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(BL小説)風のゆくえには~26回目のバレンタイン1/3

2016年08月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】


 昨年のバレンタインには、患者さんから沢山チョコレートをもらった。土曜日の診療時間後に、待ってくれていた子供達一人ずつからも受け取ったりして……

「今年はないんじゃね?」

 朝、浩介に聞かれて答えると、浩介は「それはそれで複雑……」と口をへの字にしていた。

 おれがゲイであり、男の恋人がいる、と公表したのは昨年5月のこと。公表当初は色々あったけれども、今は受け入れてもらえている……と思う。時々、そのことについて聞かれることもあるが、おおむね公表前と変わらない。変わらないどころか、患者数は増えているらしい。

『だからなるようになるっていっただろー?』

 院長である峰先生は得意げに言っているけれど、おれはそこまで楽観的にはなれない。何かの拍子で病院側に迷惑をかけるような事態に陥ったら……。その危機感は常にまとわりついている。でも、結局のところ、粛々と仕事をこなすしかないわけで……

 今年のバレンタインは日曜日。そのためか、土曜日の今日、病院に着くなり『女性職員一同』の紙の貼られた箱をもらえた。

「渋谷先生に渡してもいいのかなあ?ってみんなで迷ったんですけど……」

 看護師の西田さんが、ものすごく正直に教えてくれた。

「戸田先生が、渋谷先生は性的指向が同性なだけで、女性になりたいわけではないから、渡していいと思うって。奥さんや彼女がいる人に渡すのと同じだって言って」
「…………」

 戸田先生……そんなことおれには一度も言ったことないのに……有り難い。


 こうしてはじまったバレンタイン前日。
 この時期なので、患者数も多く、目が回る忙しさだった。でも、そんな中、数人の患者さんがチョコをくれたりして、有り難いなあ……と思いながら、最後の患者さんを見送ったところで、

「先生、今年もみんな待ってます。去年の倍の人数いますよ」
「え!?」

 看護師の谷口さんに声をかけられ、思わず大声を上げてしまった。

「そんなに驚かなくても……」
「いや……驚くでしょ……」

 い、いいのか? おれ、ゲイなのに……

 若干緊張しながら、待ち合い室に行ったところ、本当に昨年の倍以上の子供達とお母さん達が待ってくれていた。

「渋谷先生きた!」
「渋谷先生~~!」
「…………」 

 うわ………
 子供達のキラキラした瞳に、一瞬意識が飛ぶ。普段は、病気で元気がないか、注射の前で大人しくなっているか、の子供達にこんな風に元気に出迎えられるなんて……

『島袋先生!』
 おれが医師を目指すきっかけとなった、島袋先生に対する子供達の声と重なる。

(先生……)
 おれは憧れのあなたに少しは近づけているかな………


「先生!早く~」
「…………あ」

 藤木さんの大きな声に我に返る。
 藤木さんは、一年生の男の子と年中の女の子のママ。大柄で迫力があり、谷口さん曰く「ボスママ」らしい。

「みんな、渋谷先生にあげたいってきかなくてねー」
「……ありがとうございます」

 谷口さんの話によると、患者さん達がおれのことを好意的に受け入れてくれているのは、藤木さんの力も大きかったらしい。今日も昨年と変わらずこんな風にみんなをまとめてきてくれるなんて……有り難い。

 なんだか、本当に、何もかもが有り難い。

 昨年同様、一人ずつからチョコを受け取って、そして写真を撮ったりして、終わり、と思いきや……

「先生、もうちょっと時間いい?」
「あ、はい」

 藤木さんにニヤニヤ言われ肯くと、まわりのママ達がドッと笑った。なんだなんだ?
 藤木さんがニヤニヤしたまま言う。

「あのさ、先生は彼氏にどんなチョコあげるの?」
「え……」

 チョコをあげる? もらうじゃなくて?

 はて?と首を傾げてから、正直に答える。

「えーと……あげたことない……です」
「えええ?!」

 ママ達に大袈裟に驚かれて、あらためて思い返す。

 おれ……あげたこと、ない。
 高校一年生で片想いを初めてから、かれこれ何年?

(うわ、今回26回目? 付き合ってからは25回目ってことか)

 素早く計算して、軽い衝撃を覚える。

 でも、考えてみたらあげたことは一度もない。
 高2の時は、浩介がなんかやたら高いチョコくれて……
 高3の時は、受験でバレンタインどころじゃなくて……
 その後はたいてい、浩介買ってきてくれたチョコを一緒に食べる、というのが通常で、時々、食事をしにいってそれでおしまいってこともあって……

「あげたことないって、もらうってこと?」
「そうですね……もらうばっかりで……。あげるって思いついたことないかも……」
「わーそうなんだー!!」

 なぜかママ達が、ものすごい盛り上がりはじめた。後ろのほうでコソコソと話している声も聞こえてくる。

『ほら、やっぱり渋谷先生、キレイだけど男らしいからさー』
『ネコじゃなかったんだねー』
『ママー、ネコじゃないって何?』
『犬派ってことー?』
『え、あ、そうそう。犬派ってこと』
『でもさ、相手の人、背高かったよ』
『うそ!美亜ちゃんママ見たことあるの?!』
『あるよーすごい優しそうな人でねー……』

 諸々ツッコミたいけれど、放置することにする。
 藤木さんは、ふーん、と首を傾げて、

「一回ぐらいあげてみれば? 喜ぶよー絶対」
「え」

 喜ぶ?

