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風のゆくえには~たずさえて21ー1(山崎視点)

2016年08月26日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2016年3月19日(土) 


「おー菜美子ちゃーん、イメチェン!? いいじゃーん」

 友人の結婚式の二次会の打ち合わせのため集まることになった溝部とオレと戸田さんと明日香さん。
 予約してあった個室に入るなり、溝部が先に来ていた戸田さんに声をかけた。

(…………戸田さん)

 くすぐったそうに笑っている戸田さん……。
 やっぱり戸田さんはこういう明るい男がタイプなんだ、と思い知らされる。

(峰先生と溝部ってノリが似てるもんな……)

 峰先生というのは、戸田さんが17年も片想いをしている幼馴染みのお兄さん。

『ヒロ兄……』
 ふいに、脳内に再生される声……
 オレに貫かれながら、その名を呼んでいた彼女の切ない喘ぎ声………ゾクッと背筋に震えが走ってしまう。いかんいかん……。

「遅くなって申し訳ありません……」
 何とか記憶を押し込め、頭を下げたところで、彼女と目が合ってしまい、あわててそらした。直視なんてできるわけがない。


『友達からはじめませんか?』

 先日のオレの告白に対し、彼女はそう答えてくれた。けれどもやはり無理そうだ。オレ自身、友達以上になる覚悟がまだできていないし、それに何より、彼女はオレみたいな地味な男は好みじゃない。

 でも、それでも。

 もし、誰かにヒロ兄の代わりを頼むのなら、オレに。誰かに助けを求めるのなら、オレに。オレの手を取ってほしい。


***


 打ち合わせは滞りなく終わり、溝部に「オレ、明日香ちゃん送ってくから、お前菜美子ちゃんな」と、強引に言い渡された。そうでなくても、送っていきたかったから、理由付けをくれた溝部には感謝だ。

 戸田さんの住むマンションの最寄り駅で一緒に降りたところ、

「送ってくださらなくても大丈夫ですよ? 電車なくなっちゃいませんか?」

 心配そうに言ってくれた戸田さんに、軽く首を振る。

「お宅までお送りしても充分余裕はあります。最終的には、23時33分の電車に乗れば、終電に間に合いますので」
「あ、そうなんですね……って」

 プッと吹き出され、え?と振り返ると、戸田さんはなぜか笑いをこらえながら、こちらを見上げていた。

「詳しいですね。さすが元鉄道研究部」
「あ……いや……」

 歩きだしながら、追加情報を一つ。

「ちなみに、休日ダイヤだと33分ですが、平日だと43分でも大丈夫なんです」
「へえ。平日の方が遅くまで電車あるんだ。知らなかった。あまり終電の時間って意識したことなくて。漠然と12時過ぎの電車でも帰れるってことは知ってるんですけど」
「そうですね。都内は遅くまで電車があっていいですよね」
「山崎さんの最寄りの駅は?」
「8年ほど前に地下鉄が通ったおかげでマシになったんですけど、JRだけの時は泣けるほど早くて大変でした」
「泣けるほどって」

 クスクス笑う戸田さんの声……心地いい。ずっと聴いていたい声……
 思わず独り言をつぶやいてしまう。

「今日が平日だったらなあ……10分多く一緒にいられるのに」
「……え?」

 立ち止まった戸田さん。

「あ」
 し、しまった。き、聞こえた?!

「あ、いや、その……」
「手」
「え?」

 わたわたと言い訳する前に、手を差し出され、きょとん、となってしまう。
 そんなオレに戸田さんはにっこりと、言った。

「手、繋ぎませんか?」
「え……」

 それは……

「あの……戸田……」
「はい」

 すっと絡めるように繋がってきた手。
 戸田さんの華奢な指。

(ああ………)

 なんて、なんて、いとおしい……
 きゅっきゅっきゅっと握りしめ、ゆっくりと歩きだす。愛しさで息が苦しいのに、胸の中は心地よく温かい………

 しばらく無言で歩いていたのだけれども、

「二次会の幹事、山崎さんが引き受けてくださって良かったです」
「え………」

 戸田さんがポツン、と言った。

「やっぱりお仕事でイベント仕切ってらっしゃる方は頼りになりますね」
「いや……そんなことは……」

 オレの職場の場合、新規の企画はほぼなく、ほとんどが毎年行われていて雛型が出来上がっているイベントばかりだ。でも、結婚式の二次会も雛型は決まっているから、何とかなりそうな気はしている。

 戸田さんは繋いでいる手をきゅっとしてくれながら、

「新婦の潤子は、私と明日香の中学からの友人なので、私達が幹事をやるのは当然で……」
「………」
「新郎の須賀さんは、溝部さんの会社の方なので、溝部さんがやるのはまあ普通かなと。でも、山崎さんは潤子にも須賀さんにも2回しかあったことないから、断られちゃうかなって明日香とも言ってたんです。よく引き受けてくださいましたね?」
「あーいや………」

 それは……

「溝部に丸めこまれまして……」
「丸めこまれたって、何言われたんですか」

 小さく笑う戸田さん……可愛い。
 思わず本当のことを言ってしまう。

「いや……戸田さんに会えるっていう餌にまんまと釣り上げられてしまって」
「え……」

 再び立ち止まった戸田さん。ビックリしたように目を見開いている。

 あ、まずい。まずいか。慌てて付け足す。

「いや、でも、須賀君達をお祝いしたい気持ちにウソはないです。はい。素敵な二次会にしましょう」
「……………」

 戸田さん、パチパチパチ、と瞬きをしてから…………ぷっと吹き出した。

「山崎さんってほんと面白い」
「……面白くないですよ」
「面白いです」

 再び歩き出しながらも、戸田さんはまだ笑っている。なんでだろう?

