本の古典をよむ 12) (馬淵 和夫)

2008-10-15 22:55:51 | 本と雑誌

Akutagawa_ryunosuke  「今昔物語集」は、平安時代末期ごろに編纂された古代の説話集です。
 全31巻、1,000を超える説話が、「天竺」(インド)、「震旦」(中国)、「本朝」(日本)の3部に分けられ採録されています。また、その各部は仏法部と世俗部に大別されています。

 本書は、今昔物語集の入門書として、巻11以降の「本朝」の部から37の説話を紹介しています。
 芥川龍之介の「羅生門」や「鼻」「芋粥」といった作品のモチーフになった説話も含まれています。能の「道成寺」、浄瑠璃「道成寺現在蛇鱗」、歌舞伎舞踊「京鹿子娘道成寺」につながる説話(巻14ノ3「道成寺の僧、法華経を写して蛇を救うこと」)も有名です。

 説話のカバレッジは広汎で、仏教説話から有名人の伝記・武勇伝、怪奇・滑稽譚等々・・・、公家・高僧から庶民、また鬼や龍といった超自然的存在・想像上の生物も登場しバラエティに富んでいます。

 今回読んで初めて知ったのですが、聖徳太子や弘法大師空海、清少納言の夫の橘則光、紫式部の父親の藤原為時、陰陽師の安倍清明といった歴史上の有名人にまつわる説話も見られます。

 
(p16より引用) 今昔、聖徳太子、此朝に生れ給ひて、「仏法を弘めて此の国の人を利益せむ」と思給ければ・・・

 
 千年前の説話集ですから、当時の歴史・社会背景を反映したその時代ならではの感覚・感性の表れもあります。
 反面、千年という時の隔たりを感じさせない「いつの世も同じ」といったテーマのものも数多く見られます。

 さて、多くの作品の中で、面白かったものを強いてひとつ挙げるとすると、私の場合、巻28ノ1「近衛の舎人の重方、稲荷詣で女に会うこと」でした。
 内容は、・・・、どうぞお読みになってください。

 
(p253より引用) 妻、「穴鎌ま、此の白物。・・・」と云てぞ、妻にも被咲ける。

 
 こちらは、「いつの世も同じ」という内容です。
 
 

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疑問の答え (なぜビジネス書は間違うのか(フィル・ローゼンツワイグ))

2008-10-13 13:23:01 | 本と雑誌

 著者は、「エクセレント・カンパニー」「ビジョナリー・カンパニー」などの過去のベストセラーとなった有名なビジネス書の主張を具体的に示して、それらの論証に疑義を唱えています。
 論拠となったデータがハロー効果のために歪んでいたというのです。

 成功した経営者に対するインタビューは、ビジネス書には付き物です。が、こういったインタビューの答えはハロー効果だらけになると著者は指摘しています。

 
(p187より引用) この種の質問事項、つまり過去にあったことを説明させる質問から有効なデータが得られることはめったにない。自分のことをふり返るときには、業績が先入観になるのが普通だからである。

 
 著者は多くのビジネス書にみられる共通の陥穽を、次のように指摘しています。

 
(p214より引用) つぎつぎと出版されるビジネス書には、その核心に共通の虚構があるのが見えてくる。すなわち、企業は偉大になることを自由に選択できる、わずかなステップで意図したとおりに偉大になれる、成功は外的要因に影響されることなくもっぱら自分の意のままに引き寄せることができる、ということだ。

 
 世の中でもてはやされているビジネス書は、多くの経営者に対して成功への具体的要諦を示しています。
 それに対し、著者はこう断言しています。

 
(p244より引用) どうすれば成功するのかという疑問の答えは簡単だ。これさえすれば成功するというものなどない、少なくとも、どんなときにも効果があることなどない、というのが答えなのである。・・・企業の成功は相対的なものであること、競争で優位に立つには、慎重に計算したうえでリスクを負わなくてはならないことを理解するべきだ。

 
 著者が、優れた経営者として紹介しているロバート・ルービンのことばです。
 かれは、ゴールドマン・サックスに26年間勤務し、クリントン政権の財務長官でもありました。

