*具体的性描写があります。苦手な方ご注意ください*
暗闇の中、首筋から辿ってくる唇……
「山崎さ……」
名前を呼ぼうとしたところ、指で唇を押さえらえた。ヒロ兄と似てる、大きくて、でも繊細な指……
「……ヒロ兄」
思わずつぶやくと、指は一度離れ、「良くできました」とでも言うように、優しく頬をむにゅっと摘まんできた。
「もう……」
笑ってしまう。すると再び指が辿ってきて、キスしているかのように唇を啄まれた。ヒロ兄の指……。
目をつむり想像する……
今、鎖骨を軽く噛んでいる唇は、ワンピースのボタンを外している手は、ヒロ兄の唇で、ヒロ兄の手で……
「………あ」
肩を辿ってくる唇は、器用に脱がせながら、そっと胸に触れてきた手は、ヒロ兄の……
「んんっ」
優しく揉まれながら先端を舌で転がされ、我慢できなくて、声を漏らす。
その唇がスーッと体の中心を通っていき、おへそのあたりで止まった。下着に手がかかる……。
緊張で体が固くなったのを解すように、唇が丁寧に下着のラインを辿ってくる。そして、ゆっくりと剥ぎ取られて……
「……っ」
太腿を掴まれ、足を押し広げられた。太腿の内側や足の付け根を強く吸われ、その度にビクビクとなる。
「あ……んんっ」
逃げそうになってしまうところを、思いの外強い力で押されられる。そのままその唇は徐々に中心にに近づいてきて……
「………っ」
一番直接的に感じてしまうところを舌で舐め上げられ、腰がはねあがった。そのまま強く舐められ続け、その快楽に支配されそうになったところで、
「……あ」
固い指がゆっくりと中に入ってきた。濡れまくっていたので何の抵抗もなくその指は侵入してきて、ゆっくりと探るように中をえぐっていく。
「んんんっ」
心臓がぎゅっとなる位置で思わず声をあげると、指が執拗にそこを擦りはじめた。
「あ……、ちょ、まって……っ」
停止の声も空しく、指で責め立てられ、再び胸を揉み解されながら強く吸われ………
「あ……んんんんっ」
あっけなく頂点に連れて行かれてしまった……。
ビクビクビクッと中が痙攣しているのが自分でもわかる。
でも、ゆっくりと指を引きぬかれると、急に頭が冷めてきた。
「……あの」
その冷めた頭で、何か言おうとした。けれども、
「え……、ちょっ」
冷まさせない、とでもいうように、また唇が体中をはってくる。繊細な指が腰をたどり、足の付け根を柔らかく撫で上げてくる。
「あ……」
ああ、そうだ、と思う。
私が欲しいのは、快楽じゃなくて……
「ん……欲しい」
思わず声にも出てしまう。
そう、欲しいのは快楽じゃなくて、もっと熱くて、この寂しさを埋めてくれる繋がりで……。繋がればきっと……きっと。
「んん……っ」
辿ってきた唇が、足の指をしゃぶってくる。それも、くすぐったくて、でも気持ち良くて……
でも、欲しいのは、それじゃなくて、そうじゃなくて……
「……入れて?」
「………」
小さく言うと、ようやくベルトを外す音が聞こえてきた。器用に足の指をしゃぶってくれながら、ガサガサと何かしている……
(……あ、ゴム?)
