OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

香港からインドへ (深夜特急(沢木耕太郎))

2009-12-31 15:50:20 | 本と雑誌

India  あまり読まないジャンルの本ですが、沢木耕太郎氏の代表作の中でも評判がいいので手にとってみました。
 若き日の著者が日本から香港・マカオを経てデリーに入り、そこから陸路ロンドンを目指す旅行体験記です。全行程は、文庫本では6冊のシリーズで描かれています。

 まず1冊目は、「香港・マカオ」
 この最初の寄港地で、著者は、早くも大きなショックを受けます。それは、自らの「無意識の意識」に対する辱めでした。
 香港島の屋台で、知り合った若者とソバを食べました。そして、金も払わずに去っていった若者に対して侮蔑の気持ちを抱いたとき・・・、

 
(p101より引用) ペンキ屋の彼がこういって立ち去ったらしいのだ。明日、荷役の仕事にありつけるから、この二人分はツケにしておいてくれ、頼む・・・。私は、失業している若者に昼食をおごってもらっていたのだ。自分が情けないほどみじめに思えてくる。情けないのはおごってもらったことではなく、一瞬でも彼を疑ってしまったことである。少なくとも、王侯の気分を持っているのは、何がしかのドルを持っている私ではなく、無一文のはずの彼だったことは確かだった。

 
 2冊目では、タイからマレー半島を下りシンガポールに至ります。
 マレーシアのペナンで、著者は、ヒモ生活をしている若者から日本企業批判の声を聞きました。

 
(p134より引用) 「日本企業はひどい。・・・日本企業は吸い上げることしか考えていない。・・・俺がそう言うと、日本人は決まってこう言うんだ。マレーシアは日本企業の進出がなかったら困るんだろ?・・・わかってないんだな。なのに、じゃない。だから、なのさ。確かに困る。だから頭にくるのさ」
 彼の言っていることは正論だった。もちろん、日本の企業にもさまざまな言い分はあるだろう。だが、日本人にとっての「なのになぜ」がマレーシア人にとっては「だからこそ」になる、という彼の指摘には説得力があった。そのような微妙な感情的なズレが、時として思いがけない大爆発を引き起こすもとになるのだろう。

 
 こういう言葉を交わしながら、訪れた各地で著者は現地での生活にのめり込んでいきます。

 さて3冊目は、「インド・ネパール」
 ようやく著者はインドに入ります。ここでは、それまでの旅で最大の印象を与えた香港を凌ぐ経験をすることになりました。街で、宿で、駅で・・・、身の回りで起きていること全てが衝撃的でした。

 
(p64より引用) ふと、このインドでは解釈というものがまったく不用なのかもしれない、と思えてきた。ただひたすら見る。必要なことはそれだけなのかもしれない、と思えてきた。

 
 そう思うほど、「見える」事実のインパクトが強烈だということでしょう。

 香港からインドへ、旅を進めるごとに、沢木氏の物事を見る「無意識の前提」が揺るがされていきました。

 
(p68より引用) 香港には、光があり、影がある、と思っていた。光の世界がまばゆく輝けば輝くほど、その傍らにできる影も色濃く落ちる、と思っていた。しかし、香港で影と見えていたものも、カルカッタで数日過ごしたあとでは眩しいくらいに光り輝いて見えた。

 
 香港での絶対的な経験が、カルカッタの数日で相対的なものに変貌したのです。
 まさに、沢木氏がインドで受けた衝撃の強さが吐露されたフレーズです。
 
 

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「戦う組織」の作り方 (渡邉 美樹)

2009-12-29 12:03:47 | 本と雑誌

 ワタミはこの厳しい経営環境化においても、比較的好業績を堅持している企業です。
 そのワタミの総帥渡邉美樹氏は、このタイミングに社長から会長に退き、後進に経営の主導権を漸進的に移行させるという決断を下しました。

