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(BL小説)風のゆくえには~26回目のバレンタイン3/3

2016年08月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】


 ふと目が覚めて、大好きな温かい腕の中にいることに気がついて、心底ホッとする。
 腕枕してくれている手にそっと触れると、条件反射のように後ろからぎゅっと抱きしめられた。

(ああ……幸せだ)

 ほとんど毎朝のことなのに、毎回そう思う。この腕が、耳元で聞こえる息づかいが、いとおしくてたまらない。

(昨日の夜、一人だったから余計に……)

 余計にいとおしい……
 抱きしめてくれている腕を擦りながらそう思い………

「あ」

 はたと思い出した。一人だった理由。
 そうだ。昨晩は、高校の同級生の溝部と山崎が遊びにきたため、仕事をしているおれを置いて、浩介はこの2人と飲んだくれていたんだ。

 そして、12時過ぎ、山崎が合コン相手である戸田先生に呼び出されたので、おれが車で送っていったのだけれども………

(山崎、大丈夫だったかな)

 山崎が異常に緊張していたので、「何かあったら連絡しろ」と言ったんだけど……。枕元に置いておいた携帯を確認したが、連絡は入っていない。大丈夫だったんだな……

「…………」

 携帯を戻し、体を反転させ、包んでくれている浩介の方を向く。

 夜中、山崎を送って戻ってきたら、浩介と溝部はリビングのラグの上で寝てしまっていたので、二人に毛布をかけて、自分は風呂に入って、一人ベッドに入ったんだった。

(……浩介)

 くんくん匂いをかぐ。同じ石鹸の匂い……。ちゃんとパジャマも着てる。浩介、途中で起きて風呂に入ったようだ。

『溝部が帰ったらたくさんしような? 大好きだよ』

 おれが山崎を車で送るのをとめようとした浩介を説得するために、わざと普段は言わない甘い言葉を言ってみたけれど、実はちょっと……いや、かなり本気ではあった。

 何しろ今日はバレンタイン。付き合い始めてから25回目、おれが浩介のことを好きになってからは26回目のバレンタイン。

(26回目にして初めてチョコ買ったし……)

 渡した時の浩介の顔を思い浮かべて、わくわくしてきてしまう。

(とりあえず、溝部に朝飯食わせて帰らせて………)

と、脳内で今日の計画を立てていたところ、

「…………あ」
 着信を知らせるために携帯が震えだした。メールだ。

 相手は山崎。件名『ごめん』

『ごめん。お言葉に甘えて迎えにきてもらってもいい? 今、○駅前のコンビニにいるんだけど』

「………………」

 もう6時半を過ぎているので、当然、電車は動いている。それなのに、あの気遣いの山崎が「迎えにきて」なんて、大丈夫じゃない何かがあったんだ……

「……イチャイチャはお預けだな」

 温かい腕を抜け出し、よく眠っている愛しい瞳に唇を落としてから、静かに部屋を出た。


**


【浩介視点】


 人の声で目を覚まし、慌てて着替えてリビングに出ていったら、なぜか山崎がラグの上で毛布をかぶって寝ていた……

「山崎、戸田先生のうちに行ったんじゃ……」
「渋谷が迎えにいったんだとよ」

 むっとしたまま、溝部が言う。

「なあ、だからどうだったんだよー?」
「……ほっといてくれ」

 毛布の中からボソボソと山崎の声が聞こえてきた。ほっといてくれって……

(うまくいかなかったんだ……)

 しつこく聞こうとしている溝部をたしなめて、ダイニングの椅子につれていく。

「まあ10年ぶりじゃあなあ……」

 溝部はまだブツブツ言い続けている。山崎は、前の彼女と別れてから10年経つそうで、そのまま10年ご無沙汰だったそうで………

(おれ、3年ぶりでも緊張したもんなあ……)

 昔のことに思いを馳せる。
 おれと慶は、おれのせいで、3年間離れて暮らした時期がある。

 途中一度だけ、慶が会いにきてくれて会ったけれど、その時はお互いを愛し合っただけで、最後まではしなくて……。再会してすぐも同じで………というのは、妙に緊張してしまって、なかなか最後まで踏み切れなかったというか……