持ってたんだ、というちょっとビックリした気持ちと、真面目だなあ、というちょっと笑ってしまう気持ちとで、一瞬現実に引き戻りかけたけれども、
「ん……っ」
腿の内側に唇が這ってきて、そんなこと考えられなくなる。
「山ざ……っ」
名前を呼んでしまいそうになったのを、再び指で押さえられた。ああ、そうだった……
(ヒロ兄……)
目をつむる。ここにいるのは、大好きなヒロ兄で……私はようやくヒロ兄に抱かれるんだ。
「ヒロ兄……入れて?」
自分の声に、胸がギュッとなる。ずっとずっと言いたかった。
あなたを入れて。あなたで私の中をいっぱいにして……
「………っ」
足を押し広げられる。
惑いなく、ゆっくりと押し入ってくる……
(あ……熱い……っ)
満たされる……声がとまらない。名前を、呼びたい……
「ヒロ兄……ヒロ兄っ」
「………」
答えるように、激しく腰を突き動かされ、頭の中が真っ白になっていく。
絡めるように繋いだ手からも熱が伝わってくる。
「ヒロ兄……っ」
「………っ」
「ヒロ……っもう……っ」
中に入ったままもう一度絶頂に連れていかれ、それでも突きあげられ続けて、頭がおかしくなりそうになって……
「あああああっ」
「……っ」
ぎゅうっと握った手に力が入り、体の中が一層熱くなって、ビクビクと震え……
私はそのまま、意識を手放した。
***
ふっと目を覚まし、部屋の中が少し明るくなっていることに気が付いた。朝が来るようだ。
「…………」
ぼんやりと昨晩のことを思いだす。優しく優しく愛撫され、そして……
何も身に着けず、肌かけ布団に包まっているところからして、あれは現実のことだったんだ、と思い知る。
ノロノロと身を起こし、足もとに置かれていたワンピースを身に着ける。下着は……見当たらない。後で探そう……。
ベッドから抜け出し、ハッと足を止める。
(………山崎さん)
ソファーに沈みこむように座って腕を組んだまま眠っている山崎さん……。
その長い指……
意識を失うように眠ってしまったあと、ずっと誰かに頭を撫でられていた感触があった。ヒロ兄みたいに大きな手で……でも、指はもう少し細かった……。そう、こんな風に……
「………山崎さん」
小さく呼びかけると、瞼がピクピクと震えた。
「山崎さん?」
「……あ」
パチリ、と目が開いたのでその顔をのぞきこむと、
「わっわわわわわっ」
「え」
山崎さん、転がるようにソファーから立ち上がり、ばっとジャケットを手に取って、玄関に向かって後ろずさりをはじめた。
「あの、山崎さん?」
「あの、すみませんっ」
山崎さん、顔真っ赤だ。
「本当なら、役割的に起きた時にはいなくなっているべきだと思ったんですけど!」
「はい?」
役割的?
「でも、鍵が……っ。まさか女の子の一人暮らしの部屋を施錠しないまま出て行くわけにはいかないと思いまして……っ」
「はあ……」
えーと……?
「そういうわけで」
「はい」
「帰ります」
「え」
「さよなら!」
バタン!!
勢いよくドアが開き………閉まった。
「…………」
えーと………これは………
「………やり逃げ?」
というのともちょっと違う気もするけど……
「いや、やり逃げ……でいいのか」
でも、テーブルの上に散乱していた缶や瓶やグラスをキレイに片づけてくれている。
黒のチョコレートの箱も、無くなっていた。
「………変な人」
なんだかおかしくておかしくて……涙が出るまで笑い続けてしまった。
久しぶりに、こんなに心が軽い。
でも……。それから何日経っても、山崎さんから連絡がくることはなかった。
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お読みくださりありがとうございました!!
山崎君まさかのやり逃げ!の回でございました^^;
で、以下【おまけ】のお話です。
実は私がこの「たずさえて」の中で一番書きたかった話?!かも?!
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【おまけ】
山崎君が菜美子の部屋に行く前、こんなことがありましたーというお話です。
バレンタインに予定のない山崎と溝部。嫌がらせ(?)に慶と浩介のマンションを訪れてました。
慶は持ち帰った仕事をしていたためシラフでしたが、浩介・山崎・溝部の三人はほどよく出来上がっておりました。
そんな中の深夜0時、山崎の携帯へ菜美子からお誘いのラインが!!
