OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

ビジネス力の磨き方 (大前 研一)

2007-09-30 14:55:15 | 本と雑誌

 大前研一氏のファンではないのですが、氏の本は時折手にします。
 一番最近は、「ロウアーミドルの衝撃」でした。

 本書は、社会・経済的なテーマを論じたものではありません。仕事に取り組むに当っての「大前式メソッド」を紹介したものです。

 大前氏の本にはお約束となっている話はともかく、素直に「なるほど」と思ったところをご紹介します。

 まずは、先を見通す力「先見力」についてです。

 大前氏は、「先見力」の発揮プロセスを4つのステップで説明しています。

(p19より引用) 自分の周囲のみならず、さまざまな場所、異業種などで起こっているありとあらゆる事象を観察することが、先見力の第一歩なのである。
 そして、それらの事象の中から、ひとつの現象となって未来に影響を及ぼすであろう兆しを見極めるのが、次の段階だ。・・・具体的にいうと「Forces at Work」に注目するのだ。
 この「FAW」というのは、・・・無理やり日本語を当てはめるなら「そこで働いている力」ということになる。ある傾向を伴った事象があれば、そこには必ずその事象を発生させるだけの力(FAW)が働いているはずだから、それを分析し発見するのだ。
 それがわかったら次は、その力の方向に現在の事象を早送り(FF)してみる。そうすると、五年後、十年後、いまの事象が社会にどのような変化をもたらしているかがみえてくる。
 私のいう先見力とはこの、①観察、②兆しの発見、③FAW、④FFが正しくできる能力のことなのである。

 「FAW」から「FF」という言い様はなかなか面白いです。
 変化の本質をつかんで、それから未来を類推することですから、まさに王道です。

 そのほか、物事に対する「姿勢」について、大前氏らしからぬ?アドバイスです。

 まずは、固定観念に縛られたり、自分自身を実態以上に過小評価したりすること等によって生じる「思い込みの壁」について。

(p61より引用) 壁が突破できないのは壁が巨大だからではなく、じつは巨大な壁を前にもうダメだと自分で思い込んでしまうからなのである。
 なかにはもともと何もないのに、自分で勝手に壁があると思い込んで途方に暮れているなどという人もいる。・・・
 しかし、それが「思い込みの壁」だと分かりさえすれば、突破するのは簡単だ。思い込みだと気づいた途端に、壁のほうから消滅してくれる。

 また、いろいろな人からもよく言われることですが、大前氏もやはり「悩むよりは行動せよ」と勧めています。

(p149より引用) だいたい、これまでの人生で、悩んで問題が解決したなどという経験は一度もないのだから、悩んだって仕方がないだろう。
 だから、私は悩む暇があったらまず行動する。それでうまくいけばよし。もしうまくいかなかったら、どこが悪かったのか、その原因を徹底的に探し、それを排除するには自分には何ができるかを考える。そうすれば、次は必ずもっとクレバーな行動がとれるというわけだ。
 仕事でも人生でも、たった一度の失敗で終わりになるなんてことはないのだから、このやり方がいちばん確実で効率がいいのである。

ビジネス力の磨き方 ビジネス力の磨き方
価格:¥ 840(税込)
発売日:2007-04-19


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ロウソクの科学 (ファラデー)

2007-09-29 13:38:10 | 本と雑誌

Faraday  以前、岩波書店編集部による「ブックガイド文庫で読む科学」という本を読んだのですが、その中で紹介されていました。

 もちろん、この本自体は非常に有名ですから、どなたでもご存知だと思います。
 ただ、私は、恥ずかしながらこの年になるまで読んだことがなかったので、「ブックガイド」に触発されて遅まきながら手に取ったというわけです。

 著者のファラデー(Michael Faraday 1791~1867)は、電磁誘導、電気分解の法則及び電気と磁気の基本的な関係の発見者として有名なイギリスの物理学者・化学者です。

 この70歳になる科学界の重鎮が、こどもたちを対象にクリスマスごとに科学の講義をしました。その講義記録としてまとめられたのがこの本です。
 原題は「The Chemical History of a Candle」ですが、お馴染みの「ロウソクの科学」というタイトルは、初期の訳者矢島祐利氏による案出とのことです。

 さて、この本ですが、確かに1世紀以上読み継がれているだけのことはあります。いろいろな意味でいい本です。
 子どもたちに対するファラデー氏の優しさが全編に溢れています。ともかく温かです。

 ファラデー自ら、子どもたちが興味を惹くような道具を選んで、子どもたちの目の前でひとつひとつ実験しながら丁寧に講義を進めていきます。

 ところどころにファラデーの大事な教えがちりばめられています。

 たとえば、「疑問をもつ」ということ。

(p20より引用) ロウソクにおいてだけではなくまたその他のいろいろの場合においても、予期に反した事情や失敗のおかげでそれなしではおそらくえられなかったところの教訓をうることがしばしばあります。このようにして私たちは自然の研究者になるのです。諸君はあらゆる現象において、それが新しいものである場合にはなおさら『その原因は何であるか、どうしてそうなるのか』と考えてみるべきです。そうすればいつかその理由がわかります。

 また、「自分で考える」ということ。

(P52より引用) 今このテーブル上でロウソクが燃えているときには一つの化学変化が起こっているのですが、それを理解するには右の事がらをはっきりとのみこまなければなりません。それにはどうしたらよいでしょうか。方法はいろいろありますが、私がすでに申しましたことを諸君が自分でよくお考えになるのがよいと思います。諸君の眼力はもはやかなり鋭くなっていると信じます。