(オレなんか全然面白くない。溝部とか……峰先生みたいな人を面白いと言うんだ)

 勝手に落ち込んでいたら、もう、最後の曲がり角が来てしまった。ここを曲がって少し行ったら戸田さんのマンションだ。

「……………」
「どうしました?」

 小さいため息を聞かれてしまったらしい。戸田さんが首を傾げてこちらを見上げている。

「いや………駅から近いなあと……」
「そうですね。7、8分くらいかな」
「そうですか………」

 だからなんだ、という会話なのは重々分かっている。分かっているけれど……ああ、もうマンションの前に着いてしまう……

「あの、山崎さん?」
「はい………」

 どよんとしたまま返事をすると、戸田さんがまたクスクス笑いだした。だから何なんだ。

「何かおかしいですか?」
「ええ。とても」

 言いながら、急に繋いでいる手を離された。途端に体が冷気に包まれたような感覚に陥る。

(まだ繋いでいたかった……)

 でももうマンションの前だもんな。着いたんだからオレはもう用無しだ。……と、再びため息をついたところで、

「山崎さん」
 戸田さんがカバンの中から鍵を取り出し、こちらを振り返った。

「終電に間に合うためには23時33分の電車。駅までは8分。だから25分までは大丈夫、ですよね?」
「え、あ、はい……」

 今はまだ、22時55分だ。あと30分ある。

「どう、なさいます?」
「え………」

 ジッと透き通るような瞳でこちらを見上げてくれる戸田さん。あまりにも綺麗で息を飲んでしまう。

 先日のホワイトデーでは「上がってお茶でも」と言ってくれたのを丁重にお断りした。図々しいと思われることを危惧したからだ。でも、誘惑に負けてキスをしかけて……結局、出来なくて……

「もう、帰られますか? それとも上がっていかれますか?」
「あ……えと……」

 戸田さんの落ちついた心地よい声。まだ聞いていたい。少しでもいいから一緒にいたい。
 それは叶えてもらってもいい希望だろうか。
 
「あの、オレ……」
「はい」

 戸田さんを真っ直ぐ見つめ、素直に本音を吐きだす。

「もう少しだけ、戸田さんと一緒にいたいです」
「………」

 すると戸田さんはふっと笑って……、その笑みをイタズラそうなものに変えた。

「少しだけ、でいいですか?」
「え」

 ニッとする戸田さん。

「朝まで、とかじゃなくて?」
「え」

 えええええっ! そ、それは………っ

 自分でも赤面していくのが分かった。ワタワタとしていたら、戸田さんが再びおかしそうに笑いだした。か、からかわれてるオレ……

「からかわないでください……」
「からかってないですよ」

 戸田さんのクスクス笑いは止まらない。完全にからかわれてる。

「そんな笑わないでください……」
「だって……山崎さん、まるで中学生みたいで」
「中学生……」

 高校生ですらなかったか……

「もしかしてさっきからずっと笑ってたのってそれですか?」
「あ……ごめんなさい。なんか……かわいくて」
「かわいい……」

 かわいいって……男としてどうなんだ?!

「バカにしてます?」
「いえいえ、してないです。褒めてるんです」
「……褒められてる気がしません」
「ごめんなさい」

 クスクス、クスクス……戸田さんの笑顔。ああ……可愛いな。こういうのを可愛いというんだ。
 この笑顔をずっと、ずっと、見ていたい……

「……戸田さん」
「はい」

 笑みを浮かべたまま、マンションのエントランスに入る扉を開けてくれた戸田さんの手を掴む。

「もしオレが、朝までって、言ったら……」
「え………」

 驚いたように目を見開いた戸田さん。オレも自分で言っておきながら自分で驚く。でも、言葉は止まらない。

「朝までいても……」
「……あ」

 二人で扉の手前で立ち止まったため、せっかく開いた扉が閉まり………


「あーーーー! 戸田ちゃん、やっと帰ってきたーーーー!」
「?!」

 閉まりかけた扉の向こうから、明るい声と共に小柄な人影が飛びこんできた。

「……樹理ちゃん」

 それは、ニコニコ笑顔の目黒樹理亜、だった。




-----------

お読みくださりありがとうございました!
「20」で視線そらされたり、友達が名前呼びされてたりして、腐てていた菜美子さんでしたが、
一転、山崎さんから好き好きオーラ満載のセリフを聞けて、コロリと嬉しくなってるようです。
これぞツンデレ効果? なかなかやるな山崎……。

クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございます!
もう、本当に、こんな普通の話に……有り難すぎて泣けてきます。
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!


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コメント (8)
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