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(GL小説)風のゆくえには~光彩6-1

2015年04月13日 13時07分03秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 9月。新学期がはじまって5日目。

「せーんせ?」

 英語科準備室のデスクでボーっとしていたら、美咲にトントントンっと肩をたたかれた。

「なんでそんな浮かない顔してんの? 大丈夫?」
「浮かない顔なんてしてないよ~」

 言いながら笑顔を作ろうとしたが、引きつったことが自分でも分かった。

 綾さんと一緒に暮らしはじめて明日でちょうど2週間になる。

 綾さんが大けがをして入院することになったあの日、綾さんは離婚の道へ向かうことになった。
 離婚、という結論に至ったのはいいのだけれど、そんなに簡単に離婚というのはできるものではなく……。

 子供たちの親権や財産分与、といった大きな話から、保険の受取人の名義変更、携帯の契約変更、といった細かい話、その他諸々決めることがたくさんあり……
 その上、2月に亡くなったおじいさんの新盆の取り仕切りを綾さんがしていたため、8月の新盆が終わって落ちつくまでは引っ越しもできなかった。

 そして、8月23日(私の誕生日当日にしたのは、美咲の提案)に、ようやく綾さんがうちに引っ越してきてくれた。まだ離婚は成立していないけれども、夏休み中に母親がいない状態に少し慣らしてから新学期を迎えたほうがいいだろう、という配慮もあった。

 待ちに待った同棲生活。どんなに嬉しい日々が続くのだろう……と思っていたのだけれど……。

「ママと喧嘩でもした?」
「してないしてない」

 大きく手を振って否定してから、ふと不安になり、教え子にこんなこと聞くのもなあと思いつつも、誘惑に負けて聞いてしまった。

「……お母さん、何か言ってた?」
「ううん」

 今度は美咲が大きく手を振った。

「昨日、明日のダンスのステージ衣装のことで電話があったけど、何も言ってなかったよ」
「そう……」
「で、新生活はどう?って聞いたら、『普通』って言ってた」
「…………」

 普通……。ど、どういう意味なんだろう……。
 色々な思いがグルグルと駆け巡りそうになるのを、無理やりストップさせる。ここは学校。勤務時間中!

「そんなことより、美咲さん」
 先生の仮面をかぶり、美咲を見上げる。

「呼び出してごめんね。ちょっと気になることがあって」
「ママのことじゃなくて?」
「うん。菜々美さんとさくらさんのこと」

 途端に美咲の顔がこわばった。

「ちょっと、ギクシャクしてる感じじゃない?」
「えーーー、やだなあ先生」

 すぐに笑顔に戻った美咲。たいしたもんだ。

「女の子にありがちなやつだよ。私、演劇部の子たちと仲良くなっちゃったからさ。それでちょっとね」
「…………」
「大丈夫大丈夫。自分で何とかするから気にしないで」

 この明るさ、どこまで本心なのか……。

「さすが、あかね先生。普通の先生は気がつかないよ? 生徒の交遊関係まで見張ってるの?」
「一応、担任だからね。休み時間とか、まあ……ね」

 休み時間に目を光らせていると色々なことが見えてくる。美咲は今微妙な立場にいるのだ。

「本当に大丈夫? 困ったことがあったらちゃんと相談してよ?」
「はーい」

 こちらの心配をよそに美咲は少し肩をすくめると、そんなことより、とビシッと指をさしてきた。

「私のことより、先生はママを幸せにしてあげてよ?」
「…………」

 美咲は自分のことを『美咲』といわなくなった。大人になろうとしている現れなのか……。母親不在による精神的負担はどれだけのものだろう。それを与えてしまったのは私。
 再び教師の仮面を取り、美咲を見上げる。

「ねえ、美咲さん。やっぱり一緒に住むことは考えられない? 今のマンションが狭くて嫌なら引っ越しするよ?」
「またその話?」

 ふっと美咲が笑った。こういう表情、綾さんと似ている。

「せっかくの新婚生活、お邪魔虫になりたくないよーだ」
「そんな……」
「それにおばあちゃんを一人にしたくないし。お兄ちゃんも結局まだうちにいるしね」
「でも」
「あ、先生」

 話を打ち切りたいように、美咲がポンと手を打った。

「パパはまだママに未練タラタラだから気を付けてね?」
「え?!」

 あの男、納得したんじゃなかったの?!