 本書は、「ロウソク」の科学ではありません。ロウソクを材料に「科学」を説いています。
 全6編の副題を辿ると一目瞭然です。

  • 第一講:ロウソク。炎‐そのもと‐構造‐運動‐明るさ
  • 第二講:炎の明るさ‐燃焼には空気の必要なこと‐水のできること
  • 第三講:燃焼の産物。燃焼から水‐水の性質‐化合物‐水素
  • 第四講:ロウソクの中の水素‐燃えて水になる‐水のもう一つの成分‐酸素
  • 第五講:酸素は空気中にある‐大気の本性‐そのいろいろの性質‐ロウソクからのもう一つの産物‐炭酸ガス‐その性質
  • 第六講:炭素つまり炭‐石炭ガス‐呼吸とそれがロウソクの燃焼ににていること‐結論

 「ロウソク」の炎の話から始まって、燃焼≒呼吸→炭酸ガス→植物、最後は「自然界の共生」の話につながります。

(p117より引用) 或るものには毒になるものが他のものでは必要なのです。それですからわれわれ人類はただ隣人のおかげをこうむっているばかりでなく、われわれと共にこの地球上に生きているあらゆる被造物のおかげをこうむっているのです。自然界のあらゆるものは、自然の一部分をして他の部分のために役立たせるような法則によって互に結びつけられております。

 そして、ファラデーのクリスマス講義は、「ロウソク」になぞらえた「少年少女への優しき期待」で締めくくられいます。

(p119より引用) 私はこの講義の最後の言葉として、諸君の生命が長くロウソクのように続いて同胞のために明るい光輝となり、諸君のあらゆる行動はロウソクの炎のように美しさを示し、諸君は人類の福祉のための義務の遂行に全生命をささげられんことを希望する次第であります。

ロウソクの科学 改版
価格:¥ 210(税込)
発売日:1956-01


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宇宙開発の50年 スプートニクからはやぶさまで

2007-09-24 14:28:56 | 本と雑誌

Saturn_v  たまたま図書館の新刊書の棚で目についたので、手にした本です。

 宇宙の話については小さいころ結構興味を持っていて、お小遣いをためて天体望遠鏡を買ったこともありました。

 何と言っても極めつけの記憶は、1969年7月のアポロ11号の月面着陸。
 小学生だった私は、夜中(未明?)、西山千さんの同時通訳を聞きながら白黒テレビの画面にかじりついていました。(ちなみに西山千氏は、今年(2007年)7月2日、お亡くなりになったそうです。ご冥福をお祈りいたします。)

 当時は、まさに「米ソの宇宙開発競争」が華やかなりし時代でした。それは国の威信をかけた国策でしたが、もちろん冷戦期、軍事戦略的にも極めて重要な意味をもっていました。

 本書は、世界初の人工衛星スプートニク1号を皮切りに、著者の武部氏が約90の人工衛星や探査機を選び出し、その歴史的背景や意義・エピソード等を紹介したものです。

 その中には、歴史的成功もあれば、残念な事故もありました。

 1967年、人命に関わる最初の事故が起こりました。
 ソ連(当時)のソユーズ1号が地球に帰還する際パラシュートが開かず、搭乗していた宇宙飛行士コマロフ氏が亡くなりました。宇宙飛行でのはじめて犠牲者となったのです。
 事故に際して、その場に関わった方からの重い言葉です。

(p82より引用) 哀悼の意を捧げたNASAのウェブ局長は「ソユーズもアポロも、米ソの開発協力があれば悲劇を避けられたかもしれない」と呼びかけた。

 もうひとつ、ショッキングな映像を世界中が共有した1986年アメリカのスペースシャトルチャレンジャーの爆発事故です。
 著者は、この事故調査にあたったファインマン博士の補足意見を紹介しています。

(p197より引用) 「技術がうまくいくためには、現実が広報活動より優先されなければならない。なぜなら自然はごまかせないからだ」

 物理学会の重鎮からの「技術の奢りに対する戒め」であり、それを求める「思惑への批判」です。
 当時、チャレンジャーの発射の際、設計リスクや当日の気象状況から打ち上げ延期を求める声があったそうです。にもかかわらず、同日に予定されていた大統領の年頭教書に花を添えようという思惑により、打ち上げが強行されたとも言われています。

 1957年のスプートニク以降、資源探査衛星・気象観測衛星・通信衛星・技術試験衛星・・・月探査機・太陽探査機・惑星探査機・・・偵察衛星・軍事衛星・・・、6,000機近くの衛星や探査機が宇宙に向けて打ち上げられたといいます。
 中には、アメリカの宇宙ステーション計画として打ち上げられたスカイラブの本体のように、アポロ計画で一世を風靡したサターン5型ロケットの液体水素タンク等を改造して作られたリサイクル品もありました。

 ところで、この50年で、人類による宇宙開発/技術は、一体どれだけ進歩したのでしょうか?
 進歩したとして、それは進歩すべき方向に進歩したのか?
 そもそも、私が小学生のころワクワクしながら見た人類の月着陸の意味は結局何だったのか?

