この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

華麗でも何でもない『マネー・ショート 華麗なる大逆転』。

2016-03-06 20:56:39 | 新作映画
 アダム・マッケイ監督、スティーブ・カレル主演、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』、3/6、ユナイテッドシネマキャナルシティ13にて鑑賞。2016年7本目。


 ここだけの話、と断ることでもないのですが、自分は某大学の経済学部の出身です。
 経済学部を卒業してわかったことは、経済(の動き)は決して読めない、わからないということでした。
 経済はわからないとはどういうことなのかというと、例えば、商店Aで商品αが売れ残ったとします。この場合、商店Aが商品αをさばくために商品αの売値を下げることは大いにあり得ることで、特に不思議はありません。
 その一方で、商店Bにおいて、大量の売り上げが見込めない商品βの売値を通常より割高にすることもおかしいことはありません。
 同じように売れない商品αとβ、一方は売値を高くし、一方は売値を安くする、考えてみれば不思議なことのように思えます。
 もちろん商品の価格のつけ方は、商品の性質に負うところが大きいのですが、結局のところそれは人間の心理によって決定されます。
 人間の心理は法則によって定まるものではありません。
 だから、経済の動きは読めないのです。

 しかしながら、経済において絶対的な法則というものも存在します。
 例えば、土地の価値は(永遠に)右肩上がりで上昇するというようなものです。
 この法則はニュートンの発見した万有引力の法則同様絶対といってよいでしょう。
 ただし、一つだけ条件が付きます。
 土地の価値は右肩上がりで上昇する、ただし人が増え続ける限りは、です。
 人が生きていくためには家が必要であり、その家が建つには土地が必要である。土地の広さに限界がある以上、人が増え続ける限り、土地の価値が上昇し続けるのは当然のことだと言えます(もっともこの日本においては人口は減少に転じましたが…)。

 しかし言うまでもなく、土地の価値は上昇し続けるということと、土地の価値は無限であるということはイコールではありません。
 一つの土地とそれに付随する不動産に二重、三重(あるいはさらに多く)の担保を取れば、市場が泡沫化し、やがて崩壊するであろうことは想像に難くありません。小学生にもわかる理屈です。

 ただ、バブルに浮かれている最中は、多くの人がそのことに気づけません。熱に浮かされた病人がまともな判断が出来ないのと一緒ですね。
 バブル経済の最中に、まともな判断が下せたごくわずかな人々、それがこの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の主人公たちなのです。

 本作のメインテーマは経済ですが、同時に信念についての映画でもあります。
 自分の考えが正しいと知っていることと、その正しさを貫けるかどうかということは別の事柄です。
 人は、何が正しいか知っていても(知らないことも多いですが)ごく些細な理由で自らの正しさを放棄しがちです。
 正しいことを貫くには常に困難が伴います。

 本作の主人公たちもただ自分たちの正しさを貫こうとしただけなのに、多くの人から奇人、変人と謗られ、それどころか脅迫すら受けます。
 本作は自らが信じる正しさを貫くことの難しさ、尊さを描いた映画であると言えるでしょう。

 個人的なことですが、ごくまれに、周りの人間が間違っていて、自分だけが正しかった、ということがあります。
 そういったとき味わうのは優越感かというとそうではなく、孤独感です。
 自分の正しさが証明されることもありますが、それは本当にまれのまれです。
 多くの場合、奇人変人扱いされてそれで終わりです。
 理詰めで自分の考えの正しさを証明し、なお、それってあなたがそう思い込んでるだけですよね、と言われたときは絶望すら覚えます。
 なので、自分は本作の主人公たちにはとても共感しました。
 彼らのように自分を曲げない強さを持てたら、と思いました。


 本当はここでレビューを終わらせてもいいのですが、あと少しだけ。
 以前記事にも書きましたが(こちら)、本作はポスターが非常に誤解されやすいものとなっています。
 しかし問題はそれだけではありません。
 一番の問題は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』というタイトルそのものです。
 「マネー・ショート」は英語としては意味をなさず、(無理に)直訳すれば「金欠」となり、本作の内容とは程遠いものとなります。
 まぁそれは日本人全般の英語力の無さの起因する問題として大目に見てもよいです。
 問題はサブタイトルですよ。サブタイトルである「華麗なる大逆転」からは、主人公たちが悪党から奪われた金を取り戻す、例えば『スティング』のような映画をイメージしますよね。
 しかし本作はそのようなカタルシスを得られるような映画ではないのです。何しろ主人公たち以外のすべての人々が経済的に破たんする映画ですからね。
 ポスターを見たときも思いましたが、映画本編を観て、配給会社の人たちはこの映画を本当に観たのだろうかという思いをさらに強くしました。
 以上です。


 お気に入り度★★★☆、お薦め度★★★★(★は五つで満点、☆は★の半分)。
コメント (2)
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