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風のゆくえには~たずさえて19(山崎視点)

2016年08月22日 07時33分50秒 | 風のゆくえには~たずさえて

2016年3月13日(日) 


『友達からはじめませんか?』

 約2週間前、『あなたのことが好きです』とうっかり(うっかり?)告白したオレに、戸田さんがそう言ってくれた。

 友達に『なる』ではなく、友達から『はじめる』ということは、『友達以上に進む』可能性があると思っていいということだろうか……

 しかし、今、冷静になってみて思う。

 オレ自身は、本当にそれを望んでいるんだろうか?


***


 仕事(今日は日曜日だが、担当している地区の自治会会議があった)から帰宅後、母に頼まれて、母と1歳半の甥を弟の家まで車で送りにきたところ、近くの公園で偶然、高校時代の友人、渋谷慶・桜井浩介カップルに出くわした。渋谷の実家と弟の家はかなり近いのだ。

 いい歳したオジサン二人で、夕暮れ前の公園でわーわー言いながらバスケをやっているので「何してんの?」と聞いたところ、

「食いすぎたから腹ごなし」

と、返事された。今日はホワイトデーの前日なので、バレンタインのお返しを渡すために、日中は渋谷家に、夜は桜井家に顔を出すことになっているそうだ。あいかわらず、結婚しているかのような二人……


「休憩休憩! 翼くーん遊ぼー」

 まだ体を動かし足りない様子の渋谷から逃げるように、桜井がオレの母と甥の翼のところに行ってしまった。
 母は今日、午前中から翼のことを預かっていたらしいけれども、寒すぎて外遊びができなかったため、今、少しだけ公園で遊ばせたい、というので、車を公園の前に停めて降ろしたところだったのだ。今でも十分寒いが、午前中よりはマシか。


 翼を子供用の低い滑り台で滑らせてやっている桜井を、目を細めてみている渋谷。時折、渋谷の方を見て、ニコッとする桜井。
 この2人、付き合って24年以上になるというのに、いまだにお互いを強く強く思い合っている。どうしたら24年もこんな風でいられるんだろう……。

「そういえばさ……渋谷って一年以上桜井に片想いしてたっていってたよね?」
「なんだよ急に」

 ふと思いついて聞くと、渋谷が苦笑しつつベンチに座ったので、オレもその隣に座る。

「高校の時のことなんて、断片的にしか覚えてねえけどなー」
「まあ、そうだよね」
「でもあいつは頭良いからやたら覚えてるぞ? やっぱ脳みその出来が違うんだよな」
「…………」

 そういう渋谷だって、医者をやってるくらいなんだから、相当頭が良い。

「って、なんで急に?」
「ああ……うん」

 器用に人差し指の上でくるくるとボールを回している渋谷。そういえば渋谷は運動神経も抜群に良かった。その上、誰もが振り返る美貌の持ち主。そのくせ人懐っこい性格なので友達も多い。そんな渋谷が選んだ相手は同性の親友だったのだ。

「一年以上も片思いしてて、告白しようと思ったキッカケはなんだったの?」
「あ?」

 ボールの回転を止め、マジマジとオレを見た渋谷が、少しの逡巡のあと、ぼそりと言った。

「告白してきたのは浩介の方だ。おれからはしてない」
「え」

 じゃ、一年以上かけて振り向かせたってことなのか……。薄らとした記憶を辿ると、確か桜井は女子バスケ部の先輩と付き合ってた(のか? 一緒に帰ったりしていた)時期があった気がする。その間も、『親友』として桜井のそばにい続けた渋谷……。

「渋谷は告白するつもりなかったの?」
「まあ、なあ……」

 渋谷はんー……と思い出そうとするように、上を向くと、

「友達じゃなくなるのが怖くて、告白できなかったんだよなー」
「友達じゃなくなる?」
「同性だしな。気持ち悪いとか思われたらどうしよう、とか思ってた……気がする。せっかく親友って特別なポジションにいるのに、それを無くすような冒険する勇気もなかったし」
「………」

 意外……。無敵の渋谷がそんなこと思ってたなんて……


「って、なんでそんなこと聞くんだ?」
「あーいや、なんとなく……」

と、誤魔化そうとしたところ、渋谷にバンッと背中をはたかれた。

「戸田先生のことだろ? 告白しようとか思ってるわけ?」
「告白……」

 成り行きとはいえ、告白は一応したことになっている。が、

「んーと、とりあえずしたけど、『友達からはじめませんか?』って言われた」
「あ、そうなんだ」

 渋谷はコクコクと肯くと、

「はじめるってことは、続きがあるってことで、期待大だな?」
「んーーーー」

 素直に肯けないオレに、渋谷が怪訝そうな表情を浮かべた。

「なんだよ? 何が不満だ?」
「よく分かんないんだよなあ……」
「何が?」

 うーん、と引き続き唸ってしまう。

「なんというか……友達以上になりたいのか?オレ……とか思っちゃって」
「え、でも」

 告白、したんだろ? 好きなんだろ?