 この本で、これまでの宇宙開発の歩みを概観して、私としても、いろいろと考えさせられるものがありました。

 今、この(2007年)9月14日に打ち上げられた「かぐや」が、月に向けた軌道に乗ろうとしています。

宇宙開発の50年 スプートニクからはやぶさまで (朝日選書 828) (朝日選書 828) 宇宙開発の50年 スプートニクからはやぶさまで (朝日選書 828) (朝日選書 828)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2007-08-10


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大人の探検ごっこ (清野 明)

2007-09-23 18:48:27 | 本と雑誌

Kamikochi  たまたま図書館で目に付いたので読んでみた本です。

 アウトドア系雑誌の編集者をしていた著者が、自らの足で挑んだ「探検」の数々を記したものです。

 「探検」といっても日本国内ですから、せいぜい数日程度のものです。が、素人ではちょっときつそうな行程ばかりですね。

 たとえば、上高地に行くにしても、バスなら1時間程度のところを「徳本峠」を越えて10時間ほど歩いて入るといった感じです。
 そうやって、やっと辿り着いた上高地での著者の体験です。

(p56より引用) 峠を下り、人が大勢いる梓川沿いを歩いているとき、ふと耳に入った女性の言葉。
「何もなくてつまんない」
 一瞬ギクッとした。彼女にとって上高地は何もない場所なのだ。目の前をさらさらと流れている清らかな梓川の流れも、あたりに生い茂る原生の森も目には入らないのだろうか。人間は見たいものしか見えないという話は本当なのかもしれない。

 著者の選んだ数々の探検先は、幾分、自然の中にある「温泉」に惹かれたようなきらいがありますが、どこもワクワク感のある面白そうなところばかりでした。

 何時間も歩いてこういう自然の中に入り込むような機会は、私など、もう全くないので、著者の「探検」にはやはり羨ましさを感じます。
 今から20年以上前、1年間だけ北海道に住んでいたときの経験、裏摩周から通ずる摩周湖半や阿寒岳のふもとのオンネトーに行ったときのことを思い出しました。

 さて、本書の中の著者は、探検倶楽部の隊長として時折リーダーシップを発揮することはあっても、ほとんどの場合は少々頼りなげです。

 しかしながら、感性は真っ当です。

(p148より引用) この村はもともとは開拓の人が入ってきたところ。350年前に村を捨てざるを得なかった村人たちは、そもそもなぜここで生きていかなくてはならなかったのかと思う。そこには寒さよりも厳しい、別の現実があったということだ。

 長野の稗之底村を訪れたときの著者の静かな思いです。

大人の探検ごっこ (アスキー新書 14) 大人の探検ごっこ (アスキー新書 14)
価格:¥ 980(税込)
発売日:2007-06-09


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面倒なことはやりたくない (「命令違反」が組織を伸ばす(菊澤 研宗))

2007-09-22 22:13:45 | 本と雑誌

Taiheiyo_senso  菊澤氏は、「心理会計」と並んで、「不条理な失敗」の合理性を説明するもうひとつの理論として、行動経済学上の「取引コスト」の考えを紹介しています。

(p88より引用) 取引コストの存在ゆえに、「不条理」な状態が発生する。それは、全体的に見て、明らかに現状を変化させたほうが効率的であるにもかかわらず、そうするには多くの利害関係者と交渉・取引する必要があるため、その際に膨大な取引コストが発生し、個人的には変化しないほうがむしろ効率的だという状態のことである。すなわち、取引コストによって全体効率性と個別効率性にズレが生じるため、個々人は全体効率性の達成を諦めて個別効率性だけを追求するのである。

 このあたりは、以下の例示が分かりやすいですね。
 多くの企業が狙っているところでもあります。

(p89より引用) 限定合理的な人間の世界では、・・・既存の商品が新商品より劣っていたとしても、新商品へ移行するのに必要なコストがあまりにも高いならば、人々は移行しようとはせず、あくまで既存の商品に固執する可能性がある。・・・
 取引コスト理論に従うと、こうした現象は決して非合理的な現象ではなく、まったく合理的な現象とみなされる。

 この理論によると、「取引コスト」が高ければ、一度決めたことはなかなか変更に至らないことになります。方針や施策の変更は困難になってしまいます。
 状況の変化に応じて、柔軟に対応変更できるようにするためには、「取引コスト」を下げるか、「取引コスト」を凌駕するプロフィットを与えなくてはなりません。

 菊澤氏は、そのための方策として「損害賠償制度」を挙げます。

(p231より引用) 限定合理的な人間社会では、契約は常に不完備契約となる。それゆえ、不完備契約を絶対的なものとして強制的に守らせようとすると、取引コストは高くなり、そのために取引が起こりにくくなる。あるいは、たとえ取引されたとしても、逆に非効率な資源の配分と利用が発生する可能性があるのだ。
 しかし、損害賠償制度のもとに、必要とあれば契約を破る自由を人間に与えておけば、取引コストは節約され、人間は自由に取引しようとする。つまり、損害賠償制度は、取引コストを節約する法制度であり、その法制度によって取引が活発になり、効率的な資源の配分が起こるのだ。

 この考え方、すなわち「損害賠償制度」の意味づけとして、経済活動の活性化・効率化に資するものとしているのは、結構興味深いものがあります。

 決めたこと(契約)を破ることは、「命令違反」と相似です。
 本書では「不条理な失敗」の回避策として「(よい)命令違反」を推奨していますが、こういった「損害賠償制度」は、(命令違反を前提としたスキームである点で)「命令違反」を実行たらしめる仕掛けとも言えます。