 
(p246より引用) 「成功とは、手に入れられるあらゆる情報を勘案して何通りもの結果が生じる可能性とそれぞれの損得を割りだそうとすることで得られる。・・・」

 
 彼はこういう姿勢を「蓋然的意思決定」と呼んでいます。

 
(p249より引用) 単純にあとでふり返って判断がよかったとかまずかったと批評するのではなく、行動をその価値にもとづいては判断するのである。・・・こうした冷静な評価をすることで、ゴールドマン・サックスはこの一件から教訓を得、つぎの成果につなげられる。

 
 もうひとつ、著者が優れた企業だと紹介しているコンピュータ周辺機器メーカのロジテック(日本社名:ロジクール)の経営方針です。

 
(p262より引用) 「『壊れていないならいじるな』症候群にならないように気をつけています。つねに経営方針を変え、組織を変え、システムを変えている。成功した企業は変化に対する抵抗感が非常に強くなるものなので、あえて変化を促さなくてはならないのです

 
 このあたりは、先に紹介したトヨタの経営スタイルにも通じるところがあります。

 
 

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ビジネス書の妄想 (なぜビジネス書は間違うのか(フィル・ローゼンツワイグ))

2008-10-11 18:11:24 | 本と雑誌

 書店の経営関係のコーナーにいくと、経営者・コンサルタント・大学教授等が執筆した多くのビジネス書が平積みされています。
 そのほとんどは、「どうすれば成功するか」をテーマにしその秘訣を説いています。

 本書もその中のひとつです。
 が、内容は、成功の秘訣をさぐるために企業や経営者の調査・研究をしたものではありません。
 多くのビジネス書で論じられている根拠・方法について、疑問の一石を投じています。

 
(p63より引用) それぞれの時代背景に照らして読めば、どの記事も不思議なところはない。すじの通った説明がなされている。だが、数年の経過をたどりながら読んでみると、はたして書き手はストーリーを正しく理解していたのかと疑問を抱かざるをえない。・・・こうした記事を並べてみると、・・・事実で過去を埋めて歴史を書き、記録を並べかえて単純なわかりやすいストーリーに仕上げているのである。現状とつじつまが合うように過去を解釈した典型的な例だ。

 
 著者が最も主張しているのは、「ハロー効果」による妄想です。

 
(p91より引用) ハロー効果とは、認知的不協和[訳注:個人にあたえられた情報に矛盾があるとき生じる不快感]を解消するために、一貫したイメージをつくり上げて維持しようとする心理的傾向なのである。・・・私たちは財務実績の数字を当然のように信じる。だからそれをもとに、もっと曖昧で客観的にとらえにくい事柄を評価してしまうのも不思議はない。

 
 成功している企業のマネジメントの秘訣を探っても、それは「ハロー効果」による歪んだ姿をすくい上げているにすぎないと言うのです。
 成功している企業の経営者は、業績が優れているという「結果」により実体以上に優れて見える、同じ経営者であっても業績が悪化すると、(たとえマネジメントスタイルが変わらなくても)評価は一変します。その場合経営者は、「企業をとりまく環境が変化しているにもかかわらずマネジメントスタイルを変えなかった」と結果論的に非難されるのです。

 
(p108より引用) ビジネスについて考えるとき、じつは数々の妄想が私たちの邪魔をしている。その一番目がハロー効果だ。経営者も記者も大学教授もコンサルタントも含めて、私たちが企業パフォーマンスを決定する要因だと思っている多くの事柄は、業績を知ってそこに理由を帰した特徴にすぎないのである。

 
 著者が妄想2としてあげているのが「相関関係と因果関係の混同」です。

 
(p123より引用) 相関関係は因果関係の仮説を立てるには使えるだろうが、科学的な証明はできない。

 
 たとえば、企業業績と従業員満足度。
 相関関係は存在していても、どちらが原因でどちらが結果なのでしょうか。
 著者が紹介しているメリーランド大学の研究結果では、「企業業績が従業員満足度に与えた影響の方が大」とのことでした。
 
 

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国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて (佐藤 優)

