☆今回、1984年生まれの泉と諒の小学校時代のお話のため、作中、1991年からはじまります☆
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それはまさに<一目惚れ>の瞬間だった。
小学校の入学式の2週間前、隣に引っ越してきた一家がうちに挨拶にきた。
その男の子は、すごい美人のお母さんの後ろに隠れるように立っていたのだけれども、挨拶するために無理矢理前に出されて……
「たかせ、りょう、です」
泣きそうになりながら、なんとか名乗ったその姿を見た時……
(オレが守る!)
何かに突き動かされるように、そう思った。
「オレ、泉優真! よろしくなっ」
元気よく言うと、ウルウルした目で見上げられ……
「ゆうま……くん?」
ふわっとした笑顔が広がり……
それは、雷に打たれたような、という形容がピッタリの衝撃。
(オレは将来、こいつと結婚する!)
こいつを一生守ってやる。
そう、心に誓った。
それから毎日毎日、一緒にいた。学校も1学年一クラスしかないので同じクラスになれた。これから6年間ずっと一緒だ。
新築の諒のうちには「汚したり壊したりしたら困るから行っちゃダメ」と母からキツく言われたので滅多に行けず、うちには、5歳年上の兄を筆頭に3歳年上の姉、2歳年上の姉、6歳年下の妹がいてうるさいし狭いのでいられない。
だから大抵、近くの公園で遊んでいた。雨が降っていても、トンネルの形をした遊具の中で二人でくっついて座って、黙って雨の音を聞いてるだけでも幸せだった。
あまりにも寒い日は、児童館に行った。児童館のオレンジ色のカーペットの上で寝転んで、一緒に図鑑を見たりした。サバンナの動物たちの写真を見て、いつか二人で行って本物を見てみたいね、なんて話したりした。
「優ちゃん」
諒はオレのことをそう呼んだ。頼りきった目でオレを見上げる諒が可愛くてしょうがなかった。
諒はオレがいないと心配そうにキョロキョロして、オレの姿をみつけると、心底ホッしたような笑顔を向けてくれる。その顔が見たくて、わざとはぐれたり隠れたりすることがあることは秘密だ。
こうして幸せな日々が1年を過ぎた頃……
「バカじゃないの?」
「ホントバカ」
「バカ優真」
「救いようもないバカ」
ある日、姉二人にケチョンケチョンに言われた。言われることには慣れているけれど、今回ばかりは納得がいかなくて「何でだよっ」と噛みつくと、姉達は呆れたように言った。
「男の子同士は結婚できないの。そんなことも知らないの?」
「ビックリするくらいバカだね優真は」
「………………え?」
また、騙されてるのかと思った。姉二人はよく共謀してオレを騙すので、またかと……
「またまたそんな……」
「え、ホントに知らないの? ねーお母さーん、優真がバカ過ぎるー」
「お隣の諒君と結婚するとか言ってるよー」
「え!?」
母までも呆れたように、
「優ちゃん、結婚は男の子と女の子でするのよ? 2年生にもなってそんなことも知らないの?」
「…………だって」
幼稚園の先生は「大好きな人とする」って言ってた。結婚したら、一生一緒にいられるって……。
だから今、
「優真は好きな人いないの?」
「結婚したいくらい好きな人!」
そう聞かれ、正直に答えたのだ。
「オレは諒と結婚する!」
と………。
うつむいていると、母にイイコイイコと頭を撫でられた。
「まあ、それだけ諒君のことが好きってことね?」
「…………うん」
「結婚はできないけど、お友達でいればずっと一緒にいられるわよ」
「…………」
友達………それは何か違う気がする。
ムッとしていると、母が再び頭を撫でてくれた。
「そうね。あんた達は本当に仲が良いから、友達じゃなくて、親友ね」
「親友……」
それならまだいいかな……特別な感じがして。
だから次の日、いつもの公園で、
「お母さんがオレ達のこと『親友』って言ってたぞ」
そう諒に言うと、諒はあのフワフワした笑顔を浮かべて、
「嬉しい」
と、うふふ、と笑ってくれた。それがもう可愛くて可愛くてしょうがなくて、
「諒っ」
ぎゅううっと抱きしめて、頭をグリグリ撫でまわして、それからおでこをコツンとあてて、その綺麗な瞳をのぞきこみながら、オレは誓った。
「お前のことは、オレが一生守ってやるからな。何があっても必ず助けるからな」
「うん」
両手をきゅっと握り合って、微笑みあう。
オレは一生、お前と一緒にいる。オレが必ず守ってやる。
そうしてそれからも毎日、一緒にいられるだけで楽しくて嬉しい時間を過ごしていたのだけれども……
もうすぐ4年生が終わりになるある日……
いつものように諒と一緒にいたら、1つ年上の女の子達に、さも嫌そうに言われた。
「男の子同士でベタベタして気持ち悪い」
そのセリフに「結婚できない」と知った時と同じくらいのショックを受けた。オレ達がこうして一緒にいることは、気持ち悪い、と言われることなのか? いけないことなのか?