 そう直球で言われますます悩んでしまう。

「んー……この歳だしさあ、友達以上ってなったらやっぱり、結婚、とかあるわけじゃん?」
「まあ、普通はそうだろうな」
「そうなると終わる気がする」
「は?」
「………あ、そっか」

 そうか。と、渋谷に答えて自分でようやく気が付いた。

 『結婚』はオレにとって鬼門。今までの彼女とも『結婚』の話でダメになってきた。
 自分が結婚したいのかもいまだによくわからないし、したとしたら……、終わりがくる、気がする。父と母のように。

「なんていうか……オレ、結婚に対してあんま良いイメージ持ってなくてさ」
「………。だったら、友達以上、じゃなくて、友達のままでいいって感じ?」
「…………」

 渋谷の綺麗な瞳に答えられずにいると、渋谷は「まあなあ」と頬をかいた。

「気持ちは分かるけどな。何しろおれ、友達以上に進む勇気がなくて一年以上片想い続けてたくらいだからな。ま、コーコーセーの時の話だけどな」
「…………」

 なんか今のオレは高校生以下のような気がしてきた。
 どーんと落ち込んでいたら、

「え、何?」

 突然立ち上がった渋谷に、心臓のあたりを手の平で押された。

「『自分の心に正直に。あなたの思った通りにしなさい』」
「え」

 見かえしたオレに、渋谷がニッと笑ってきた。

「昔、姉貴に言われた。おれがブレずにいられたのは、このセリフのおかげかも。急に思いだした」
「…………」

 自分の心に正直に……

「それでずっと片想いしたままそばにい続けたら、浩介の方から告白してくれて、友達以上になった」
「……………」
「おれの粘り勝ちだ。ま、でも、あのまま片想い続けてたら、そのうち我慢できなくなって襲ってた気もするけどな」

 ヒヒヒ、と変な笑いをする渋谷。

「だから、あんま深く考えることないんじゃねえの?」
「…………」
「自分の心に正直に、だよ」

 ダメ押しって感じにオレの胸を押すと、渋谷は桜井の方に歩いていった。桜井が気が付いて小さく手を振っている。

「そろそろ行くー?」
「おー」

 そうだ、この2人、これから桜井の実家に行くと言っていた。本当に結婚同然の付き合いをしてるんだよな……
 あいかわらずお似合いの二人の姿を見ていて、やっぱり「羨ましい」という気持ちが込みあがってくる。

 でも……

(………お母さん)

 翼のことを優しい目で見ている母の姿に、ふっとあの時の母の姿が重なる。
 あの日、泣いていた母の瞳。そして誓った10歳のオレ……

『僕がお母さんのことも誠人のことも守るから』
『だから、お父さんのことなんて忘れて大丈夫』
『だから、お母さん、安心して。僕が、ずっと、そばにいるから』

 ずっと思いだすことなんてなかったのに、先日の目黒樹理亜の一件以来、妙に鮮明にその時の場面が脳内によみがえるようになってしまった。まるで呪いの呪文のようにくり返される言葉。


 今思えば、

『卓也はお母さんと私、どっちが大事なの?』
『今後一切、お母さんと関わらないって約束するなら結婚してあげる』

 10年前にそう言った彼女は、オレの中の、母への呪縛に気が付いていたのかもしれない。


***


 翌日。ホワイトデー当日。

『今回は、山崎さんがいつも行くお店に連れて行ってください』

と、事前に言われてしまい、散々悩んだ挙句、いつも行く店、の中でも、わりとオシャレなんじゃないだろうか、と思える店にした。夜景の綺麗な展望レストラン。下に新幹線や在来線が通っていくのが見られるフレンチの店。

「わ! すごい! 素敵!」
 お世辞かもしれないけれど、戸田さんはそういって喜んでくれた。前のワインバーの時よりも感触がいいので安心した。


 食後、戸田さんのマンションまでお送りした。

「上がってお茶でも」
 そういってくれたけれど、丁重にお断りし、玄関先でプレゼントの花束を渡した。

 お礼は食事だけではダメだろう、と思って散々悩んで、弟のお嫁さんに相談したら、

『お花はどうですか? 花束もらって嬉しくない女はいません。それにお花は「消えもの」なので、もし二人が上手くいかなくても残ることがないので安心です』

と、上手くいかない場合の心配込で提案してくれたので、それに乗ることにしたのだ。

 中身は見えないようになっていたとはいえ、不自然に大きな紙袋を持ち歩いていたので、バレバレだっただろうし、この大きな紙袋をゴソゴソ開ける姿は、自分でもかなり滑稽だと思ったけれど、戸田さんはニコニコと見守っていてくれた。

「わあ。綺麗。ありがとうございます」

 フワリとした笑顔で微笑んでくれた戸田さん。

 キュッと胸が締めつけられる。同時に、思いだす。

『自分の心に正直に。あなたの思った通りにしなさい』

 そう言った、渋谷の言葉……


「……戸田さん」
「はい?」

 小首をかしげた戸田さんの頬にそっと手で触れ、顔を寄せ……

 …………。

 ……………やっぱり、無理。

 結局、ストンと手を下ろし、

「おやすみなさい」

 深々と頭を下げて……頭を下げたまま、退出した。 


 ホント、オレ、どうしようもない……





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お読みくださりありがとうございました!
更新10分以上遅刻です。
って、いや、私的にはホントはチューさせるつもりだったのに、
どうしても出来ないって山崎がいうからーーーーっ
そんなこんなで遅刻更新でございます。ホントにこいつヘタレだなあ……

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コメント (2)
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