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(BL小説)風のゆくえには~嘘の嘘の、嘘 13-2(侑奈視点)

2016年12月24日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 嘘の嘘の、嘘


 私と諒が別れたという話は、あっという間に広がった。

「別れて良かったよ!最低だよあの男!」

 友達の寺ちゃんはプンプン怒っている。なぜならさっそく諒の周りに何人かの女子がはべっているからだ。でも、諒は今までとは違って、皆に素っ気なくしていて、手を出している風ではない。

(諒……こわいよ)

 女子達も、よくあんな機嫌の悪い諒と一緒にいられるな……と感心してしまう。私は怖くて近寄れない。あの別人みたいな冷たい目を向けられると思うと足が震えてしまう………


 そんな感じでむかえた一学期最終日。
 部活が終わった後に、ボランティア教室に顔を出したところ、驚いたことに桜井先生が来ていた。

 桜井先生は、事故から10日後に学校に復帰した。時々行動が止まってしまうくらい痛むようなのに休めないなんて、先生って大変……。でも、部活の顧問の仕事は夏休みまでは免除してもらったそうで、少しは楽、らしい。

「謝りたいことがあるんたけど………」
 桜井先生は、裏のお茶飲みスペースに私を呼んで、言いにくそうに切り出した。

 諒と私が別れたのは、自分が余計なことを言ったせいじゃないか……、という桜井先生。

「別れたこと、先生まで知ってるんだ……」

 わずか3日で先生にまで知られるなんて、諒って本当に有名人なんだな、と思う。

「余計なことって、何ですか?」
「あのー……、高瀬君、他の人を好きなのに相澤さんと付き合ってるっていうから……それは相澤さんキツイだろうって……このまま相澤さんに甘え続けるの?って……」
「……………」

 意外だ。諒がそんなこと他人に話すなんて……

「それで、諒はなんて……」
「あの……『今のままでいい。侑奈もいいって言ってくれた』……って言ってた」
「え?」

 侑奈? 先にその言葉に引っかかる。

「先生、諒、私のこと、侑奈って言ってました?」
「え? うん。言ってたよ?」

 肯かれ、驚いてしまう。
 小学校の6年生の時に呼び名を「侑奈」から「相澤」に変えて以来、諒は私のことを名前で呼んだことはない。でも人との会話の中で「侑奈」と言ってしまうということは、心の中ではそう呼んでくれているということだろう。わ……嬉しい。

「そっか……諒、やっぱり、今のままが良かったんだね……」

 なのにどうして、あんなこと言ったんだろう……。私だって、あのままずっと諒と付き合っていたかった………

(………なんて)

 それは嘘だ。
 文化祭の前日、諒が泉に抱きついているのを見て………

(どんなに頑張っても泉の代わりにはなれない)

 その事実に打ちのめされた。分かっていたはずなのに、5ヶ月間優しく激しく何度も抱かれて、泉の代わりになれていると勘違いしていた……

 そして、追い打ちをかけるように、泉が私のことを恋愛対象としてみていない、ということを知り、完全に自分の存在価値を見失った。

 諒にも泉にも必要とされていない………

 泉に求められていない私になんて、諒はもう興味がないだろうと思った。それを認めるのが嫌で、忙しいふりをして諒と二人きりになるのを避けていたところもある。

 それなのに……

『相澤も本当はもう限界だったんだろ』
『だからこの一か月、二人きりになるのさけてたんだよな?』
『別れてやるよ』

 諒のあんな言い方……
 まるで私を手放すのが嫌みたいな……

『今のままでいい。侑奈もいいって言ってくれた』

 侑奈……侑奈。

 諒は誰のことも名前で呼ばない。
 でも心の中では呼んでいる。
 それは特別ということ。

 私は諒の特別なんだ。

 そう思ったら、目の前がぱあっと広がって、私の気持ちなんて、もう、どうでも良くなってきた。


「あの……本当に申し訳ない……。おれ、恋愛スキル欠けてるくせに余計なこと……」
「あ、全然、そんなことないです」

 恐縮している桜井先生にブンブン手をふる。

「遅かれ早かれ別れる運命だったんです。やっぱり身代わりにはなれなかったから私」
「………………」
「こうなって良かったんだと思います」
「…………そう?」

 心配げな桜井先生にうなずいてみせる。

 この半年の間、どの女よりも長く諒の隣にいられた。何度も抱いてくれた。心の中では名前で呼んでくれている。もう充分だ。

 今はただ、心を閉ざしてしまった諒のことを助けたい。ただそれだけ。

 昔みたいな……諒が私のことを「侑奈」と呼んでいた小学校5年生の頃の、あの温かい『仲良し3人組』の関係に戻ることができたら………

 そのためには、やっぱり泉の協力が必要……だけど、最近の泉はよく分からない。

 ずっと、嘘をついて私のことを好きなふりをしていた泉……。先月は彼女が欲しい、と言っていたくせに、今月になって合コンを断ってきたという。意味が分からない……

「先生……」
 コーヒーをいれようとしている桜井先生の後ろ姿に問いかける。

「人が嘘をつくのってどんな理由があると思いますか?」

 桜井先生、うーん……と唸ってから、

「嘘には種類があって……自分のためにつく嘘と、人のためにつく嘘と……」
「…………」
「自分のためにつく嘘は……、何かを隠したいときとか……自分の立場を有利にしたいときとか……自分を良く見せたいときとか……」
「…………」