「パパねえ、ママがいなくなって、ママのありがたみを思い知らされたみたい。普段の生活もだけど、法事関係とかお中元のお返しとか? あの若い愛人がママみたいにできるわけないもんね。あの調子じゃ再婚もしなさそう」
「…………」
「おばあちゃんも、せめておじいちゃんの一周忌までは離婚待ってくれないかなーなんて言ってた」

 そんなこと言われても手放すつもりは、ない。さっさと離婚してほしい。

「でも大丈夫! 私は二人の味方だからね」
 美咲がニッコリと言う。美咲……このままで本当にいいのだろうか? 自立を強要してしまっている。
 でも、これ以上綾さんをあのうちに縛りつけることは、どうしても我慢できない。

「美咲さん、何かあってもなくてもお母さんと連絡取りたいときはちゃんと電話とかしてね? うちにも遊びにおいで?」
「はいはい」

 美咲は子供をなだめるように言うと、

「ホントに私のことはいいから。先生とママは幸せに暮らすんだよ?」
「…………」

 あの日、「どちらかが幸せになるのなら、ウソが少ない方が絶対にいい」という美咲の言葉に背中を押され、奪う決心をした。
 「幸せになりなよ」と綾さんに言ってくれた美咲の思いが有り難かった。
 でも、今、綾さんは幸せに…………暮らせているのだろうか?


***


 これから帰宅することをメールすると「気をつけて帰ってきてね」と返事がきた。ホッとするのと同時に息が苦しくなってくる。地に足がついていないようなフワフワとした感覚のまま帰路につき……マンションが見える公園に差しかかるところで、大きく深呼吸をした。

(電気………ついてる)

 部屋の明かりを確認して安堵する。大丈夫。綾さん、いてくれてる。
 階段をのぼりながらも、口から心臓が飛び出してくるんじゃないかというくらい、大きく心臓が跳ね上がっている。震える手で鍵をあけ、ドアを開ける。

「おかえりなさい」
 明るい室内。エプロン姿の綾さんが、キッチンから顔をだした。おいしそうな匂い。
 あまりにも幸せな光景過ぎて、どう感じていいのか分からず、途方に暮れて立ちすくんでしまう。

「どうかした?」
「…………」

 不思議そうな顔をして玄関まできてくれた綾さん。たまらず強く抱きしめる。
 本当にいた。いてくれた。今日もちゃんといてくれた。
 ……大丈夫。綾さんはここにいる。

「……綾さん。会いたかった」
「変な子ね。今朝会ったばかりじゃないの」

 ご飯つぐわよ? と言いながら、綾さんが腕から抜け出てしまう。空を切った手を握りしめ、その後ろ姿をみつめる。

(綾さん……今……幸せ?)

 怖くて、きけない……。




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このあと、そのまま話は続くけれど、あまりにも長いので、ここで切ります。

私まだガラケー使ってるんですけど、ガラケーから編集しようとすると、半角5000字までしか入らないんですよ。
で、こないだせっかく書いた日付の一覧表消されてしまって(半角5000字を超えてたこと忘れて更新しちゃったから)、もう二度と携帯では編集しない!と心に決めたところです。

その時消しちゃった日付の一部↓

1972年6月21日 綾さん誕生日。ふたご座・A型
1974年8月23日 あかね誕生日。獅子座・O型

8月23日生まれをおとめ座としているところもありますが、調べてみたところ、1974年は21時29分以降生まれがおとめ座なので、あかねは明け方生まれなため獅子座です。

今、作中は2014年9月です。
6月14日が運動会、7月21~23日が合宿、でした。

続きは明日。
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