 本書は、その渡邉氏による組織論・リーダー論です。
 渡邉氏の考え方の基本軸が分かりやすく語られています。が、私はもっと臨場感・現場感のある内容を期待していたので、正直なところ、その点では少々不満が残りました。
 とはいえ、参考になる点は数多くありました。

 まずは、「育成」についての考え方について。

 
(p85より引用) 人は勝手に育つもの。伸びる人間は、自分で考え、挑戦して失敗し、また挑戦して壁を乗り越えながら、自分で成長していくものだ。
 だから経営者や上司が「俺があいつを育ててやる」などと考えるのは、大きな自惚れだと私は思っている。
 ・・・私にできるのは、部下が育っていける環境を整えることと、育つきっかけを提供することだけだ。

 
 よき上司は、部下が自分を乗り越え、追い越していくことを喜びとするとよく言われますが、渡邉氏の考え方も同じです。さらに、渡邉氏自身、そういう状況を生み出すべく積極的・能動的に動くことを実践しているようです。

 もうひとつ、社員の適材適所を追求する「多面的評価」に関する渡邉氏言葉です。

 
(p111より引用) あるポジションで成果を出せなかったからといって、「だから彼には能力がない」と決めつけることはできない。私は先ほど「シビアに社員の能力を判断しなくてはいけない」と述べたが、シビアであるというのは、一面的な視点からのみ、部下の評価をすることではない。
 「彼ははっきりいって、○○には向いていない。しかし□□のポジションであれば、その長所を存分に発揮してくれるに違いない」
 というように、シビアでありながらも、多面的な評価が不可欠となるのだ。

 
 経営資源として、よく「人・物・金・情報」といわれますが、渡邉氏は「人」を「経営資源」だとは考えていません。「人は会社そのもの」との意識です。

 資源と考えると「使う」「有限」「消耗」・・・といったイメージが浮かびます。が、渡邉氏は、人の能力の可能性を尊重します。ポジションに対する適性の評価はシビアですが、それはあくまでもその「ポジション=役割」の適不適の判断に過ぎません。その役割に適性がないからといって、全面的にその人の劣位を意味しないということです。

 一時の評価はシビアではあっても、次に別の適所を探す。リカバリするチャンスをとことん与える。
 こういう「人」を大切に考える姿勢は、私としても、何時も意識しとことん見習わなくてはなりません。
 
 

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ユニクロ思考術 (柳井 正 監修)

2009-12-26 18:33:02 | 本と雑誌

Uniqlo  ユニクロ、今、最も注目されている企業のひとつです。

 私の家でも、毎土曜日は必ず新聞の折込チラシに目を通すとても身近な企業ですし、以前、一緒にプロジェクトを推進したコンサルティングファームの方が数ヶ月前執行役員で転職したこともあって、個人的にも気になっている企業です。

 さて、本書ですが、ユニクロのビジネスに関わっている多彩な人々の話を取りまとめたものです。
 まずは、ユニクロのブランドデザインに関わっているアートディレクターの佐藤可士和さんの言葉です。

 
(p18より引用) 僕の仕事の場合は、お医者さんの問診と同じです。まずはクライアントから徹底的に話を聞くことから始めます。自分たちのブランドを世の中にどう認識してもらいたいのか?本来そのブランドが持っていたはずの本質とは何だったのか、その上でいま課題になっている部分は何だろうか。それらがお互いはっきりと見えてくるまで話し合うわけです。この過程を抜きにして、なんとなく新しいイメージだけをデザイン的につけ加えたって、なんにもならない。・・・デザインは一人歩きはできない。まずは問診ありき、です。

 
 私は、デザインという仕事について何も知識がなかったので、このコメントは「なるほど」という印象です。

 店舗デザイン・インテリア等は超一流のデザイナーが担当しつつも「ベーシック」を基本に貫くポリシー。ユニクロは「基本」を大切にする会社のようです。
 ソーホーニューヨーク店を開店する前のロンドンでの教訓を、堂前氏(現上席執行役員)はこう語っています。