 本書において菊澤氏は、太平洋戦争における日本軍の行動を材料に、そこで生じた「不条理な失敗」を新たな切り口で分析し、その「失敗の本質」を追究していきました。

(p65より引用) このまったく非効率な戦術を選択し続けた陸軍の行動にも合理性があったということだ。つまり、ここでの失敗の本質は人間の非合理性にあるのではなく、実は人間の合理性にあるということであり、それゆえガダルカナル戦は歴史における特殊なケースではないのだ。

 「人間の個人レベルの心理的な合理性」。

 著者の菊澤氏が明らかにした普遍的な「失敗の本質」です。

 (菊澤教授のBlogでもコメントいただき、ありがとうございます。)

「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書 312) 「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書 312)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2007-08


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心理会計 (「命令違反」が組織を伸ばす(菊澤 研宗))

2007-09-19 23:33:55 | 本と雑誌

Midway  本書のテーマである「不条理(合理的)な失敗」が生じる理論的根拠として、面白い考え方が2つ示されています。

 「心理会計」「取引コスト(行動経済学)」です。

 まずは、プロスペクト理論にもとづく「心理会計」についてです。

 菊澤氏は立論にあたって、「価値関数」という概念モデルを示します。

(p45より引用) 限定合理的な人間の心のバイアスを描き出す価値関数を用いることで、一見非合理的な人間行動の合理性を説明することができる。

 価値関数を通して現実の利益を心理的価値に置き換えてみます。すると、「現実の利益の増加率よりも心理的価値の増加率が小さい」という価値関数の性質から、以下のようなケースが発生します。

(p49より引用) 予想外の利益(x1>0)と予想外の利益(x2>0)が出た場合には、二つの成果を統合勘定で処理するよりも、それぞれ別々に分離勘定で処理した方が、人間の心理的価値(満足)は高くなる。
 以上のことから、この場合、経営者は二つのビジネスの利益x1とx2の合計を最大化しようとするのではなく、それぞれのビジネスの利益を分離勘定で扱い、それぞれ時間差で最大化しようとするか、あるいはどちらか一方だけを最大化するように行動する可能性が高いといえる。その方が心理的に価値が高いのだ。

 これは、よく言われる「木を見て、森を見ず」とか「部分最適/全体最適」のissueでもあります。
 菊澤氏は、そういった判断に至る道程を「心理的価値」の大小で説明していきます。

(p49より引用) したがって、一方で0.1%の金利で子供の教育費を貯蓄し続け、他方で3%の金利で自動車ローンを組んでしまうという一見非合理な人間行動も、人間の心の中での会計処理、つまり心理会計的にいえば、分離勘定のもとに心の中では合理的に処理している可能性があるのだ。

 菊澤氏は、こういったケースの具体例として、インパール作戦における牟田口廉也中将の行動を紹介しています。

 予想外の利益がマイナスの状態(現状が想定どおりに進んでいない状況)においては、それ以上の悪化に向かうリスクよりも、状況を好転させる(であろう)期待の方を選択するのが、「心理的には合理的だ」というわけです。

 ただ、その末路は悲劇です。

(p62より引用) 利益が出ているときにはリスク回避的にすぐに利益を確定しようとするが、損失が出ているときにはリスク愛好的にすぐには損失を確定しようとしない。こうした行動は決して非合理的なものではない。心理的には合理的なのだ。
 しかし、そのような行動は客観的には必ずしも効率的ではなく、むしろ非効率的なことが多いので、結果的にそのようなリーダーの命令に従う組織は合理的に自滅していくことになる。

「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書 312) 「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書 312)
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命令違反のすゝめ (「命令違反」が組織を伸ばす(菊澤 研宗))

2007-09-17 14:37:09 | 本と雑誌

Shinju_wan  太平洋戦争における日本軍の高級将校の行動を材料に、その失敗の原因を探求していきます。
 かなり以前に似たような切り口で「失敗の本質」という有名な本がありましたが、その結論は異なります。

 菊澤氏は、失敗を2つに分けます。
 「無知」や「不注意」による「条理な失敗」と予期できたにもかかわらず陥ってしまう「不条理な失敗」です。

(p10より引用) 人間が関わる重大な失敗の多くは、良くない結果が生れることを十分知りつつ、なぜか失敗に突き進んでしまうような、そんな失敗である。つまり、世の中には、単なる無知や不注意だけでは説明できないような失敗もあるのだ。
 私は、このような失敗を「不条理な失敗」と呼んでいる。・・・人間が関わる重大な失敗の多くは、無知や非合理性によってもたらされたというより、むしろ合理的に起こるものだ。

 以前の多くの説では、多くの失敗は「非合理的な判断」によるものだといわれてきました。しかし、菊澤氏は、「合理的に失敗は起こった」と言います。

 ここでのキーワードが「限定合理性」です。

(p12より引用) 現実には完全な人間などいない。・・・人間の情報認識能力は限定されており、人間はそこで得た不完全な情報の中でのみ合理的に行動するという「限定合理性」の仮定に立って、事例を分析する必要があるのだ。・・・先に挙げた事件や不祥事も、実はこの限定合理性な人間が不完全な情報の中で不正であることを十分知りつつ、組織や企業のためと思い行動した結果起きたものが意外に多いのだ。

