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(GL小説)風のゆくえには~光彩5-2

2015年04月03日 10時07分50秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 あかね先生に頼まれて、7月末の舞台だけという約束で、演劇部に一時入部することになった。

 バク転できる子を飛び道具的に出したいらしい。こんな中途半端な時期の、しかも2年生からの入部だというのに、他の部員の人達は大歓迎してくれた。
 ダンス教室との両立も考えて、私はセリフもなしで、練習も毎回は出なくていいことになっている。でも、演劇部の練習は見ているだけでも面白いから見に行くようにしていたら、同じクラスの瑞穂に「この舞台が終わっても残ってー」と勧誘された。それについてはまだ考え中。

 あかね先生が何か言ってくれたのか、鈴子が私に話しかけてくることが激減した。おかげで鈴子に対するイジワルな気持ちは出ないようになった。演劇部の練習やダンス教室や定期テストで忙しかったからっていうのもあるけど。

 ママも演劇部の練習を見に来るようになった。あかね先生に頼まれて、衣装の指導員をすることになったからだ。
 ママとこんなにたくさん一緒に過ごすのは、アメリカにいた時以来だ。ちょっと嬉しい。私ってママのこと好きだったんだなって今さら気がついた。ママがおじいちゃんにつきっきりになっても、おばあちゃんがいるから大丈夫って思ってたけど、本当は少し寂しかったのかもしれない。


(ママとあかね先生って気が合うんじゃないかな?)
って、思いはじめたのは、いつのころからだったか……。

 何というか、以心伝心、ってやつ。1言えば10言わなくても理解できてる、みたいな。
 あかね先生が振り返って「佐藤さん」って言うだけで、ママは何を言われるか分かってる。その逆もよく見かけた。

 一度、みんなは体育館で練習してて、あかね先生とママが部室にいるのを呼びに行ったことがあるんだけど、その時も部室の外まで、ママのいまだかつて聞いたことのない楽しそうな笑い声が聞こえてきて驚いた。あかね先生もいつも私たちに話すときよりも、少し子供っぽいはしゃいだような声を出してて……。考えてみたら二人は2歳差の同年代。お友達になってもいいわけだ。まだ、お互い敬語を使い合ってるけど、もっと仲良くなったらお友達みたいに話せるようになるかもしれない。

「みんなのアイドルあかね先生と、ママが友達になったら、ものすごく自慢になるんだけどなー」

 帰り道にそういうと、ママはビックリした顔をしてから、ブンブンと勢いよく手を振った。

「一保護者と担任の先生が個人的に親しくなったら、学校や他の保護者の方がよく思わないでしょう」
「別に大丈夫じゃないー? っていうか、もうすでに結構仲良しだよね? 先生とママ」
「………そんなことないわ」

 かたくなに否定するママ。この話をしてから、先生とママの間に少し距離ができてしまった。意識させちゃったかな…。でも、以心伝心はあいかわらずだけど。

 本格的に衣装や大道具小道具作りがはじまり、有志の保護者の人達も来るようになった。ママは日本にきてからいわゆる「ママ友」が全然いなかったので、久しぶりのママ友の集いで少し疲れているみたい。でも「楽しい」って言ってる。私も瑞穂や他の部員とも仲良くなれて、練習に行くのが楽しみだ。


「お母さん、最近キレイになったよな」
 お兄ちゃんが冷やかすみたいに言うと、ママが「何か欲しいものでもあるの?」と言って苦笑した。

 確かに最近のママはキラキラしている。オシャレにも気を使うようになってきた。まるで恋でもしているかのよう。

 パパもそう思っているらしく、私にコッソリと「部活に出てくる保護者の中に男はいるのか?」とか聞いてきた。自分は浮気して他に家庭まで持っているくせに、奥さんの浮気は気になるらしい。

 裁縫の内職の仕事もはじめて、毎日生き生きとしているママ。そんなママを見ていると嬉しい反面、寂しさも感じてしまう。ママがまた遠くに行ってしまう気がして……。


***


 そんな中で、事件が起こった。

 夏休みに入ってすぐ、演劇部は強化合宿をすることになった。ママは泊まりはしなかったけれど、食事の用意をしにきてくれていた。

「美咲ちゃんのママ、お料理も上手なんだね!」
 みんなから口々に褒められて、ちょっといい気分だった。

 最終日の昼食は裏庭で食べることになった。みんなで机を外に出したりバタバタしている中、ママは校舎下の隅っこのほうで、お鍋をグルグルかき回していた。なんかママ、やっぱり楽しそうだな~って思いながら少し離れたところからその様子を見ていたら、

「佐藤さん!」
 あかね先生が慌てた感じに校舎から出てきてママを呼び、ママの元に駆け寄っていこうとしているのが目に入った。

 と、その時……

「………ッ」

 息を飲んだ。ママの上、何か……何? 植木鉢? 何? 落ちて……

「綾さん!」
「!!」

 ママが倒れたのと、あかね先生がママの元にたどり着いたのは同時くらいだった。
 部員たちが悲鳴をあげる。

「!」
 植木鉢が落ちてきた窓辺に……人影?
 誰か……わざと落としたの?

 ううん。そんなことよりママが!!
 ママを抱きかかえたあかね先生のシャツに血がにじんできている。
 ママ……血が……。

「誰か、職員室の電話で救急車呼んで! あと、きれいなタオル! 早く!」
「は、はいっ」

 あかね先生が真っ青になりながらも、みんなに指示を出す。
 みんなが各方向に散っていく中、私はその場に立ちすくんで動けなかった。

「綾さん、綾さん、大丈夫?」
「…………」

 あかね先生が泣きそうになりながらママに声をかけている。
 ママは薄い笑顔を浮かべて、あかね先生に向かって手を伸ばした。

「あかね……大袈裟」
「だって、綾さん、こんなに血が……」
「大丈夫。頭のけがはたくさん血が出るのよ……」
「だって……」

 左腕でママの頭を抱き、右手でママの手をぎゅっと握っているあかね先生。
 まるで、ロミオとジュリエットのラストシーンみたい、なんてぼんやりと思った。あれは最後二人とも死んじゃうんじゃなかったっけ……。

 ママは目だけを動かして、割れている植木鉢に目を止めた。

「あれが……落ちてきて、当たったってこと?」
「うん……植木鉢……」
「そう……当たったのが私で良かった。子供たちだったら大変……」
「綾さん……?」

 すうっと眠るみたいに、ママの目が閉じられた。

「綾さん! 綾さん!」
 あかね先生が悲鳴をあげる。この世の終わりかというくらいの悲痛な叫び……。

 こんな時なのに「あかね先生っていつの間にママのこと綾さんって呼ぶようになったんだな……」とかそんなのんきなことが頭の中を駆け巡っていた。



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綾さん大変。大怪我……。
あかね、綾さんの血のついたシャツ捨てられなさそー。
綾さんにサクッと処分してもらわないと。

美咲と鈴子の本当の和解はまだ先になりますが……とりあえず、夏休みが冷却期間になるかな。

そんなこんなで、次回に続く。次回もまだ美咲視点。
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