 
(p130より引用) ロンドンで学んだことはもうひとつあります。ユニクロの基本にあるベーシックな商品をどうやって手にとってもらうか、ということです。ベーシックな商品というのは、最終的には買ってもらえるものであることは間違いない。ところが、ベーシックなものだけでお客さんにお店に入ってきてもらえるか、となると話は違ってくるのです。・・・
 ファッションの要素、トレンドの要素は必要不可欠なのです。・・・そうは言っても、ベーシックがユニクロの独自の強みであることは間違いないので、これまで以上にベーシックは強化して、ユニクロ独自の強みとして打ち出していくつもりです。

 
 とはいえ、海外の旗艦店のコーディネートやYouTube・ブログパーツと連動させたウェブマーケティング等を見ると、ユニクロは、先進的な取り組みにアグレッシブにチャレンジし動き続けていることも事実です。

 さて、私の家でも、駅チカのテナントビルにはいっている店や車で行く郊外店で、おそらく1ヶ月に最低1回は何か買っています。ただ、やはりそれは「普段着」を買うためです。
 そういう私のようなユニクロ感をもつ消費者からみると、やはり、「銀座」にユニクロは似合わない、ブランドの相殺だと感じてしまいます。
 こういった声に対してのマーチャンダイジング部中島氏の言葉です。

 
(p194より引用) 銀座店はちょっと値段を高く設定した商品を売ってみようなんてことはまったく考えていません。商品を買ってくださったときに感じていただける満足感は、これまでどおりユニクロならではのものにしたい。ただ、銀座のお店にきた高揚感があって、お店にいるだけでも楽しい、ユニクロで待ち合わせをしたくなる、そういうお店にしたい。・・・
 お店が変わっても、売っているものは全然変わらないじゃないか、とガッカリされることはないと思っています。いろんな意味で「かわり映え」のする店になったはずです。「ユニクロが銀座に?どうして?」と思われた方にこそ「なるほどね」と思っていただける店。・・・

 
 最後に、本書を読んで印象に残ったフレーズを書き止めておきます。前職がトヨタ勤務の永井氏の言葉です。

 まずは、自責の発想から生み出される「カイゼンスピリット」について。

 
(p238より引用) 「こんなにいい商品なのに何で売れないんだ」という言い方は、売れない理由をお客様のせいにしています。しかし、売れないのには必ず理由がある。お客様のせいにしてしまったら、改善する余地が残っていても、商品がそれ以上よくなることはありません。クルマをつくるときに、そういう発想をしない哲学が、トヨタの社員のひとりひとりにDNAとして浸透しているんですね。

 
 もうひとつ、関連会社との長期的な関係を「品質の作りこみ」の重要要素と位置づける考え方について。

 
(p247より引用) 私たちが海外の工場でやっているのは「取り引き」ではなくて「取り組み」なんだ、そう考えながらやっています。「取り引き」という考え方では、何社かの工場で見積もりを出させて、一番安いところを選べばいいという発想になってしまう。そうではなくて、お互いに知恵を出し合い、将来も見据えて、最善のかたちで最高品質の商品をつくりだすような「取り組み」。そういう対等な関係を築き上げることが大事なんですね。短期につきあっておいしいところだけ取ってしまったらおしまい、というのでは、お互いに蓄積されてゆくものがない。・・・使い捨て的な取り引きでは、いい商品ができるはずがありません。

 
 このあたりはいかにもトヨタマンらしい言い回しです。良い参考になります。
 
 

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古寺をゆく1 興福寺 (「古寺をゆく」編集部)

2009-12-23 19:30:55 | 本と雑誌

Ashura  今年は東京国立博物館で開催された「国宝 阿修羅展」が人気を博しました。

 本書は、その阿修羅像が所蔵されている奈良の名刹、興福寺のガイドブックです。
 創建1300年にも及ぶ興福寺。その過去と現在のエッセンスが、コンパクトな体裁の中で要領よくまとめられています。美しい写真も豊富に収録されていて、パラパラ目を走らせるだけでも楽しくなる本です。

