「おれの恋人も男だから。だから高瀬君の気持ち、わかると思うよ?」
そう告げると……
「………………え」
高瀬君……たっぷり1分はポカーンとした顔をした後に、
「え……それじゃ」
眉をひそめてコソコソっと言った。
「あかね先生ってあんな美人だけど実は男なんですか? どおりで女性にしては背が高いと……」
「ち、違う違うっ」
思いきり吹き出してしまった。あかねも聞いたら大ウケすることだろう。
「あの人は友達で、恋人のふりしてるだけだよ。お互いの利害が一致しててね」
「え………じゃあ」
高瀬君は口に手をあて……「あ」と言った。
「渋谷さん……ですか?」
「………うん」
体中に温かいものが広がっていく。人に話せるのってこんなに嬉しいものなんだな……。
「そういえば、高瀬君、彼のこと『恋人かと思った』って言ったことあったよね。あの時は鋭すぎてビックリしちゃったよ」
「ああ……ありましたね、そんなこと……」
さっきまでの興奮はどこへやら、高瀬君、いつものクールさを取り戻している。
「バレバレですよ。先生のあの目……友達に向ける目じゃなかったですよ」
「あはは。だって彼、かっこよすぎて、つい」
「………かっこよすぎ……?」
首を傾げた高瀬君。
「先生の中で渋谷さんは、かわいい、じゃなくて、かっこいい、ですか?」
「かわいいし、かっこいい。あ、でもどっちかというと、かっこいいって思う方が多いかも」
「……………」
高瀬君は、じーっとこちらを見ていたかと思うと、言いにくそうに切り出した。
「あの……こういうこと聞いていいのかわかんないんですけど」
「うん」
「さっき、先生がしきりと、身長は関係ないって言ってたのって、ご自分達のことですか?」
「え」
それは……
「先生達って……先生が抱かれる側ってこと?」
「…………」
「やっぱり……渋谷さん?」
「…………」
おれ達は、はじめは両方しようとしたんだけど、諸々で結局慶がされる側に定着した。
慶はおれよりも身長が13センチ低い。もし、ここで、慶が抱かれる側だと言ったら、高瀬君はやはり背が大きいとダメなんだ、と思いこんでしまうだろう。だったら……
「えーと……うちは、両方なんだよ」
「え?!」
言うと、高瀬君はものすごくビックリした顔をした。
「そんなことってあるんですか?」
「あるよ。その時の気分とか雰囲気とかでどっちがするってなる」
「わ……そうなんだ」
へえ……そっかあ……そういうのも有りなんだ……と、感心したような高瀬君の様子にちょっとホッとする。嘘も方便、だ。
「うん。だから、身長差って関係ないよ?」
「でも………」
大きくため息をついた高瀬君。
「それ以前の問題……。彼、女の子好きだし。合コン行くって張り切ってるし」
「そういう高瀬君には相澤さんって彼女がいるよね?」
「ああ……」
高瀬君の目がふっと優しいものになった。
「彼女は知ってるんです。オレの気持ち。それでもいいって言ってくれてて……」
「それは……」
思わず本音が出てしまう。
「それは相澤さん、キツイだろうね……」
「…………」
高瀬君、黙ってしまった………
自覚はしてるのだろう。自分がどんなに甘えたことをしているのか………
「でも……」
高瀬君は、苦しそうにつぶやいた。
「でも……どうしようもなくて」
「どうしようもない?」
「このままじゃ、自分が何しでかすか分からなくて」
「………………」
覚えてる。その感情……。
男である自分は受け入れられるはずはない、と苦しんで………それで………
あの時の感覚がよみがえってくる。この思いを告げたら友達でいられなくなる、という恐怖……。でも、一緒にいたくて……抱きしめたくて、キス、したくて……。
ふいに、脳内で再生される南ちゃんの声……
『思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ。ちゃんと言葉にしないと』
「え」
高瀬君にキョトンと聞き返され、はっとする。声にでてしまっていたらしい。
「あの………、高校生のとき、彼の妹さんに言われたんだよ。ちゃんと伝えろって」
「でも……」
「言って、嫌われたらどうしよう?って思うよね」
「…………」
南ちゃんは、こうも言った。
『そんなことで嫌われるような関係じゃないでしょ? 二人の絆ってそんなもん?』
「…………」
高瀬君は息をつめたような顔をしている。
「それで……先生……告白、したんですか?」
「うん。そうしたら、彼も一年以上も前からおれのこと好きでいてくれてたって知って……」
あの時の慶の泣き顔……抱きしめた温かさ……一生忘れない……
そのまま幸福な思い出に浸りそうになってしまったのだけれども………
「…………結果論ですよ」
「え」
高瀬君の妙に冷めた声で我に返った。
「それは先生達が上手くいったから言える話で……」
「………………」
「常識的に考えて、そんな告白が上手くいく可能性なんてひとかけらもない」
「………。じゃあ、どうするの?」
高瀬君を正面から見つめる。
「その思い、ずっと抱えつづけるの? このまま相澤さんに甘え続けるの?」
「………でも」
高瀬君は挑むように見返してきた。
「思いを告げたら、オレは気が済むかもしれないけど、今度は彼が苦しむことになる」
「!」
はっとする。
「それは……」
言葉が出てこない……
おれは、やはり人間関係を構築するスキルが著しく欠けているのだろう。
今、高瀬君の暗い目と、彼の捌け口になっている相澤侑奈を救うことしか考えられていなかった。
高瀬君が泉君に思いを打ち明ける……それは、二人が傷つき苦しむ結果に繋がる可能性があることなんだ………
考えてみれば、あの時、南ちゃんは、慶がおれのことを好きだと知っていたから、あそこまではっきりと告白を勧めてくれたのだろう。
あの明るい泉君なら、高瀬君を受け入れて親友を続けてくれるんじゃないか、と心のどこかで思っていたところもあるけれど……
泉君の気持ちが分からないのに、迂闊に告白なんて勧めるべきじゃない……
「今のままでいい」
高瀬君は自分に言い聞かせるようにいう。
「侑奈も、いいって言ってくれた」
「高瀬君……」
でも、高瀬君………
「今のままでいいっていうなら……なんでそんなに苦しそうなの?」
「……………」
高瀬君は下を向いてしまい……
見回りの看護婦さんに注意されるまで、おれ達はずっと無言のまま、夜の静けさの音を聞いていた。
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お読みくださりありがとうございました!
浩介先生撃沈の回でございました。
でも最後、諒はいつも「相澤」っていうのに、つい素が出て「侑奈」と言ってるのは大進歩。
ちなみに作中2001年のため、まだ「看護婦」さんです。
で、ここで終わるのはあまりにも浩介が救いようがない気がして、
あかねさんと慶君に登場願って続きを書いていたのですが、
二人とも言いたいことがたくさんあるらしく長くなってきたので
やっぱりここで一度切って……できれば明日(できるかな?!)更新させていただきます。
「告白することで相手を苦しめる」の件についてです。
あかねさんと慶君に意見を聞いたところ、二人とも色々言ってて……
あかねはあいかわらず前向き。慶は意外に後ろ向き。
そんな話をグダグダと……。すみません……
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