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(GL小説)風のゆくえには~光彩6-3

2015年04月17日 16時23分52秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 私の母は、18歳で私を産んだ。当時大学生だった父は、大学を中退して就職した。
 まだ遊びたい盛りの母にとって、私の存在は重荷でしかなく、今で言うネグレスト状態だったらしい。でも、子供好きだった父は私のことをとてもかわいがってくれたため、それでなんとか私はまともに育っていたそうだ。
 でも、6歳の時に父は交通事故で亡くなり、私と母は母の実家に身を寄せることになった。祖父はすでに亡くなっており、母はほとんど家に寄り付かなかったので、私は祖母一人に育てられたようなものだった。

 私は出来の良い小学生だった。背も高く美人で、頭もよくて、スポーツ万能で、常に学級委員を任されている、祖母の自慢の孫だった。祖母の愛情は、高校を中退して子供を産んだ娘よりも、従順な孫の方に注がれた。祖母は母と顔を合わせると「あかねはこんなに良い子なのに、あんたときたら……」と必ず文句を言っていた。
 母の私への憎悪は、夫に引き続き、母親の愛情も取られたところからもきていたのだろう。母だって当時、まだ20代の小娘でしかなかったのだから。

 そんな祖母も、私が6年生の時に病気で亡くなった。亡くなってすぐに、母が再婚することになった。
 再婚相手の木村さんは、お金持ちで優しくて、とても良い人だった。3歳年上の兄も、大人しいけれど感じの良い人だった。

 と、思ったのも、最初の半年だけだった。

 義父と義兄の視線が、家族に対するものではない、と気が付いたのは何のタイミングだったか……。
 私を嫌っていた母は、兄を猫可愛がりして自分に手なずけようとしていたけれど、兄の好意は歪んだ形で私に向けられていた。

 今までは、私に関わりを持とうとしなかった母だったけれど、再婚して専業主婦になった途端、今までの分を取り戻すかのように、色々と干渉してきた。それで、義父と義兄が異性としての私に関心を持っていることにも早々に気が付いてしまった。

「あんたが色目を使うから」
と、何かあるごとに怒鳴られ、なじられ、折檻されることもあった。「死ねばいい」とまで言われた時にはさすがにこたえた。

 義父に根回しをして、東京の大学に行かせてもらえることになった時には、心底ホッとした。これ以上、母を憎みたくなかった。

 一人暮らしは本当に自由だった。大学1年の時には運命の人である綾さんに出会えた。2年になってからは、生涯の友となる浩介にも出会えた。
 このまま母たちのことは忘れて、東京で暮らしていける……と思ったのも束の間、4年生になってから、大事な話があると長野の実家に呼び出され、告げられた。

「離婚することになった」

 と……。義父はそのまま木村の籍に残ればいい、と言ってくれたし、私自身も今さら名字を変えるのも面倒だったので木村の名前で分籍しようかと思ったのだけれども、母が大反対した。

「私を一人ぼっちにするつもり!?」

 正直、驚いた。あれだけ私のことを嫌っていたくせに、私を娘として籍にいれたい、なんて……。
 不思議と……嬉しい、という気持ちが湧き上がってきた。なんだかんだいっても、私も母の愛情を欲していたんだろうか……。

 人の良い木村の父は、今住んでいるマンションを私の名義に書き換えてくれた。ここで綾さんを待ちたかった私にとってこれほど嬉しいプレゼントはなかった。何かあったら連絡しなさい、と言ってくれたけれど、数年後に木村の父は再再婚したので、今ではまったく連絡をとっていない。

 義兄とは、私が上京した時以来会っていない。上京前夜、義兄が無理やりに私と関係を持とうとした際、私が拒否反応のあまり嘔吐してしまったことが相当ショックだったようだ。やはり私は男性はどうしても受け入れられない、と再認識させられた。義兄の女性に対するトラウマになってしまったかもしれないけど、知ったことではない。