 やはり、まずは「阿修羅像」が登場します。その紹介文の一節です。

 
(p26より引用) 阿修羅はたえず天上の帝釈天と争う敵役であったが、釈迦の教えによって仏教の守護神となり、八部衆の一尊に加わる。この阿修羅像は三面六臂で上半身裸の立像に造られ、興福寺でも一番人気がある。堀辰雄は「ういういしい、しかも切ない目ざし」(『大和路・信濃路』)、司馬遼太郎は「無垢の困惑ともいうべき神秘的な表情」と記し、脇の二面について「思いを決した少女の顔」(『街道をゆく 奈良散歩』)と表現した。

 
 確かに写真をみると、正面像の顔は、わずかに眉をひそめ悩みを帯びた表情に見えます。他方、側面の顔にはあどけない一途さが感じられます。

 その他の諸像も確かに見事です。これほど国宝クラスの名品を所蔵している施設は稀有でしょう。特に玄昉坐像は、素人の私が写真で見ただけでも、その表情・姿勢・衣の微妙なひだ等素晴らしいと思うものです。

 さて、興福寺は南都六宗のひとつ法相宗の大本山です。

 本書では、法相宗の僧侶で唯識の研究者でもある興福寺の貫首多川俊映氏による法相宗の教義の概論も簡単に紹介されています。
 その中で印象に残った多川貫首のことばを、ちょっと長いのですが書き記しておきます。

 
(p104より引用) ・・・私たちは物ごとを分別する傾向があることに気がつきます。・・・しかし、東洋の考え方とは元来、対立・分別ではなくて、包括的に見ていくところにあります。「自然と人間」というように、対立させるのではなく、「自然の中の人間はどうあるべきか」という発想なのです。ところが現代は、自然と人間とを対立させ、要するに人間の都合のいいように自然をコントロールしようとしています。
 私が気に入らないのは「自然にやさしく」という言葉です。これは正確に言うと「自然にやさしくしてあげる」ということでしょう。私は、ついに人間はそこまで傲慢になったのかという気持ちがあります。そうではなくて、あくまでも「自然の中の人間」です。自然の中に、すでに人間が要素として入っているわけです。

 
 多川貫首は、仏教思想の深淵に至るまでもなく、西洋思想の基本潮流である物心二元論に対置するものとしての東洋思想を略説しています。
 そのコンテクストの中で、自然と人間との関わりについての今流行のフレーズを取り上げ、その言葉の欺瞞性、すなわち、やわらかな言い回しながらも通底する思想の高慢さに疑念を投げかけています。
 
 

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知財マネジメント (技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか(妹尾堅一郎))

2009-12-19 18:48:56 | 本と雑誌

 妹尾氏が提唱している「三位一体」型経営戦略ですが、その中で特徴的なコンセプトが「知財マネジメント」です。

 本書では、「知財マネジメント」の実例がいくつも具体的に紹介されています。
 そのうちの一つ、「防護柵」としての特許の活かし方です。

 
(p164より引用) 自社実施はしなくても、他社が粗悪品で市場に参入しないように「防護柵特許」で防ぐのです。このような知財マネジメントもあるのです。よく「自社実施をしない特許はムダだ」とか「他社の迂回技術の開発を止めてしまうことによって全体として技術開発に悪影響を及ぼす」といった議論を聞きますが、単に他社の進路妨害をするだけでなく、粗悪品防止の意味を持つ場合もあることを知って欲しいと思います。

 
 「知財マネジメント」において、「オープン」という言葉の使い方には注意が必要です。
 単なる「無条件公開」ではありません。むしろ「囲い込む」ための「オープン」です。