(3年であれじゃ、10年……しかも初めての相手……)

 …………無理だな。

(まあ、おれにはありえない話だけど……)

 おれには慶しかいないし、もう二度と離れることはない。

(慶………大好きな慶)

 今日は25回目のバレンタイン。
 バレンタインは恋人同士が愛を確認し合う日。確認し合う………

「…………。で、溝部はいつになったら帰るの?」
「帰んねー絶対帰んねー」

 溝部、ダイニングテーブルにしがみついている。

「バレンタインに一人でウロウロしてるの見られたらカッコ悪いだろー」
「うわ、なにそれ……」

 意味が分からない………
 呆れていたら、毛布の中からまたボソボソとした声が聞こえてきた。

「……ごめん、ちょっとしたら帰るから」
「あー……いいよ……」

 溝部はともかく、山崎は追い出しにくい……。なんで慶、山崎のこと連れてきたんだ……。

「とにかく飯にしようぜー? 腹へった」

 おれの心の声なんか知らない慶がケロリと言って、キッチンに向かいながら溝部に声をかけた。

「溝部、テレビつけていいぞ?」
「おー」

 溝部がソファに移動し、くつろぎモードでテレビをつけ、新聞を読みはじめた。

 なんだかなあ、と思いながらおれもキッチンに入る。と、

「……っ」

 入るなり、慶に胸ぐらを捕まれ、噛みつくみたいに唇を重ねられた。溝部に気付かれないよう音を立てないように気をつけながら、貪るような激しいキス……

「………慶」

 唇が離れてから、コツンとおでこをくっつける。大好き。大好きな慶……

「あーあ。せっかくバレンタインなのに」
「まあ、そう言うな」

 ちょっと笑いながら、頬をぐりぐり撫でてくれる。

「夜まで待て」
「え!? 夜!?」
「あいつ夜まで帰らないだろ」
「………………」

 ムーっとしていると、またチュッと唇を重ねてくれた。

「まあ、こんなバレンタインも珍しくていいんじゃないか?」
「嬉しくなーい」
「まあまあ」

 慶は楽しそうに言うと、今度は頬にチュッとキスしてくれ、

「夜、楽しみにしてろ」
「え」

 ニッとした慶……

 え、楽しみ……楽しみ!?

 うわわわわ……ど、どうしよう。楽しみ過ぎて………鼻血ふきそう。


**


 結局、本当に、溝部と山崎は夕食まで食べてから帰っていった……

 夕食は鍋にした。慶にはこっそり「ケーキの分のお腹残しておいてね」と伝えたので、腹八分目でやめてくれた。昔ほどではないけれど、慶はやっぱりよく食べるのだ。

「山崎と戸田先生、どうなっちゃうんだろうね……」
「さあなあ……、お、うまい!!」

 ケーキを一口食べ、慶が嬉しそうに叫んでくれた。小さくて上品なケーキ。筒型で周りにチョコレートがコーティングされていて、中はブルーベリークリームの挟まった甘すぎないスポンジ。甘さと酸っぱさの絶妙なバランス。

「良かった。好き?」
「うん。すっげえ好き」
「…………」

 好き。ケーキの話だと分かっていても、きゅっと胸が締めつけられる。

「ありがとな」
「うん」

(ああ、幸せ……)

 こんなに幸せ。慶の嬉しそうな顔。これ以上幸せなことなんてない。25回目のバレンタイン。今までの色々なことが思い出されて、意識が遠のきそうになったところで、

「山崎なあ……、ありゃ、できたとかできないとか、そんな単純な話じゃなさそうだぞ」
「え」

 おもむろに言われ、我に返る。

「どういう意味?」
「おれもよくわかんねえけどさ……まあ、人の恋路に口出しするのは野暮ってもんだ。放っとこうぜ」
「………そうだね」

 でも、うまくいってほしいなあと思ってしまうのは人情というもので。
 うーん、と言いながら食べていたら、あっという間に終わってしまった。高いケーキは美味しいけど小さい………