 このような「不条理な失敗」を回避するためのファイナル・ソリューションが「命令違反」です。

(p15より引用) 不条理に満ちた現代の組織には、ファイナル・ソリューションとして命令違反する勇気と、命令違反を許容する新たなマネージメントが必要である。

 菊澤氏によると、「命令違反」は、「不条理な失敗」に陥るのを防ぐとともに、「命令違反を認める仕組み」も具備されると組織を進化させる効用もあると説いています。

(p103より引用) 不条理に陥った場合、部下が上司や上官に対して命令違反することは、組織倫理上は不正だが、組織経済的には効率的であり、しかも組織の消滅や淘汰の危機を回避することにつながる。そして、部下の命令違反が何らかの仕組みのもとに認められているような組織では、上司や上官の命令が生み出す非効率や不正が、部下の命令違反によって排除される可能性があるのだ。・・・このような仕組みを持つ組織は、・・・命令違反によって・・・むしろ組織を進化させる可能性すら出てくる・・・

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偽装請負-格差社会の労働現場 (朝日新聞特別報道チーム)

2007-09-16 19:31:26 | 本と雑誌

Kojyo  この本は、いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパさん」も読まれたようです。

 ここ数年の労働環境を語る際、大きな問題となったのが「偽装請負」です。
 本書は、朝日新聞特別報道チームによる「偽装請負追及キャンペーン」展開時の取材内容を取りまとめたものです。

(p17より引用) 偽装請負と呼ばれる雇用システムをひとことで言い表すなら、「必要がなくなれば、いつでも使い捨てることができる労働力」のことだ。企業にとって、これほど都合のよい「雇い方」はない。

 特別チームは、「キヤノン」「松下電器産業」といった日本を代表する超一流企業の「偽装請負」の実態を、具体的な証言や取材記録をもとに明らかにしていきます。
 また、一時期、日本最大の請負会社グループであった「クリスタル」にも焦点をあてていますが、このあたりは従来あまり実態が明らかではなかっただけに、非常に興味深いものがありました。

(p18より引用) 偽装請負の実態は、労働派遣そのものだ。しかし、請負契約を装っているので、労働派遣法の制約はすべて無視する。・・・
 生産量にあわせて、労働力を増やしたり減らしたりできる偽装請負は、メーカーにとって麻薬のように危険で魅惑的だった。・・・以前の企業は、予想される最も忙しい操業状態に合わせて、多数の労働力を抱えておかなければならなかったが、いつでも容易にクビを切れる魔法を手にしたとき、抱える労働力は最小限で済んだ。労働コストは大幅に削減され、利益はあがるという図式だ。

 企業の生産活動は、当然、労働力に支えられています。正社員・派遣社員による業務遂行のほか、一定の業務をひとかたまりで委託する形態(請負)があります。
 本書で取り上げられている「(偽装)請負」のケースは、多くの場合、委託側が受託側に対して圧倒的に強い立場にあります。

 多くの場合表面に出なかった偽装請負が顕在化する契機としては、事業環境の変化に耐えうる「流動的な労働力」を求める企業側の思惑と、「安定的な雇用」を求める労働者側の希望との「ミスマッチ」があります。
 
もちろん「偽装請負」は実態としては「派遣」と同様の雇用関係になっているわけですから、労働者側の「安定的な雇用」を求める姿勢の方が正しいものです。

 広く現在の労働環境を俯瞰すると、「安定した労働力」を求める企業もあれば、「柔軟な雇用形態」を求める労働者も存在します。「流動的な労働力」を求める企業や「安定的な雇用」を求める労働者ばかりとは限りません。
 この4つの相の量的バランスが崩れてミスマッチを起こしているところに問題事象のひとつの根があるのです。

 本来、教科書的にいえば、企業と労働者は対等な関係であるべきで、また、委託側と受託側とはwin-winの関係であるべきです。

 数年前、BPO(business process outsourcing)という形態が流行ったことがあります。これは、企業が自社の業務処理(ビジネスプロセス)の一部を、外部の業者にアウトソーシングするものです。
 まずは、情報システム関係の業務ではじまり、その後、経理や給与支払・人事管理・福利厚生や不動産管理といった間接業務も情報システムの運用業務と一緒に外部に切り出す動きが見られました。
 この動きが成功例かといえば、ビジネス的にはそうとは言い難い面はあります。しかしながら、win-win請負形態を目指したひとつの動きとはいえると思います。

 日本の雇用関係の実態は、今回の取材でも明らかになったように、真っ白からほとんど白、グレー、真っ黒といった様々な状況が複雑にからまり混在しています。

 本書のところどころで御手洗日本経団連会長(キヤノン会長)の発言が紹介されています。
 その主張内容や背景も含め、「偽装請負」をテーマにしたリアルな労働実態のレポートは、昨今の雇用関係を考えるよい材料を与えてくれました。

偽装請負―格差社会の労働現場 偽装請負―格差社会の労働現場
価格:¥ 735(税込)
発売日:2007-05


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感動する脳 (茂木 健一郎)

2007-09-15 19:15:49 | 本と雑誌

 以前読んだ「フューチャリスト宣言」で、その著者のひとりである茂木健一郎氏に興味を持ったので手にした本です。

 以前から「大脳生理学」にはちょっとした関心があって、関係の本も数冊読んでみています。
 そういう流れで、本書に対しては、さらに素人向きの専門知識が得られるのではという期待を抱いていました。が、内容は少々私の想像とは違っていました。

 たとえば、「感情のシステム」についての茂木氏の説明です。

(p50より引用) 意欲を含む感情のシステムが、どのようなかたちで機能しているか。現代の脳科学で感情というのを一言で表わすなら、「生きる上で避けることができない不確実性への適応戦略」ということになるでしょう。

