知人も含め、ジェロームがなぜ自ら命を絶ったのか、理由がわからないという人は多いようです。
思うに、その人たちは『ガタカ』という物語を「ヴィンセントは宇宙飛行士になるという子どもの頃からの夢を叶え、彼を献身的に支えてきたジェロームは彼が夢を叶えたのを見届けて命を絶った」というふうに捉えているのではないでしょうか。
それだと確かになぜジェロームが死ななければいけないのか、よくわかりません。
しかしヴィンセントは宇宙でその生涯を終え、ジェロームが事前にそのことを知っていたとしたらどうでしょう?
ただ単にヴィンセントの宇宙行きをサポートしていただけではなく、ある意味自殺ほう助もしていたことになります。
ジェロームが自ら命を絶ったとしても何ら不思議はない、自分はそう思います。
ヴィンセントが宇宙で死ぬというのは勝手な決めつけだ、そう仰る方いるでしょう。
確かに作中彼が亡くなるシーンはありません。
しかしそれを暗示するシーンはいくつもあります。
一番わかりやすいのは、ランニングマシンでたった20分走っただけのヴィンセントがロッカールームで倒れ込むシーンでしょうか。
ヴィンセントの心臓はたった20分走ることすら出来ない心臓だったのです。
アントンとの二度の遠泳勝負での勝利でにより、ヴィンセントは心臓の障害を克服したのだ、そう解釈する人も多いようです。
けれど常識で考えてください。
生まれつきの重い心臓の障害が、特に外科的手術を受けたわけでもないのに、本人の努力によって克服される、そんなことがあり得るでしょうか。
はっきりと「ない」、そう答えて構わないと思います。
ヴィンセントは宇宙に行くことが叶わぬ身体であった、ということはこの作品の大前提なのです。
その大前提を無視していては作品の持つ真のテーマが伝わることは決してないのです。