「ちょっと物足りなかった? もう1つ違うのも買えばよかったかな……」
「いや、ちょうど良かった。サンキューな。スゲー旨かった」

 ケーキを食べ終わった慶が、すっと立ち上がり、おれの額にキスしてくれた。

「ん」

 ああ、幸せ。
 そのまま、キスの続きをしてくれるかと思いきや、

「ちょっと待ってろ」

 慶はふいっと、洋室に入っていき、仕事用のカバンを開いて何かしはじめた。

「………?」
 なんだろう? とりあえず、紅茶のお代わりを入れようかな……それともコーヒーにしようかな……と、立ち上がりかけたところで、

「はい」
「え」

 いきなり何かを突きつけられ、再び腰を下ろす。目の前に小さな箱。

(ああ、チョコか)

 すぐに思い付く。昨年も慶は子供たちからもらったチョコをいくつか持って帰ってきてくれたのだ。慶がもらったチョコをおれが食べるのもなんなんだけれども、賞味期限の関係でどうしてもそうなることが……

「チョコ、やっぱりもらえたんだ? 子供たちたくさん来てたでしょ?」
「あー……来てたけど……」
「?」

 手を取られ、その上に箱をのせられた。そして、手を包み込むようにぎゅっと握られる。

「……慶?」
「これは貰い物じゃなくて……」
「え」

 慶……顔が赤い。……え? 顔、赤い……よ?

「これは、おれから。昨日新宿のデパ地下で買った」
「……………え」
「美味しいぞ? 試食したから間違いない」
「………………」

 慶の声が頭の上の方を通り過ぎていく。

(おれから……? 試食したから間違いない……?)

「……慶?」
「浩介」

 再び額にキスがおりてくる。

「受け取ってくれるか?」
「……え」
「おれの、チョコ」

 うそ………
 慶……慶が、おれに……? 

 慶が照れたように言う。

「26回目にして初めて買った」
「……え」

 26……?

「25……だよ、慶……」

 朦朧としながら答えると、慶はくしゃくしゃとおれの頭を撫でてくれた。

「ばーか。そりゃ、付き合ってから、だろ」
「え」
「おれは付き合う一年以上前からお前に片想いしてんだよ。忘れたのか?」
「………………」

 慶……慶。

 そうだった。慶はこんなおれのことずっと好きでいてくれて……それで。それで……

 苦しい。愛し過ぎて、気持ちが溢れて………苦しい。

「で? 受け取ってくれるのか?」
「…………もちろん」

 慶の優しい言葉に何とかうなずき、震える手で箱を開ける。

「わあ……」

 綺麗なチョコレート……。それぞれ形の違う、黒い宝石みたいなチョコ。

「半分こ、しようぜ?」
「うん」

 1つ、丸い粒を取り、慶の口元に寄せる。白い歯が半分に噛むと、

「浩介」
 そっと唇を重ねられ、同時に甘い粒が口の中に転がりこんできた。

「旨いだろ?」
「ん」

 甘い。蕩けるほと甘い。

「慶」
 立ち上がり、手に持っていた残りの半分を慶の口の中に入れて唇を辿ってから、ぎゅっと抱きしめる。

「慶……ありがと。慶からもらえるなんて夢みたい」
「んー、ごめんなー、おれ今までもらうばっかで、渡すこと思いつかなくて」
「そんなの……」

 ぶんぶん首を振る。

「この1回で、26回分もらった気分だよ」 
「そうか?」

 慶がニッとした。

「じゃ、次も26年後でいいか」
「……………」

 むーっと口を尖らすと、慶が笑いながらキスしてくれた。

 幸せな幸せな、26回目のバレンタインだ。
 


------------

お読みくださりありがとうございました!

「たずさえて14-3」の後の話でございました。

安定のイチャイチャ。ついついダラダラと書いてしまいました。携帯だと文字数でないので際限なく書いちゃうんですね(^_^;
ちなみに、慶はまだかたくなにラインをやっていないため、メールなのでした。

さらにちなみに、付き合って1回目のバレンタインはこんな感じでした→将来4ー2
も~~初々しすぎてニヤニヤが止まらない~~って自分の書いた話読み返してニヤニヤしてる私、なんて安上がり。

さて。寄り道はこれくらいで。
山崎君と戸田先生の物語の続きをまた明後日(たぶん)から再開させていただきます。

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コメント (4)
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