 母とは和解した……と言いたいところだけれども、やはりそりは合わなくて、顔を合わせると嫌味を言われるし喧嘩にもなるので、極力会わないようにしている。唯一のつながりは、毎月の仕送りだけだ。
 それでも、あの時、一之瀬の籍に入るように言った母の言葉だけは、温かいものとして心の中に残っている。


***


 綾さんが働きはじめてから一か月が過ぎた。無事に試用期間が終了し、本採用が決定したそうで、今日は正社員としての歓迎会だと言っていた。
 夜10時を過ぎてから、「今から帰る」とのメールがあったため、車で最寄り駅まで迎えに行ったのだが……

「綾さん、笑いすぎ」
「だって………」

 助手席で綾さんはずっと肩を震わせている。
 そういえば、綾さんは酔うと笑い上戸になって、テンションも高くなるんだった。再会してから、酔っぱらうまで飲んだことがなかったので、約20年ぶりに笑い上戸の綾さんを見た。

「あかね、ものすごい目で睨んでるんだもの」
「そりゃあさあ……」
「ジェームズさんのあの引きつった顔……」

 くすくすくすくす……と、綾さん楽しそうだ。

 別に楽しいことがあったわけではない。
 迎えにいったら、綾さんが長身の白人男性と楽しそうに話をしていて、その距離があまりにも近かったので、思いきりクラクションを鳴らして車から睨みつけてやっただけだ。

「ジェームズさん、あかねに会いたいって言って待ってたのに、怯えて帰っちゃったし……」
「私に会いたい?」
「ルームメイトが迎えにきてくれるって言ったら、是非会ってみたいって」
「ふーん」

 ルームメイト、だって。ふーん。ルームメイト……

「休み明け、ジェームズさんが何ていうか楽しみだわ」
「……仲良いんだね」

 思わず不機嫌に言うと、綾さんはキョトンとした顔でこちらを見てから、またクスクスと笑いだした。

「あかねが嫉妬してる」
「そりゃするでしょ」
「いい気味だわ」
「………なにそれ」

 綾さんはクスクス笑いながら、今度は鼻歌を歌いだした。窓を流れる夜の光が綾さんを映し出す。
 車に乗った途端、綾さんが「海に行きたい」と言い出したので、お台場に向かっているところなのだ。そういえば、二人で夜の海に行くのは初めてのことだ。

 この一か月で、私たちの生活スタイルは激変した。同居をはじめて2週間は綾さんがほとんどの家事をしてくれていたけれど、きちんと分担するようにしたのだ。
 朝、綾さんが朝食とお弁当の用意をする間に、私は洗濯。夜は、私の方が遅いことが多いので、綾さんが先に帰って夕食の用意をしてくれているけれど、私が早く帰れたり、綾さんが遅かったりしたときは、私が作ったり、待ち合わせをして一緒に買い物をしたり、時には外食をしたり……。

 綾さんは、あの、寂しそうな笑顔をすることがほとんどなくなった。毎日生き生きとしている。その様子にホッとしている反面、今にも飛び立ってしまうのではないかという不安にもかられてしまう。

「綾を外にだすな」
と言った、綾さんの旦那さんの気持ちが少し分かる。閉じ込めたくなる。せめて、自分のところに戻ってきてくれる、という保障が欲しくなる。

 働きに出る前、「離れたくない。一緒にいたい」と言ってくれた綾さん。それだけで十分なはずなのに、心が騒いでしょうがない。でも、その不安を口にすることもできない。
 一緒に暮らす前の方が、まだ余裕があった。手に入った今の方が、どうしてこんなにつらいんだろう。嫉妬と不安で身動きがとれない。
 これままで散々、束縛するのもされるのも嫌がっていたくせに、最近、自分の感情をコントロールできなくなっている。