 
(p168より引用) 囲い込むとなるとすべてを囲い込みたくなりやすいのですが、それは「労多くして功少なし」かもしれません。基幹部分をしっかり押さえれば、周辺隣接関連他社を囲い込むことになります。また、普及を他社に任せれば、全体としてはエンドユーザーを効率的に囲い込むことにつながるかもしれません。このパラドクス(逆説)をしっかり理解しないと、かえってクローズで囲い込みに失敗することになるのです。

 
 すなわち、こういう「開発から普及までを見通した高等戦略」なのです。

 
(p177より引用) オープン戦略の基本は、技術を他に使わせて仲間づくりをし、収益の段階になると別の仕掛けでその仲間を一網打尽にするというやり方なのです。

 
 この戦略は、インテル(インテル・インサイド)やアップル(アップル・アウトサイド)が優れて活用しています。「準完成品」を提供して、そのまわりに関連製品・サービスをビルトインすることにより様々な「完成品」をつくりあげ、ひろくユーザを獲得していくというやり方です。

 
(p204より引用) インテルとアップルの違いは、基幹部品と完成品の違いではありません。実は両方とも「準完成品」なのです。・・・「準完成品」として見ることがコツなのです。そして、それを感性させるために、どうやって他とつなげるのかを検討すべきなのです。そのためにインテルのように、同一レイヤーにおける部品間(正確には準完成品間)のインターオペラビリティ(相互接続性)をどう確保するのか?あるいは〈iPhone〉のように、上下のレイヤーとの間でどのようにインターオペラビリティを確保するのか?同一レイヤー上の仕掛けとレイヤー間の仕掛けを「準完成品」というコンセプトで検討することが、実は、極めて重要になります。

 
  ビルトインパーツを提供する企業がユーザを拡大してくれ、その収益は、最終的には「核」を提供しているインテルやアップルに還元されるというモデルです。
 このような「ディフュージョンのフェーズでの戦略的オープン化」が今後の知財マネジメントの要諦となるのです。
 
 

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イノベーションとインプルーブメント (技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか(妹尾堅一郎))

2009-12-17 22:29:56 | 本と雑誌

 イノベーションインプルーブメント。本書の立論において重要なコンセプトです。

 この2つのコンセプトの関係を整理した妹尾氏流の「イノベーション7原則」です。

 
(p11より引用)
第一原則:従来モデルの改善をいくら突き進めても、イノベーションは起こらない
第二原則:イノベーションは従来モデルを駆逐し、その生産性向上努力を無にする
第三原則:システム的な階層構造上、常に上位のモデルのイノベーションが競争優位に立つ
第四原則:下位レベルのモデル磨きは、上位のモデル磨きにとどまる場合が普通だが、ときに上位モデル創新となる場合もある
第五原則:プロダクトイノベーションのほうがプロセスイノベーションより強い
第六原則:同種モデル間の競争はインプルーブメント、異種間の競争はイノベーション
第七原則:成長と発展、イノベーションとインプルーブメントは「スパイラルな関係」

 
 昨今、「イノベーション」の重要性は声高に叫ばれていますが、過去との比較において、その意義が十分に理解されているかといえば大いに疑問です。
 ここでも「インプルーブメント」との対比でその点が説明されています。

 
(p23より引用) 世界の産業においては、「インプルーブメントで勝つ」すなわち従来のモデルを練磨することで勝つ競争モデルから、「イノベーションで勝つ」すなわち新規モデルへと移行しつつあります。競争力モデル自体が大きく変わったのです。日本の経営者は、日本のお家芸であった「既存モデルの練磨」では勝てなくなったことを、まず認識すべきなのです。

 
 「イノベーションで勝つ」モデルの代表的な例として、妹尾氏はインテルの戦略を紹介しています。「インテル・インサイド」というキャッチフレーズに顕れた「基幹部品主導で完成品を従属させる」という仕掛けです。

 
(p75より引用) 従来の部品から完成品までの垂直統合、研究開発から販売普及までの垂直統合、そういった抱え込み主義の企業が勝つのではなく、そのプロセスを分担した「国際イノベーション共闘」が最も勝つという構造です。