頭をグルグルさせながら家に帰って、すぐに兄ちゃんに相談した。中学を卒業したばかりで、4月から高校生になる兄ちゃんは、とても頼りになる。
兄ちゃんはフムとうなずくと、
「お前らずいぶん大きくなったからなあ……。小さい頃はいいんだよ。小さい子同士がじゃれあってても可愛いですむから。でも、これだけでかくなるとちょっと生々しいっていうか……」
「生々しい?」
意味が分からない。
でもでかいというのは本当で、オレと諒は今ではクラスで後ろから2番目と3番目の背の高さだ。でかくて邪魔ということだろうか。
「とりあえず、人前では抱きついたりするのはやめとけ」
「う………うん」
そううなずいたものの……
「おはよっ優真っ」
「………ううう……」
このふわっとした笑顔で名前を呼ばれると、わしゃわしゃ頭を撫でたくて手がうずうずしてしまう。
諒が「女の子みたい」とからかわれるのは、言葉使いのせいもあるんじゃないか、と兄ちゃんが言うので、三年生からは「優ちゃん」から「優真」に変えさせた。
でも、諒の「優真」は、他の人の「優真」と全然違う。呼ばれると顔がニヘラッてなるくらい、優しくて甘ったるくて……。時々「優ちゃん」って言うのも可愛いくて可愛いくて……
「あーもー我慢できねーっ」
「わわわっ」
うりうりといつものように頭を撫でまわす。出会った頃はもっと身長差があって撫でやすかったのに、三年生の途中で少しだけ抜かされた。でも、頑張って牛乳をたくさん飲んで、抜きかえしたのだ。もっともっと大きく強くならないと……
「なにー?優真ー?」
「なんでもなーい。行こーぜ?」
「うんっ」
いつものようにくっついて登校しはじめる。でも、途中で上級生女子軍団に会ってしまい、少しだけ距離を取った。
オレは何を言われても構わないけれど、諒に嫌な思いはさせたくない。
二人きりでいるのがいけないんだろうか? クラスの奴らとも一緒に遊ぶことはあるけれど、やっぱり二人のことが多い。クラスの奴らは何かと諒にちょっかい出してきて鬱陶しいからだ。
どうしよう。どうすれば安心して諒と一緒にいられるんだろう……
そうやって悩んだまま数日が過ぎ、5年生になったある日………救いの女神が現れた。
「相澤侑奈です」
不機嫌そうに自己紹介したアメリカからの転入生。完璧に整った顔の女の子。せっかく可愛いのに、ニコリともしないのがもったいなかった。
家が近所なので、登下校を一緒にするようになったけれど、しばらくの間は話しかけてもろくに返事もしてくれなかった。
でも、ある日偶然、クラスの奴らが、侑奈の容姿をからかっているところに出くわして……
「お前らユーナが可愛いからそうやってからかうんだろー!男なら男らしく好きって言え!」
そういって奴らを追い払ったのをキッカケに、
「………うち、寄ってく?」
侑奈が帰りに誘ってくれて、オレ達『仲良し3人組』は始まった。
侑奈はオレの救いの女神だ。
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お読みくださりありがとうございました!
作中、1991年~でした。しばらく、泉君の過去話が続きます。
同性結婚法を世界で初めて成立させたのはオランダで、2000年12月のことだそうです。結構最近なんですよね……
年末ではございますが、何の捻りもなく通常運転(思えばクリスマスも何もしなかった……)、明後日に続きの更新を予定しております。どうぞよろしくお願いいたします!
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