 駐車場に車を停め、少し歩いた先に砂浜が見えてきた途端、綾さんが目を輝かせた。

「わーーーうみーーーー」
「綾さん」
「うみーーーーうみーーーー」
「綾さん、テンション高すぎだって」
「だって! 海よ!」

 はしゃぎながら綾さんが海に向かって走り出す。
 予想通り、夜の浜辺には男女のカップルが点在しているけれども、各々自分たちのことに夢中でこちらに気を向ける様子もない。海に夜景の光が照らされ、とてもきれいだ。

「あかね!」
「はい」
「あかねあかねあかね!」
「はいはい」

 酔っ払いには逆らえない。呼ばれて波打ち際に行くと、突然、ギューッと抱きつかれた。

「あ、綾さん?」
 心臓が飛び出るかと思った。こんな人前で? い、いいの?

「あかね! ありがとうね!」
「………な、何が?」

 綾さんが私の腰に手を回したまま、こちらを見上げている。めちゃめちゃ可愛い……。
 綾さんは弾んだ口調のまま言葉を続けた。

「あかねのおかげで仕事に就けた。私、社会人になるの。働くの。お給料もらえるの。厚生年金入るの!」
「こ………」

 こ、厚生年金?

「やっと一人前。一人前よ。これで……これなら……」

 綾さんは何かを言いかけたけれども、ハッとしたように言葉を止めた。

「綾さん?」
「とーにーかーく」

 誤魔化すように、綾さんはこちらに手を伸ばし、ぱんっと私の頬を囲んだ。

「ありがと。あかね」
「…………え」

 ぐっと頭を引き寄せられる。次の瞬間、綾さんの柔らかい唇が重なっていた。

(……綾さん?)

 こんな屋外で、人前で、ありえない。ありえない。……嬉しすぎる。

「綾さん……」
「あーーー酔いが冷めてきたーーー」

 綾さんはわーっと言うと、方向転換して駐車場の方に向かって歩き出した。後ろからついていくと、

「あかね」
 振り返り、手を差し出してくれた。その手をつかむ。夜風で少し冷たくなった手……。

「家帰って飲みなおそ?」
「綾さん……」

 繋いだ手をぐいぐい引っ張られ、砂浜を歩く。まるで別人の綾さん。たまにはこんな綾さんもいい。いや、たまにはとはいわず、しょっちゅう会いたい。

「あーやーさん」
 嬉しすぎて、繋いだ手を抱え込み、細い指に口づけると、

「歩きにくい! 邪魔!」
 冷たい返事が返ってきた。嬉しすぎる。

「何飲む? うちワインしかないよ? 買って帰る? 何飲みたい?」
「かわいい色のカクテルを飲みたい気分!」
「いいねえ。こないだテレビで紹介してた新製品飲んでみようよ」

 ああ、楽しすぎる。
 心踊らせながら車に乗り込んだ直後だった。

「あかね、携帯鳴ってる」
「こんな時間に………」

 着信画面を見て、固まってしまった。……母からだ。

「出ないの?」
「……………」
「こんな時間にかけてくるってことは、何かあったんじゃない? 出た方がいいんじゃないの?」
「…………うん」

 深呼吸をしてから、通話ボタンを押す。

「………はい」
『さっさと出なさいよ。何してたのよ』

 せっかくの楽しい気持ちを一瞬にして吹き飛ばす破壊力。
 約10か月ぶりに聞く母の声は、記憶していた通りトゲトゲしく攻撃的なものだった。


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今回書きやすかった。
前回、前々回、その前とその前、の4回、なんかすごい進みが遅くて、ちょっとイラッとしてたんだけど、
あれだね。病室の中、とか、部屋の中、とか、動かないから書きにくかったのかな。
あーホントに、ドラえもんの道具が欲しい。頭の中ではちゃんと話できてるから、それを映し出す道具が欲しい。

で。あかね母登場しちゃった。あー着々と終わりが近づいてきてる……。寂しいなー。

コメント
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