 
 さて、「既存モデルの練磨」では太刀打ちできなくなった日本は、新たなイノベーションモデルでのビジネスに乗り出さなくてはなりません。

 
(p371より引用) かつて競争力がインプルーブメントモデルの時代には、事業化はうまかった。・・・しかし、現在はうまくない。なぜかと言えば、競争力モデルが当時と変わったからです。インプルーブメントモデルからイノベーションモデルに移行したからです。

 
 この新たな競争力モデルの世界で生き抜いていくためには、知財マネジメントの要素を加えたイノベーションシナリオを描く必要があります。妹尾氏のいう「三位一体」型経営戦略の策定です。そして、その際活用するのがイノベーションロードマップです。

 
(p334より引用) 「過去のマップのみならず、将来へのロードマップであること」「特許のみならず、意匠権や商標権も含めること」「権利化するものだけでなく、秘匿知財も入れること」「他社への公開や標準化についても組み込むこと」、等々を強調します。

 
 ここでのポイントは、「技術」「事業」「知財」の3つのドメインについて、インベンションのためだけでなく、その後のディフュージョンも見通したマップを描くことです。

 さて、最後に、妹尾氏が紹介している日本的進化論(棲み分け)を提唱した今西錦司氏のことばを引用しておきます。

 
(p376より引用) 「生物の世界では、与えられた環境の中でいかに自分を適応させるかだけが原理ではない。生物は、与えられた環境を自ら変え、それを次々と発展させることにより、他の生物と棲み分ける

 
 この共生的棲み分けの考え方は、事業環境変化への対応を説く際によく引き合いに出されるダーウィンの「生き残るのは変わり続ける種だ」という考えを、さらに一歩進めたものだと言えるでしょう。
 
 

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コンセプトワーク (技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか(妹尾堅一郎))

2009-12-15 22:43:08 | 本と雑誌

 妹尾堅一郎氏の著作は久しぶりです。
 数年前、会社のセミナーで数ヶ月間薫陶を受けて以来、非常に気になっている先生です。プロジェクト・プロデュース、コンセプトワーク、ソフトシステムズ方法論等、多くのことを学ばせていただきました。

 妹尾氏は、本書にて、技術力を事業競争力に活かす方策としての「三位一体」型経営戦略というコンセプトを提示しています。

 
(p.xixより引用) 三位一体とはどういうことか?・・・
 一つ目は、製品の特徴(アーキテクチャー)に応じた急所技術の見極めとその研究開発
 二つ目は、どこまでを独自技術としてブラックボックス化したり、あるいは特許をとったり、さらにはどこから標準化してオープンに周囲に使わせるかという知財マネジメント
 三つ目は、それらを前提にして、一方で「市場拡大」、他方で「収益確保」とを両立させる、あるいは独自技術の開発(インベンション)と、それを中間財などを介した国際斜形分業によって普及する(ディフュージョン)という市場浸透を図るビジネスモデルの構築。

 
 このように「研究開発戦略」「知財戦略」「事業戦略」が三位一体の要素であり、これらを適切なバランスで発展させ推進していくことが、今後の科学技術立国として進んでいくための要諦だと説いています。

 本書での妹尾氏の説明は非常に丁寧です。言葉の定義を分りやすい言い回しでクリアにした後、論を進めます。
 たとえば、よく使う「モデル」という言葉についてはこう説明されています。

 
(p3より引用) モデルとは「仕組み(構造)、仕掛け(機能)、仕切り(マネジメント)」のセットのことです。

 
 余談ですが、妹尾氏は重要なコンセプトを説明する際に、こういう語呂も工夫した3点セットのスキームを効果的に駆使されます。たとえば、「物事の捉え方の基本は、『視点・視座・視野』だ」といった具合です。
 問題対処の方法の分類。これも妹尾氏流の3点セットスキームです。