 少々抽象的ですね。

 それよりほんの少し「大脳生理学」的な感じがする記述としては、「前向きの脳」に関する説明の部分があげられます。

(p56より引用) 前向きの気持ちで生きている時には、前向きに生きる時の脳の状態があります。・・・大脳皮質の下の大脳辺縁系を中心とする領域にある物質。この物質が、前向きに生きる時と後ろ向きに生きる時とでは、その状態がまったく違ってくる。
 従って前向きに生きるというのは、実は気のせいでも、心の持ちようでもないのです。脳の中には、実際にそれを左右するインフラが組み込まれているわけです。

 「前向きの心持ち・姿勢」のときには、脳もそういう「状態」にあるというのです。
 ということで茂木氏はこうアドバイスします。

(p57より引用) 私はよく「根拠なき自信」が大切だと言っています。・・・まずは何の成功体験もないのに、最初に自信を持ってしまうのです。
 「自分は必ずできる」「オレには自信がある」と勝手に信じてしまう。・・・そうすると面白いことに、自信を持っている脳の状態ができ上がってしまうのです。

 すなわち、思い込みによって脳を「前向きの状態」にしてしまうのです。脳のインフラが「前向き型」になってしまえば、当然、心持ちも前向きになります。「プラス発想のスパイラル」が駆動されるのです。

 もう一点、本書のテーマである「感動」についての茂木氏の考えです。

(p196より引用) 感動というものは、心の空白の部分にスッと入り込んでくるものです。心の空白とは、気持ちの余裕と言い換えてもいいでしょう。・・・ちょっとだけ、悩みを隅っこに追いやってみる。五分間だけ仕事のことは忘れて、この美しい風景に集中してみる。そういう意識を持つことで、脳の中に空白が生まれる。その空白の中に小さな感動を入れてやることで、不思議と悩みが和らいだりする。

 このあたりの記述になると、「脳学者」というよりも「カウンセラ」とか「セラピスト」といった印象をもちます。

 本書の「はじめに」にも、この本の内容はPHP研究所で話した内容をまとめたものと書かれています。
 「大脳生理学」の概説書ではなく「メンタルヘルス」系の本だと位置づけるとそれはそれで別の面白味もあるでしょう。

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発売日:2007-03-17


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一日15分で必ずわかる英語「再」入門 (尾崎 哲夫)

2007-09-13 23:17:41 | 本と雑誌

 ちょっと前に会社の研修の1メニューで、数年ぶりにTOEICを受けました。
 そもそも英語は全くダメなのですが、ここまで「退化」しているかというほど情けない状況でした。
 振り返ってみるに、40歳も半ばをはるかに過ぎ、「50」という大台も現実性を帯びつつある今、ほとんど英語を使わない職場なので当然の結果ではあります・・・

 ということで、「中学以来のかんたんな英文法をもとに読み進めるだけで、あなたの英語力が確実に底上げされます」という謳い文句につられて読んでみたのがこの本です。

 結果、分かったことは、「『英語ができない』と一言でいってもどこがどうできないのかを明確にしないと何の対処もできない」という極々当たり前の事実でした。

 本書は、確かに、中学校レベルの「文法」についてコンパクトによくまとまっています。
 動名詞・現在分詞・to不定詞・分詞構文・・・・懐かしい用語が次々と登場します。が。こういった基礎文法の知識が再確認・再整理されたとして、英語の「何(どんなこと)」がよくできるようになるのか?

 もちろん決して無駄とは言いませんが、目的次第で「役に立つ or 立たない」の評価は大きく分かれると思います。

 当たり前ですが、「聞く力」をつけるにはほとんど意味はありません。
 「読む力」には役に立つでしょうか、この程度の文法を思い出したところで実践ではどうか?と思います。
 「書く力」は、中学校の「英作文」に取組む際の基本事項の整理には役立ちそうです。

 さて、私の場合に当てはめると、「読む」という点では、「文法の知識」ではなく、「語彙力」が致命的に不足しています。文法の知識が十分だということではありません。そもそも基礎的な単語がわからないので、文法云々以前の状態だということです。
 「ヒアリング」については、いわゆる「英語耳」になっていません。音としては聞こえても、「話」としては耳に入ってこないのです。耳から脳の言語中枢部に届かないのですから話になりません。さらには、決定的な語彙力不足に加え、話し言葉としての基本的な言い回しすら分かっていません。

 といった感じで、本書がどうこうという以前の「自分の英語力の情けなさ」を再認識したということでした。

 30年ぶりに「でる単(試験にでる英単語)」でもながめますか・・・

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いい言葉は、いい人生をつくる‐いつも私は「言葉の力」を味方にしてきた (斎藤 茂太)

2007-09-09 18:30:21 | 本と雑誌

 この本も、メンタルヘルスに関する関心の流れで手に取ったものです。

 ご存知のとおり、著者の斎藤茂太氏は、歌人斎藤茂吉氏の長男、精神科医でもあります。
 その斎藤氏が長年書き留めておいた「気に入った言葉」を軽妙な筆致でさくさくと紹介していきます。基本は、とことん楽観的なポジティブ思考です。

 そういった斎藤氏が紹介している言葉のなかで、私も「いいフレーズだな」と思ったものをいくつか書き記します。

 まずは、この手のテーマでは必ずといってもいいほど登場する松下幸之助氏の言葉から、「失敗」に関するものです。

(p122より引用) 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。
成功するところまで続ければ、それは成功になる。