 あの単純馬鹿がそんなこと考えているかは甚だ疑問だけれども……

 とりあえず、帰りに泉のうちに寄ってみることにした。こういう話はやはり、メールではなく直接話すべきだ。



 私のうちは駅から徒歩15分のところにある。5分のところにも別の路線の駅はあるけれど、乗り換えが面倒くさいので15分歩いている。諒と泉と一緒だとすぐについてしまう距離も、一人だと遠い……。

(仲良し3人組に戻りたい……)

 あんな怖い諒は諒じゃない。諒はいつも静かに優しく微笑みながら私達のことを見ていて……それで、泉はいつも明るくて一人でうるさくて……

(…………あ)

 諒の家の前に人影がみえた。泉だ。泉と諒のうちは隣同士なのだ。

 三代続く和菓子屋を営んでいる泉のうちは、瓦屋根のザ・日本家屋。

 一方、諒のうちは、ご両親が有名な建築デザイナーなので、やたらとお洒落なうちだ。テレビの取材も何度か来たことあるし、雑誌にも時々載ったりする。
 普段はお手伝いさん任せで、ろくに家に帰ってこない二人が、取材の時だけは帰ってきて、家族団らんのスペースの紹介をしたりしているのが不思議でならない。

(…………泉)

 泉がインターホンの前で固まっている。押しても出てもらえなかったのだろう。部屋の電気はついているから、いるはずなのに……

「いず…………」

 声をかけかけて、息を飲む。

 泉が、一歩、二歩、と後ろ向きにさがり、諒の部屋の窓が見えるところで立ち止まったのだ。

「諒……っ」

 泉の悲痛な声……
 呼応するように諒の部屋の人影が動き……

「!」

 ザッとカーテンが閉められた。光が遮断され、窓が暗くなる………

「…………」

 やっぱり諒の扉は開かないのか……

 ため息をつきながら、泉の方に近づいていって……

(………え?)

 思わず、立ち止まる。
 暗くなった窓を見上げている泉の横顔………
 今まで見たことがない、切ない、切ない、顔…………

(……………………あれ?)

 なに? なんだろう? ゾワゾワする。
 大事な何かを見落としているような感覚……

 テストの時にも時々ある。全部答えを書き終わったけれど、なにかゾワゾワ気になって………。そういうときは、はじめから見直す。ちゃんと合っているかどうか一つづつ………



 私が諒と泉に出会ったのは小学校5年生の4月。その時にはすでに二人は親友同士だった。

 正義感の強い泉は、ハーフの私がからかわれたりすると、すっ飛んできて助けてくれた。当時、色白で華奢で可愛らしかった諒がクラスメートにからかわれても同様で……

『お前達のことはオレが必ず守ってやるからな』

 いつもいつも、泉はそういってくれていた。

 言わなくなったのは、中学になった頃からだったか……。諒が完全に泉の背を越してしまったというのが大きな理由かもしれない。当時から泉は身長のことをすごく気にしていた。

 中学から、諒は女遊びをはじめたけれど、泉は『ユーナ一筋』という感じで他の女には見向きもしなかった。………でも、本当は恋愛感情はなかったという……

『自分のためにつく嘘は、何かを隠したいときとか……自分の立場を有利にしたいときとか……』

 桜井先生の言葉が頭をかすめる。

『否定しなかったのは、「仲良し三人組」でいるためには、それが一番良かったからっていうかー……』

 泉の言っていた言葉を思い出す。

 泉は私が諒を好きなことを知っていた、と前に言っていた。それなのに、私を好きなふりをする……

(それってもしかして………)

 諒が私を好きにならないように圧力かけてたってこと?
 そうまでして、『仲良し3人組』を続けたかったってこと?

 本当に、そんな理由……? 何か納得がいかない……

(…………泉)

 今、切ない瞳で閉ざされた窓を見上げている泉をあらためて見つめる。こんな顔、一度も見たことない……

(私の知らない泉……)

 思えば、諒が事故にあった時の泉も、普通ではなかった。
 まるで亡くなったジュリエットを抱きかかえているロミオのような……


「あ」

 ようやく、間違っていた答えにたどり着き、口に手を当てる。

 単純サル………と思ってたのに……
 突き詰めて考えれば、答えは至極簡単だ。

「……嘘つき」

 泉、嘘つきだ。ずっと騙されてた。

 泉の好きな人は、諒、だ。




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お読みくださりありがとうございました!
とうとう侑奈が答えにたどり着いちゃった?の回でございました。

昨日は2016年12月23日。
慶と浩介が付き合いはじめてからちょうど25年!
それなのにこの二人、浩介がインフル罹患中のため、離ればなれでした。(仕事柄、どちらかがインフルになった場合、治るまで別で暮らす約束になっているのです。様子を見る程度で、甘々に看病……はありません(^-^;)
浩介はマンションに、慶は同級生の溝部君のうちにいたわけですが……そんな話を書きたい気もしましたが、ここで現在の幸せいっぱいの浩介を書くのも何かなあ……と思ってやめました(^_^;)

次回は明後日更新……はちょっとあやしいかも………どうぞよろしくお願いいたします!

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コメント (2)
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