2008-10-08 23:44:11 | 本と雑誌

Rasputin  いつも読書の参考にさせていただいているふとっちょパパさんがご紹介されていたので、私も読んでみました。
 同時代の個別具体的テーマの本はあまり読まないのですが、この本は以前から気にはなっていました。

 佐藤氏の側からの事実とそれに基づく評価ではありますが、事件関係者について巷間に伝えられる人物評とかなり異なる人となりが書かれています。
 このあたり、本書の内容がすべて真実であるか否かは脇に置くとしても、大衆迎合的なマスメディアや単一方向の情報ソースに依存することの危うさを再認識させられました。

 さて、本書の著者の佐藤氏は、国際外交の世界での情報を扱う専門家です。
 その立場からのコメントで、私の関心を惹いたものをご紹介します。

 まずは、真に役立つ情報を得るためのポイントについて。
 高い価値を持つ情報を入手するためには、その基礎情報をしっかり摑んでおくことが必須とのことです。

 
(p189より引用) 情報専門家の間では「秘密情報の98パーセントは、実は公開情報の中に埋もれている」と言われる・・・情報はデータベースに入力していてもあまり意味がなく、記憶にきちんと定着させなくてはならない。この基本を怠っていくら情報を聞き込んだり、地方調査を進めても、上滑りした情報を得ることしかできず、実務の役に立たない。

 
 もうひとつ、何がしかの事件が生起した場合の分析の切り口について。
 ここでは、安易に当事者のパーソナリティに帰結させることを戒めています。

 
(p298より引用) パーソナリティーが問題となる前に、そこに存在している時代状況を解明することが分析専門家として必要な洞察力なのだと私は考える。

 
 その他、本書で初めてお目にかかった「国策捜査」という単語。いったい何なのか。
 取り調べの検察官の言葉として紹介されています。

 
(p287より引用) 国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。

 
 この「国策捜査」のために、著者は512日間勾留されました。そして、ようやくの保釈に際して、印象に残ったものとして拘置所の老看守の言葉を紹介しています。

 
(p375より引用) 裁判所への護送の途中、ある老看守が、「ここにはいろいろな人が来るからね。若い看守でやたら怒鳴りあげるのは、ここに来ている人たちのことが怖いからなんだよ。人間を見る眼がついてくると怒鳴らなくなるよ」と述べていたことが印象的だった。

 
 この事件は、現在(2008年秋)でも最高裁に上告中です。
 
 

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團十郎の歌舞伎案内 (市川 團十郎(十二代目))

2008-10-05 13:27:43 | 本と雑誌

Danjyuro  古典芸能については全くの門外漢ですが、ちょっと興味はあります。
 そういうこともあり、以前、茂山千三郎氏による「世にもおもしろい狂言」という狂言の入門書を読んでみました。

 今回は「歌舞伎」です。
 本書は、歌舞伎の代表的役者である市川團十郎氏が、2007年9月青山学院大学で話された集中講義の内容をベースに1冊の本にまとめたものとのことです。話し言葉で記されたとっつき易い内容です。

 本の前半は、歴代の「團十郎」のエピソードを振り返りつつ歌舞伎の歴史について概説しています。

 初代の團十郎が登場したのは江戸初期、その後明治期には九代目團十郎が演劇改良運動に関わりました。

 
(p74より引用) 当時の江戸歌舞伎といえば、見た目が華やかでおもしろければ物語の時代背景なんて無視していた。それが維新を迎え、とくに知識人のあいだに、できるだけ真実に近いものを、歴史は歴史としてきちんととらえるべきだという思想が広まってきました。九代目團十郎もそういった思想の信奉者でした。

 
 それに対して、著者十二代目團十郎はちょっと異なる考えをもっています。

 
(p81より引用) お話ししましたように芝居の内容も変わってきます。ひと言でいえば「真実は真実として見せる」という方向へ。それがはたして歌舞伎にとってよいものかどうか。ウソがほんとうに見えて、ほんとうがウソに見える‐それが歌舞伎の世界観なんですけれどね。