 「失敗」について常に言われることですが、松下氏らしく前向きで地道な努力を謳っています。

 そのほか、思いやりと希望を感じさせるアメリカの哲学者エマソンの言葉です。

(p26より引用) 雑草とは、その美点がまだ発見されていない植物である。

 また、ユダヤの諺にも、気持ちのいいフレーズがあります。

(p96より引用) 他人を幸福にするのは、香水をふりかけるようなものだ。
ふりかけるときに、自分にも数滴はかかる。

 日本からは、詩人萩原朔太郎氏のすがすがしい言葉です。

(p234より引用) 五月の朝の新緑と薫風は
私の生活を貴族にする

 どんな時でも、どんな場所に住んでいても、ちょっとした自然の兆しから季節を感じる、そういう心のゆとりは持っていたいものです。

 さて、私が気に入った言葉の最後は、アメリカの歌手シンディ・ローパーのフレーズです。

(p72より引用) 人はみな素晴らしい。
たった一度会っただけなのに、
二度と忘れられない人は大勢いる。

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発売日:2005-01


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世界一やさしい問題解決の授業‐自分で考え、行動する力が身につく (渡辺 健介)

2007-09-08 20:30:44 | 本と雑誌

 ロジカル・シンキングの「きほんのき」を中学生向けに解説した本です。
 分かりやすい絵をふんだんに入れて、親しみやすい口調で説明が進んでいきます。

 主として利用しているのは、「ロジックツリー」による階層化です。
 それを活用して実際に問題を解決してゆく過程を、中学生にも身近に感じるようなストーリーに仕立てて解説しています。

 100ページ程度の本ですから、説明内容は一般的で目新しいものがあるわけではありません。が、ところどころ、私としても、折に触れて意識して留意すべきポイントが指摘されています。

 たとえば、「手段の目的化」の例としての「情報収集・分析の留意点」です。

(p45より引用) 情報を集め、分析するのは、あくまでよりよい判断をするためです。何が何でも分析を完璧にする、ということではありません。ときどき、分析することそのものにハマってしまい、目的を見失ってしまう人もいます。
 限られた時間の中で、最もいい判断を導き出すことができるよう、効率のよい情報収集、分析を心がけてください。

 また、「課題の可視化」の重要性について。

(p48より引用) ・・・紙に書くと、頭が整理できるというメリットもあります。必要な作業がハッキリするので、ダブったり、うっかり忘れたり、といったことも防げます。つまり、本当に必要なことだけに絞り込むことができるのです。

 この手のロジカル・シンキングは、ひとつの考え方としては理解しておくべきものだと思います。
 が、反面、思考方法の「画一化・パターン化」を助長することにもなりかねません。30人のクラスの生徒全員が、同じロジックで物事を考えるようになってしまう姿を想像すると、それはそれで気持ちの悪いものです。

 枠にとらわれない個性溢れる発想がどんどん提示され、そういう様々な考え方が尊重されるような教室になって欲しいものです。

 ロジカル・シンキングのMECE(Mutually Exclusive collectively Exhaustive)の「もれなく」で、「意外性のある考え」が含まれうるのか。もちろん含まれうるはずですが、ロジカル・シンキングが画期的な発明を生んだという例を(私は)聞いたことがありません。

 著者は、あとがきでこう言います。

(p115より引用) 世界に先駆けて日本全国でこのような教育が広がれば、個々人の潜在的な力をもっと引き出すことができるのではないかと思います。それはいずれ、「主体的に考え、行動する人材」「世界で活躍する人材」の輩出につながるでしょう。

 先に紹介した本「同じ年に生まれて-音楽、文学が僕らをつくった」の小沢征爾氏や大江健三郎氏がロジカル・シンキングを信奉していたとは思えません。

 本書が主張するロジカル・シンキングの勧めも、考え方の「画一化・パターン化」ではなく、「多様化のひとつ」となればいいのでしょう。

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価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2007-06-29


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同じ年に生まれて-音楽、文学が僕らをつくった (小沢 征爾・大江 健三郎)

2007-09-07 21:55:41 | 本と雑誌

 本書は、世界的に著名な指揮者である小澤征爾氏とノーベル賞作家の大江健三郎氏との対談録です。

 以前、小澤征爾氏の著書「ボクの音楽武者修行」を読んだのですが、その流れで手に取ったものです。

 お二人とも1935年に生まれた同世代で40年来の友人とのこと。若い頃からそれぞれの道をめざし、現在の地位に至っています。

 音楽と文学、異なる世界ではありますが、お二人のお話しの中には、そういったジャンルの違いを超えた普遍的な示唆がそこここに見られます。

 たとえば、大江氏の言う「芸術の『普遍性』の中における『個』の理解」についてです。

(p37より引用) 個というものをちゃんと持った人間が、ある普遍的な流れのなかに入って仕事をすることで、その個性ぐるみ理解されるということだろうと。

 芸術が芸術であるゆえに普遍性を持っているのではなく、やはり、そこには特別な個が必要である、ということ。ただ、芸術の普遍性の中では「個まるごと」が理解されるということなのでしょう。