どうしよう……と固まった山崎。その横から溝部に携帯を奪われ『すぐに行きます』と勝手に返事を書かれてしまいます。
「据え膳食わぬは男の恥だ!!」
と、溝部にけしかけられる山崎。かーらーの、山崎視点です。
↓↓↓
戸田さんからの突然の誘いに、強引に行くことを決められてしまった……。
本当に行っていいんだろうか……と迷う暇を与えさせないためか、早く行け行けとうるさく言っていた溝部だけれども、
「あ、ちょっと待て。お前、持ってる?」
「何を?」
いきなり呼び止めてきたので、眉を寄せると、溝部が呆れたよう言った。
「何ってゴムに決まってんじゃん。男のたしなみだぞ?」
「……………」
脳に言葉が到達するのに数秒かかった。で、到達してから「はああああ?!」と叫んでしまう。
「持ってるわけないじゃん! ってか、やらねーし!」
「はあああ?! お前何言ってんの? この時間に呼びだされてやらないって、女に恥かかす気かよ?」
「……………」
う……確かにこの時間、もう終電もなくなる。泊まりは決定だ。でも。でも……
「渋谷、お前のわけてやれよ」
「あー……」
「え、ちょっと、渋谷、いいよ……」
こういう冗談にはいつもは乗らない渋谷が、すーっとベッドの部屋に入っていき、ベッド脇の棚から小さな箱を取りだしてゴソゴソと中身を出している。
(ベッド脇の棚って、リアルすぎだろ……)
とツッコむ前に、渋谷が戻ってきて、「はい」と2袋渡してくれた。黒いパッケージ……なんか高そう……。
「なんだ、高そうだな……」
オレと同じ感想を溝部が言うと、桜井がその横で「高いよー薄くてしかもジェル付きってヤツだもーん」と呑気に言っている。
「ああ、これ、開けるとき注意しろよ」
渋谷があくまでも真面目な顔をして言ってきた。
「一気に引いて開けろ。中途半端に開けて出せなくてもう一回切ろうとしても、手にジェルがついてすべって切れなくなるから」
「え……」
「このギザギザの三段目くらいを一気に最後まで開けきれ」
「え……う……うん」
な、なんだこの変なプレッシャー……
「あー、あとそれから……」
渋谷は薬を処方する医者のように淡々と、ティッシュペーパーを3枚たたんで渡してくれた。
「これ付けるときに結構手がべとべとになるから、付け終わったら手拭いたほうがいいぞ」
「あ……え」
「あーそうなんだー」
オレが肯く前に、桜井がまた呑気に「知らなかったー」と口を挟んできた。
「それで慶、いっつも付けたあとにティッシュ取ってたんだー。知らなかったー」
「何今さら言ってんだよ」
渋谷がちょっと笑うと、溝部が耳を塞いで「わーわー」と叫びはじめた。
「そこの二人、具体的な話すんなー想像しちゃうだろー」
「ばか想像すんな」
「したくねーっ」
わーわー言っている溝部の横で、桜井はニコニコと手を振っている。
「山崎頑張ってねー」
「頑張ってって……」
う……と詰まる。
「じ、自信ない……」
「何? 久しぶり?」
「……うん」
渋谷の冷静なツッコミに思わず正直に肯いてしまう。
「何年ぶり、とかいう話?」
「もう、10年とか、そんぐらいぶり……」
「………」
「………」
「………」
う……この沈黙ツライ……
「ま、まあさ!」
いつものように気マズイ沈黙を溝部がやぶってくれる。
「大丈夫! 自転車も一回乗れるようになったら10年経っても乗れるから!」
「…………」
「同じ同じ!乗れる乗れる!な?!」
「う、うん!大丈夫大丈夫!愛があれば大丈夫!」
「山崎」
無責任な溝部と桜井の言葉を遮るように、渋谷が冷静に車の鍵をグルグルと回しながら言った。
「送ってくぞ? 道分かるか?」
「う、うん。環七ずっとまっすぐ」
「ん」
二人で玄関に向かおうとすると、桜井が「えーーー」と騒ぎはじめた。
「慶が山崎と二人きりでドライブなんてヤダーーー」
「うるせー酔っ払い」
渋谷、冷たい。
「ヤダーヤダー」
「うるせーって」
四つん這いで追いすがってきた桜井の肩のあたりを、渋谷が軽く蹴りつけた。
そして、しゃがみこんで「痛ーい」と文句を言った桜井の耳元に、何か囁いている。すると、
「………っ」
三秒後、ぱたん、と桜井が膝を抱えたまま横に倒れた。
「じゃ、行くぞ?」
「え?!」
おたくの彼氏(彼女?)倒れてますけどいいんですか?!