 
 著者は海外での歌舞伎公演にも積極的です。
 そうした中で日本芸能のルーツに思いを巡らせます。

 
(p110より引用) 遊び…この考え方が日本の演劇のいちばんの源であると思います。この「楽=遊び」という発想から、日本の演劇とか芸能が発展してきたことを、まずは理解してもらいたいのです。

 
 本書では歌舞伎の概説に加えて、現役の役者十二代目團十郎の芝居に対する考え方や姿勢が語られています。

 そのひとつ、「役者の心がけ」についてです。
 初代團十郎は破天荒な信念の人だったようです。それを受けて十二代目はこう話します。

 
(p205より引用) わたくしも「何をいわれようが天下御免でやり通す」という思いがございますし、うまいとかヘタとか、そんなことはなるべく考えないように、超越するように心がけております。
 ですがやはり人間、すこしでもうまくやろうという欲は、なかなか捨て去れないものですね。

 
 もうひとつ、著者が六代目中村歌右衛門との共演で感じた「すごい役者」の真髄について。

 
(p222より引用) すごい役者さんは、相手の芝居まで上手にしてくれるんですね。・・・自分だけがうまくやっていればいいというものではなくて、周りもうまく見せる芝居のできる役者にならなくてはと痛切に感じました。

 
 これは何も芝居の世界だけの話ではありませんね。

 
 

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社会起業家-社会責任ビジネスの新しい潮流 (斎藤 槙)

2008-10-04 18:51:07 | 本と雑誌

 出版は2004年7月ですから、ちょっと前の本です。
 本書では、ビジネス(企業)の社会化、NPOのビジネス化及び両者のパートナーシップといった社会責任ビジネスの動向を概説するとともに、米国及び日本の社会起業家の活動を具体的に紹介しています。

 私も、CSR(企業の社会責任)のコンセプトについてはある程度の知識をもっていましたが、「社会起業家」という言葉はこの本を読むまで知りませんでした。

 「社会起業家」は、社会性をもった課題に対して、その解決に使命感をもって活動する人たちです。

 
(p29より引用) 社会起業家の作る組織は、営利企業でもNPOでもよい。環境保護、人権擁護、経済開発など、ローカルおよびグローバル社会にもたらす長期的な恩恵を最優先にして、事業を確実に進めていく力。それが社会起業家に必要な条件となる。

 
 社会起業家は、「良識ある消費者」を育てるとともに、「良識ある消費者」に支えられています。
 「良識ある消費者」は多くの場合、従来とは異なる価値観をもち、それが彼らの新たなライフスタイルに反映されています。

 
(p37より引用) 「ライフスタイル創造者」とは、エコロジーや地球を救う運動に強い関心をもっていて、人間関係、平和、社会正義、自己実現、精神性、自己表現、といったことを大事にする人。

 
 彼らは、企業の社会性を基準にして自らの購買行動を決定します。

 こういった社会的課題に敏感に反応する消費者が増えていくにつれ、企業サイドにおいても、企業が負うべき「社会責任」を「マーケティング戦略」として位置づけて対応しようとする動きが出てきます。

 
(p83より引用) 市場で戦っていくうえで社会性が欠かせない要素だということを意識するようになった企業は、社会貢献を今までよりも中心的な経営戦略のひとつと位置づけて行動するようになっている。言ってみれば、それまでは会社のなかでも“亜流”だった社会貢献という事業が、売り上げに直接的な影響を及ぼす事業の根幹の一部と見なされるようになったことを示している。 
 マーケティング界には、「ソーシャル・マーケティング」というアプローチが定着しはじめている。社会的な価値の創造を根っこに据えて、企業の活動を決定し、消費者、従業員、投資家などのステークホルダー(利益関係者)にもそれを訴求していこうという考え方だ。

 
 最近のECOの潮流にのった各業界・企業の動きは、まさにこの指摘の具体的な現われだと言えますし、一部企業に見られるような「NPOと連携した事業展開」という方向性は非常に興味深いトレンドだと思います。

 著者は、「社会起業家」の将来について大きな期待を抱いています。

 経済の停滞により、将来に向けての個人資産形成はますます困難になっていきます。一時のバブル期のような短期でのリターンは望みにくい状況ですから、いきおい個人投資は、より確実な長期投資先を求めることとなります。