 この「個」について、大江氏は、インターネットとの関わりでもコメントしています。

(P67より引用) まず一人立たなきゃなにも始まらない、ということへの認識が弱いということが日本にある。
 まず国とか会社とか考えないで、一対一で、この地球の上のあらゆる個と直接交渉ができるような人間になっていかなきゃいけない。僕は、そう思います。インターネットがもし本当に有効だったら、たとえばある個人に障害があって足が動かなくて家から出られなくても、ほかの人間とやすやすと交渉ができるようになるかもしれない。それは僕にとっては、二十一世紀インターネット社会へのいい方向への想像ですね。

 個とインターネット社会とのシナジーの発揮です。

 最後に、小澤氏、大江氏が共通に志向している「『個』によるディレクション」について、大江氏流のまとめです。

(p46より引用) 自分の中から搾り出すこと、そのように自分の個から出てくるものを、どうやって他の人たちへ方向づけるか。届けるか。それが小説を書く上での僕の原理的な態度です。あなたが音楽を作られる原理と重なっていると思うんですね。それは僕らの生き方の原理でもある。

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先端の科学者 (物理法則はいかにして発見されたか 新装版(ファインマン))

2007-09-04 23:36:19 | 本と雑誌

Suiso_genshi  「そんなものか・・?」と思いますが・・・。
 ふつうの人からみて「当たり前」の事象が、物理学の「基礎法則」から説明しようとすると、実は大変だというのです。

(p156より引用) 非可逆性が一つのよい例であるわけですが、これほど明白な事実が法則から一目で読みとれるのではなくて、実際、基礎法則から遠く離れた位置にある-これはおもしろいことです。・・・非可逆性は、世界の経済にとって、また歴然とした諸現象、世界の振舞いを理解するうえにおいて、最も重要なものであります。・・・にもかかわらず、非可逆性の理解は基礎法則を知ればただちに得られるというものではない。長い長い解析が必要なのであります。
 物理の諸法則が経験には直接結びつかない、程度の差こそあれ法則は経験から離れた抽象的なものである-こう感じさせられる場合がしばしばあります。いまの問題で、法則は可逆的だが実際の現象はちがうというのも、その一例です。

 このあたりの説明は、段階を踏んで辿っていくと分かったような気になります。

 物理学も世界の理解のための一手段です。

 ファインマン氏は一流の物理学者ではありますが、物理学的な方法のみにこだわっていません。
 探究のための多角的で俯瞰的な見方を認めます。

(p162より引用) 悪や美、希望の端からにせよ、あるいはまた基礎法則の極端からにせよ、そのような観点だけから全世界の深い理解を得ようと望むのはまちがっています。・・・たくさんの研究者たちが、中間の階層で上下の一段につながりをつける仕事をしております。世界に対する私たちの理解を進めているわけです。階層の両端で働く人々、中間の階層で働く人々-こうした人々のおかげで、複雑に結ばれた多層建築である、このとてつもない世界を、私たちは徐々に理解していきつつあるわけであります

 現代物理学の「最先端」にいる科学者が置かれているところは、(当然ではありますが、)極限の場所です。
 「その先の未知の領域」は、今正しいと考えられている法則のどれかを否定することによってしか到達し得ないようです。現在正しいと考えられている法則は、「今」知られている現実や実験結果と合致しているに過ぎないというのです。

 もうひとつ、極限の場では「いくつもの物理法則が根本原理に収斂される」ようです。

 ファインマン氏ですら、不思議に思うのです。

(p246より引用) 物理の基礎法則が、発見の当座には一見して同じとは見えないさまざまの形をとり、それにもかかわらず数学的にちょっといじってみると互いの関係がわかってくる。これはいつ考えてみても私には不思議です。

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物理の法則 (物理法則はいかにして発見されたか 新装版(ファインマン))

2007-09-03 22:31:37 | 本と雑誌

Feynman  以前読んだ「ブックガイド文庫で読む科学(岩波書店編集部)」で紹介されていたので、読んでみました。

 著者のファインマン氏(Richard Philips Feynman(1918~88))は、アメリカの理論物理学者です。
 1942年にプリンストン大学で原子爆弾開発のためのマンハッタン計画の初期段階に加わり、翌年からはニューメキシコ州のロスアラモス研究所で終戦までその仕事を続けました。その後1965年に、「量子電磁力学の展開」にて、アメリカのシュウィンガー氏・日本の朝永振一郎氏とともにノーベル物理学賞を受賞しました。

 本書は、「物理法則とは」についてのファインマン氏の講演をベースとしたものです。

 物理学の素養のある読者には非常に興味深いもののようですが、私にとっては、かなり荷が重いものでした。理論物理の数式が登場すると、もうお手上げです。

 とはいえ、いくつかなるほどと思える話もありました。

 たとえば、「物理学」と「数学」との関わりについてです。

 物理の法則としてある基本的な「原理」が発見されると、あとは、「数学的帰結」で数々の法則が導かれる(p14)という考え方は面白いですね。法則の中にも「根源的なもの」と「派生的なもの」があるようです。

 ただ、常に「根源的なもの」から考えを進めるのがよいとは限らないようです。
 ファインマン氏はこう語っています。

(p57より引用) つねにきまった公理から出発するというやり方は、定理をみつける能率的な方法ではありません。・・・場合に応じて勝手なところから出発するというほうが、はるかに能率的であります。どれが最良の公理であるかきめてかかるのは、全体を見通すのに必ずしも便利でない。

 このあたりの自由さが、新たなものに向かう姿勢としては重要なのでしょう。

(p192より引用) 科学の存立のために必須なのは、自然とはかくあるべきものだなんていう哲学めいた予断を認めない自由な精神なのです。

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