 
(p59より引用) タイプ1は「問題状況の改善」、タイプ2は「問題状況の解決」、タイプ3は「問題状況自体の解消」を意味しているのです。こういった問題の「改善」「解決」「解消」に加え、さらに「置き換え」等々の問題対処の仕方があります。

 
 また、「反省」に代わる「省察」というコンセプトについてもこう示唆しています。

 
(p367より引用) 日本は教わることは得意ですが、自ら学ぶことがあまりうまくない国です。・・・日本人は、徹底的に解明することをいやがります。しかし、ちゃんと振り返らないと「気づき、学び、考える」は起こりません。「気づき、学び、考える」の三点セットがとても重要なのです。

 
 さて、本書ではいたるところに「インテル・インサイド」「アップル・アウトサイド」というフレーズが出てきます。

 
(p369より引用) 例えば、インテル・インサイド、アップル・アウトサイドというフレームワークを通じて、自分の関わっている製品や事業を別の観点から見られるようになれます。多様な解釈と解明ができるようになるでしょう。これが、コンセプトあるいはフレームワークの力なのです。それを活用して、もう一度事業を洗い直すことが重要なのです。

 
 妹尾氏の専門のひとつであるソフトシステムズ方法論では、こういった「一つのフレームワークを通じて対象を見て探索的学習をする手法」を説いています。
 とても参考になる思考方法です。
 
 

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弱者の兵法 野村流 必勝の人材育成論・組織論 (野村 克也)

2009-12-07 22:22:23 | 本と雑誌

 今シーズン限りで楽天の監督を辞任することになった野村克也氏の人材育成論・組織論です。
 もちろん、材料は「野球」。何人もの有名な野球選手にまつわるエピソードも数多く紹介されているので、野球に興味のある方はいろいろと楽しめるのではないでしょうか。
 逆にいえば、本書の大半が「人材育成論・組織論」についての記述で埋められているわけではないということです。

 ただ、もちろんそういう観点からも参考になる示唆がいくつかありました。
 まずは、野村氏の真骨頂、データ野球の実際についての話です。

 
(p86より引用) キャッチャーとしては「一日三ゲーム」を自分に課していた。
 まず球場に入ったらイメージのなかで自軍の先発ピッチャーと相手バッターを対峙させる。・・・二試合目はもちろん、グラウンドでの実際の戦いだ。だが、私はこれだけでは終わらなかった。試合後にもう一度実際の試合を最初から最後まで検討し直すのである。・・・
 私は理想を目指して、予測野球、実践野球、反省野球を繰り返し、一日中ガツガツと貪欲に野球に取り組んだ。

 
 これは、まさにデータを活用したP(予測)、D(実践)、C(反省)サイクルの実践ですね。この地道でありまた王道の方法の継続で、野村氏は、現状に満足することなく向上心をもち続けたのです。

 もうひとつ、「知識経営」に通底する「無形の力」というコンセプトです。

 
(p162より引用) 無形の力とは、・・・具体的にいえば、「分析」「観察」「洞察」「判断」「決断」「記憶」としてまとめられようか。
 ・・・この無形の力は有形の力-戦力の多寡や技術力など-に勝るというのが私の信念であり、これまでのプロ野球生活で体得した真理であるといっても過言ではない。
 なぜなら、有形の力は「有限」であるからだ。・・・
 しかるに無形の力は磨けば磨くほど研ぎ澄まされる。スランプもない。しかも、チームとして共有できる。ということは、選手が代わってもチームの財産となって受け継がれていくのである。

 
 正直なところ、本書で示された人材育成や組織に関する要諦は、これといって目新しいものはありません。しかしながら、野村氏は、自らを高めるため幾重にも重ねた努力を通して、これらの考え方を身につけ実践していったのです。

 実体験により創造された主張であるということは、結果としての内容に斬新さがなくとも、本書に、理念先行のビジネス書にない素晴らしい価値を与えるものだと思います。
 
 

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凄い時代 勝負は2011年 (堺屋 太一)