廊下に転がった桜井を見捨てて、渋谷と一緒に外に出る。
「……桜井に何言ったんだ?」
「あー……まあ、愛の言葉?」
「……………」
…………さよですか。
あいかわらずラブラブ度の激しい渋谷と桜井。こいつらみたいにオレは………オレと戸田さんはなれるんだろうか……?
(いやいやいやいや……)
変な期待しちゃダメだ。1ヶ月半前、言われたじゃないか。「ごめんなさい」って。でも……
(なんでこんな夜遅くに……)
ゴムを入れたズボンのポケットが妙に重く感じられる……。
(いや、ないだろ……ない。ない。きっと、ただの話し相手に呼ばれたんだ。そうに違いない。……でも、万が一ってことが……)
打ち消す気持ちと期待する気持ちが入り交じってグルグル回ってしまう。
「山崎、大丈夫か?」
「……大丈夫。じゃないーーーっ」
助手席で頭を抱えると、渋谷が苦笑した。
「童貞か」
「気分は童貞だよ……」
というか、初めての時だってこんなに緊張しなかった気がするのは記憶が昔過ぎるからか……
「まあ、追い出されたりしたら迎えにいってやるから、何かあったら連絡しろ」
「…………」
渋谷……男前……
「…………ありがとう」
「ん」
街灯に照らされた渋谷の横顔がとても綺麗で感動さえ覚える………
(……なんて思ったなんてバレたら桜井にキレられるな……)
助手席に埋もれてちょっと笑ってしまったら、「ホントに大丈夫か?」と余計に心配されてしまった。
しかし…………
この約6時間後、本当に迎えに来てもらうことになるとは、この時は思いもしなかった……。
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お読みくださりありがとうございましたーー!
山崎君、だからゴム持ってたんだよってお話でした~^^
ちなみに……慶と浩介、慶が受けです。でも、友人達には浩介が受けだということにしてあります。
(美青年である慶がそういう対象で見られるということに耐えられなかった浩介がみんなにはウソついたんです)
で、慶が受けですが、なんでゴムの付け方にやたら詳しいのかと言うと、
いつも、慶が浩介に付けてあげているからなのでした^^
(そんな話を以前にも書きました→「正しいゴムのつけ方」)
そして最後、慶が浩介にささやいた言葉……
「溝部が帰ったらたくさんしような? 大好きだよ」
でした。ここぞというときに「大好き」攻撃を使う慶君でございます。言われ慣れていない浩介君、そんなこと言われたらブリーズして倒れます。はい。倒れました。
でも、溝部は送るといっても居座り続け、翌朝にはよれよれの山崎も帰ってきてしまい(←足腰立たなくなり迎えにきてもらった山崎^^;)、二人がイチャイチャできるのは、夜になってからです(^-^;
ということで。
調子にのって3日連続投稿したら、リアル生活が大変になってきました(^_^;)
ので、少しお時間いただき……また来週月曜日に続きを投稿させていただきます~~。
やり逃げ山崎……。ホントにヘタレだこいつ……
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よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!
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