 
(p220より引用) では、長期投資をするとしたらどんな企業を選ぶか。そこで、「長期にわたって持続的に成長しそうな会社」という条件が浮かび上がってくる。それがすなわち、SRIの価値観に重なり、企業の社会性や倫理性に着目する投資は普及していく。

 
 この傾向が、「社会起業家」にとっては追い風になるという考えです。

 さて、最後に本書のあとがきで著者が紹介している「社会起業家から教わった 生き方、働き方の10の極意」を覚えに記しておきます。

 
(p243より引用)

  1. 自分の好きなこと、楽しいことに夢中になろう。
  2. いろいろな人と喜びや悩みを分かち合おう。
  3. 効率を優先させない。何が大切かを見極める。
  4. かわいい子には旅をさせよ。かわいい子だけでなく、自分がかわいい大人も旅に出よう。きっと名案が浮かぶから。
  5. おかげさまで、の気持ちを忘れずにいよう。
  6. あきらめるから失敗する。成功するまで頑張ろう。
  7. 人と競争するのではなく「協奏」しよう。
  8. 人生に無駄はない。一見、マイナスなことでもそこから何かが見えてくる。
  9. 人がどう思うかではなく、自分がどう思うかを大切にしよう。
  10. たまには自分を褒めよう。

 
 

社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書) 社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (岩波新書)
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歴史をさわがせた女たち 日本篇 (永井 路子)

2008-10-02 22:41:08 | 本と雑誌

Genji_monogatari  作者の永井路子さん。
 今から30年以上前、中学時代に体育館で講演を聞いた記憶があります。本書の第1刷が1978年とありますから、講演はその数年前ですね。

 本書は、ごく気楽に読める歴史エッセイです。テーマは「歴史上の女性たち」。
 「愛憎にもだえた女たち」「ママゴン列伝」「強きもの―それは人妻」「女が歴史を揺さぶるとき」「ケチと浪費の美徳」「勇婦三態」「裏から見た才女たち」という7章、計33名の女性が登場します。

 その中からいくつかご紹介します。

 まずは、徳川13代将軍家定夫人の「天璋院」です。
 彼女は、いまが旬ですね。ご存知のとおり今年(2008年)のNHK大河ドラマの主人公「篤姫」です。

 
(p188より引用) 勝海舟は書いている。
「薨去の折、私は老女と立会い捜索せしに、御手文庫の中に、僅かに三円あるのみ。余は少しも金円等あることなかりき」と。

 
 永井氏は、徳川幕府の殿軍(しんがり)を見事努めたスーパーレディとして高く評価しています。

 大河ドラマといえば、永井氏の作品「北条政子」は、1976年のNHK大河ドラマ「草燃える」の原作でもあります。当時はまだ大河ドラマを結構見ていたころで、主人公政子役を演じた岩下志麻さんを思い出しました。あのときの源頼朝役は石坂浩二さんでしたが、やはり岩下志麻さんの存在感は格別でしたね。
 本書でも北条政子は「鎌倉のやきもち夫人」として紹介されています。

 その他、歴史上有名な女性として常連のメンバも登場します。

 なんと言っても、「紫式部」「清少納言」
 いずれも平安期中流官吏の娘で、一条天皇の中宮(紫式部は中宮彰子、清少納言は中宮定子)につかえるいう似たような立場にありました。紫式部は「源氏物語」、清少納言は「枕草子」という今日にも残る作品を残し、何かと比較対照されています。
 永井氏も、紫式部を「高慢なイジワル才女」、清少納言を「ガク振りかざす軽薄派」とそれぞれ一言キャッチコピーをつけています。

 
(p265より引用) 紫式部には一目一目編み物をしてゆくようなたんねんさがあるが、清少納言には、ずばりとナイフで木をえぐりとる鋭さがある。紫式部を、冷静な瞳と深い知識を備えた優等生型とするなら、清少納言は感性を武器にした天才型だ。

 
 ちなみに、今年(2008年)は、源氏物語を記録のうえで確認されてから千年目。
 京都を中心に、「源氏物語千年紀」を記念したイベントが開催されていますね。
 
 

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