「私もさー去年何を思ったのか旦那がチョコ買ってきてくれてさーすごく嬉しかったんだよねー」
「あー分かる分かる!」

 ママ達が途端に食いついてきた。

「うちもパパが買ってきてくれるんだけど、やっぱり嬉しいもんだよねー」
「うわ羨ましい!」
「感謝の印ですってねー」
「やっぱり物で示すのも大事だよねー」

 わきゃわきゃと盛り上がっているママ達。

 うーん、感謝の印……かあ……。

「先生たちって、何回目のバレンタイン?」
「付き合いはじめてからは25回目ですね……」
「うわ長!」
「え、先生達、学生時代からつき合ってるの?!」
「高校の同級生なんだってー」

 1答えると100の勢いで帰ってくる言葉の数々にたじろぎながらも、頭の中は浩介のことで埋まってくる。

(浩介……喜ぶ……よなあ)

 絶対喜ぶ。目に浮かぶようだ。なんで今まで気が付かなかったんだろう……

「先生、あげる気になった?」
「そうですね……。買って帰ることにします」
「えらい!」
「素敵~~」
 わあわあきゃあきゃあいうママ達や子供達。なんだかやたら楽しそうだ。

「でもセンセ、私達にもお返しよろしくねー」
 藤木さんの声に、みんながまたドッと笑い声をあげた。去年と変わらない笑い声。おれに変わらず接してくれる人達……

(『なるようになる』か……)

 峰先生の言葉を思いだす。

 なるように、なってくれたんだなあ……


***


 その日、まだ仕事は残っていたのだけれど、浩介に早く会いたくて、持ち帰ることにした。
 そして、帰路の途中、デパ地下でチョコを購入。一回目の時に浩介が買ってくれたみたいな一粒一粒味がちがう高級チョコ。
 
(浩介……喜んでくれるかな……)

 そんなことを思ったら、今さらながらドキドキしてきてしまった。
 考えてみたら、誕生日もクリスマスも一緒に買いに行くので、自分で選んで渡す、という作業をほとんどしたことがない。緊張するもんだな……


「ただいま……、お、良い匂い」
「おかえりなさーい! 今日はね……」

 土曜日は仕事休みの浩介。何も予定がないと、やたらと手のこんだ料理を作って待っていてくれる。今日も、鶏肉の中に野菜をつめてオーブンで焼いて、どーたらこーたらしたそうで、洗面台で手を洗うおれの後ろで一生懸命説明している。そうして必死に話している浩介は昔からやたらと可愛くて、ついつい笑ってしまったり、途中でキスしたりしてしまって、「真面目に聞いてよ!」と怒られることもしばしばだったりするけれど、今回は何とか最後まで聞ききった。けれども。

「あと、10分くらいで出来上がるから、そしたら」
「うんうん」

 手を拭いてから、振り向きざま、浩介の首の後ろに手を回して、その大好きな唇に唇を重ねる。

「慶」
 浩介の腕がおれの腰に回り、ぎゅっと抱きしめてくれる。
 こんなキス、もう何万回もしてるのに、それでも毎回、愛しくて嬉しくてたまらなくなる。

「慶、明日のバレンタイン、どうしたい?」
「どうって?」

 二人ピッタリくっついたまま、リビングにゆっくり移動する。

「どこか出かけるとか……」
「んー出かけたりするより……」
「こうしてイチャイチャしてる?」
「……イチャイチャ?」
「おれは、こうして慶とずっとくっついてたい」
「ん」

 ソファーの前まできた時点で、あらためて唇を合わせる。柔らかい唇。どうしてこんなに愛おしいんだろう……

「あ、慶、でも、もうご飯できるんだよ」
「ん」
「せっかくだから温かいうちに……」
「ん」

 キスしながらソファーに押し倒す。馬乗りになって、その愛おしい頬を頭を撫でまわし、耳に唇を落とす。

「ね、慶? もう……」
「んー」
「慶ってば」
「ん」

 停止の声をきかず、そのままアチコチに唇を落とし続けていたら、言葉とは裏腹に浩介のものも兆しはじめ……

「慶……」
「ん」

 あらためて、深いキスを仕掛けながら、シャツのボタンを……と思ったのだけれども。


 ピンポーン!


 能天気に響いてきたチャイムの音に手を止める。
 浩介と、ハタと顔を合わせる。

「なんだ?」
「何か頼んだっけ?」

 二人で、ハテナハテナと思いながら、インターフォンを出てみると……

『渋谷くーん!桜井くーん!あーそーびーまーしょ!』

「………」
「………」

 高校の同級生、溝部と山崎がカメラの向こうに立っていた。




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お読みくださりありがとうございましたーー!
お盆休みのため書く時間がなく……
でも更新しないのも悔しいので、短く!前後編!書かせていただきます~。
いつか書きたかった、「実は慶からチョコを渡したことはない!」のお話^^
ってこの真夏にバレンタインの話^^;

時系列的には、「たずさえて14-3」のおまけの話の寸前です。

また明後日(たぶん)、続きは浩介視点で^^
クリックしてくださった方、見に来てくださった方、本当にありがとうございます!!
背中を押していただき、そのおかげで書くことができております。
よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!

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してくださった方、ありがとうございました!

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コメント (4)
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