2009-12-04 22:38:12 | 本と雑誌

 そういえば、堺屋太一氏の著作はほとんど読んだことがありませんでした。
 今回の本は、まさに今を扱った内容です。

 堺屋氏によると、今回の世界的な大不況も、自らの従来の主張すなわち「知価革命」の必然の流れだと言います。
 まず、その主張のもととなる「知価革命」について説明しているくだりです。

 
(p27より引用) 近代工業社会は「物財の豊かなことが人間の幸せ」と信じる社会である。
 ・・・そこでは人々は、・・・「まず教育を受けて所得の高い職場に入り、貯蓄して金利を得ながら物財を消費する」のを「健全な生き方」と考えた。
 ところが、1980年代に入るとアメリカやイギリスでは「人間の幸せは満足の大きいこと」と考える発想が広まった。すべてを一変する知価革命のはじまりである。
 ここでは、所得の高い大量生産の製造業よりも自己実現や対人接触の多い職場が好まれるようになった。満足の大きさを求める人々は、「欲しい時に買い、あとで支払う」のが「利巧な生き方」と考える。このため、家計の負債が急増し、需要過剰経済が出現した。貿易赤字を必然とする構造である。

 
 この知価革命の先進国であるアメリカにおいて、世界的金融不況の口火が切られたのです。
 今回の金融危機発生の因果関係を辿ると、以下のような経過となります。

 
(p230より引用) 因果の関係を正確にいえば、まず石油をはじめとする商品価格の漸騰があり、これによってアメリカの景気が悪化、住宅不動産価格の下落を生んだ。それがサブプライム・ローンの破綻の原因になったのである。
 では、何が商品市場での高騰を生んだのか。その主因は資源不足の予測とマネー(ドル)過剰の見込みである。・・・
 そのため、短期の高利を求める投機に走る資金が増えた。そんな投機資金が商品市場を動かし、各種商品の暴騰を生んだのである。

 
  今回の金融危機は「新自由主義の行き過ぎの結果」だとの考え方が一般的に語られています。
 これに対し堺屋氏は、今回の金融危機の最大の問題を「改革の遅れ」だと指摘しています。

 
(p83より引用) 今日の最大の問題は、世界経済の体質と構造の変化に、人類の知識と制度がついていっていないことだ。つまり、改革の行き過ぎではなくして、改革の遅れなのである。

 
 このあたりの切り口は大いに首肯できるものです。

 また、投資銀行をはじめとした金融業者に対する辛辣な言葉も堺屋流です。

 
(p243より引用) 金融業者に倫理を説くのは無駄だろう。金融業者があくどいことは、シェイクスピアも近松門左衛門も書いている。金融業界に望むのは、倫理よりも理性である。

 
 さて、最終章の「今こそ『明治維新』的改革を」の章では、公務員改革・地方分権制等、私でも同意できるような提言が示されています。
 が、ただ、教育改革についての以下のような認識に表れる堺屋氏の立ち位置は、どうにも納得しかねるものでした。

 
(p320より引用) 学校と教師の側が競争し、生徒と父母の方は選り取り見取りで好きな学校を選べるのがよい状態である。・・・
 こういえばすぐ、「それでは高い月謝の支払える裕福な家庭の子女が有利になり、貧しい家庭の子女はよい教育を受けられない」という不公平論が出そうだが、必ずしもそうではない。比較的自由な競争の認められている大学を見ると、月謝(授業料)の高い私立大学が優秀好評で、そうではない国公立が劣等不人気とは限らない。月謝の安い東京大学や京都大学は好評である。
 一流国立大学の学生に裕福な家庭の子女が多くなっているのは、競争の不十分な(官僚統制の厳しい)小中学校や高校に格差があるからである。

 
 やはり、このあたりのフレーズをみると、やはり「普通の人の感覚」とはズレているように思います。
 現代日本社会の大きな問題の一つである格差社会・貧困問題の現実に関する堺屋氏の理解は、あまりにも貧弱なものと言わざるを得ません。
 
 

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